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#12~あんさんが同志か~

ウィレスさんを師匠と呼ぶようになってから三日経った。

 相変わらず俺とリーナは朝から依頼をこなし、その後は師匠に扱かれていた。


「師匠……もう立てません」


「わ、私も限界です」


 そして今、俺達二人は訓練場に突っ伏していた。

 そんな俺達を見て、師匠は呆れた顔をしている。


「お前らへばり過ぎだろ。俺はまだまだイケるぞ」


 師匠と一緒にしないで下さい。

 何せこの三日間ずっとこんな調子で体力が尽きるまで修行しているというのに、師匠が膝を着く所を一度も見た事が無いのだから。


「師匠は異常なんですよ! 俺とリーナも体力はある方だと思うんですけど」


「そうか? まあ確かに俺より体力ある奴は中々居ないな」


「居たら心から尊敬しますよ……」


 力無く横たわっていると、訓練場の入り口から声が聞こえた。


「ウィレスさん、今空いてますか?」


 そちらに目を向けると、ワミードさんがドアにもたれかかりこちらに目を向けていた。


「ワミードさん、お久しぶりです。なんかこんな格好ですみません」


 地面に突っ伏す俺の無様な格好を見て、ワミードさんは苦笑いしている。

 横に同じ態勢でいるリーナもいるから余計に不恰好に見えてしまっている。


「ウィレスさんの相手をすると皆そうなるよ。もちろん僕もね」


「ワミードさんもこうなったんですか?」


 なんというか、ワミードさんが地面に突っ伏している光景が浮かんで来ない。

 そもそも冒険者っていうよりも、貴族って肩書きのほうが似合うように思える。


「そりゃあね。今は雑務をこなすので時間がとれないけど、昔はよくウィレスさんに訓練を付き合わされたよ」


 どこか懐かしそうな顔をしているが、どうやらあまり思い出したくない過去らしい。

 うん、そっとしておこう。


「ワミードも一戦やるか?」


「いえ結構です。――それよりも少しお話が」


 今断るの物凄い速かったな。

 師匠に用が出来たみたいだから、俺達も帰るか。

 そう思いながら起き上がる。


「リーナ、大丈夫か?」


「も、もう腰ががくがくですぅ……」


 リーナに手を貸して起き上がらせ、帰る支度をする。


「――あ、コーヤ君にも来てもらいたいんだけど、駄目かな?」


 師匠と何やら話していたワミードさんが、俺を呼び止めた。

 リーナと顔を見合わせ、首を傾げた。


「それは全然構わないですけど、何かあったんですか?」


「ちょっとね。詳しい話は落ち着いた所で話すよ」


 そう言ってワミードさんは、俺達を前に入ったことのある応接間に案内した。

 応接間に入ると、ソファに座っている商人風の男の後姿が見えた。

 男の傍にはメイド服を来た獣人の女性が立っている。


「タージェさん、待たせてしまい申し訳ありません」


 ワミードさんにタージェと呼ばれた男は立ち上がってこちらを振り向いた。

 20代前半の好青年の雰囲気を持ったタージェは俺達を見て話し出した。


「どうもすまんなあ。俺はスタロン商会の会長をやっているタージェ・スタロンと申します。宜しく頼むわ。ささ、そこに突っ立ってんとこっち来て座ってや」


 この世界にも関西弁に聞こえる方言があるんだな。

 そう思いながらソファーに座り、改めてタージェの顔を見る。

 どこかで見た事あるような気がして記憶を手繰り寄せていると、思い出した。

 あの黒髪のエルフを乗せた馬車の前に座っていた奴隷商人だ。


「それでワミード、この男が話があると言っていたがどういう話なんだ?」


「実は――」


「ワミードさん、ここは俺が説明するわ。本人が出向いて来てんのに人に話させるっていうのも変な話やしな」


 師匠の問いに答えようとしたワミードさんを途中で遮ったタージェは、用件を話し出した。


「俺の取り仕切ってる商会は奴隷を扱ってるんやけど、実は隣のコダの街にどうしても外せへん商談があんねん。せやから護衛任務を依頼したいっていう訳や」


「――なるほど。だが今はゴブリン討伐隊を3日後に出す予定なんだ。とてもじゃないが護衛任務に出せるような余裕は無いぞ」


 師匠の意見は尤もだ。

 タージェもそれは理解しているらしく、言葉を続けた。


「せや、そこが問題やねん。今東の森は危険区域になっとるやろ? いつもなら私兵団に任せて問題無いんやけど、今回は私兵団だけやと心許ないねん。コダの町は南西方向やけど油断はできんからな。報酬は弾むから一人か二人頼りになる冒険者を何とか護衛に回す事できひんか?」


「そうは言ってもなあ……」


 渋る師匠が不意にこちらを見た。


「――こいつらはどうだ? まだ冒険者なりたてのFランクだが腕は確かだぞ」


「僕も二人を薦めるつもりでした」


 師匠とワミードさんが揃って話を振ってきたので慌てて言葉を返す。


「い、いや俺にはハイゴブリンを倒す役目が――」


「それは心配無い。今回は俺も討伐隊に加わるからな」


 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる師匠に、少しイラッとした。

 不味いな。このままだとハイゴブリンの事も調べられなくなりそうだ。


「すまんけど、この二人は?」


「ああ、俺はコーヤ・カネミ。こっちは俺の奴隷のリーナだ」


「あ、あの初めまして。リーナです」


 その瞬間、タージェの眼が鋭くなった。


「――奴隷やと? そこの可愛らしい嬢ちゃんが?」


「そうだけど、何か問題があるのか?」


 タージェは俺の問いを無視して、リーナに問い掛ける。


「リーナちゃん、やっけ? 主人の奴隷に対する扱いはどうや?」


 いきなり何を聞こうとしてるんだこの男は。


「あ、はい。その、コーヤ様は……とても優しくしてくれます」


 しかし聞かれたリーナも律儀に答えている。

 それを聞いたタージェは、顔を俯かせてわなわなと肩を震わせている。

 まさか、怒っているのか?

 その様子を怪訝に思っていると、突然手を両手でガシッと捕まれた。


「――同志や!」


「……は?」


 同志? と疑問を浮かべていると、タージェは更に身を乗り出して来た。


「そうや! お前も自分の奴隷を大切に思ってるんやろ? 奴隷ってええよな。ご主人様って響きはもう格別や! 奴隷は所有物やっていうのを否定はせえへんで。でも、やからと言うてぞんざいに扱ってええもんちゃうやろ! ――そう、奴隷は慈しみ、大切に、そして愛でるべき存在やと俺は思うねん! どうや、コーヤもそうは思わんか?」


 勝手に白熱して一人演説をしたタージェの問い掛けに、俺は沸々と込み上げる熱い想いに震えながら、ソファーから立ち上がりタージェの想いに答える。


「うおおおっ! 分かる、分かるぞタージェ! 奴隷は愛でるべき存在だと俺も思っていた! まさか、俺と同じ熱い想いを抱く同志がいるなんて思いも寄らなかったよ!」


 この想いはもう止まらない。


――俺は奴隷でハーレムを作る!


「まさかコーヤ様と同じような変態がいるなんて……」


 そう言って頭を抱えるリーナも、意味がわからないとぽかんとした表情をした師匠も、苦笑いを浮かべているワミードさんも、今この時だけは関係ない。


「俺もやでコーヤ! よし、奴隷が欲しい時は俺の商会に来い! 唯一の同志のよしみで安くしたるわ!」


「おお、本当か! 持つべき者は同志だな!」


「当たり前や! ――後、持つべき者は奴隷もやで!」


「上手い事言ったなタージェ!」


「そんな褒められたら調子に乗ってまうやんか」


「「わはははは!」」


 俺達は肩を組んで高笑いをし続けた。


「――そこまでです、タージェ様」


「もういい加減にしてくださいコーヤ様!」


 俺とタージェは二人揃ってそれぞれお叱りを受けた。

 いかん。思わずテンションが最高潮になってしまった。


「なんかすまんなあ、思わずテンションが上がってもうた」


「すいません。調子に乗りました」


 皆に謝り、完全に脱線していた話に戻る。


「それで、護衛の件だけど――」


「もちろん引き受けてくれるやんな? 俺ら同志やろ?」


 そんなキラキラした眼で見られたら断れないな。


「……リーナはどう思う?」


 リーナの意見を聞く。冒険者としての依頼なので、俺一人では決められない。


「私はコーヤ様が決めたならそれに着いて行きますよ。どこに行こうとコーヤ様の背中を守るだけですから」


「おお! コーヤ愛されてんなあ」


「あ、愛……ち、違います! こ、これは冒険者としてコーヤ様のパートナーだからであって……」


 顔を赤くしてしどろもどろになっているリーナを見て癒されてから、タージェに向き合い俺は思いついた事を口にしてみた。


「護衛の依頼を引き受けても良いが、一つ条件がある」


「条件? なんや言うてみい」


「タージェの商会に黒髪のエルフの奴隷が居るだろう? その子を今回の報酬にして欲しい」


「金じゃなく、奴隷が報酬か……ええわ、今回だけやで?」


「ああ、ありがとう」


 よし、これであの子を俺の奴隷にできる。


「それにしても、ホンマにあの子でええんか?」


「ああ、俺はあの髪の事は気にしていない」


「ならええわ。あんな迷信信じててもしゃあないからな」


 つくづくタージェとは気が合うらしい。


「ほな明日にはコダへ向かわなあかんから、奴隷の件は明日の朝に商会で説明するからそっちに使いの者を寄こさせるわ。宿に泊まってるんか?」


「ああ、この近くの〈笹熊亭〉で宿泊している」


 俺はタージェとのやり取りを済まし、事の成り行きを見ていた師匠とワミードさんに頭を下げる。


「勝手に話進めてしまってすみません」


「いや、もともとけしかけたのはこっちだから気にしなくて良いよ。じゃあ護衛の件はコーヤ君に任せるよ」


「わかりました」


 師匠が溜め息をついて少し疲れた顔を見せている。

 そんな顔を初めて見たので驚いた。今日の訓練はイイ線行ってたのかもしれないな。


「ほな、明日から頼むでコーヤ。邪魔したな」


 そう言ってタージェは後ろにメイドを引き連れて部屋から出て行った。

 ハイゴブリンは師匠に任せるしかないな。いや、むしろその方が良いのかもしれないけど、イケ神の言っていた事も気になる。


――歪な魔物、か。


 護衛任務が終わったらその辺りの事を調べてみよう。

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