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デブだけど、エルフだからいいよね?  作者: EZOみん
第三章 闇と石
13/24

デブなので、もりもり食べる

 山荘は朝霧に包まれていた。

 朝の挨拶を交わす鳥達の声に紛れるように、マルコは静かに山荘の裏手に回った。


 積み上がった薪を足場にヤギ小屋へ這い上がる。

 そこから、二階の廊下の窓に手を伸ばし、静かに開く。


 窓から家に入ると、しんとした静寂に包まれた。


 目の前に客間の扉があった。彼女を起こしてはまずいだろう。

 足音を忍ばせてその前を通過し、階段を挟んで反対側にある自分の部屋へと――


「どこ、行っていたの?」


 振り返る必要はなかった。抑えた声を震わせる、怒りの波動がびりびりと伝わる。

 廊下に仁王立ちになったシルビアが、マルコを睨みつけていた。




 リタは子供達の様子を、楽しそうに眺めていた。

 二階の大騒ぎを目の当たりにすると、リタはその場での収拾を放棄し、まず食事にしましょうと提案したのだった。


「あんまり急いで食べると消化に悪いわよ」


 並んで席に着き、競うようにスクランブルエッグを食べている二人に、リタはのんびりと言った。

 本気で注意しているわけではなく、単に面白がっているらしい。


「シルビィ、ミルクのお代わりは?」

「はい、ください」


 差し出されたコップに、リタはミルクを注いでやった。

 ごくごくと喉を鳴らしてシルビアはミルクを飲んだ。飲み方一つで、ヒトは感情表現が出来るのだ。


「あ、ぼくも」


 コップを差し出そうとした時、だん、とテーブルが鳴り、マルコは手を止めた。

 シルビアがコップの底を叩き付けたのであった。彼女は体ごとマルコに向き直った。


「ぼくも、じゃないでしょ! いつまでのほほんと食べているのよ?」

「ええっ? でも、それはシルビアだって……」

「一晩中、どこほっつき歩いていたのか、いい加減説明しなさいって言ってるの!」

「えっと、散歩に出かけたら道に迷った……とか、どうかな?」

「マルコくん? わたし、本当の話が聞きたいのよ。言うつもりがないってことかしら?」


 怒りに満ちたシルビアは、突進してくるツチブタの倍は迫力があった。

 これ以上誤魔化そうものなら、あんたをバラバラに粉砕するわよ、と彼女の瞳が告げている。

 マルコは朝食をかきこむ手を休めずに、ぼそぼそと喋った。


「その、石を採りに行っていたんだよ。すぐに帰るつもりだったんだけど、色々あって」

「――石?」シルビアは一瞬視線を宙にさ迷わせ「もしかして、廃坑?」と問い返す。

「え、なんで知っているの?」

「ここへくる途中で見たもの。フリッツが説明してくれたのよ」

 

 マルコの驚きに、シルビアは少しばかり得意そうに胸を張った。

 記憶力には自信があるらしい。


「廃坑ですって?」


 模様眺めに徹していたリタが、眉を吊り上げた。


「マルコ、あそこには近付いちゃ駄目って言ったでしょう! 崩れて危ないんだから!」

「呆れた。お母さんの言いつけを破ったから、黙ってたのね! 石なんかのために!」


 女性連合に攻め立てられ、マルコは成す術もなかった。

 シルビアは弾みがついてしまったのか、子供っぽいだの、無責任だのと、ぽんぽん文句を投げ付けてくる。


 長いお説教がようやく終焉を迎えようとした時、リタがたずねた。


「で、マルコ。あんた、どこか怪我とかしてないでしょうね?」

「うん、大丈夫だよ。落盤があったけど」


 席を蹴るような勢いでシルビアは立ち上がった。


「ら……落盤って……」ばん、と両手をテーブルにたたきつけ「ちょっと、なにやっているの、この馬鹿っ!」とシルビアは叫んだ。


「ええと、落盤はぼくが「やった」わけじゃないよ?」

「そういう話をしてるんじゃないのよ!」

「あ、そう言えば崩れるきっかけを作ったのはぼくだったかな……」

「やっているじゃない、やっぱり!」


 マルコとしてはシルビアとはケンカをしたくない。特に今はそうだった。

 再び火がついた彼女の怒りはなかなか収まらなかったが、マルコが言い返さないため、徐々に鎮火していった。シルビアは最後に大きなため息をついた。


「もういいわ。それだけ食べるんだから、具合も悪くなさそうだし。まったく、人の気も知らないで!」


 じろりとマルコを睨んでから、リタに笑いかける。


「お母さん、ごちそうさまでした」

「はい、お休みなさい」にっこり笑い返すリタ。

「お休みなさい? 日が昇ったばかりだよ?」


 余計な一言だったのか、シルビアはひときわ厳しくマルコを睨んだ。

 冷や汗を流して、マルコはさっと顔を背ける。


 ふん、と鼻を鳴らしてシルビアは階段を上がって行った。


 客間の扉が閉まる音を聞いて、マルコはぐにゃりと弛緩した。

 リタが手を伸ばして、マルコのコップにミルクを注いだ。

 だらしない姿勢でミルクを飲み、マルコはすねた。


「あんなに怒ることないと思うんだけどなぁ……」

「あるわよ。シルビアちゃん、一晩中あんたを待っていたんだから」

「じゃあ、寝てないの? なんで?」


 驚くマルコを、リタは黙って見返した。

 マルコは自分がとてつもない間抜けになったような気がした。シルビアの性格を知っているなら、わからない筈がないのだ。


「そんなに……心配、してくれたの?」


 そう言えば二階で会った時、シルビアは既に寝間着ではなかった。


「あんたがいないのに気付いて、探しに出ようとしてね。止めるの、大変だったのよ」


 リタは欠伸をした。

 彼女は彼女で、シルビアが夜の森へ探しに出ないよう、ずっと気を配っていたに違いなかった。


「母さん、後はぼくが片付けるから、もう寝てよ」

「おや、そう? じゃ、そうさせてもらうわ」


 大儀そうに立ち上がると、リタは首を回しながら、居間の横にある自分の部屋に向かった。

 マルコは皿を片付け始めながら、母の背中にたずねた。


「ねぇ、石ノミとヤスリ、どこにあったっけ?」

「仕事部屋。棚横の桶にまとめて入れてあるわ。ちゃんと元に戻すのよ」


 手をひらひらと振って、リタは自室に入った。

徹夜明けなのに沢山食べてます。

デブは消費カロリーの三倍食べないと、死んでしまう生物なのです。

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― 新着の感想 ―
そりゃあ負のループやなぁ。 それはそうと……うん。どうなっちゃうんだろうね。
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