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47話「衝突」

 デニスの軍とザシャの軍が正面を向け合う中、先に動いたのはザシャたちの方であった。


 重騎兵の後ろから歩兵だけが突撃し、デニスたちの前線へと突進してきたのだ。


「馬防柵を壊しに来る気だ!」


 重騎兵をそのまま馬防柵に突撃させれば自ら罠にかかるのと同義だ。ならば歩兵によって馬防柵を除き、万全の体制を築き、馬上突撃を敢行するつもりなのである。


「……エリート獣人族兵前へ!」


 デニスからアマンダへ、アマンダからエリート獣人族兵へと指令が下る。


 サイや象、牛などの巨体に大きな鎧で包んだ獣人族たちが、義勇兵の間から前へと割って出る。


 エリート獣人族兵は主に武器として鉄のこん棒や大斧などガタイにふさわしい大振りのものを使用している。これを一振りすれば、やわな人族などひとたまりもないだろう。


「弓兵! 援護を!」


 エリート獣人族兵が敵の歩兵軍とぶつかる前に、矢や石が頭上を越えて行く。


 それらの投射武器は少なからず敵の歩兵に動揺を与え、敵の動きが止まった。


 矢や石が降り注ぐのが終わったと思えば、今度はデカブツの獣人族の突撃だ。盾で視界を塞いでいた歩兵たちにとって、それは悪夢のような攻撃だった。


 エリート獣人族兵はチャージ攻撃によって人族の歩兵たちを紙のように薙ぎ払う。


 そのすぐ後に白兵戦へと続行していく。


 それに対して歩兵たちは命令されるでもなく戦列を整えて、大勢で迎え撃つのであった。


 こうして前線がやや拮抗し始めた時、ザシャ軍は予想外の攻撃に出てきたのだった。


「!? 敵軍から矢が!」


 ザシャたちの弓兵がまさか矢による攻撃を開始したのだ。


 これには盾を持たないエリート獣人族兵にとって痛手になる。けれども前に出ていたザシャたちの歩兵も被害が出た。


 思わぬ味方からの攻撃に、ザシャ側の歩兵は半球状の盾による防御行動をとるしかない。その他の孤立した歩兵は背中を矢で貫かれ、倒れていくのだった。


「あの野郎! 味方を囮にしたな!」


 しかも矢の雨が止むと共に、重騎兵が前進を始める。そうなれば前にいる生き残りの味方歩兵たちは馬に踏みつぶされるか、蹴散らされてしまった。


 だが矢により怯んでいたエリート獣人族兵へ、重騎兵のランスチャージが重く突き刺さる。これにはいくら体格の上回るエリート獣人族兵も、次々と槍に突き刺されて倒れてししまう。


「残りの歩兵は前へ!」


 デニスもみすみすエリート獣人族兵がやられる姿を見ていられない。こちらの味方歩兵を馬防柵の前に進軍させ、エリート獣人族兵と足並みを合わせた。


 重騎兵も白兵戦を避け、後退する。どうやら再度ランスによる突撃をし直すため、体制を整えるようだ。


「前線を下げながら戦線を作れ! くるぞ!」


 しかしながら撤退しながら戦列を構築するのは至難の業だ。特に義勇兵たちは混乱したように長槍を整えられず、対騎兵戦が間に合わない。


 それでも無情に、重騎兵は2度目の突撃を敢行してきたのだった。


 やられる。前線の兵士達がそう察した時、後ろから飛び出す影があった。


「チャージ! 全員続け!」


 デニスは後詰の味方騎馬兵を連れて重騎兵と衝突したのだ。


 重騎兵ほどでないにしろ、デニスたちの突撃は重騎兵に痛手を与える。ランスが騎馬兵を倒すも、すれ違いざまにこちらの騎馬兵が重騎兵の首をかき切っていくのだった。


 騎馬兵たちはそのまま重騎兵の後ろに回り、退路を断つ。そして前に出てきた混成の歩兵たちが前への道を塞ぐように囲んだのだった。


 ただしザシャはこの乱戦を待ってたとばかりに、再び一塊の味方と敵兵に矢を浴びせかけてきたのだ。


「下がれ!下がれ!」


 デニスが命じると、味方の兵士たちは敵の弓兵の射程範囲外である馬防柵の後ろへ逃げ込む。


 そうして再びにらみ合う状態になった時、こちらの兵は弓兵以外の全ての兵士が損耗し、敵側は健在の新神教兵と弓兵を残していた。


「さて、どう出る?」


 デニスがザシャ軍の様子を見ていると、敵の前線から前へと出てくる人影があった。


 その姿は間違いない。大きな鎌を左手に持ち、長い銀紙を垂らす男だった。


「ザシャ・ベルマー……」


 味方を犠牲にし、自分の私兵の損害を減らした男は、疲れ傷ついたデニスたちの歩兵を舐めるように睨んでいる様子だった。


 ザシャは大鎌を軽々と持ち上げると、前へ突き出して命令を下した。


 ザシャの後ろから一糸乱れぬ様子で新神教兵が前進し始める。その様子を後ろに確認したザシャもまた、静かに最前線を歩み始めたのだった。


「次こそが正念場だ」


 デニスはすぐ傍にヨーゼとゴロウ、それにカンタンを並べて、さざ波さえない海のように冷淡な新神教兵とザシャを待ち構えるのだった。

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