【魔法少女】
「お願い! みんなを助けるために僕に協力して魔法少女になって!」
なんて。
ハムスターとヒヨコの中間みたいな生物に誘われて「うん」と言ってしまったのが運の尽き。
「まさか魔法少女がこんなんだとは思わなかったなー」
三時間目が終わった休み時間、誰に聞かせるでもなく呟いた。
中学三年生の春。
クラスメイトの半分が魔法少女になっていました。
クラスの半分というのはつまり女の子全員ということ。
普段誰とも話さない木下さんも、風紀委員があれば迷わず手を挙げていたであろう河野さんも魔法少女になっていたのは意外ではある。
その日の昼休みに他クラスの友達とそう話していたらいやいや、とツッコまれた。
「アンタが言えることじゃないでしょうよ。 そんなにスカート短くして! パーマかけて! 魔法少女なんて趣味あったの聞いてなかったって」
「そう? 隠してたつもりないんだけどなー」
私いまでも日曜日は早起きするもん。
そういう話題にならなかったから、話すタイミングはなかったかもだけど。
「それはそうとさ、魔法少女って何ができるの? 何やんの?」
私がハムスターとヒヨコのキメラみたいな生き物とお弁当の唐揚げ争奪戦を繰り広げていると、興味を隠し切れない顔で友達が聞いてきた。
「あれ、ユイももしかして魔法少女なりたかった?」
「ちっ、がう! でも友達が危ないことしてたら止めなきゃでしょ!」
私は三つのうち一つの唐揚げを明け渡しつつ、にひ、と笑う。
「ユイは優しいねえ」
「はいはい。 優しいからイケメンの敵幹部がいたら紹介して」
「いないよ。 そんなの。 んー、なんかね、時々呼び出されてカワイイ恰好してふんにゃかほんにゃかー! って呪文となえるだけ」
「へ? それだけ? やっぱアニメとは違うんだねえ……。 じゃあ空飛んだり人の心読んだり炎出したりもできないの?」
「それはできる」
「できるんかいっ」
ユイがちょっとオーバーなくらいのリアクションでズッコケる。
「って、ことは……。 もしかして私の考えてることバレてる?」
ユイが真剣な顔をしてこちらを見つめてきたのでこちらもじっと彼女の目を見つめる。
「わかるよ」
「そっか……。 一応謝っておくね、その……」
「ウチのお兄ちゃんがカッコいいから紹介してくれってことだよね」
「違ぇーーーよ?! わかってないんかーい!」
「あはははは!」
実のところ、能力は人によって違うのだ。
私の能力はちょっぴし空を飛べる。
五センチくらい。
……それだけ。
しかも、めちゃくちゃおなかすくから、一回しか使ったことない。
「はー、もう真剣になって損した。 あ、急がないと。 昼休みあと十分」
「あ、マジ?」
慌てて私はお弁当をかっこむ。
「……早食いは太るらしいよ」
「そういうのやーめーてーよー」
最近ちょっと気にしてるんだから!
……あれ、もしやこの能力ダイエットに使える?
~~~~~~~~~
「ねーねー、木下さんも魔法少女ってホント?」
「……」
ホントだよ。
口には出さないけど、心の中で答えてそっぽ向く。
「えー似合わないよねー。 大してカワイくもないのによくやるよねーって感じ」
私もそう思ってた。
魔法少女になった、一時間後くらいまでは。
魔法少女になって発現した私の能力は読心。
いつもネガティブ思考で「こう思われてたらどうしよう」とばかり考えてる私には一番欲しくて、でも手に入れたらもっとダメになっちゃうだろうな、と思う能力でもあった。
あんなにいつも意地悪をされるんだから、そんな人の心なんて読んでもどうしようもない。
……だけど、人の心って、思ったより複雑だ。
さっきの見下すような言葉の端々に、「笑わないだけで美人ではあるけどねー」とか「そこでハイって言う勇気、私にはないなー」とか、
羨むような色が混ざっていることまでわかるのだ。
もちろん嫉妬ゆえの悪意も混ざってるんだけど、思っていたほど、人は単純じゃなかった。
「せめて前髪くらい切ったら? そのままだと魔法少女って名前負けしちゃうよ? それがお似合いかもだけど!」
「……そう、だね。 そうしてみる」
「?! 今、喋っ……」
声もめちゃくちゃカワイイじゃん!
そんな驚いた心の声を聞き流しながら、私は席を立った。
私の怖がってたことは、思ったほど怖くなかった。
私にはできそうになかったことが本当にできないかも、試してみたい。
……そう思えるようになった。
~~~~~~~~~~
「まったく。 こんなに誰も彼も魔法少女だなんて、もっとブランド価値を高めてほしいものだわ」
浮かれた女子学生を横目にぐちぐちいってるのは河野 汐里。
俺の契約相手だ。
「私が特別になればみんな話を聞いてくれると思ったのに、こんなに魔法少女だらけじゃそんなことないじゃない」
「世界に二十人しかいないのに特別じゃないって?」
「二十人の人口密度が高すぎるのが良くないの! それにどうせならもっと役に立つ能力がよかった」
俺がコイツに与えた能力は放火能力……の超絶弱い版だ。
離れたところに発生させられるという特殊性はあるものの、温度自体はせいぜい四十度がいいところ。
人に使っても安全な温度だ。
「ま、お前は頭がいいからな。 それでも活用してうまくやってるじゃないか」
人と触れるときに使って高い体温で安心させたりとか、
しょーもないやつだとお弁当食べるときにちょっと温めたり。
あ、カツアゲしてるガラの悪いヤンキーの尻を温めて、ソイツが漏らしたと思って逃げてったのは大笑いしちまった。
「そうだけど……そうだけど。 でも、もっとすごい能力ならもっと役に立てられたわ」
「どんな能力になるかはわからないからな。 でもきっとアンタにゃそれがあってたのさ」
「もう……そんな冷たいことを言う。 あっためちゃうんだから」
「おいやめろ。 体温が高くなると眠くな……る……」
ああ……春先の縁側のような陽気……。
これはまずい……。
「こんな小娘たちがほっとくと危ないとはな……」
「なに? なんか言った? 寝言?」
我らが二十一人目の、いや一人目の魔法少女。
未来視の魔法少女様の言うことだから信じるしかないが……。
汐里のなすがまま、ポケットの中にしまわれながら俺は自分の上司を思った。
「あと魔法少女の衣装なんとかならないかしら。 恥ずかしい……。 確かにカワイイんだけど」
「それはアイツの趣味……zzz」