最終話「5月7日 AM7:54~」
前もって語るべきはイラストだろう
辰…まぁ聞け。説明する
先ず長髪
今回の10話は短髪だが、次の10話は長髪なのですよ。で、作者的には長髪の方を確認したかった
つぎな。ポーズ
顔を確認したかったので、顔は正面を向いている
体の方は動きつけてみたかった。だけど効果線入れると観難いからスチルショットみたいになっている
最後
全国のプロ漫画家に物申したいのは、靴の減り方
辰のイラストで言う踵のあたりの表現
アニメはそんな面倒をやっていたらペイしないのでいいですわ
漫画はやってくれよ
世界電波塔
─ 四人の転校生 ─
最終話「5月7日 AM7:54~」
廸佐高等学校、正門
口を真一文字に結んだ夏野嵐が、タブレットを手に校門に立っている
今はそれがこの高校の名物風景
学生たちも、嵐を見つけて、わが校に到着したと確信するのだ
その嵐に、登校してきた後輩の新城幸子がギャルの軽いノリでピースサイン
「嵐センパイ、おはようございます」@幸子
「ああ、おはよう」@嵐
嵐は後輩の短いスカート丈やはだけた胸元などに目をやった
親しげに手を振りながら、立ち去ろうとする幸子
嵐は幸子の手首を無言でねじ上げた
「痛い!痛い!」@幸子
「今日も不健康極まりない服装だな」@嵐
「やだなぁ先輩、わたし健康診断はA評価ですよ」@幸子
「風紀診断はE評価だ。学生証を出せ」@嵐
「やだなぁ先輩、今更。知らない仲じゃないじゃないですか」@幸子
「お前が学生証を携帯しているということを確認するのが肝要なのだ」@嵐
嵐は幸子の手首を更にひねりあげた
「イタタ!わかりました!痛い!も!勘弁してください!!」@幸子
嵐が手首を放すと、幸子はしぶしぶバッグのインナーポケットから学生証を取り出した
すると、
「嵐センパーイ!おはよう!ございまーす!」@墾
20m彼方から元気いっぱいの朝の挨拶が聞こえてきた
墾が、何がそんなにうれしいのか、飼い主を見つけた犬が激しく尾を振るようにブンブンと高く掲げた手を振っている
「ああ、おはよう」@嵐
挨拶を返した嵐は不機嫌
彼の隣には嵐の思い人八重葉が並んでいる
その二人の距離感。お互いの肩が引っ付きそう。まるで恋人同士ではないか
その姿を見せつけられていることも腹立たしいのだが、男の方が朴念仁で、そういう見た目になってしまっていることに全く気付いていないことが輪をかけて腹立たしい
嵐の計画では、八重葉を学校までエスコートする役目は自分であるはずだった
夏野嵐と小江戸八重葉はできているのではないか?
そう噂されて、噂が広まって、周囲の見る目がそうなって、そういう目で見られ続けることによって八重葉もそういう気持ちになってきて、最終的に両思いでゴールイン
嵐の脳内ではそこまでの妄想シミュレーションは完了していた
八重葉の様な心が清らかで純朴な乙女にとって、男は顔ではない。心だ
確かに墾は性根がいい男だ。聖母の様に
それにしても墾の様な能天気な表六玉が八重葉のストライクだったとは誤算
「あの、嵐センパイ。もう、行ってもいいですか?」@幸子
幸子は険しい表情の嵐に遠慮しながらことわってみた
「ああ、スマン。しばし待て」@嵐
幸子の学生証をタブレットにあてがう
”パンパカパーン”
タブレットから軽快な音が発せられた
「ひいいっ!この音は!」@幸子
幸子の表情がこわばる
「おめでとう。放課後風紀指導1時間と、反省文1,200文字だ」@嵐
「ぎゃー!またかー!」@幸子
衝撃に固まった幸子の手に、嵐は彼女の学生証を乗せた
「東新田弟」@嵐
「ひ・ら・く、とお呼び下さい」@墾
「教室が異なるところを悪いが、幸子を教室まで運搬してくれ。校門のど真ん中でムンクの叫びの様に立ちん坊を決められると邪魔でしょうがない」@嵐
「了解であります!」@墾
墾は幸子の背中と太腿に手をあてがい、ひょいっと頭上に持ち上げ、ステステと下駄箱へ向かった
その後に続こうとする八重葉に嵐が声をかける。マメなアピールは恋路には肝要
「やぁ、八重葉。おはよう」@嵐
「おはようございます」@八重葉
乙女の笑顔
乙女のスマイル
乙女の…だからもう…眩しい
これですよ
八重葉の笑顔を見て、嵐は天にも登る気持ちになった。例えそれが接待的な作り笑顔でもだ
しかし彼女が小走りで墾の後を追う姿を見て、地獄に落とされた様な気持ちになった
ダッシュで追う
「八重葉!八重葉!」@嵐#興奮
「は、はい?」@八重葉#退き
「ひょっこりやろう!」@嵐
「え!えぇぇ…ここでですか?」@八重葉
「東新田弟が面白いことをやっている」@嵐
「センパイがやらせてるんですよね」@墾
「さっ!この朴念仁の背中に隠れて!」@嵐
「センパイ。強引だから」@八重葉
「せーっ!のっ!!」@嵐
「「ひょっこり!」」@嵐@八重葉
「ナイス!ひょっこりぃー!」@嵐#嬉
「気が済みましたか」@墾
歩き去ってゆく
「あ、待て!写真撮りたい!」@嵐
墾は聞こえないふりをして去ってゆく
その背中を追いかける八重葉
そして寄り添う
その距離
「くっ!」@嵐
彼女にとって第一はあの表六玉。八重葉本人の自覚の有無に関わらず、その恋心はわかりやすい。我が恋敵は東新田墾
「おのれ東新田弟。風紀的模範生徒にして我が恋のラスボス。奴を倒さずして悲願の成就はならず。やれ忌々しや」@嵐
恋する乙女は唇を噛んだ
その姿を辰が見ていた
「嵐ちゃん。あのさ。だんだん面白いキャラに変わっていっているけれども、大丈夫なんか?」@辰
彼はまるで階段で転んだ人を見る様に心配そうなまなざしを嵐に向けた
「ぬぅ、」@嵐
嵐は難しい顔をして唸っている
大丈夫であるものか。八重葉を略奪されるくらいなら、恋敵を自慢の二刀でみじん切りにして、己も割腹して果てる覚悟
ピロン
嵐が手にしているタブレットに通知が三件飛び込んできた
教員の人事課一件
生徒三名の転入が一件
生徒一名の海外留学が一件
嵐と辰がタブレットを覗き込む
「連休明けから忙しいな、嵐ちゃん」@辰
「おい。それよりもこれ。名前を見ろ」@嵐
「え?あの人たち。なにしてるのこれ?え?先生もだけど、生徒!生徒なの??」@辰
1年2組教室
長い連休明けと言うこともあり、生徒はみな再び学校が始まる憂鬱さについてジョークを飛ばしている
始業のベルが鳴り、一人の男性が右足を引きずりながら教室に入ってきた
生徒は一様に反応に困っている
生徒たちはその男性に見覚えがない。担任の先生が病欠で、代理でいらした先生であろうか?いや、その男性はこの学校の関係者ではないはずだ。記憶にある限りは。緊急の代理だとしたら話が合わない
その男性が誰であるか、墾、辰、そして八重葉の三名だけはよく知っていた
「フン、」
その男性は虫けらでも見るような目で生徒たちを見渡し、鼻を鳴らした
「本日からしばらくこの教室の担任を務める東新田創だ」@創
創はピチッと白い手袋をした後、チョークをつまみ、黒板に自分の名前を書いた
辰は嵐のタブレットの通知を見て知っていたが、実際に警察の人間が教壇に立っている姿を見ると、かなりの違和感を覚える
「担当は数学だ。授業についてこれないものは、即時に切り捨てる。自信が無いものは、早めに身の振り方を考えておけ」@創
あまりにも一方通行で高圧的な物言いに、教室がどよめいた
弟は子供にも容赦がなく、どこまでも平常運転で通す兄に頭を抱えている
辰は創らしい物言いに苦笑い
「フン。今日は通達がもう二件ある」
創は教員用のタブレットに目をやった
「二年二組の嬉野牡丹。彼女は短期留学のため三ヶ月不在となる。今週中は諸手続きの為日本にいる様なので、用事があるものは今週中に済ませておけ」
牡丹は明るくキッパリとした性格で、クラス学年を問わず友人が多い
八重葉もその一人
なので、クラスの女子が「知ってた?」「びっくりした」などとひそひそ話を始めた
彼女は男友達も多いので、男子の何人かも衝撃を受け、表情に困惑の色が浮かんでいる
「静粛にしたまえ」@創
ヤクザさえ震え上がらせる、喧嘩上等の警察キャリア組。その絶対的上から目線による圧力
教室は水を打ったように静まり返った
教室を貫く、レーザービームの様な国家権力の眼光
そりゃぁ皆々震え上がって視線をそらす
「”通達は二件ある”…私はそういった。もう忘れてしまった欠陥品は手を挙げたまえ」@創
そのように圧力をかけられて手を挙げることができる強者がいたなら、私はその男気に感じ入って、肩をぽーんと叩いて100万円を進呈してしまうかもしれない
事実、全員頭を低くして、頭上の圧力をやり過ごしている
台風に耐える小鳥たちの様に
「通達はまだ一件しか話していない。つまり私はもう一件の通達を話さなければいけない。お前たちは騒いでその邪魔をし、私の貴重な時間を奪った」@創
まるで死刑の前に罪状を読み上げられている気持ちだ
生きた心地がしない
辰が墾の脇を突っつく。ここは弟が何とかせいと
墾はきゃわゆい辰きゅんの方から体に触れられて、興奮し、煩悩は天に昇ってしまった。そして恐怖政治を布く兄に物言う勇者になることができた
「兄さ…と、東新田先生」@墾
「なんだ」@創
「もうすぐ一限目の予冷が鳴ります。時間がありません」@墾
GPS腕時計で現在時刻を確認する創
「フン。では二つ目の通達を伝える。短期留学をする嬉野と交換と言う訳ではないが、代わりに本日から留学生を迎える」@創
創は教室の外に向かって、手招きをした
「マリコ。入って来い」@創
教室にぬおっと入ってきたのはマリコ・デュポワ
現職の警察官、もうすぐ二十歳
…セーラー服
衝撃を受ける墾、辰そして八重葉
墾は「絶対兄さんの趣味でマリコさんにセーラー服着せたかっただけだ」と兄の変態性癖に絶望した
辰は嵐のタブレットを見て知っていたとはいえ「マリコさんを投入するなんて、俺たちだけでは任務に不足だってこと?」と憤慨した
八重葉はマリコに対して大人っぽいと言う認識があったので、セーラー服の違和感の無さに、いたく感心した
男子生徒たちは、ハーフ独特の角のない美人さに見とれている
取り分けマリコは肌が抜ける様に白く、淡い玉ねぎ色の頭髪や碧眼と相まってミステリアスな美しさを漂わせている
足の長い長身と整った小顔は人形の様であり、女子の羨望の的ともなった
それを見て満足気に頷く創
「フン。マリコはほとんど日本語が話せない。しかしながら彼女の母語で精いっぱい自己紹介する。心して聞くがいい。」@創
みなは机の下で隠れてスマートフォンを操作し、LINEでマリコの噂をする
”何語を話すのかな?”
”どこの国かな”
”ロシア?”
”デンマークとかおしゃれ”
”フランス”
”それだ”
1年2組の多勢はマリコ=フランス人説をおした
彼女の紅をさしたような唇から、おしゃれなフランス語が、詩を朗読するように朗々と発せられると確信していた
しかし、
「うが」
以上であった
皆が呆然とする中、創は愛おし気にマリコを眺めている。
墾、辰そして八重葉の三人は、個性が強すぎる二人の警察官が平凡平和な学園生活に乱入してきたことに対して不安を隠しきれない
クラスの思いを代表して、学級委員の女の子がすっと手を挙げて「マリコさんはなんと話されたのですか」と創に問うた
「フン。わからなかったなら、それでいい」@創
冷徹な目
国家権力特有の圧
学級委員の女の子は、やむなく座った
昨今は学生みんながスマートフォンなどを携帯し、メアドを所有している
廸佐高等学校では、クラス別、学年別、全校、卒業学年毎のメーリングリストを払い出している
墾が気を利かせて、一年二組のメーリングリストに送信をした
”名はマリコ・デュポワだ。短い間だがよろしく。って言ったんだよ”
瞬間。教室は水をうったよう
「うが?」@マリコ#空気読解中
そして、
「か…」@生徒1
「かわ…」@生徒2
「「「「可愛いいいっっ!!!!」」」」@大多数の生徒
「うが?」@マリコ
「マリコちゃーん!」@生徒3
「デュポワさーん!」@生徒2
「うがっ!」@マリコ#威嚇
「「「「超!可愛いいいっっ!!!!」」」」@大多数の生徒
「…おまいら、マリコさんが何言ってるか分ってるのか?」@辰
「いや」@生徒2#否定
「だが、それがいい」@生徒1
仮にも社会人が、年下に可愛いと言われ、マリコは困惑
「うがっ」
再び、一間の静寂
「うん。やっぱり可愛い」@生徒3
「「「「マリコちゃん!可愛いいいっっ!!!!」」」」@大多数の生徒
「で、何て言ったか分かったの?」@辰
「いや、でも、可愛いってことだけは分かった!」@生徒2
GPS腕時計に目をやる創
「時間だな。墾」@創
「はい」@墾
「お前の後ろがマリコの席だ。机と椅子は、先ほど用務員に頼んでおいたから、廊下に置いてあるだろう。お前が運べ」@創
「了解です。千の眼を…」@墾
「お前が”手”で運べ」@創
墾が廊下から机と椅子を持ってきて。マリコが座った
「以上だ」@創
創は教室を後にした。右足を引きずりながら
ぴしゃん
戸が閉まる
つかっ、かっ、かっ、…
足音が遠のいて行く
:
:
どわわわわわわわわっっっ!!
女子が大挙してマリコに群がってきた
「きゃーっ!肌白いー」@生徒4
「顔ちっちゃぁ」@生徒5
「座ってると背が高いようには見えないー」生徒6
「座高が低いのよ!足が長くて!」生徒4
姦しい女子の圧に辟易するマリコ
ギリ未成年とはいえ、社会人のマリコから見れば高校生は子供
対等に話すにも違和感がある
更にマリコは女子isのこのノリが苦手だ
間もなく一限目の先生がやってきて、女子たちはいったん引き下がった
しかし、授業中も彼女たちはLINEでマリコのうわさ話をしている
視線を感じて過ごしにくい
それと並行して1年1組
ITの天才、新城幸子の教室
1組は”国立組”とも呼ばれ、入学試験で成績上位の子供たちが集められている
このクラスの授業は難関校の受験突破を目的としたプログラムが組まれている
こちらにも二人、転入してきた。名前は…
「煙唐揚だ、よろしく」
「浅間檸檬よ、よろしく」
鏡写しのようなその外見。幸子は「双子かしら?」と考えた
幸子の表情を二人の転校生は読んだ。二人は幸子を見る
「僕たちに血のつながりはない」@唐揚
「よく勘違いをされるのよ」@檸檬
頭の中を読まれた幸子は「これはやり難そうな転校生だ」と苦笑い。これも二人に読まれていた
「僕たちは囲碁をたしなんでいてね、人の手の内を計算する癖がある。不快に感じたのならば失敬」@唐揚
「あなたは頭の回転が速そうね。きっといいお友達になれるわ。お名前を頂戴できるかしら」@檸檬
幸子は「厄介なのに気にいられた」と鼻の頭を掻きながら、まぁまぁ失礼が無いように名乗ろうとした
が、
「いや。僕が当てよう。君は”新城幸子”さんだね」@唐揚
「唐揚。あなたはそういうところあるわ。間が悪いというか、人付き合いが下手ね。そう、彼女は広報部のエースにして凄腕のハッカー、新城幸子」@檸檬
自分の名前を名乗りかけていた幸子は口をパクパクと空回りさせるのみ
どうにもこの双子もどきはやりにくい
陰に天を仰ぐ
人を見透かしている…と、いうか、他人の手の内を読むなど造作もない…と、自分にはそういう能力があると信じている。そしてきっと、それは100%の真実ではなく、また、それを指摘することはご法度であり、彼らの機嫌を損ねるだけの愚かな行為だ
頭の回転が速い幸子は、それをよくわかっているからこそ押し黙った
そして幸子は沈黙のわずかな瞬間に考えた
二人は自分(幸子)の詳細な情報を持っている
ならば幸子の名は当てたのではなく、初めから知っており思惑があって声をかけたと考えるのが賢明
なぜなら二人を見て”双子?”と憶測したのは自分だけでは無い筈だ。ところが二人は特別に選んで幸子に声をかけてきた
おりこうさんぞろいの国立組にあって、たしかに彼女の色を抜いた髪や胸元をはだけた制服の着こなしは目立つ
幸子は先だって警察(創)から仕事の依頼をされたばかり
まだ正式に受けてはいないが、警察が幸子に白羽の矢を立てるなら、その対抗勢力とて、自分に興味を示すのは必定
以上より推察される二人の転入生の正体とは…
「わたしたち、ノリが合うかしら?」@幸子
幸子は何食わぬ顔でそう問いかけた。その問いかけは彼女にとってのリトマス試験紙。二人の双子もどきが幸子にとって無害か有害かを見分ける
「ノリ?それは僕たちの関係にとって重要な要素なのかい?」@唐揚
「重要なのは、目的が達成されたかどうか。過程はどうでもよろしい。そうでしょう?」@檸檬
幸子は「そうね。それは一つの意見ね」と返答した
唐揚と檸檬は顔を見合わせる
「一つの?これは唯一の意見さ」@唐揚
「この世に正解は二つ無いのよ」@檸檬
二人の不遜な態度に、担任の先生ですら対応に困っている
他の一年一組の生徒たちも二人の言動を不愉快に感じている
二人は、2組のマリコとは異なり、1組に歓迎されていない
1組の女子の一人はLINEで2組の友達とやり取りをしている
”転入生最悪なんだが”@某一組生徒
”こっちの転校生美人ハーフ”@某二組生徒
”おけ。チェンジで” @某一組生徒
”うがしか言わない” @某二組生徒
”え?” @某一組生徒
”かわいい” @某二組生徒
”そっちか。把握” @ 某一組生徒
”昼休み拉致予定” @某二組生徒
”乗った”@ 某一組生徒
マリコの噂は1組にも広がっていった
勢い、唐揚と檸檬を拒絶する空気が固まってゆく
双子にしか見えない二人はあっという間に、クラスの嫌われ者になってしまった
そして悪い噂はSNSで他の組にも拡散されてゆく
しかし、その様なこと、二人にはどうでもよいことなのであった
例え世界中が敵だとしても、唐揚には檸檬さえいればよく、同様に檸檬にも唐揚さえいればいい
さて、幸子がリトマス試験紙を用いた結果だが
陰性、
幸子の見立てでは二人は彼女にとって無害
彼らは正直者だ。”馬鹿”が頭につくほどの正直者だ
例え二人を敵に回したとしても、嘘つきの味方よりも相手にしようがある
自分の席に向かう二人に、幸子は声をかけた
「二人とも昼休みはあけといて。学校を案内するから」@幸子
顔を見合わせる二人の双子もどき
「分かった。校内の情報は把握しているが、何分座学。誤差があるなら修正しておきたい」@唐揚
「そうね。いいわ。幸子さんの提案の重要度を上げましょう」@檸檬
幸子の友達の一人がLINEでやめておいた方がいい、二人は変人だと忠告してきた
幸子は心配をしてくれた友人に、お礼だけを伝えた
「探したぜ」@中埜鐘
駅から離れた袋小路の悪い立地
ボロボロの安酒場
怪しいオッサン中埜鐘はそこに現れて、奥の席に座っている女性の後ろに立った
彼女は中埜鐘に気付いていない
その女性は酷く酔っぱらっていて、視線はうつろ
「その女の知り合いかい?」@店のオヤジ
店のオヤジが話しかけてきた
「知り合い?そうさな…」@中埜鐘
中埜鐘はどう答えてやろうか思案を始めた
「連れて帰ってくれ」@店のオヤジ
「あん?」@中埜鐘
「昼間っから入り浸ってヤバイ飲み方して。閉店になっても動かないから、いつも警察を呼んでいる」@店のオヤジ
「出入り禁止にすればいいだろう」@中埜鐘
「金払いがいい。うちはこんな店だ。金を払ううちは客だ」@店のオヤジ
「そうさな、この女なら、金はあるだろうさ」@中埜鐘
「きっと、他の店でことごとく出入り禁止になり、うちに流れ着いたのさ」@店のオヤジ
「そういう女じゃなかった。俺が知っている限りはな」@中埜鐘
「お前、この女の何だ?」@店のオヤジ
「被害者さ」@中埜鐘
中埜鐘は肩をすくめた
彼は彼女の目の前で手をひらひらとふった
「もしもし。地球より登戸サン」@中埜鐘
反応がない
「分かった。オヤジ俺がこの女を連れて行こう。どれだけ飲んだ?いくら払えばいい」@中埜鐘
「そうだな。その女の面倒を見てくれるなら5万で勘弁してやる」@店のオヤジ
中埜鐘は6万円置いて店を後にした
女に肩を貸して、何とか歩かせている
「しょうがねぇな」@中埜鐘
彼はスマートフォンを取り出し、駅前のビジネスホテルの予約をした
シングルを2部屋抑えた
駅まで歩くつもりだったが、女の方の足元がおぼつかず、最終的にタクシーを呼んだ
タクシーが来るまでの間、女は地面に座らせておくしかなく、男は立ったままタバコをふかす
何しろ辺鄙なところで、座れるところを探すなら、さっきの酒場に戻った方が早い
タクシーは10分ほどでやってきた
ビジネスホテルでチェックインを済ませ、予約した2部屋のうち一部屋に向かう
ユニットバスのバスタブに水をはる
女の後ろ髪を掴み、頭を水に沈めた
30秒ほどすると、力なくじたばたとしだす
一旦頭を水から出すと、なんとも顔色が悪い
「クソが」@中埜鐘
女の頭を便器の方に向ける
女は嘔吐を始めた
中埜鐘はタバコをふかして、女が吐き終わるのを待っている
「ケホッ、ケホッ」@登戸
「なんてぇざまだ…」@中埜鐘
「また…警察か…」@登戸
「ほう。正気に戻ったようだな」@中埜鐘
女はその声に聞き覚えがあった
「今更私に何の用だ。中埜鐘」@登戸
中埜鐘は「下呂臭ぇえな」とトイレの水を流し、「口を漱げ」と女の頭をバスタブの水に沈めた
女は、今度は力強くもがき、自力で反発して頭を水の上に出した
「ぶはっ!!」@登戸
「もう、いい加減目が覚めたろう」@中埜鐘
「げほっ!げほっ!」@登戸
「”何の用だ”だとぅ?寝ぼけたことを言ってくれたな」@中埜鐘
「本当にお前が何をしに来たのか、心当たりがないのだ」@登戸
女の頭を水に沈めようとする中埜鐘。腕を突っ張ってそれに抗う女
「復讐に決まっているだろうが!」@中埜鐘
中埜鐘は女の腹を蹴り飛ばした
腹を抑えてうずくまる女は、しかし、笑っていた
「何が可笑しい」@中埜鐘
「お前が滑稽でな」@登戸
「そんなに可笑しいかい?生憎、俺は根に持つタイプでな」@中埜鐘
「違う」@登戸
「あ?」@中埜鐘
「中埜鐘。お前、私を見て何も気付かないのか?」@登戸
たしかに、彼女らしくは無いと思った。
その女はもっと、清廉潔白な姿をしていたはずだ
短くまとめた髪。折り目がきっちりとした紺色のスーツ。磨き上げられた革靴
それは、彼女の本性を隠す鎧であった
その女は、人の手柄を横取りしてのし上がってきた
それがどうだ?
まず初めに、彼女が酔っ払って醜態をさらすなんてことはなかった
それ以前に、飲み屋のオヤジの言葉を信じれば、昼間から飲んだくれているという。それがおかしい
彼女が現場を離れるなんて信じられない
仕事をしないと言う観点において、酔っていようがシラフだろうが変わりない
しかし、手柄を独り占めすることに血道をあげている強欲女が、現場を離れるわけがない
彼女は仕事場の最前線で横取りするための手柄を探して、全方位にアンテナを張っている…そのはずだ
しかしながら目の前にいるの見るも無残な酔っ払い
次第に、その”らしくなさ”──違和感を重大に感じるようになる
人は、理解できないものに怯える
中埜鐘は気が付くと、後ずさりをしていた
女は、その姿を無言にして目で追う
そして、女はユニットバスの隅に座りなおした
「私はもう終わった人間。そういうことだよ、中埜鐘くん」@登戸
「嘘だ。今もお前は匿名結社の日本支部副代表。その役職に居座っている」@中埜鐘
「違うな」@登戸
「調べた」@中埜鐘
「外向きからは判らんよ。少なくとも日本支部は、今や二人の子供のものさ。事実上ね」@登戸
「…」@中埜鐘
「その子供たちは、特別なカリスマ性を持っている」@登戸
その子供たちに心当たりがある。被り物の、少年と少女。中埜鐘はふっと力が抜けて、便座に座った
「凡人には拒否反応を示され、天才に崇拝される、特別なカリスマ性だ。そして、二人の子供に魅入られた天才が凡人をコントロールし、理想的な組織が完成する」@登戸
「お前は凡人の筈だ」@中埜鐘
「ああ。私はあの二人が大嫌いだ。私が天才か下位の構成員なら、組織の中に居場所はあった」@登戸
「本部向けのつじつま合わせ。それがお前の役目か」@中埜鐘
「流石は元、匿名結社。察しがいい。嘘八百の書類作文と月二回の全体会議。それが私の役目だ。全くくだらないが、逃げればきっと殺される」@登戸
中埜鐘はため息をついて立ち上がり、彼女に部屋の鍵を投げた
「金は自分で払え」@中埜鐘
怪しいオッサンは、部屋を出て行った
一人残された女
次第に手が震えだす
「あいつらが来る!」二人の子供の影に怯え、酒を求める
廊下に出ると、自販機に酒があった
懐を探るがくしゃくしゃの万札とすり切れたクレジットカードしかない
飢えた形相で自動販売機の酒缶のサンプルを見る
すっと横から手が出てきて、自動販売機に千円札を入れた
中埜鐘の手であった
「良い様だな、登戸サン。俺はそういうあんたの姿が見れて、気分がいい。おごってやるよ。好きなだけ飲んで、死んじまいな」@中埜鐘
ビールを一缶一気飲みして、登戸は落ち着きを取り戻した
「酒の礼に、一つ情報をくれてやる」@登戸
「…」@中埜鐘
「あの二人。幺四鬼と取引をしたよ」@登戸
「幺四鬼って。あの、最悪の傭兵部隊の幺四鬼か?14人の鬼か?」@中埜鐘
登戸はただ頷いた
いや、
一言呟いた
「まるで呼吸をするように、いつでもどこでも、さしたる理由がなくでも人を殺める。やつらは人ではない。会ったが…まぁ、ぞっとしたよ」
ららぽーと横浜
「もうちょっと素朴感あった方がいいかな。それともおもっくそ可愛い方向に振り切るかな。ネタ系もなくはないのよねぇ」@牡丹
店のショーケースにずらっと並んだ寝間着を前に楽しそうに悩む嬉野牡丹
コンゴ民主共和国への長期出張を前に、自分の寝間着を物色しているのではない
彼女の私服はジャージだ。外でもジャージ、室内でもジャージ。無論寝る時もジャージ。バイトもジャージ、コンビニにもジャージで買い物に行き、映画もジャージで見に行き、今だってジャージ姿。ジャージ以外を着るときなんて…
ああ、友達と遊びに行く時は別な服を着るようになった
最初は友達と遊びに行く時ですらジャージであったが、小学六年生あたりであったろうか?次第に女子が色気づき始め、周囲がジャージ姿の彼女と並んで歩くことに不快感を示すようになって、いよいよ観念して女の子らしい服を用意した
「もう一回、さっきの店行ってみようかな。あれ?ってゆーかナーラちゃん、サイズいくつだっけ??」@牡丹
牡丹はスマートフォンを取り出して、ナーラちゃんにメッセージを送った
”身長を教えて”
『さっきの店』に到着するころに、返事が返ってきた
”141cm”
”了解”
「じゃあSSとかXSサイズだねぇ。ナーラちゃんちっちゃくてかわいい。でゅふふふふふ」@牡丹
だらしない表情で腰をくねらせると、奇異なるものを見る視線が集まる
その様な視線、脳内お花畑の女子にとって毛ほどでもない
「やっぱり、可愛くてぇ、それでいて純朴なパジャマが良いな。くーっ!早くナーラちゃんに着せたい!!」@牡丹
異国の少女は難病を患っていて、病院の外に出られない
でも、それでも、彼女におしゃれをさせてあげたい
故にパジャマ
「あ、そうだ。ブラシや髪飾りも買おう…って、苦手な分野だなー。あ、そうだ!幸子に相談しよう。ギャルならおしゃれの専門家だからな。お勧めを聞いてしまえ。でも、パジャマだけはわたしが選ぶんだ。わたしが選んだパジャマを着てもらうの」@牡丹
少女は、自分が着飾るなんて想像もしたことがなかった。
興味が無かった
そんな彼女が、今、異国の少女の愛くるしいパジャマ姿を思い浮かべ、胸を躍らせている
二時限目も終了
人語が話せない美人のハーフ、マリコの噂はLINEで一年全クラスに広まっていた
昼休みに中庭に連れ出す算段で、マリコの言葉を完璧に理解できる墾も、マリコ拉致作戦の相談役として参画させられていた
マリコはそんな周囲の空気を野生の感で察し、ため息をついてトイレに行く
トイレには鏡があって、彼女は自分のセーラー服姿を初めて見た
彼女は朝のシャワー、朝食、トイレ、カバンの準備から着替えまで、全て創がお世話してくれる。彼女は創になされるがまま学校に送り出された
ぶっちゃけ、高校一年生をやらされるなんて話は一度も聞いていなかった
「うがああ、」
無性に悲しくなってきた
高校に潜入するためとはいえ、もうすぐ二十歳の身で15歳を演じるのは精神的にキツイ
創は先生なのに。ん?先生?
「うが!」
マリコは自分も先生として潜入すればよろしいということに気がついた
彼女は早速鼻をクンクンと働かせて創の匂いをたどり、廊下を歩いていた彼を発見するや手を引いて階段の一番上の踊り場に引っ張って行った
二人っきりになったことを確認して、マリコは創にうったえる
「うが!」
「え?教師役に替えて欲しいって…もう、生徒として周知してしまったしな」@創
マリコのお願いに困って後ろ頭をポリポリと掻く
「うが」
彼女は照れて頬を染め、両手でスカートをばたつかせる
「いや。そこは大丈夫だ。全然15歳で押し通せるし、セーラー服も似合っている」@創
「うーが」
両腕をぶんぶんと振って、何かを主張している
「いや、マリコ。相手はあの世界電波塔だぞ。本格的に暴走を始めた場合、実の処お前の永久橋と墾のカミオカンデでも抑えきれるかわからない。出来るだけ電波塔の近くで待機していてくれ」@創
「うが」
情けない困った眉毛で最後の抵抗を試みる
可愛い
創はその姿が尊すぎて、拝もうか抱きしめようか迷っている
「うがっ」
鼻持ちならない警察の超エリートは、もう辛抱たまらず彼女を抱きしめ、頭を撫でまわした
「うが、」
創になだめられても、なおむずがるマリコ
彼にとって、これがまたペットとして可愛らしくて、創はマリコのおでこにキスをした
「やばいスクープ拾ってもうた」@幸子
手摺の陰でスマートフォンを構えているのは広報部、新城幸子
おでこではあるが、教師×生徒のキスシーンを写真におさめた
階段を忍び足で撤収しつつ、写真を確認する
「事前契約で二人の正体はばらせないけど、どうなの?教師と警察という聖職のダブル役満が生徒にキスって、どうなの?」@幸子
「うが!」
野生の勘で近くに誰かがいることに気付いたマリコが、階段の下に人影を探している
「!!!!」@幸子
幸子は廊下をダッシュで逃げた
そのころ、一年二組の教室
何もない空間からぬっと、巨大な鋼鉄の腕が出現
じわりじわりと、何もない空間から染み出てくる
誰もまだ気づいていない。東新田墾以外は
「小江戸さん」@墾
「はい」@八重葉
「僕の背中側に隠れて」@墾
少年の表情が険しい
来るのだ。敵の脅威が
八重葉は言われた通り、少年の背に隠れた。それが一番彼の迷惑にならないから
「ひっ!」@八重葉
彼女は少年の背中越しに、巨大な腕を見つけた。彼女と少年には、その腕の本体も見えている
ガタリ、
日の丸の御庭番、海神辰。彼はやおら立ち上がり、彼の体格に似つかわしくない巨大な鉄扇を両手に構え、墾の横に並んだ
「え?え?なにあれ」@生徒4
のんきにしていた生徒たちも、鋼鉄の腕に気が付いた。何もない空間から突如現れる、超常の怪物に
一本、二本、
鋼鉄の腕から、蛇の様な多関節マニピュレーターが伸びる
三本、四本、六本、十本、十六本
「みんな!廊下に逃げろ!」@辰
辰は鉄扇を出口の方へ振って、避難を促した
多関節マニピュレーターが襲いかかる。狙いは八重葉
「まかせろ!」@辰
辰が飛び出し、鉄扇を振り回して多関節マニピュレーターを蹴散らす
「この双竜は末期の景色!!」@辰
24本、32本
二体の鋼鉄の腕から伸びる32本の多関節マニピュレーター
「くっ!」@辰
その数の多さに、流石の御庭番も打ち漏らした
「東新田くん!」@辰
多関節マニピュレーター2本が、八重葉に襲い来る
「ひ・ら・くって呼んでほしいな」@墾
墾は殴る
一本目は下に殴り落とし、二本目は正面からまっすぐに殴りとおした
ガガン!!!!
多関節マニピュレーターと少年の拳の威力がせめぎ合う
そして
ドキム!!
少年の拳は多関節マニピュレーターを粉砕してしまった
生身で、このような芸当ができる人間などいない
これなら残り31本の相手など、造作もないことか?いや…
「まずいな」@辰
鋼鉄の腕がもう二本、何もない空間からしみだしてくる
この援軍によって、多関節マニピュレーターの数は63本になると予想される
カミオカンデの応援が欲しいが、それは最後の切り札としたい。重機同士の戦闘は被害が大きい
さて63本
32本とやり合ったばかりだからこそわかる。63本は相手をしきれない
奥の手を使わない限り
辰には奥の手があった
命と引き換えてでも必ず任務を遂行するのが彼ら御庭番
命を削る奥の手
ためらいはなかった
その力を使うために、印を組む
「南無大師遍照金剛。破魔功力!」@辰
辰が気合を入れると、その全身から陽炎が立ち上った
目は血走り、鼻と耳から血がしたたり落ちる
「東新田くん。一分間何とかするから、応援を」@辰
ヴンッッ!!
「え?」@八重葉
八重葉は自分の目をごしごしとこすった
速い、辰の運足が速すぎる。八重葉の目には、一瞬、彼が消えてしまったかのように見えた
辰は驚異的な身体能力を発揮し、その小柄な体で、63ある多関節マニピュレーターと対等に渡り合う
墾は急ぎGPS腕時計をタップした。創を呼ぶために
「兄さん。ディープの襲撃だ。狙いは小江戸さん」@墾
『生徒は避難させたか?』@創
「うん。だからこそ小江戸さんを教室の外に出せない」@墾
八重葉を逃がすと、ディープはそれを追う
せっかくみんなを逃がしたのに、他の生徒を巻き添えにしてしまう
この教室で決める
圧倒的な戦力差をディープに見せつけて、諦めさせる
『カミオカンデを使え』@創
「いいの?教室が…」@墾
『教室は気にするな。マリコを送る』@創
「マリコさんは兄さんと一緒なのかい?」@墾
GPS腕時計に、そう表示されている
『30秒。持ちこたえろ』@創
「東…新田…くん…」@辰
辰の力ない声に、墾はびくりとした
八重葉も震える手で墾の袖をつかんだ
御庭番の少年が吐血し、もう、倒れかかっている
「辰くうううううううううんんんんんん!!!!」@墾
彼の四肢は多関節マニピュレーターに締め上げられ、五体はバラバラに引き裂かれんとしている
そのとき、
「我が二刀を見たが運の尽き」
ガキイイィィッッ!!!!
関節マニピュレーターが弾き飛ばされる
「お覚悟なされよ!」
真横から正義の風が殴り吹いた
風?いや、もっと強烈な…そう、嵐!!
「辰、あとは私に任せろ」@嵐
鬼の風紀委員、夏野嵐
両手に握った警棒で、辰に絡みついた多関節マニピュレーターを突き壊した
虫の息の辰を抱きとめる
彼女が立つだけで戦場の空気が変わる。勝利の風が吹く。今こそ逆転の好機
「破魔功力は本来わたしが受け継ぐはずだった。小さな体に重責を負わせたのはわが不徳」@嵐
嵐は目で墾に「辰は大丈夫だ」と伝える
墾は、辰をお姫様抱っこするという光栄を嵐に奪われた件について、天を衝く怒りに打ち震えた
「小江戸さん」@墾#怒り交じり
「はい?」@八重葉
「少し、離れていてくれるかい?」@墾#怒りに声が震えている
敵への恐怖から、暗に拒んで少年にすがる少女
「大丈夫。君のことは命に代えても守るよ。危ないから、少し、離れておいで」@墾
辰を痛めつけた敵が憎らしくて、はらわた煮えくりかえっているだけだ
そして、お姫様抱っこもできなかった…悔しい
少年の優しい作り笑顔に、少女は頷いて、そっと三歩後ろに退いた
その外見イチャラブっぷりを見て、嵐は少年への嫉妬の余り、天を衝く怒りに打ち震えた
少年は叫ぶ
「千の眼を見開け!カミオカンデ!!」@墾
何もない空間から、120mm滑空砲と巨大な刃を持つ鋼鉄の腕がにじみ出てきた
嵐はそれを見て慌てた
「待て!東新田弟!」@嵐
「どうぞ”ひ・ら・く”と御呼びください」@墾
墾は辰をぼろ雑巾にされて、笑顔の裏ではらわた煮えくりかえっていた
少年は教室の中で120mm滑空砲をぶっ放した
ドゴォン!!
4本の鋼鉄の腕のうち一本が破砕された
嵐は辰の鉄扇を開いて、飛来する破片をはじく
「ばかもの!教室内で!戦い方を考えろ!!」@嵐
教室外への被害は、刀刃を有するカミオカンデの腕が防いだ
八重葉に向かって飛来した破片は…
ガキン!
墾が殴り落した
少年の怒りに圧倒される八重葉
「言ったでしょう。小江戸さんは僕が命に代えても守るって」@墾
巨大な力を自在に振るう少年に、少女はときめいた
おかしい、自分は強いものが苦手なのにと、自身に疑問を抱きながら
「うがぁっ!」
MotoGPバイク、ホンダRC213V交機仕様を駆って、マリコ登場
校庭側から、窓ガラスをぶち破って
アイウェアはadidas EVIL EYE EVO PRO L
肩にはFuryganのジャケットをひっかけている
そのジャケットにそでを通し、ジッパーを上げた
「永久橋!突進!!」
マリコの背後、何もない空間から鋼鉄の腕が出現し、
「うがあ!」
有無を言わさず敵の腕を殴りつけた
「だから!戦い方を考えろぉ!!」@嵐
教室内を鋼鉄の破片が飛び交う
ふと気が付くと、敵の鋼鉄の腕は消え去っていた
「追いますか?マリコさん」@墾
「うが」
野獣の女は首を横に振った。少年には意外に感じられたが、そうでもない。得物を狩る時期を心得ているのも、また肉食獣なのだ
コンゴ民主共和国、某所
ゲルマニウムの廃坑
重たい雨と激しい雷の中、傘もささずに一人の少年がやってくる
「おかえり、スーダン。ご活躍は聞いているぜ」@兵士A
入り口で傭兵たちに馬鹿にされた。その少年兵は、日本でも北朝鮮でも、警察にしてやられた
「何故戻ってきた?アジアにいた方がよかったんじゃないか?」@兵士B
馬鹿にされながら廃坑の中に入ってゆく
100mほど行くと谷になっている
橋はかかっていたようだが、今は木が腐って、谷底に木片が散らばるのみ
指笛を吹くと闇の向こうから小さなロープウェイが現れた
それに乗って闇の中を200mばっかり進む
マグライトを取り出して前方を照らすと、銀行の金庫の様な扉
扉にはヘッドセットが置いてある
少年兵はそれを装着した
いくつかの映像や音が彼の脳を刺激し、その脳波から彼がスーダンであることが特定され、扉は開いた
少年兵はこの認証システムが嫌いだった
テスト用の映像には、彼の妹の惨殺死体も含まれているからだ
CGの合成画像であることは分かっている。それでも、安い合成画像でも、耐え難い苦痛を彼に与えるのだ
扉の中に入ると20人余りの科学者がせわしなく働いている
何かの研究施設の様だ
「やぁ、スーダン。久しぶりだね。日本はどうだった?」@科学者
「…平和ボケした、人が鯖缶になって居るだけの国だったよ」@スーダン
研究施設の中央に進むとガラスケースの中に一人の人間の焼死体が保存されている
時計を見る少年兵
「そろそろ朝です。理想世界とかいう絵空事の朝です。それでも朝なのです。起こしにまいりましたよ、五六先生」@スーダン
おわた
次の10話はちょっと書き出しているのだが、基本バトルものしか書けないド素人が、学園物書けるのか不安しかない
10話書いて、その後ネタの準備するので、出すのは来年五月ごろかな…
ネタは結局、その時のノリを大事にして、アドリブ的に描くことにした
で、一回描いたら、どんなに酷くてもそのまま出す
今回の10話読み直したけど、相変わらず誤字脱字が絶えませんな。病かな
でわ!!そんな感じなので!!
## 追記 ##
書き忘れた
実は書いてる時のノリで、ぽいぽい造語や言い回しつくる方なのだが、とりわけわかりにくいものがあったので、説明しようと思っていた
「鯖缶」これは誰もわからない
元ネタは英語の「a can of sardines」で、すし詰めみたいな意味
直訳は鰯缶なのだが語感が悪いので勝手に鯖にしてしまった
「混んでる」とかそんな意味な
英語由来はあと「地球より××へ」とか?
これは「earth to xxxx」の直訳で、元ネタ知らなくても解りやすい