小さな恋の物語(誠史郎番外編)
いじめにあい、中2まで保健室登校と不登校を繰り返していた小鳥遊竜稀。
スクールカウンセラーやわずかな友人に恵まれ無事教室へ戻れるようになった。
そんな彼女にも悩みがあった。
それは個人的数学教師クラスメイトの関口の存在だ。
終業式を10日後に控えたある日、下校は赤木達と関口と半々に分かれていった。
「また明日ね」と言いつつ含み笑いをする赤木達がちょっと意地悪に見える。
『なんだよ。もう少し道一緒じゃん』
そして今日は関口と帰る日だった。
「お前さあ、教室でもっと胸張っていろよ。何も悪いことしていないのに」
「・・・う、うん」
「それじゃあカウンセリングも意味なしだな」
「桜井先生の悪口言わないで!」
カッと関口をにらむ竜稀。
少し表情を変える関口。
「おい、ゴミが付いてるから目を閉じろ」
「な、なんで?」
「いーから閉じろ」
言われるままに目を閉じると、おでこに温かいものが触れてきた。
その温かさ関口のものだとわかるとバッと離れて、
「何すんだよ」
と声を荒げる竜稀。
「お前さあ、教室にこれるようになったんだし、次は人の気持ちってヤツ考えろよ」
竜稀を置いて関口は無言で帰っていった。
『え?なに?アタシ関口怒らせた?』
久しぶりの保健室。少し心拍数が上がっていくのを感じながら入る。
「桜井先生?」
カララ・・・と扉をあける。
「ひ、久しぶり・・・」
「相談があるんだけど、相談室空いてる?」
「君はもう卒業生。もう入れないよ。話があるなら、耳には入れてあげるから
北斗先生と保健室で話しなさい」
誠史郎が抑揚のない口調で言う。
『桜井先生・・・』
心に淋しさを感じながら、仕方なく竜稀が口を開く・・・
話を聞いて、誠史郎はコーヒー片手に笑いをこらえ、
北斗は思わずポカンとしてしまった・・・
「何だよ!言えって言ったじゃないか!んで関口が口聞いてくれなくなった・・・」
「どのくらいなの?」
少し心が後ろ向きになっているので北斗が顔を覗く。
「2日・・・」
「くっくっく」
誠史郎の笑いはもう堪えられなかった。
少し北斗も笑いをこらえ、
「それは小鳥遊さんが悪いわ。関口君の気持ちを考えてないの」
「それは関口にも言われた。でも気持ちを考えるってどういう事?よくわからない」
いままで外界を拒絶してきた竜稀は人の気持ちを考えて
行動する事がまだ上手くできないのだった。
「そうね、まずは小鳥遊さんの気持ちを・・・」
北斗の言葉をたたみかけるように誠史郎が口を開く。
「『ごめん』って謝ってまた数学を教えてもらえばいいさ。関口の家で数学教えて欲しいなってね。
行くときはスカートはいて」
「桜井先生!!」
北斗がたしなめる。
桜井先生の言うことは正しい。そう信じきってる竜稀は
「わかった。そうする!!」
そう言って早足で保健室を後にした。
「桜井先生~!!」
北斗が『何してくれるのよ』と言う顔をする。
誠史郎はニヤニヤ笑ったままだ。
「せ、関口・・・」
昼休みみんながダラダラザワザワしている中、竜稀は関口を呼ぶ。
「悪りぃ。ちょっと待ってて」
ひょいと男子の中から関口が飛び出す。
「何だよ。こんなクラスの中で廊下出ろよ」
少し感情のない口調で言われた。二人で廊下に出る。
「せ、関口。この前はゴメン。ま、また数学教えて欲しい」
顔を赤らめながら頭を下げる竜稀。
関口はくすりと笑い、頭をポンポンと叩き
「ん。わかったよ」
少し微笑んで答えた。
「せ、関口のうちで!」
ザッと関口が後ずさる。
「はっ・・はあ?」
「って、桜井先生が言えって」
「あんのエロカウンセラー・・・」
「だ、だめなのか?」
関口の様子をうかがう竜稀。
関口は頭をガリガリとかき、
「あー、今度の土曜。いつもの曲がり角に13:00」
「ん。わかった!」
人の気持ちがわかったと思う竜稀と、
人の気持ちも知らねーでと思う関口。
13:00にいつもの曲がり角で竜稀は待っていた。
現れた関口は竜稀の姿に驚いた。
「お前、スカート短くないか?」
「あぁ、いつもはレギンス合わせるんだが、今日はまだ乾いてなくて・・・」
「お前、2度とそのカッコすんな」
「に、似合わないか?わ、わかった」
『あー、ちくしょう。あのバカヤロー』
「いくぞ」
関口の部屋でカリカリと勉強が進みだした。
「あ、ゴメン。消しゴムが・・・」
コロコロと転がる消しゴムが落ち関口がテーブルの下に目をやると竜稀の太ももがあらわになっていた。
関口がふい。と、竜稀の頬をなでる。
「せ、関口?」
「お前、あのエロカウンセラーの言う事きくのやめろ」
『え?桜井先生のコト?何で?・・でもまた関口を怒らせる・・・』
「わ、わかった」
「あと学校では俺の事、聡って名前で呼べよ。俺はお前の事、竜稀って呼ぶ」
「わ、わかった」
「竜稀、本当にわかれよ?」
「わかった聡。これで聡の気持ちがわかったんだな」
コイツ全然わかってねえと苦笑いしながら、おでこにキスをする。
竜稀はこの前より嫌じゃない自分がいると思った。
「全く、余計なことを言って」
北斗がたしなめる。
「い~じゃないですか。青春ですよう」
クックックッと、誠史郎はコーヒー片手に笑いをこらえていた。