表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か彼方のadolescence  作者: 靴太郎
1/2

遥か彼方のエーデルワイス

「主任! 雲影主任! 第三班から実験成功の報告が入りました」

 その瞬間、この統合指令室には歓声が響き渡った。


「みんな静かに、まだ実験が成功しただけよ。まだまだ先は長いわ」

 冷たく言い放たれた言葉は、この場を静まらせるには十分であった。

「それに、騒ぐ場所はここじゃなくてよ。各自班を切り上げさせて一七時に六階の大広間に集合。遅れた班はウォッカの一気よ。以上解散」

 先ほどとは打って変わって、張り上げられた声には温かみがあった。


「主任! 愛してるぜー!」

「雲影主任に呑まされるんなら本望さ」

「あんた最高だよ」

「二次会は俺に任せな」

 等々、様々な言葉が飛び交った。


 みんなが片付けに入っている中で、雲影主任に近づく影が一つ。

「となりいいか」

「ええ、よくってよ」

「ここの連中は本当に奇人変人の集まりだな」

「その中には私も入っているのかしら」

「むしろ君が一番なんだけどな。自覚のないことほど恐ろしいことはないよ、まったく」

「一番っていう言葉は好きよ。でもね、そう言われると考えを改めないといけないわね」

 二人の間には、緩やかな時間が流れる。


「ここまで来るのに」

 その声は少し震えていた。

「いや、違うな」

 感情が抑えきれなくなるからだろうか口をつぐんだ。

 手すりに置いた腕が小刻みに震えていた。

 震えを隠すためか、大勢を変えて背中からもたれかかった。

「これまでの僕の人生はすごく永かったように感じるよ。普通なら短いって言うところかな」

「そうね。少なくとも私は永いとは感じなかったわ。ただ、あなたは尚更そう感じずにはいられないのでしょうね」

 数えきれないほどの者を魅了してきたのであろう、妖艶な雰囲気を放つ口元に笑みを浮かべた。

「なにせ、あなたは時を超えてきたんだから。阿土大星君」


「懐かしいな、君にその呼び方をされるのは」

 少しの沈黙ののち、大星は雲影主任に向けて子供のような笑顔を見せた。

「もう、そんな年じゃないのに。君にその呼び方で呼ばれるのは、すごく嬉しいよ」

「それは、どういたしまして。ところで、あなたはあの時の選択を後悔してはいないかしら」

「後悔しているかどうかは正直わからない。けど、これだけは言えるよ。あの時の君に対しての想いは今も変わらないし、それだけが何の接点も持たないこの時代に生きる僕の唯一の道しるべだから」


「そう……」

 とだけ小さく呟いた。

 ほほから垂れた雫がエーデルワイスのブローチに吸い込まれる。

 照明に照らされた雫がブローチに接触し、飛散する際に一瞬の輝きを放った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ