第五話 転機
「悪いな。急に呼び出しちまって。」
「いやいや、親友の誘いを断るわけにはいかんだろ。」
11月のある日シーズンも終わったころ、葛城は食事に山村を誘っていた。もちろんあのことを言うために。
「なんだ?その用ってのは?」
「まあ…なんというか」
「もったいぶるなよ」
「簡単に言えば、俺今年でこのチームやめるかも知れねえんだ」
「どういうことだ?」
「つまり、オーナーに今年ダメだったら、クビだって言われたんだ。」
「なんだって?」
山村は驚いたように声をだした。
「だから…その・・・なんか言っとかなきゃなと思ってさ。」
「やっぱり、俺がこのチームやめたら、おまえとも会えなくなるだろ。だからさ」
「お前、もう辞めるときのこと考えてるのか?」
「だって俺は…おまえみたいにすごくねえし」
「おい!」
「そんな言い訳ばっか並べやがって、まだ終わってないくせになに言ってんだ!」
山村がテーブルを叩いた。周りの客がこっちを向くも、山村は気にしない。
「何が『俺はお前とは違ってできない』だ。そんなの自分が諦めていることへの言い訳じゃねえか。まだやってもないくせに諦めるなよ。やってみなきゃわかんねえだろ!お前がそれでもいいなら俺は知らない。もう一度よく考えろよ。」
葛城の心に久しぶりに闘志がもどってきた気がした。
「そうか…」
そして迎えた四年目のキャンプ
「あの時はすまんな。きついこといっちまって。」
「いや、いいよ。それより一軍でまってろよ。すぐにあがってみせるからな。」
「ああ、まってるぜ」
そして葛城は宣言通り開幕一軍の枠を射止めたのであった。




