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#0~プロローグ~

「ここ、どこなんだよ……」

 気が付くと俺は見たことも無い場所にいた。

 だだっ広い草原の上にぽつんと一人突っ立っている俺は、目覚めたばかりの回らない思考回路で今の状況に至るまでの出来事を思い返していった。

「――確か、俺事故にあったはずなんだけどな……」

 そうだ。仕事を辞めて一年間引きこもってニート生活してたのだが、このままじゃだめだと思って新しい仕事を探すために久しぶりに家を出て、駅に向かっている途中で車に突っ込まれたんだった。

せっかく心機一転頑張ろうと思ったのに、どんだけ不幸なんだよ。

 まさか一年ぶりの外出で事故に遭遇するなんて夢にも思わんかったわ。マジで。

 しかも突っ込んできた車っていうのが、大型トラックだったのよこれが。

 まあ、言わずもがな即死だよね。

 だって痛かったの一瞬で、その後何も覚えてないんだぜ。

 最後に聞こえたあのブチィッ、って音なんだったんだろうな。

 笑っちゃうよな、はは。いや笑い事じゃないんだけどね。

 そんなわけで、俺こと兼見耕也はあの交通事故で死んだのだ。

 だったらなんでここにいるのか。一体ここはどこなのか。

 結局振り出しに戻ってしまった俺の拙い思考回路はパンク寸前でした。誰か助けて。

「とにかく誰かいないか探してみないと――って、あれ? 俺誰かと話してなかったっけ……」

 そして徐々に思い出してきたありえない出来事を、俺は頭を抱えながら思い返していった。

「いってええええっ! 裂けるっ! 何が裂けるかは言えないけども裂け――て、ない?」

 車に激突された俺の身体は、さっきまで信じられない痛みに襲われていたのだが、今はその痛みが無い。

 周りを見渡すと、一寸先も真っ暗だった。

 もしかしなくても、やっぱり死んでしまったのだろうか。

 ああ、天国に逝けるといいな。

「ああ、ここ天国だから安心してね」

 不意に声が聞こえたと思うと、真っ暗な空間の中に神々しい光とともにとてつもなく整った顔の男が現れた。

 イケメンなんて死んでしまえばいいのに。

 ああ、俺が死んでしまったんだった、イケメンじゃないのに。

「あなたは、誰ですか?」

「神様だよ」

 ああ、頭のおかしい人だったのか。イケメンなのにかわいそうに。

「残念ながら本当だよ。君は兼見耕也君で、一年ぶりに外出したら交通事故に巻き込まれ死んでしまったんだ。そしてここは天国で、そんなところにいる僕は神様というわけさ」

「やっぱり死んじゃったんですね……」

 苦笑いしながらそう言った神様に、俺は溜め息をついて呟いた。

いまいち信用できないが、事故の瞬間は覚えているし、事実なんだろう。

「それで、神様が俺に何の用ですか?」

「うん。実は言いにくいんだけど、こっちの手違いで交通事故が起こっちゃってね……そのせいで君が死んじゃったんだ。本当に申し訳ない」

「は?」

 本当にすまなさそうに頭を下げる神様。フリーズしている俺。見事にシュールな光景だが、そんなことはどうでもいい。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。ということは俺本当は死ななかったの? そのミスが無ければ俺……」

 ショックが大きすぎて思わずへたり込んでしまった。

 なんだよそれ。そんなの理不尽すぎるだろ……俺の人生どうしてくれんだよ。

 呆然としている俺に、頭を下げていた神様が提案をしてきた。

「本当に申し訳ない。そこで提案があるんだ。普通死んだ者は転生して新たな命に生まれ変わるんだが、君はこっちのミスで死なせてしまったから、もし違う世界でよかったら生き返らせることができるがどうする?」

「違う世界?」

「同じ世界だと不具合が起きてしまうから無理なんだよね。違う世界っていうのは君達の世界でいうファンタジーな世界だね。魔法もあるから楽しめると思うよ」

 剣と魔法のファンタジーな世界か。

 これはチャンスなんじゃないか? 主に俺の趣味趣向に関してだが。

俺は気持ちを切り替え、神様に気になることを聞いてみた。

「でも俺、魔法なんて使えません」

「それは心配いらない。僕が特別に一属性の魔法が使えるようにしてあげるよ。後の魔法は君の努力次第で使えるように素質も与える。肉体と魔力も強化して剣を扱う技術も与えよう。」

「なるほど。所謂チートですね。わかります」

「他に何か聞きたいことはあるかい?」

「その世界の人達に言葉は通じますか? それともう少しどんな世界なのか教えてください」

「言葉は自動変換されるようにしておくから安心していいよ。ああ、そうだね。君の思っている世界と大差変わらないよ。魔法があって、魔物がいたり、冒険者ギルドがあって、獣人やエルフなんかもいる」

 最高じゃないか。俺が求めていた世界に本当にいけるなんて運がいい。

 いや、死ぬ予定じゃなかったのに死んでしまったから、不幸中の幸いってとこか。

 だが、こんなチャンス二度とないだろう。

 住み慣れた日本に帰ることはできないだろうが、死んでしまったのだから仕方ない。割り切って違う世界で新たな道を切り開くのもいいだろう。

――そしてハーレムを作って可愛い女の子たちに囲まれる生活を送ろう。

 日本では絶対に送ることのできない生活を想像していると、神様が怪訝な表情をしているのに気が付いた。

 そんなににやついてたかな?

「まあ楽しみにしてくれるのはこちらにしてもありがたい。だが、一つ問題があってね」

 問題か……ま、まさか魔王が復活したとか?

「魔王はいないよ」

 心の声読めたのかよ。

「ちなみにハーレムは容認されているけど、こればっかりは君次第だね」

 苦笑いしながら言わないでくれ。悲しくなるだろうが。特にイケメンに言われると五割増しで。

「奴隷なんかもいたりするから金さえあればできるけどね」

「え、奴隷いるの? マジで?」

 奴隷でハーレムとか王道すぎてテンション上がっちゃう。うん、絶対作ろう。

話が脱線した。

「それで、問題とは?」

「実は最近魔物が活性化してきているんだ。たまに強大な魔物が出てきたりしていて、僕としても対応に困っているんだよね。強大な魔物に対抗できる人間が少ないから、君に力を与えて送り込むのはあまり干渉できない僕としても好都合なんだ」

「なるほど。俺が魔物を倒せば神様も一安心、と」

「それはもちろん。生き方は自由だし強制はしないが、君が冒険者となって魔物から人々を守ってくれるというのならいくつかの特典と君の望む力を一つだけ授けよう。あまりにも強大な力は無理だけど」

 神様太っ腹だな。逆に言えばそれだけ切羽詰まってるってことか。

「わかりました。冒険者になります」

「ありがとう、助かるよ。どんな力が欲しいんだい? 魔法の属性は?」

 どんな力がいいだろうか。これからお世話になるであろう大事な力だ。だが、大体の力は貰えるみたいだし、戦闘能力に関しては問題ないはずだ。

――と、なればこれだな。

「治癒の力。どんな呪い、病、怪我も治せる力が欲しいです。魔法の属性は風でお願いします」

「わかった。いくつかの特典に関しては目覚めてからのお楽しみでね。じゃあ必要な時は連絡するからそのつもりでよろしく。あ、ちなみにこれから僕のお願い断ったら与えた力取り上げるから気をつけてね」

 満面の笑顔で最後の最後に爆弾落としていきやがった。

 お前最初からそのつもりでいただろこの野郎。

 見事に神の思うつぼになった俺は、悔しさと同時にこの先に待っている世界で新たに人生をやり直せる喜びを噛み締めながら、落ちていく意識を手放した。

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