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#19~旋風のディオス~

「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」

 女性の店員に勘定をしてから、店から出た俺達は宿に戻る為に足を進めた。

「旦那様、ご馳走様でした」

「……暫くはあんなご馳走食べられる訳じゃないから勘違いはしないでくれよ」

 ティリアのお礼を受け取るついでに釘を刺しておく。

じゃないといつか一文無しになってしまう。

「――お前もだぞ、リーナ」

 勿論脛を蹴られた恨みを込めてジト目で言ってやった。

「はい……あ、あの、さっきは蹴ってしまってごめんなさい」

 すると、いつになくしおらしい様子で謝るリーナを見て、俺は心配になった。

「お前……さっきのステーキにでも当たったのか?」

「ち、違いますよ! ちょっと理不尽だったかな、と思って……というか最近変なんですよね」

 あっさり否定したので、本当に申し訳なく思っているのだろう。

「何が変なんだ?」

「何だか感情の起伏が激しいっていうか……コーヤ様に関する事限定で感情が爆発しちゃって……私らしくないと冷静になってから思うんです」

 確かに最近リーナの愛情表現が激しい気がしなくもないな。

 さっきもいつもなら「コーヤ様、やらしい顔が更にやらしくなってます」等と言って俺を言葉でなじるはずなのに、手が出ちゃってるもんな。

 あれではいつか俺の中でイケない属性が開花してしまう気がする。

 いや、俺は至ってノーマルだからそこは踏み込んだらダメだ。

 それにしても、俺限定って事は……そういう事なのだろうか。

「もしかして……ついに俺の事が――」

「それはないので心配ご無用です」

 即答された。

 分かってはいたが少し落ち込む。

「……そうか」

 そう言って肩を落とす俺に、リーナは焦った様子で言葉を続けた。

「い、いや、別に嫌いだと言ってる訳じゃないんですよ? まだそういう風のじゃなくてパートナーとして大切というか……もうっ、言わせないでくださいよ」

「リーナ……」

 頬を赤く染めて心底恥ずかしそうに言うので、俺まで恥ずかしくなる。

 お互いに見つめ合ってちょっと初々しい感じの雰囲気を辺りに振り撒きだした所で、ティリアが抱きついてきた。

「私は旦那様をお慕いしております――救世主として」

「だから救世主ってやめろって」

 なんか体が痒くなるんだよな。俺はそんな立派な人間じゃない。

 この世界に来るまでは引きこもりのニートだったんだ。

 そもそもこんな美少女達が俺とそういう感じになるなんてあるわけないか。

 いくら力を与えられたとしても、俺は俺であり、心が強くなった訳じゃない。

 二人は奴隷だから俺の傍にいてくれる訳で、そしてそれを分かっていながらも自分の奴隷として傍に置いている。

 この関係がいつまで続くかは分からないが、俺の心に少し温かみのある何かが入り込んでくるのを感じた。

 その心地良い温かさに俺は安心感を覚える。

「二人とも……これからもよろしくな」

「急にどうしたんですか? コーヤ様らしくないですよ」

 リーナが訝しげな表情でこちらを見つめる。

 なんとなく言いたくなっただけなのだが、いつもながらつれない奴だな。

 会話をしながら歩いていると、宿屋の近くの薄暗い通りに差し掛かった。

 さっきまでは飲食店の明かりが灯っていたので明るかったが、この辺りは明かりが少なく何やら不気味な雰囲気を醸し出していた。

 夜に出歩く事があまり無かったので、今日は遅くなってしまった事が悔やまれる。

 その薄暗い通りの中盤に差し掛かった所で、後ろから何かおぞましい視線に襲われた。

 ふと立ち止まって気配を探す。

 立ち止まった俺に気付き、先を歩いていた二人も立ち止まる。

「――旦那様?」

そのおぞましい視線に殺気も混じっているのを感じ、俺は反射的にアイテムボックスから短剣を取り出して視線を感じる方向に投擲した。

「――誰だっ!」

 投擲した方向に声を投げかけると、返事が返ってきた。

「――フフフ、いきなり刃物を投げつけるなんて物騒じゃないか。僕はまだ何もしてないのになあ」

 そう言いながら出てきたのは金髪の整った顔をしている若い男だった。

 男の手には俺の投げた短剣が右手の人差し指と中指の間に挟まっている。

――まさか指二本で受け止めたのか? 何て動体視力をしているんだ。

「……俺達に何の用だ」

 この男は危険だ、という警鐘が頭に鳴り響いていた。

「君達、というのは少し違うな。僕はそこの魔女に用があるのさ」

「ティリアに? なら尚の事俺に話を通してもらわないと困る。ティリアは俺の奴隷だからな」

 ティリアに用がある悪意のありそうな奴なんて決まっている。

「お前――〈高潔なる探求者(ノーブル・シーカー)〉の関係者だろ」

 俺がそう言うと、男は少し目を見開いて驚いたような表情をした。

「おや、もうバレちゃったか。まあ隠すような事でもないからいいんだけどね」

「そんな奴らに黙ってティリアを渡すと思ってるのか?」

「フフフ、勿論そんな事思っちゃいないさ。簡単に出来ていたら僕の奴隷があの時連れ去る事が出来ていただろうしね」

「それでご本人様がご登場って訳か。ご苦労な事だが、帰ってもらおうか」

 俺は剣を構えてそう言い放った。

「――それで大人しく帰るとでも思っているの、かいっ!」

 その瞬間、男が一瞬で目の前まで近づき俺の投擲した短剣を首目掛けて突き刺そうとしてきた。

俺は間一髪それを後ろに跳んでかわし、もう一度後ろに跳び距離を取る。

 俺は油断無く男の動向を見つめながら、後ろにいるリーナとティリアに指示を出した。

 リーナの刀を鞘から抜く音が聞こえた。

「――リーナ、ティリア。宿に戻ってタージェ達に事情を話して助けを求めろ」

「コーヤ様! 何を言って――」

「いいから早く! ……俺達だけじゃ相手にならない。俺が食い止めている内に早急に頼む!」

 この男、躊躇なく殺しにかかってきていた。おそらく人を殺し慣れている。

 ティリアはここに居させる訳にはいかない。

 かといってティリアだけ行かせて男の仲間に捕まる事も避けたい。

 リーナを一人ここに残すなんて論外だ。

――なら俺が残るしかないよな。

「リーナ、ティリアを守れ! ――これは主人の命令だ、従え!」

「ッ! こんな時だけ命令なんてずるいですよ……ティリア、行くよ!」

「あ……旦那様! すぐ戻りますので!」

 リーナがティリアの手を取り、タージェ達がいる宿に向けて足を動かす。

「フフ、逃がさないよ――」

「お前の相手はこの俺だ!」

 男が二人の後を追おうとする所を、俺は剣で斬りかかる。

 もう少しで刃が届きそうな所で男が逆手に持った短剣で受け止められた。

「……おっと。邪魔しないでほしいな、君……殺すよ?」

 渾身の力で押しているのにびくともしない。

――力も負けているのか!

 初めての人との命のやり取りに恐怖で震えそうになるのを抑えて俺は叫んだ。

「俺の名前はコーヤ・カネミだ! ティリアをどうこうする奴はこの俺が許さない。よく覚えとけこの美形野郎!」

 俺は剣に魔力を纏わせて、切れ味の良い剣をイメージする。

 すると俺の剣が風を纏い、拮抗していた短剣に徐々に亀裂が入れ始めた。

 異変に気付いた男は俺の剣を受け流して距離を取った。

 師匠との訓練で練習した甲斐があった。

 魔力量が少ないから常時は使えないが相手に魔法が使えると思わせる牽制になる。

「へえ。君、魔法使えるんだ。魔法の使える者は貴重だから殺すのが惜しいなあ……」

 男は折れた短剣を投げ捨てて、興味深そうに俺を見ながら言った。

「……引いたほうが身の為だぞ。時期に応援も来る」

「そうだね。あんまり大勢で来られちゃさすがに相手にしきれないからね……コーヤ君、だったかな? 君も僕の実験体になって貰おうか」

 不気味な笑みを浮かべて言う男に、俺は寒気を感じた。

「――ふざけた事ぬかすな。誰がなるかそんなもん」

「それは僕が決める事さ――力づくでねっ!」

 そう言って男は俺に向かって来る。

 対する俺も男に剣を振り上げて斬りかかった。

 だが、男が剣に手を翳すと剣が弾かれるのと同時に俺の体が渦巻いた突風で吹き飛ばされた。

「くっ……今の、風魔法か?」

「正解だよ、コーヤ君。そういえば名乗ってなかったね――僕は風魔法の使い手、ディオス・ラムエルだ。これから君を実験体とする〈高潔なる探求者〉の序列13位。〈旋風のディオス〉なんて恥ずかしい呼び名とかもあるんだけどね」

 序列、という事は強さの順位か。

 13位だと、他にもこいつより強い奴が〈高潔なる探求者(ノーブル・シーカー)〉にいるっていうのか。

 俺はもしかすると、とんでもない組織を相手にしているのかもしれない。

「だけどおかしいなあ。常人なら気絶するほどの圧力をかけたはずなんだけど」

 確かに吹き飛ばされた時、衝撃を受けたのは感じた。

 脇腹に鈍痛がするので打ち身になっているだろう。

これも肉体強化の賜物か。

 それなのにこいつ、俺より力あるってどういう事だよ。

「生憎、体だけはしっかり作られてんだよっ!」

「ますます興味深いね。余計に君の体を調べたくなった」

 俺は剣に風を纏わせて斬りかかる。

 今度は気絶するギリギリまで魔力を込めた。そう簡単に弾かれない!

「――君は馬鹿の一つ覚えみたいに同じ事をするんだね。残念だよ」

 ディオスはスッと目を細めて言うと、俺の剣に右手を翳し風圧で弾き返し、左手でさっきよりも強烈な旋風を出してきた。

「――がふっ!」

 それが腹に直撃した俺は、ただでさえ意識朦朧としている所での衝撃に思わず膝を着いた。

 そして無防備な俺の顔面に、ディオスの風圧の篭った蹴りがもろに入る。

 吹き飛ばされた俺は意識が飛びそうになるのを懸命に堪えるが、体が起き上がらない。

「もう終わりかい? 手応えが無いね」

 つまらなそうに言うディオスを見て、俺は恐怖を感じた。

――ディオスが本気を出せば、俺は簡単に殺される。

 その事に気付き、言い様の無い死の恐怖が頭の中に広がる。

 死にたくない。

 死んでたまるか。

 こっちは一回ミスで死んでるんだ。

 今度は簡単に死ぬ訳にはいかない。

「――――るか」

「ん?」

「――死んでたまるか! 俺には……守りたい奴がいるんだよ」

 そう言って俺は気力を振り絞って立ち上がる。

 奴隷と主人という関係だけど……笑顔で接してくれる、慕ってくれる、あの二人を守りたいという気持ちに偽りは無い。

 ここで俺が倒れれば、ティリアが、リーナ達までも危険に晒してしまう。

その気持ちだけで体を動かし、剣を震えながら構える。

「根性だけはあるみたいだね。だがこれ以上は止めたほうがいい。僕も貴重な実験体を無駄に傷つけたくないんだよ」

「……人を実験体呼ばわりすんじゃねえ」

 俺がふらふらになりながら呟くと、ディオスは溜め息を吐いた。

「――抵抗するんだったら仕方ないね……片腕ぐらいは我慢するんだね」

 ディオスは旋風を細くして槍のように尖った風を俺に向けて放った。

 避ける力も無く、呆然と待ち受ける俺に迫ってくる鋭利な旋風。

 だが、俺に当たる直前、目の前に炎の壁が燃え上がり旋風を掻き消した。

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