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45話「先方部隊」

 ザシャが率いる討伐軍の先方部隊に、その狂信者の姿はなかった。


 それでも敵は1000、デニスたちの現在の軍勢ではまともな戦闘を避けたい相手だった。


 だからこそ、デニスたちは先手を打つ。先方部隊が森を横断するためにできた街道の入口へと差し掛かった時、既にその場所には防衛陣地が出来上がっていたのだ。


 土木作業についてはこれまで嫌というほど経験を積んできた村人たちとモンスターにとっては朝飯前の作業だった。故に防御陣地と言っても簡素な物ではなく、築城と言っても差し違えのない完成精度を誇っていた。


 まずは外堀、深いだけではなく広くそこには木の杭が刺さっていた。これなら馬だけではなく人の侵入も容易くはない。


 更に木の塀は枝の木組みではなく、太い木の杭を並べた頑丈な物だ。これなら梯子や攻城塔がなければ越えられないだろう。


 門構えもただの木製ではなく、所々に鉄の釘と裏打ちがされた頑丈な作りだ。しかも上からは油や大岩が落とせるように改良が加えられていた。


 塀の中はと言うと、十分な広さとたくわえがあり、これなら数か月包囲されても耐えられる、そんな備えがされていた。


 先方部隊も外からの様子だけで、攻略難易度が高い防衛陣地と把握して攻撃をためらっていた。何せ敵の規模はまだわからず、後ろには本隊が控えているため、急ぐ必要がないからだ。


 そのため先方部隊がまず始めたのは、自分たちの陣地を製作する作業だった。


 先方部隊は自分たちのためにデニスたちの陣地ほどではなくとも堀を作り、木の壁を作り、テントを建てて居住性を確保する。


 ただ先方部隊の誤算は、敵が塀の外から決して出てこないという考えだった。


「騎馬部隊、出陣!」


 デニスは馬に乗り、獣人族の人馬種や騎乗に適した小型種、ブタムシに乗ったオークなど50の部隊を率いて打って出たのだ。


 敵に目もくれず陣地を張っていた先方部隊が気付いたころにはもう遅い。50の一団となったデニスたちは陣地を切り裂くように進軍してきたのだ。


 しかしデニスたちの目的は先方部隊への打撃ではない。目指したのはただひとつ、敵の大将陣営だった。


 ただしそこに大将はもうおらず、捜索しても見つからない。それ故デニスは別の作戦を遂行するべく動いた。


「大将旗はいただいていく!」


 デニスは逃げ惑ったり戦いの準備を整えようとする兵士たちの前で公然と大将旗を奪い、颯爽と防衛陣地へと戻っていった。


 これには先方部隊も頭にきた。大将旗は部隊のシンボルであり、名誉の証だ。それがあっさりと奪い去られたのでは面目も立たない。


 先方部隊の大将がのこのこと戻ってくると、これを取り戻すべく部隊を指示した。


 例え不利であるにしても、このまま本隊と合流すれば責任問題としてどう戒められるか見当もつかないからだ。


 先方部隊は急いで梯子を組み立て、攻城槌を製作し、デニスたちの防御陣地へと進軍した。


 敵は1000、それに対してこちらは総勢900弱。まともにぶち当たれば苦戦は必至だが、今は攻城での防衛だ。


 曰く、城攻めには最低でも3倍の兵力が必要である。そして攻略には数か月単位の長い期間を要するのだ。


 先方部隊は防衛陣地に構えられた大将旗を目指して一目散に門を開け、壁を駆け上がろうとする。だが、そう簡単にはいかない。


 壁からは石や槍、投げ斧が飛び交い。門は丈夫な鉄造りに即席の攻城槌ではびくともしない。


 そうして先方部隊はじりじりと戦力を減らし、3分の1が戦闘不能となった頃、進退の決断を迫られた。


 先方部隊は歯を食いしばる思いで撤退を決意しようとした時、稜線りょうせんの彼方から黒いシミが湧き出てきたのだった。


「来たか、ザシャ」


 丘の上から顔を出したのはザシャが率いる本隊。約3000の血に飢え、人の形をした野獣たちだった。

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