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16話「新たな脅威」

 ランク持ちの牛鬼を仲間にし、その配下であった角狼や大猿も引き連れてデニスは夜営地に帰還した。


 初めこそ軍勢が攻め込んできたと身構えていたゴロウたちであったが、デニスたちを見つけると警戒を解いた。


「任務ご苦労、調子はどうだ?」


「デニスの言う通り空堀と木の壁を建てたでござる。しかしここまでする必要がござるのか? これでは村と言うより城でござるぞ」


「いいんだ。役に立つときはすぐに来る。エメの方はどうだ?」


「連絡班からまもなく到着すると聞いたでござる。まもなく戻って来ると……」


 ゴロウがそう呟くよりも早く、北の森からエメたちが現れた。


 エメたちは行きの荷車と帰りの荷車の中身が違うため、交易はうまくいったらしい。


「思ったより買ってもらったです。ダンジョンとの関係に気付かれて警戒されたせいかもしれませんですがね」


「いずれバレる話だ。構わん」


 エメが言うには機嫌を損ねるとダンジョンのモンスターを差し向けられかねないと村側が危惧したようだ。デニスたちにはそんな気など一切ないが、恐怖心とは中々こびりついてはなれないものなのだから仕方ない。


 エメはダンジョンの資源をかなり上手く売り込んだらしく、その見返りは大きかった。


 交易で得た商品は馬が4頭、牛が3頭、豚が2頭にヤギが1頭だ。頼んでいた建築器具や農耕具、それに武器も十分にある。まるで村1つをむさぼり尽くしたような成果だ。


「よくこれだけ買えたな。村の資産全部を奪ったんじゃないか?」


「どうやら東の近くに街があるそうで、そちらで換金し直すそうです。今度はそちらの街の方で売買してくれと念押されてしまったです」


「急な来訪で有難迷惑だったろうな。感謝感謝だ」


 デニスたちは困り顔で苦笑しているだろう北の村長を思い浮かべ、礼を述べるのであった。


「これなら建築だけではなく畜産と農業も始められそうだな。飼い葉や種モミは?」


「飼い葉は少し。種モミは村人が持っているものがあるそうです」


「よしっ。できるだけ早く農業を開始しよう。その点は村人たちの方が得意だろう。何かあれば俺がアドバイスするし、いざとなれば新しい農耕器具も作ろう」


「それは頼りがいあるは話ですね」


 デニスはニコニコと買いあさった品を眺めていると、あるものを発見した。


「ブタムシの肉は余ったのか?」


「相手は人族の村だったのです」


 デニスは「ああ、そうか」と思い出す。


 人族はこの大陸で最も持っている魔素が薄い人間だ。そのため、ダンジョン内の魔素が濃い食べ物を食べると魔素中毒と呼ばれる食あたりにあう可能性がある。


 魔術の素養のある人物やデニスのようなサイン持ちは魔素適性が高いので、心配はない。そのためデニスは忘れていたのだ。


「仕方ない。これはモンスターたちに食べてもらうか。それとも魔族の村人たちも食べさせるか?」


「食べられると思いますですが、元が虫なので拒否感のある村人もいるかもです」


「そりゃそうか」


 昆虫食が一般なのは亜人、もしくは人族の一部くらいだ。魔族にとっては慣れない食事だろう。


 ただし今は食事をえり好みできる余裕はないので、場合によっては強制的に食べさせる事態も想定しなくてはならない。


「後で味見してみないとな……」


 デニスは食料事情に想像の幅をとりながらも、次の計画を話した。


「明日から本格的な農業を始めよう。それと防衛部隊には特訓を……」


 デニスが明日の話をしていると、急に会話へ割り込んで来る人物がいた。


「報告! 報告します!」


 それは村人の連絡班の1人だった。


「どうした? そんな血相を変えて」


 デニスがのんきに聞き返すと、連絡班の村人は息を切って続けた。


「東の森の向こうより軍勢です。数はおよそ200! こちらに進んで来ています」


 連絡班の言葉に近くで聞いていた者たちに動揺が起きる。


 何故軍勢が? 討伐軍の軍勢か? 何が目的だ? と疑問はつのるばかりだ。


 その中でデニスだけが軍勢の正体と目的をはっきりと捉えていた。


「王国騎士団に見つかったか。予定を変更するぞ」


 デニス脳内で目まぐるしい計算をし、目の奥には悲哀と闘志が宿ったのであった。

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