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#3~エルフの少女~

ギルドの近くにある宿で一晩明かした俺は、早速稼ぐために冒険者ギルドで手ごろな依頼を探していた。

 昨日のゴブリン襲撃にあっただけにあまり危険は冒したくないが、冒険者として生きていく為にはそんなことも言っていられない。

――まずは戦闘に慣れないとな。

 内心気合を入れながら依頼が張り出されている掲示板を見ていると、やはりというべきか、ゴブリン討伐の依頼があった。

 どうやら最近になってゴブリンの数が異様に増えているらしい。

 それと比例して被害も出ているので、緊急の依頼として張られていた。

 カウンターに行き、ローリスさんに詳しい話を聞いてみることにする。

「ローリスさん、あのゴブリン討伐の依頼なんですけど」

「その依頼は今張り出されている緊急依頼ですね。ゴブリンは元々そんな脅威ではないんですけど、数が増えると少し厄介なんです。普段から討伐はされてるのに、最近異様に数が増えているんです」

 俺を襲ったゴブリンの群れもそれが原因か。

 思えば、イケ神も魔物が活性化していると言っていたし、これもその一つの異常現象だろう。

「緊急の依頼は普段の依頼より報酬が高くなりますし、ゴブリンは冒険者ランクの制限も無いのでコーヤさんでも受けれますよ」

 冒険者ランクとは、実績に合わせて冒険者の実力を評価したシステムで、AからFまである。

 更に上には類稀なる強さを持つ者の称号となり得るSランクというのもあるらしいが、冒険者見習いのFランクの俺には関係の無いことだ。

 報酬が高くなるのはありがたい。それに今の俺にはうってつけの依頼だろう。

 昨日の苦々しい記憶を払拭したい気持ちも後押しした。

「わかりました。この依頼受けてみます」

「ありがとうございます。この依頼は事態が収束次第で終了となります。討伐報酬に関しては依頼の途中でもできますのでいつでも申し付け下さい」

 ローリスさんは業務的な姿勢を崩すと、小声で俺に心配げな声を出した。

 耳に顔を寄せているので、ローリスさんの長い髪の毛が当たり、くすぐったいのとふわりと甘い香りもして少し変な気持ちになった。

「この依頼、私の勘だけど少し危険かもしれません。無茶だけはしないように気をつけて下さいね」

「あ、ありがとうございます。逃げ足には自信があるんで大丈夫です」

 自分で言っててそれはどうなんだと思ったが、用心するに越したことはない。

 準備はしっかりしてから行くことにしよう。

 ギルドから出た後、ギルドの隣に併設された冒険者用の店で傷薬や魔力回復薬をいくつか購入した。

 魔力回復薬が思いの他高くついて残金が少なくなったのが悔やまれるが、命には代えられない。

 戦闘中に魔力が枯渇して気絶なんてことになったら目も当てられないからな。

 そして、武器屋で予備のブロードソードと投擲用のナイフを5本購入した。

 これで武器が壊れたとしても安心である。

 奴隷を買うためにも無駄遣いはしたくないのもあり、準備は程なくして終わった。

 街の外に出るために昨日街に入った門まで来ると、兵士のおじさんがいた。

「よう、少年。ギルドには登録したか?」

「おかげさまで晴れて冒険者になれました。これから初仕事です」

「それはよかった。最近魔物の動きが激しいから気をつけてな」

「みたいですね。依頼もそれに関係するものですし」

「お、もしかしてゴブリン討伐か?」

「よくわかりましたね」

「他の冒険者も依頼受けてるからな。兵士の間でもちょっとした話になっていてな……なんでもゴブリンの群れの中に上位種が混じっていたとか言われてる」

 上位種だと? ハイゴブリンとかそういうものかもしれない。

 数が増えれば強い個体が出てきてもおかしくはないな。

「それは怖いですね。遭遇しないように気を付けます」

「そうだな。夜になっても帰って来なければ捜索隊出してやるよ。少年、名前な何ていうんだ?」

「ありがとうございます。コーヤ・カネミです」

「いいってことよ。冒険者は貴重だからな、これも仕事の内だ。俺はコルト・バイソン。この東門の警備隊長をやっている、宜しくな」

 警備隊長だったのか。親切な人だから、部下からも信頼されているだろうな。

 ちょうどそのとき、門から馬車が入ってきていた。

 馬車の前には商人風の男が乗っていて、後ろには人が何十人と乗っている。

 中には獣人やエルフなどもいるのだが、一様に目が虚ろで生気が無い。

「あれ……もしかして奴隷ですか?」

「ああ、そうだ。つい最近まで隣国と戦争していたからな。勝ったのは俺たちの国だから、ありゃ隣国の戦争奴隷だろうな。戦争に負ければ奴隷にされることもよくあることさ」

 コルトさんは当たり前のように言っているが、あまり気持ちいいものではないな。

 魔物という敵がありながら人間同士でも争っているのか。

 奴隷を買おうとしている俺が言えた事じゃないが、この世界は残酷なのかもしれない。

 通り過ぎる馬車に目を向けていると、その中のエルフの少女と目が合った。

 その瞬間、俺は少女の容姿に目を奪われた。

 透き通った青い目に淡いピンク色の柔らかそうな唇、きめ細やかな真っ白な肌に真っ直ぐに通った鼻筋。

 埃や泥にまみれてはいるが、そんなことは気にならないほどの美しさがそこにあった。

 何といっても少女の美しさを際立たせる要因は、艶やかで太陽に反射して光沢を作り出しているその長い黒髪だった。

 エルフのイメージとは違うが、紛う事なき絶世の美少女である。

 エルフの少女は虚ろな目でこちらを見ていたが、馬車が角を曲がる瞬間に目に光が戻った少女は、何かを呟いた。

 一瞬時が止まったかと思うと、馬車はもう見えなくなっていた。

 呆けていたのか、俺はコルトさんに声をかけられるまで固まっていたらしい。

「おい、大丈夫か?」

「あ……はい。黒髪のエルフなんているんですね」

「黒髪のエルフ? ……ならそのエルフは誰にも買われないだろうな」

「え? どうしてですか?」

 あんな滅多にいない美少女だとすぐに売れてしまうだろう。

「黒髪のエルフってのは災いを呼ぶ者として忌み嫌われてるんだよ。特に同族の間だとそれは顕著に滲み出る。殺されなかっただけマシだ」

 コルトさんは苦虫を噛み潰したような表情で言葉を吐き出した。

 そういう語り継がれている伝承みたいなのもあるんだな。

 そんなもので周りの人々に嫌悪されるとか俺なら絶対に耐え切れない。

 身内にも見捨てられたのだろうか。

 コルトさんと別れ、街の外へ歩き出した俺は、さっきのエルフの少女の事を思い出していた。

 あの子、可愛すぎて鳥肌立ったわ。もう二次元レベルの可愛さだった。

 きっと声も可憐で透き通っているんだろうな。

 耳元で大好き……とか囁かれたら、俺なんでもできる気がする。

――それにしても。

「助けて、か」

 気が付けばエルフの少女が呟いた言葉を、俺は独り言のように紡いでいた。


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