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第3話「4月26日 AM13:31~」

三話でやっと主人公とヒロイン揃いました

東新田墾が主人公で、海神辰がヒロイン

たぶん今連載している10話では誰も納得しない

世界電波塔

─ 四人の転校生 ─

第3話「4月26日 AM13:31~」


死角空間警察(ラ・インビジブル・ポリス)

日本支部

関東第2ノード2号棟13階

セキュリティー上設置された厚さ90cmの鎧戸

これを3つも通り抜ける

鎧戸の前

監視カメラも設置されているのだが、念入りなことに左右の壁には高さ10cm、幅60cmの窓が開いていて、警官が防弾ガラス越しに目視でも監視している

監視役の警官は通路側に入ることはできないが、ボタンを押して鎧戸をロックしたり、通路の壁に仕込まれた散弾で通路内の人を殺すことが出来る

その鎧戸の前にやってきた(はじめ)とマリコ

(はじめ)は、右足を引きずりながら歩く

長い通路を延々と歩かされて、流石につらい

だが、泣き言はならないのだ

右膝に手を当てると思いだす。自分の不出来で不幸にしてしまった二人の子供

一人は己の弟、(ひらく)

二人目は世界電波塔(せかいでんぱとう)こと小江戸八重葉(こえどやえば)

その罪ゆえに、警察のエリートは泣き言を封印した

(はじめ)がIDカードをセンサーにあてがい、尚且つ16進キーボードでパスワードを入力する

鎧戸が開く

(はじめ)が鎧戸をくぐるとマリコも共連れで入ろうとする

それを制する(はじめ)

共連れをした瞬間、二人とも散弾でハチの巣にされてしまうのだ

「うが、」

「フン。お前の性分には合わない仕組みだが、我慢しろ」

鎧戸が完全に閉まるのを待つ

せっかちなマリコは焦れ切って、IDカードが湾曲するほどバキッとセンサーにあてがい、ベッキベキと指突で、もうボタンをつき割る勢いでパスワードを入力した

「うがーっ!」

これを3回も繰り返すと、猛獣女の我慢も限界に達する

「よし、よし」@(はじめ)

(はじめ)は苛立ちに口元を震わせる肉食獣の表情に愛おし気に目を細め、その頭を撫でた

(はじめ)はピューマやら狼やら猛獣が大好き。可愛くって仕方がない。その延長線上にマリコが存在している

最後の鎧戸をくぐると幅5.6mの間仕切り壁が5列並んでいる

Dと書かれた列

その通路を進むと、右手、3mおきにドアが設置されている

D5と書かれたドア

小窓から中を覗くと、褐色の少年兵は便器に座って小便をしていた

「失礼」@(ひらく)

キャリア組の鉄面皮は小窓から視線を外した

「うが」

何も知らずに小窓を覗こうとする野獣系女子

小便は急には止まらない

焦る少年兵

警察のキャリアは当然彼女を止めることを考えた。最初は

しかし、ふと、マリコが少年の股間を見たらどう反応するのか?そこに大きく興味をそそられた

頭が切れる警察のキャリアは、彼女が小窓を覗き込む瞬間、もう、手遅れと決まってから「マリコ、彼は取り込み中だ」と彼女を止めた

マリコは少年の発達途中の股間を見た

衝撃に、5秒間、彼女の時間は止まった

少年兵は股間を手で隠していたが、角度的に見える

足を閉じると小便が脚に沿ってえらい方向に流れちょっとした参事になってしまうので、手で上から覆うしがない

そして野獣系女子の時間が動き起たした

(はじめ)に振り返ったマリコの顔は真っ赤、

目尻に涙、

唇を噛んでいる

「うがあっ!!」

警察のキャリアは、マリコの熊のようなパンチで殴り飛ばされた

水洗の水が流れる音がした

「どうぞ」@スーダン

ドアを開け、(はじめ)とマリコは中に入る

ドアにカギはかかっていない

IDカードを待たぬものが入り口を通過しようとすると、レーザーで焼き切る仕組みだ

(はじめ)は右足を引きずっている。辛そうだ

狙うならばこちら…弱っている方だ…

少年兵は(はじめ)の背後に回り込み、背中に飛びついて、彼の首を両腕で固めた

「IDカードをよこせ、首をへし折るぞ」@スーダン

若きエリートのため息

エリートは少年兵の首を片手で掴み、握りしめた

細身の体からは想像もできない握力

「…!!……!!!!」@スーダン

悲鳴が出せない

男の指がミリミリと首に食い込んでゆく

口をパクパクさせてあえぐ少年兵

もう、少年の腕にも足にも力を入れることはできない

警察のキャリアは少年を片腕で振り回し、その顔面を壁に打ち付けた

2度、3度、続けて打ち付けた

まるで廃棄されたハードディスクをデータ流出防止のため破砕するように業務的に、少年の顔を叩き潰した

少年をベッドの上に放り投げる

キャリア組の男は軽く咳払いをして、少年に乱されてしまった服装と髪を直した

「フン。だいぶ手を焼かせている様だな。そう聞いたぞ、スーダンくん」

少年兵の首にはエリートの指の跡が赤く残っている

(はじめ)は右足を引きずりながら歩き、スーダンの横、ベッドに座った

”この男は、そこいらの貧弱な背広野郎ではない”スーダンは戦慄した

その背広野郎は、マリコに’おいでおいで’して、自分の膝の上に座らせた

そして彼女の腰に腕を回して抱っこした

「うが、」

頭を撫でて、愛でている

”まじでそこいらのまっとうな背広野郎ではない!”スーダンは超戦慄した

その、まっとうでは無い男の顔が、ぐるりんと自分の方を向いた

蛇に睨まれた蛙の心境

死を恐れぬ少年兵が恐怖を感じる

少年兵は、自分が恐怖を感じているという事実が、信じられなかった

「名前と身分以外は話さない」@スーダン

少年はのそのそと便器の方へ這って行き、トイレットペーパーで鼻血を拭いた

「それならミサイルの3人が話してくれた。彼らは物分かりがいい」@(はじめ)

少年兵はババ抜きで手持ちのジョーカーを引き抜かれたような、そんな笑みを浮かべた

してやったり

堪え性のない他の3人が警察(ラ・インビジブル・ポリス)の情報源となったことで、自分の価値は低くなった

自分の身分から、年齢からも、警察(ラ・インビジブル・ポリス)は自分を価値なしと判断するだろう

テロ組織ではない警察(ラ・インビジブル・ポリス)なら、自分は間も無く刑務所に送られて、刑期を全うすれば問題なく釈放される

殺されることはない。チョロい。そう思った

背広野郎の続く発言を聞くまでは

彼はマリコの頭を撫ぁーで撫でしながらこう語った

「彼らは興味深いことを言った」@(はじめ)

背広野郎は壁のどこかを見ながら、淡々と話す

「君がSpringぇ…の現場運用担当(ピロッツ)だってね」@(はじめ)

少年兵は「Spring8?聞いたことがない」と、しらを切る

背広野郎は壁の方を見ながら「SPring8と言ったね、」とため息をついた

少年兵はぎくりとしたが、努めて平静を装う

「お前がSPring8と言ったからな」@スーダン

背広野郎は野獣系の女を抱きなおす

「言ってないよ」@(はじめ)

「…」少年兵は”まだ自分がしくじったとは決まっていない”と押し黙る

「フン。最後の8は言ってないよ。”ぇ”のあとは適当に息を漏らしただけさ。口の動きもエイトとは異なっていたはずだよ」@(はじめ)

少年兵は、まだ誤魔化しようがあると判断した

「俺には”エイト”と聞こえたんだ」@スーダン

「ああ、君の記憶にある言葉だからな」@(はじめ)

この背広野郎は、なんで壁の方を見ながらめんどくさそうに話すのだ?

俺を追いつめることよりむしろ、膝の上に座っている女の頭やのどを撫でるほうにご執心の様だ

人を馬鹿にして居るにもほどがある

女をいじる片手間に言い負かされてたまるか

「君は八重葉ちゃんの居場所を知らない。それは本当だろう。使い捨ての少年兵に、重要な情報を与える馬鹿をするやつはいない」@(はじめ)

少年兵は”そんなことは百も承知だ”と鼻で笑って、床に座り天井を見る

自分の命なんて、あの天井…打ちっぱなしのコンクリートにわずかに存在する気泡のようなくぼみ、小さな小さなくぼみ…あれと等価だ。ただ無駄にあるだけのもの

「つまり君にはSPring8の情報だって詳しくは与えられていないんだ」@(はじめ)

背広野郎はつまらなそうにため息をつく

「君には何もない。それがわかっていても、捜査の手続きとして止む無く、こうして事実の裏付けに来なくてはいけない」@(はじめ)

この、人を見下したような言い方

そして、背広野郎はいら立ちを隠さない顔で少年兵の方を見た

「ねぇ、君。もう少し嘘のつき方を覚えたらどうだい。態度はいっぱしの軍人気取りのようだけどさ、全然ただのガキなんだよ」@(はじめ)

「…」少年兵は流石にカチンときたが、それでも感情を押し殺している

「君がSPring8の現場運用担当(ピロッツ)だとわかったからには、刑務所に引き渡すまでここで君のお守りをしなくてはいけない」@(はじめ)

背広野郎は女を膝の上から降ろして立ち上がり、右足を引きずりながら少年兵の方へやってきた

そして、きれいに磨き上げられた革靴で少年兵の頭を踏みつけ、壁に思い切り押し付けた

右膝を故障しているだけで、左足で蹴りを入れることはできる

「下らぬガキめ!この、下らぬガキめ!」@(はじめ)

少年兵の鼻血が、背広野郎の靴についた

背広野郎は、少年兵の頭を蹴り飛ばした

「報告書には”下らぬガキ”とよくよく明記しておく」@(はじめ)

そして、くつをトイレットペーパーで念入りに拭き、女と去って行った

少年兵は、ずっとされるがまま無抵抗でいた

こういう扱いには慣れていた

背広野郎。本気で蹴り飛ばしやがった

意識が定まらず、力が入らず、床に横になる

少年は考える

自分にとっては、背広野郎も被り物の二人も同じだ

誰も自分のことなんて…

……

”いつでも来い”

不意に、あの、忌々しい、のっぽのセーラー服の顔が脳裏をよぎった

(あらし)

まっすぐに立ち、視線はまっすぐ

「クソが…」

少年は小さくうずくまって、涙を隠した


廸佐高等学校(じゃくさこうとうがっこう)

広報部

ここでは高校の公式ホームページやmoodleサーバーの管理、各種SNSの運営を一手に引き受けている

もともとは区の広報誌へ小さな記事を投稿する小さな活動だったのだが、SNSの普及により活動範囲が一気に広がり、最終的にIT何でも屋みたいな位置づけになった

「幸子はいるか!!」@(あらし)

鬼の風紀委員、夏野嵐(なつのあらし)が部室に飛び込んできた

新城幸子(あらしろゆきこ)の姿を奥の方の席に見つける

見た目はギャルだが、腕がたつSEだ

「おお!幸子!そこか!」@(あらし)

幸子(ゆきこ)は怯えて首を引っ込める

(あらし)はすらっと背が高いフィジカルエリートであるばかりでなく、地声がでかい

生態系で言えば頂点に君臨する存在と言える

威圧的な存在なのだ

そんな彼女に腕を引いてどこかに連れていかれようとしたのだから、そりゃあ警戒して腕を引っ込めるし、首だって縮こまる

「嵐先輩、藪から棒になんですか?」@幸子(ゆきこ)

「ここでは話し難い。ちょっとこい!」@(あらし)

ヘッドロックで捕らえられ、廊下を引きずって行かれた

ついた先は

ミーティングルームC

構内で一番小さなミーティングルームで、通称”説教部屋”

生活指導は決まってここで行われる

幸子(ゆきこ)は何を説教されるのかと震え上がった

風紀委員の少女は備え付けのノートPCを起動して、幸子(ゆきこ)の方へ向けた

「だから…なんですか?」@幸子(ゆきこ)

幸子(ゆきこ)はひたすら怯えている

「幸子。お前、クライアントの秘密は守るな?」@(あらし)

「へ?」@幸子(ゆきこ)

「ほら。お前クラスともなれば、秘匿性の高い仕事を受けるだろう」@(あらし)

「そりゃぁ…まぁ、」@幸子(ゆきこ)

「よし!ではお前に仕事を依頼する!」@(あらし)

「はぁ…って!受けるとは言ってませんよ!」@幸子(ゆきこ)

「受けねば、お前は生涯自分自身を許せなくなる。薄情者とな。後悔はしたくないだろう」@(あらし)

「脅しですか?」@幸子(ゆきこ)

「そんな面倒をするか。腕力を用いた依頼だ」@(あらし)

「そうですか。強制ですか。流石センパイ」@幸子(ゆきこ)

ここで(あらし)の表情は険しくなり、通りの良い大きな地声を押し殺して「八重葉が誘拐された」と天才ハッカーに伝えた

驚いて声を上げそうになる幸子(ゆきこ)の口を手で押さえる

「八重葉の命に係わる。極秘裏に、そして速やかに八重葉を救い出す必要がある」@(あらし)

幸子(ゆきこ)は明らかに困惑している

八重葉は親友で助けてあげたいのはやまやまだが、犯罪者を相手に探偵の真似事というのは性分に合わない荒事だ

正直、犯罪者と対立するのは恐ろしい

それに、彼女は一年生ながら構内きってのIT技術の達人ということで、広報部の仕事が忙しい

今だって、仕掛中だったサーバーメンテナンスの仕事が気になっている

風紀委員はIT少女をノートPCの前に、腕力で座らせた

「では、頼んだぞ」@(あらし)

風紀委員の圧の高い笑顔

どうやら選択肢は、

1.自発的にやる

2.無理やりやらされる

の2択の様だ。

(あらし)八重葉(やえば)のこととなると手段を択ばないし、まれに善悪の区別もない

「えっと、じゃあ、そーですねー」@幸子(ゆきこ)

TeraTermを起動し、広報部にある自分のLinuxPCにログイン

そこなら大概のことはできてしまう

凄腕ハッカーの少女は、OK GoogleとSiriとAlexaとCortanaのシステムに不正ログインした

そして世界的な盗聴システムを構築した

これは犯罪だが、何をしているのか(あらし)には何も伝えてはいない

(あらし)ならば”八重葉(やえば)の為”をもって免罪符とし、悪事に目を瞑るかもしれない

それでも正義の風紀委員に犯罪進行中を宣言するのは難がある

そこを飄々として白を切る幸子(ゆきこ)も大した肝っ玉であり、只者ではない

あくまでも合法行為でありますという風体

「嵐先輩。八重葉の音声データはありますか?」@幸子(ゆきこ)

「無論だ」@(あらし)

差し出されたスマートフォンには83GBもの八重葉の動画、写真、そして音声データが収められていた

これはストーカーだろと、ドン引きしながらmp3ファイルをいくつかコピーした

ファイルをコピーしている間、「消すなよ!間違っても消すなよ!」と風紀委員がうるさい

そんなに大事なデータなのか?バックアップとれば??

…とは、怖くて言えない

「えっと、では、少々お待ちください」@幸子(ゆきこ)

幸子(ゆきこ)がviで何やら呪文のようなPythonスクリプトを記述し、そしてEnterキーを押下した

画面に勢いよく文字が流れて行く

凄腕ハッカーは腕を組んでその文字列を眺めている

「どうだ?見つかりそうか?」@(あらし)

「どうでしょうねぇ、」@幸子(ゆきこ)

ハッカーモードの幸子(ゆきこ)はどこか達観しているというか、冷めている

友人の命に係わる大事の大役を背負っているというのに、焦るそぶりもない

きっと、世界の命運を背負っても同様だ

もし仮にたった今世界が週末を迎えても、このハッカーは欠伸をしていて、自分が死ぬ瞬間すら意識から抜け落ちている

それほど超越した集中力と、その他に対する鈍感力を持っているのだ

「あぁ、」@幸子(ゆきこ)

頬杖を突きながら、ハッカーがうめいた

「何か分かったのか?」@(あらし)

ITの魔術師が「うーん」と顎を撫でる

「なんだ!?」@(あらし)

「ノイズが混じってますが、89%八重葉っぽい声が拾えましたなぁ…」@幸子(ゆきこ)

長身の風紀委員が「どこだ!!!!?」と目を見開いて食いつく

「まぁ、まぁ、落ち着いて。まだ89%です」@幸子(ゆきこ)

(あらし)は首を横に振る

「十分だ。そこでいい。場所はどこだ?」@(あらし)

「えーと、あぁ、、、、」@幸子(ゆきこ)

何やら言い難そうにしている

「どこだ?わたしは八重葉のためなら世界の果てだって行くぞ!」@(あらし)

ハッカーは、まだ言うのをためらって「二言はありませんね」と念を押す

「くどい!」@(あらし)

「はぁ…じゃ、」@幸子(ゆきこ)

(あらし)のスマートフォンにメール

「地図、送っときましたんで、あと、請求書も」@幸子(ゆきこ)

ハッカーにメアドを教えた覚えはないが…まぁいい、それより八重葉だ!

「海州市??」@(あらし)

聞いたことのない地名だ

「北海道?沖縄??」@(あらし)

ハッカーの苦笑い。そして溜息

鬼の風紀委員はググって、そして知った

「北朝鮮──」@(あらし)

ハッカーはPCをシャットダウンした

「行くのですか?北朝鮮」@幸子(ゆきこ)

(あらし)の返事は決まっている

「無論だ。愛しい女性(ひと)が助けを待っている」@(あらし)

「ま、頑張ってください」@幸子(ゆきこ)

挿絵(By みてみん)

よっこらせと席を立ち上がるハッカー

帰るつもりらしい

風紀委員はその彼女の肩を掴んでまた腕力で座らせる

「もう一つ、頼まれてくれるか?」@(あらし)

PCの電源は再び投入された


警察病院

謎の組織にミサイルを撃ち込まれた

病院は半壊し、機能していない

他の病院への避難が進められている

八重葉(やえば)の個室の隣にいた寝たきりの少年の避難も…

「待て、」@(はじめ)

彼の搬送を止めたのは、背広のエリート(はじめ)。右足を引きずりながらやってきた

「その少年の行き先は変更になった。後は任せてくれ」@(はじめ)

搬送の任についていた看護師と武装警官は、敬礼をして少年の個室を後にした

「ニイサン」機械音声の声

「フン、VoDUINO、またつけたんだな」

少年の首には、首輪が取り付けらている

兄が弟のために開発した、Arduinoベースのガジェットだ

弟をこの様な体にしてしまい、当面の不便がないようにと作らせた

その後、Jetson TX2ベースのMUNIAELというロボットを制作し、VoDUINOは用済みとなった

VoDUINOは首輪の右寄りに煙草の箱程度の大きさのユニットがあり、緑と赤のLEDが点滅している

「ムニエガコワサレタカラネ コレガナイトハナシガデキナイ」

(はじめ)が本題を切り出そうとしたその時、少年の個室のドアが蹴破られた

敵か!!

「うがっ」

(はじめ)目がけて飛んできたそのドアをマリコが横に蹴りそらす

「おお!いた、いた!」@(あらし)

個室に入ってきたのは鬼の風紀委員こと夏野嵐(なつのあらし)

「君、ドアを開けるのは生まれて初めてかい?」@(はじめ)

エリート特有の嫌味

「すまぬ。先を急ぐあまり、全力疾走の勢いのまま突貫してしまった」@(あらし)

エリートはひたいを手で押さえて首を振る、やれやれと、

「それより八重葉の居所が分かった!わたしが行くから足を用意してくれ」@(あらし)

警察のキャリアは、高校生風情が警察(ラ・インビジブル・ポリス)より早く調査を完了したなんて信じられない

鼻で笑う

「フン。まぁ、何か情報があるというならあずかろう。貴様はもう帰れ」

(あらし)はその気性と、なによりも八重葉(やえば)への愛深いが故、目を血走らせてエリートとの間にある”子供の仕業と高をくくった無関心”という壁を突破せんとする

「真っすぐに聞けバカモノ!!情報は本物だ!ただし、情報の引き渡しはわたしが救出作戦に同行することが条件だ」@(あらし)

その迫力に、彼女が持つ情報に対する関心は高まったが、まだエリートのプライドが勝る

(はじめ)は大人気なく”子供”を突っぱねた

「では、情報は結構だ。お引き取り願おう」@(はじめ)

楚々(そそ)とした乙女を愛する武士道の紅裙(こうくん)は警察のエリートを殴り飛ばしてでも意志を貫く覚悟

(あらし)に引き下がる気配は微塵もなく、国家権力のキャリア組に遠慮もなくずかずかと迫る

「うーが、」

サバンナが似合う野生の花顔雪膚(かがんせっぷ)は、風紀委員の前に割って入った

「ナツノセンパイ」

ベッドの上の少年が機械の力を借りて言葉を発した

風紀委員は少年の顔をじっと見やる

覚えのある顔だ、

はて…

はっ…思い…出した

「東新田か!?同じ中学だった。わたしが唯一額に”たいへんよくできました”と花丸の印鑑を押してやった、風紀的模範生徒の!」@(あらし)

「オヒサシブリデス」

「卒業後、噂で事故にあったと聞いていたが、心構えは模範生徒のままの様子。天晴。久しぶりに花丸をくれてやろう」@(あらし)

永遠の風紀委員は少年の頬っぺたに”たいへんよくできました”の印鑑を押した

「ニイサン」

エリートは視線こそ弟によこしたが返事はない

弟は兄の気性をよく知っている

棘はあるが毒はない

「ニイサン ナツノセンパイハ ツネニヒャクニジュッパーセントノヒトデス」

「何が言いたい?」@(はじめ)

「センパイガ”ジョウホウガアル”トイッタラ ホントウニアルノデス シンライセイハ ヒャクニジュッパーセントデス」

不服そうなエリート

「フン。そこまで言うなら一度騙されてやる。ナツノといったな、情報をよこせ」

それに頷く、聞き分けのいい子供ではない。夏野嵐(なつのあらし)

「わたしが同行することが条件だ」@(あらし)

「警察に任せるのだ。でなければもういい、さっさと出ていけ」@(はじめ)

会話はぶつかり合うばかりのチャンバラで着地点がない。結論は勝ち得るしかない。並外れた肺活量に由来する、通りのいい声が響きわたる

「警察には任せられないし!わたしの言い分は聞いてもらう!!」@(あらし)

大人の姿勢を保っていた(はじめ)も、堪忍袋の緒が切れてくるころ

声を荒げる

「警察を当てにせずに!自力で彼女を助けたらどうだね!」@(はじめ)

大人、しかも警察(ラ・インビジブル・ポリス)に物申すなど、さすがの(あらし)でも手が震える

しかし、

「民間人が助けろと言っている!助けろよ!警察!!」@(あらし)

「ニイサン」

再びベッドの上の弟が話に割って入る

「ヤエバチャンヲ ハヤク タスケテアゲテ」

兄も(あらし)も、少年の優しい性根はよく心得ている

言葉に込められた優しさに、大人気ない発言を繰り返した自分を恥じ入る

兄のため息、

沸騰していた頭が瞬時に冷めた

「君、改めて聞こう。名はなんという」@(はじめ)

夏野嵐(なつのあらし)廸佐高等学校じゃくさこうとうがっこう2年。風紀委員だ」@(あらし)

凛として返答をした

夏野(なつの)?弟の機械音声の発音ではピンとこなかったが、その名を知らぬとは言えない

そういえばこの少女、先だっては二刀流で自分と八重葉(やえば)を逃がしてくれた、あの少女

なぜそれを初見で思い出せなかったのか

「フン。成る程、夏野の子供か」@(はじめ)

夏野(なつの)海神(わだつみ)。日の丸の御庭番だ

あの家系のものなら、面会謝絶の八重葉(やえば)に会いにこれるだろうし、警察に先んじて情報を入手することも可能だろう。一つ解せないのはこの気の強さ。あの家系のものならば世を忍び、裏方に徹する

この様な越権先行はしない

「御庭番にしては珍しいはねっかえりだ」@(はじめ)

「失敬な。お前の言い分が一方通行過ぎるだけだ」@(あらし)

「君を同行させるには、君が必要な人員である必要がある。子供にはそれがわからない」@(はじめ)

「わたしこそ必要な人員だ。わたしなら、八重葉のために躊躇はしない。命に代えても最短で助け出す」@(あらし)

(はじめ)は鼻持ちならない男だが、対面した相手の目を読み違えるほど目は濁っていない

「分かった。君の同行を今確約はできないが、実現に向けて手は尽くそう」@(はじめ)

ここでやっと風紀委員の肩の力が抜ける

ずっといからせていた肩が平常の位置に戻る

「流石は模範生徒の兄上…そう、信じたぞ」@(あらし)

(あらし)はスマートフォンを取り出して、幸子(ゆきこ)からのメール…八重葉(やえば)の所在地に関する情報を開示した

エリートの表情が曇る

「フン。北朝鮮か、」

「やはり厄介ですか?」@(あらし)

「無論だ。だが、この港なら誘拐犯が使ったルートを予測し、同じ手口で潜入できると思う。予測だがな」@(はじめ)

(はじめ)は女子高生が対等に意見してくることを不快に感じながらも、足蹴にはせず対等である返答をした。それは彼女の家系が故ではない

「いつの出立になりますか」@(あらし)

「明言はできない。準備ができ次第だ」@(はじめ)

「では、これよりあなたに同行させていただきます」@(あらし)

「はぁ?」@(はじめ)

不遜ともとらえられる女子高生の言動に、(はじめ)は不快感をあらわにした

「置いてけぼりにされてはかなわない。あなたにへばりついて、きっと八重葉のところに行きます」@(あらし)

表情を読む限り、この女子高生は本気だ。トイレやシャワーにだってついて来るかもしれない

この執念にはさすがに降参だ

「判った。お前にはおって連絡をする。必ずだ。連絡先だけよこして、今は帰れ」@(はじめ)

(はじめ)がスマートフォンを取り出す

二人はTwitterでフォローし合った。

「@yaebamysweet…????」

彼女のTweetを読む。

”八重葉の可憐さに今日も心を鷲掴みにされた。”

”八重葉の笑顔が眩しい。いい一日になりそうだ。”

”八重葉、結婚してくれ(27096回目)”

”八重葉と雲の上を散歩する夢を見た。文字通り、天にも登る気持ち”

”八重葉の愛くるしい姿が頭に思い浮かび眠れない@午前四時”

公開型ストーカー日記だった

警察のエリートは激しいめまいを覚えて足がもつれた

こののっぽの少女、八重葉(やえば)救出作戦に同行させなかったら、警察(ラ・インビジブル・ポリス)に対してどの様な報復攻撃に出るか分かったものではない

「あー…大体わかった」@(はじめ)

「何がだ?」@(あらし)

無意識ストーカーめ、自覚なしか、

「兎に角、おって連絡するからこの部屋から出ろ。弟と話がある」@(はじめ)

「極秘の…か?」@(あらし)

「ああ、FAKE NEWSの類だ。君は知らない方がいい。夏野君」@(はじめ)

「少々引っかかるが、今日はこれまで。早めの連絡を待つ」@(あらし)

鬼に例えられた風紀委員は去っていった

(あらし)は階段を下りながら(はじめ)のTwitterをチェックする

”マリコがお手を覚えた。頭を撫でてやった。芸を覚えて誇らしげな顔が可愛い ”

”マリコを予防接種に連れていった。病院に向かっているとわかった時点で察し嫌がる ”

”マリコの頭を撫でたくってムラムラし眠れない@午前五時 ”

「ブリーダー?マリコって犬か??」@(あらし)

(はじめ)(あらし)も本質的には同じ種族であった

可愛いもの好きの完璧超人


(はじめ)の弟の個室

兄は弟の頭の横に立った

そして。深々と頭を下げた

(ひらく)、お前の命……俺に…くれ」@(はじめ)

それは、弟に兄自ら申し出た契約を反故にすることを意味する

兄の勝手で契約し、兄の勝手で反故にする

なんと手前勝手なことだろうか、

いい恥さらし、

兄、(はじめ)は、顔から火が出る思い、

最低だ、

なんの体面もない、

自分自身で、ほとほとそう思う

「ミズクサイナ ニイサン」

高飛車な兄のプライドを粉砕したのは、弟の一言

正直、小一時間恨み節を謳いあげられた方が兄は救われた

そこまで言われては、兄は一生弟に頭が上がらない

「簡単に了解してくれるな──」@(はじめ)

粉々のプライドを拾い集める気力もない

「俺はお前を、兵器として運用しようとしているのだ」@(はじめ)

うなだれた兄の頬を涙がつたう

「うが」

(はじめ)の心の内を察したマリコが寄り添う

弟、東新田墾(ひがしにったひらく)、首にGPIOを持ち、自分の体は動かせないが、ロボットを自在に動かせる少年

そして何よりも、死角空間(イグノアドエスパス)を認識できる。FAKE NEWSの世界の住人


FAKE NEWSの世界の住人。もう一人…

「牡丹ちゃーん」@中埜鐘(なかのがね)

怪しい中年男性─中埜鐘(なかのがね)の裏工作により、すべてのバイト先を失った嬉野牡丹(うれしのぼたん)

その恨みは計り知れない

だから牡丹(ぼたん)中埜鐘(なかのがね)の姿を見たなら、瞬時に怒りが沸騰するわけであり、彼は気をつけて彼女の半径3m圏内には立ち入るべからずというのが常識と言えよう

それがだ、厚顔無恥というべきか、怪しいおっさんは彼女のパーソナルスペースに土足に押し入ってくる

片手に缶ビールを持つという、心配りのかけらもない風体でだ

バイトで鍛え上げた強靭な心を持つ牡丹(ぼたん)ちゃんが、無作法なオッサンに怯むわけがないし、ましてや快く迎え入れるわけがない

「しつこいな!鼻に割りばし突っ込むぞ!!」@牡丹(ぼたん)

本当にそれ、やりかねない

怪しいおっさんは自らの鼻の頭を手で押さえた

「はぼへぇ、ぼばんぢゃん」@中埜鐘(なかのがね)

「何言ってるか分かんない」@牡丹(ぼたん)

鼻と一緒に口も押さえてしまっていた

「あのねぇ、牡丹ちゃん」@中埜鐘(なかのがね)

「なぁに?今すぐ消え去れ!」@牡丹(ぼたん)

女子高生に一喝されて、フレンドリーに対話したいオジサンはざまぁ無く凍りついた

彼女の怒り周辺の話題の山越に、都合よく話をしたい

故に話題を飛ばす

「おじさん、これでもちょっとしたロビー団体の顔役でね、」@中埜鐘(なかのがね)

「知っっったことか!!」@牡丹(ぼたん)

辛辣

完全拒否

おっさんは声圧に押され、言葉を続けるのに間が空いた

もう一声話題を飛ばす

「おじさんなら、ナーラちゃんを日本に呼べると思うなぁ」@中埜鐘(なかのがね)

「え?」@牡丹(ぼたん)

よし、食いついた

「日本が大好きなナーラちゃんを、」@中埜鐘(なかのがね)

きっと固く結んだ少女の唇

ナーラちゃん

薄幸の少女の名を聞いて、彼女の目尻に涙が浮かび上がる

「あんたみたいな最低に、ナーラの名を呼ばれたくない」@牡丹(ぼたん)

「でもさ、考えてごらんよ。牡丹ちゃんはお金を貯めて、いつかナーラちゃんの手術代は用意できるかもしれない…でもさ、お役所の壁をどうやって突破する?やつら、人の命なんて関係ないぜ。規則を破って非を受けるのは自分、自分の立場しか考えていない。他人の命のために自分の明日を危険に晒す男前は役所にはいない」@中埜鐘(なかのがね)

少女は、オッサンへの不快感を表情に現しながらも、うつむいて悩む

言われてみれば、その通り

「牡丹ちゃんはナーラちゃんが大好きなんだろ?」@中埜鐘(なかのがね)

「ええ、大好きよ」@牡丹(ぼたん)

果たし状を叩きつけるように言った

「助けてあげたいんだろう?」@中埜鐘(なかのがね)

少女の心に土足で踏み入るようないやらしさ

「違う、」@牡丹(ぼたん)

「いや、だって、」調べさせた情報とは異なる返事。”助けたい”であっている筈だ

「ナーラと同じ境遇の子はたくさんいる」@牡丹(ぼたん)

「まぁ、そーだねぇ、」@中埜鐘(なかのがね)

「不憫に思ったからと言って、わたしが全員を助けることなんてできないわ。きっとビル・ゲイツにだって」@牡丹(ぼたん)

「…」@中埜鐘(なかのがね)

「でも、わたしたちなら出来る」@牡丹(ぼたん)

「わたしたちぃ?」@中埜鐘(なかのがね)

「恵まれた国に生まれたわたしたち。私達がナーラ達を大好きになって、一人が一人を、一人でダメなら十人で一人を、まだ足りなければ百人で一人を助ければいい。そのお返しは感謝ではなく、ナーラ達がわたしたちと同じ境遇になって、対等になって、本当の…本当の友達になること。わたしはナーラとその成功例になりたいの」@牡丹(ぼたん)

少女がいい話を語っているというのに、オジサンの笑みは下卑ている

「ああ、牡丹ちゃんが使っている #FairContribution ってハッシュタグ、そういう意味か、全然流行ってないみたいだけど、ハハハ」@中埜鐘(なかのがね)

「本当にテメーは気にくわない!」@牡丹(ぼたん)

性根の悪いオッサンをビッと指さす

「汚いお金でナーラを助けても意味はない」@牡丹(ぼたん)

自分を悪人と決めつけるような言動を聞いて、中埜鐘(なかのがね)の顔が険悪に引き締まった。

顔に血管が浮き上がるほど

思わずひるむ少女

「おじさんは正義の味方だって言ってるだろ?悪い奴が悪い組織に居てね。おじさんはそいつに天誅をくれてやるのさ」@中埜鐘(なかのがね)

恨みのこもった視線に、少女の背筋は凍った

「汚い金だって?逆だね。お嬢ちゃんが大手をふって使える、ヒーロープレミアの金さ」@中埜鐘(なかのがね)

牡丹(ぼたん)はここで観念した

「で?なによ。正義の味方って。世界なら助けないわよ。アベンジャーズの仕事を取ったら映画の続編が出ないでしょ」


翌朝、

廸佐高等学校(じゃくさこうとうがっこう)

校門で学生たちを出迎えるのは、無論、鬼の風紀委員、夏野嵐(なつのあらし)

「ほう、」@(あらし)

見覚えはある

しかし、これは、これは珍しい男が登校してきた

たしか途中編入の一年生が来るとは聞いていた

名前は確か────

東新田墾(ひがしにったひらく)」@(あらし)

同じ中学の後輩。懐かしい名前。だが、昨日まで病院のベッドで寝たきりだったはず

如何なる先端医療技術の仕業か、今は元気そうに歩いている

少年は、ワクワク、ソワソワとうわっついた様子で、デヘデヘと学び舎へ向かってくる

風紀委員に名前を呼ばれ、そのまんまデヘヘーと近付いてきた

「夏野センパイ!おはよーっ!ございます!」@(ひらく)

「…ああ、おはよう」@(あらし)

少年はもみ手で風紀委員の前に立つ

何が楽しいのか、内股で膝から下はピョコタン、ピョコタンとせわしなく上に跳ねている

「なんですか!なんですか!鬼の指導ですか!」@(ひらく)

嬉しそうだ

鬼の指導をされたいのだろうか?

マゾヒストなのだろうか?

流石の鬼もあきれ返る

「東新田──」@(あらし)

「ひ・ら・くと御呼びください」@(ひらく)

軽い

薄っぺらい

緩い

ウザイ

なんかもう、頭痛がしてきた

「よく聞け、新入り、」@(あらし)

「はい!はい!はーい!」@(ひらく)

「”はい”は一回」@(あらし)

「はい!」@(ひらく)

「我が廸佐高等学校は歴史が深く格式もある、地元のちょっとした名門校だ」@(あらし)

「はい!」@(ひらく)

「その生徒がなんだ、だらしない。シャキッと歩かんか」@(あらし)

「でへへーっ」@(ひらく)

「何がおかしい」@(あらし)

「夏野センパイに怒られちゃったー」@(ひらく)

「くっ!」@(あらし)

だんだん殴りたくなってきた

知らずに己の拳を握り締める

だがいかぬ、

この拳は必殺の一撃

(あらし)は警棒を取り出した

「その間抜け面をどうにかしろと言っているのだ」@(あらし)

警棒で頭をごちごちと叩く

「でへへ、サーセン」@(ひらく)

全然応えていない

本当にマゾか

…と、言うか、この叩き心地

「ときに東新田、」@(あらし)

「”ひ・ら・く”と御呼びください」@(ひらく)

「…墾」@(あらし)

「はい、」@(ひらく)

「お前の頭蓋骨はどうなっているのだ?まるで鋼鉄のような…」@(あらし)

(ひらく)がしゅっと下がって警棒の打撃をかわす

「骨丈夫なんです」@(ひらく)

「骨…まぁよい。兎に角、シャキッとしろ」@(あらし)

(あらし)に顔を近づけられたタイミングで、(ひらく)は「僕を何処か二人きりになれる場所によんでください」と小声で耳打ちした

(あらし)はすぐにピンときた…例の件だ。このおっちょこちょいの兄貴が実はあの高飛車な警察のエリート

Twitterはフォローし合ったが、よく考えたらFAKE NEWSの元ネタをSNSの様な公共の場で大っぴらに発信するわけがないのだ

あれは体よく(あらし)を追い返すための(はじめ)の肩透かしであった。それに気が付くと「一杯食わされた」と笑えて来る

近づけた顔を引き戻し、軽く咳払い

「東新田墾。放課後、ミーティングルームCに来い。色々と話をする必要がある」@(あらし)

「了解であります!」@(ひらく)

敬礼、そして向きを変えてるんたったとスキップ

少年の姿が白い校舎に消えて行く

「奴め、中学の時はひたすらおとなしかったと記憶している。あれほどの陽気は兄の反動か?」@(あらし)

首をかしげる


職員室

海神(わだつみ)、教室まで案内してやってくれ」@先生

そう言って(ひらく)を託されたのは1年2組の海神辰(わだつみたつ)

威勢のいい名前だが、当の本人は小柄で仔犬っぽい

同性から見ても実に可愛らしい男の子だ

杉養蜂園のスペシャルドリンクをすすっている

先生に一礼して教員室を後にする

廊下に出るなり「まぁまぁ、俺についてくれば大丈夫だから」と、(たつ)が胸を張った

なんか、可愛い

(ひらく)は、仔犬を愛でる時のあのほんわかした気分になった

可愛いもの好きは兄と一緒。兄が猛獣好きで、弟が小動物好き

「ところで…えーと、東新田だっけ」@(たつ)

可愛い

「”ひ・ら・く”って、読んでほしいな」@(ひらく)

思わず、仔犬をあやすときのような口調になってしまう

「あっそ?じゃあ、墾さぁ」@(たつ)

まじ可愛い、どうしてやろうか、この小動物

抱きしめてやろうと飛びかかった(ひらく)(たつ)は横っ飛びで避けた

「やっぱり東新田って呼ぶわ」@(たつ)

「もう一回、ひ・ら・くと呼んでくれないかな」@(ひらく)

「君もなんだね。初日から災難だね、」@(たつ)

「災難?」心当たりがない

「初日から説教部屋行きなんてね」@(たつ)

あーぁ、

そうか、(たつ)くんは八重葉(やえば)が拉致された件をまだ知らない。無論、FAKE NEWSの世界も

「まぁ、これもきっと由緒正しいわが校の儀礼のようなものなんだよ」@(たつ)

(ひらく)は鼻の頭を掻いて誤魔化す。(たつ)は彼の緩さに、やや呆れ気味

「君は何か、変わっているね~」@(たつ)

「そうかなー」@(ひらく)

1年2組の文字が、廊下の向こうに見えてきた

これから、諦め切っていた高校生生活が始まるのだ

(ひらく)の胸は期待に高鳴った


放課後

ミーティングルームC ─ 通称、説教部屋

すでに(あらし)が来ており、そこに(ひらく)が入ってきた

「いつの出発だ、」@(あらし)

(あらし)は彼が話し出すのを待ちきれずに、前のめりで訪ねてきた

「3日後です」@(ひらく)

「何ィ!!そんな悠長でいいものか!八重葉が殺されてしまうぞ」@(あらし)

「それはありません」少年は首をすくめた

「なぜ言い切れる?」@(あらし)

「警察だってバカじゃない。海州市の造船所、つまり八重葉ちゃんが軟禁されている場所に、捜査官を潜入させることに成功したのです」@(ひらく)

「つまり、八重葉の安否は確認が取れているんだな?」@(あらし)

「はい。八重葉ちゃんを殺したくっても、うかつには手を出せないでいます」@(ひらく)

「そうか、」@(あらし)

ほっと、胸をなでおろした。

そして「よかった」と安堵の涙を流した

彼女も恋する乙女なのだ。同性相手だが

「そう手放しに喜んではいられません。異国での拉致監禁という極限状態に、八重葉ちゃんの精神は限界が近づいています。3日後には必ず救い出します」@(ひらく)

「嗚呼、哀れ八重葉。愛しい君よ。わたしが助けに行くから気を丈夫にして待っていておくれ」@(あらし)

「センパイ。八重葉ちゃんのことも心配ですが、最悪のシナリオだと八重葉ちゃんが正気を失うことで、世界が危険にさらされるのです」@(ひらく)

「どういうことだ?虫も殺せぬか弱い乙女を持ってきて、世界?」@(あらし)

「ええ、それがですね…」@(ひらく)

いよいよ明かされんとする世界電波塔(せかいでんぱとう)の秘密

ここでミーティングルームCの扉が勢いよく開いた

機密情報を語っていた二人は凍り付いた

扉の向こうに立っていたのは海神辰(わだつみたつ)

「話は聞かせてもらった!!」@(たつ)

「「げ!!」」@(あらし)(ひらく)

「八重葉ちゃんを助けるってぇ!?なんだぃ、俺も行ってやろうじゃないか!!」@(たつ)

「「いや!いや!いや!」」@(あらし)(ひらく)

二人そろって手を横に振る

「義を見てせざるは勇無きなりってね!おいおい。まぁまぁ、任せておきなさいよ」@(たつ)

「おい東新田!」@(あらし)

「え!?え、えーと!”ひらく”と御呼びください!」@(ひらく)

「警察の者!こういう場合はどうするのだ!!」@(あらし)

「えええー、僕ですか!?」@(ひらく)

(たつ)はTough-Man Refreshをごくごくと飲んでいる

幸子は一回描きなおしてます

最初はフツーにギャル的に描いたのですが、やたらケバくなり、描いている本人が生理的に受け付けなかった

で、ボツに

あの目の周りの濃さを、自分が許せるレベルまでどうやって薄めようかと思い、最終的に他のキャラよりも目を大きめに描くことにしました

だから、化粧落とした幸子は目を一回り小さく描くという裏設定になっております

最近はいたずら描きも目を小さめに描いていたので、目が大きいとなんぞ違和感ありますわ


因みに女性キャラで、背が一番高いのは嵐。胸が一番でかいのが幸子


次回は男キャラ、というかもう描き終わってまして、創です

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