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30話「大演習」

「うおおおおおおお!」


「があああああああ!」


 ダンジョン中層の城門前広場で、防衛部隊だけではなく若い村人を含む魔族と、ダンジョンのモンスター達が正面から突撃を敢行した。


 ただし両者とも武器は木の棒などの刃が付いていないものばかりで、殺傷能力が低いものを選んでいた。


 デニスが提案した模擬戦闘は基本的に集団戦だ。広場では列を崩さない突撃や戦線の維持、城壁では攻城やその守りの型を村人やモンスター達の身体に叩きこんでいた。


「突撃でぶつかった後は盾で押し込め! だが1人で押し込むな! 声をかけて共に押し出せ!」


 デニスの事前の作戦通り、そして指示通りに村人たちは動く。するとオークやゴブリンたち相手でも村人たちは徐々に縦の戦列で押し戻し始めていた。


「よーし、よしよし! それでいい」


 何故ダンジョン内でこうも大規模な模擬戦をするようになったかと言えば、エメがダンジョン内で外界の人間が動けばダンジョン内の魔素として利用できるようになるという話がキッカケだ。


 通常は冒険者などがダンジョン攻略を挑戦する形で魔素を吸収するが、今は模擬戦闘という形で吸収している。


 これなら村人の練度を上げつつダンジョンの魔素を増やすという2つのメリットが同時に得られ、理想的なのだ。


「古い言葉の習わしによれば、一石二鳥というやつだな」


 デニスが演習の内容に満足していると、城壁の方ではヨーゼが声を張り上げていた。


「城壁の守りの基本は誰1人たりとも登らせるな、だ! 梯子をかけられたら外してやれ! 登られそうになったら槍を突け! 投げられそうなものは手あたり次第落とすんだ!

 だが今は形だけだ! 万が一死人が出たらことだからな!」


 城壁を守る村人は梯子を落とすマネをしたり、落とさない程度に槍を突きだしたり、油の代わりに水を、重しの代わりに空箱を落としていく。


 対する城攻め側のモンスター達はエメの指示でゴブリンやオークたちが矢をつがえずに弓を鳴らしたり、梯子や攻城槌を使っていた。


「顔出した相手を優先して狙うです! 梯子はできるだけ多く! 攻城槌は上空を注意するですよ!」


 皆が思い思いに戦いの型を実践している中、その片隅でゴロウとカンタンが手合わせをしていた。


「チェエエエエエエイッ!」


「はいっ! はいっ!」


 カンタンは何度もゴロウの突きや振り下ろしを盾で受け流し、返す刃を振るう。ゴロウは身を捻ったり回り込む形でカンタンの反撃を避け、再び刀を構えなおすのであった。


 大規模な演習は外の太陽が顔を出した頃から真上に登るまで続けられ、やっと一息ついた時には皆ボロボロだった。


「エメ、結果と状況を頼む」


「はいです。訓練のスケジュールは順調に進みましたです。これを週に一度開催すれば月に1度モンスターを召喚する余裕ができるです。ただ被害も出ましたです」


 エメは最後の方で声のトーンを落とした。


「村人とモンスターどちらにも重軽傷者が多数。そしてモンスター側には死者が1人出ましたです」


「……そうか。原因は?」


「突撃の際に足をくじき大勢に踏まれたのが原因のようです。こればかりは防ぎようがないですよ」


「次は少人数で突撃の練習をしよう。全員での突撃演習を減らして、事故を減らす。それくらいしかできないな」


 デニスとエメが真剣にやり取りしていると、その横からヨーゼが口を出した。


「カンタンを借りていく。いいな」


「またしごきか? 休ませてやればいいだろうに……」


「やっといい動きになってきたのだ。慣れた時に身につけさせねば時間がかかるばかりで意味がない。そういうわけだ」


 ヨーゼは当たり前のように言うと、カンタンの首根っこをひっ捕まえて連れて行ってしまった。


「……あれならすぐに上達するな。壊れなければ、だけど」


「しかしあんな約束してしまってよかったのですか? ヨーゼがカンタンを一人前にしたと判断したら、本当に解放するのですか?」


「ああ、そうでもしないとあの頭の固い奴は死ぬまで抵抗する。ならいっそ、解放した方が一番だ。そうすれば――」


 デニスは続けて何かを言おうとするも、口を閉ざした。


「――いいや、ただの先延ばしだな。だが今はこれでいい。少しでもプラスになるものは得ていかないとな」


 デニスはそう独りごちした。


 デニスは全員に解散を命じると、それぞれ傷の手当てや休息を取り始めた。魔族も魔素適性が高いので、ダンジョン内で休んだ方が回復が早いらしい。


 エメによれば傷の回復にも魔素は消費されるが、このくらいなら魔素の収穫は黒字なのだという。


「よろしいですか? デニス様」


 デニスも腰を落ち着かせていると、いつの間にか傍に旅人の装束をした女性が立っていた。


「諜報ギルド……ユグドラシルのカラスか。何か用か?」


 デニスが返事をすると、女性は返答した。


「そちらの斥候の代わりをしていましたら難民の集団を発見しました。おそらく村を抜けた農奴です。こちらへ向かっている様子かと」


「何っ!?」


 デニスは女性の報告を受け、新たな争乱の予感を感じながらすぐに動くのであった。

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