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【SS】生死の境界線

作者: 芝浦まさと

「パンちゃん、スーツはスカートなんだね。やっぱり似合う。可愛い。」

「パンツスーツは就職でウケが悪いからって買わされた。やっぱり苦手。ストッキング既に伝線してるし、」

「あらら、やばくなったらコンビニとか行こうね。」

「ごんちゃんは相変わらずだね。大学デビュー、とかで化粧しないの?」

「うーん、やっぱり苦手だからなぁ。せっかく朝早く起きて綺麗にしたって自分では見えないんだもん。それなら可愛いお洋服を着て視界にゆれるのを見た方がいいじゃない?」

「ねー。そういうもんだよね。まぁごん太眉毛でお化粧嫌いのごんちゃんが急に眉毛剃ってきてたらちょっと無理してないかって心配しちゃうかもしれなかったし。」

「私も無理してるパンツのパンちゃん見てるの嫌だな。」


学校長の定型文もお坊さんのありがたい説法を眠ってやり過ごした。

大学の入学式が被っていたから終わったら会おうねーなんて当日アポを取った午後3時。二人の家から真ん中の距離のいつものファミレスでこれまで溜まった鬱憤や見つけた楽しいことを報告し合う。新しい環境に冷めた目を向けているふりをしつつ実質わくわくしていた。

私はスカートをはくことが嫌いだったし、ごんちゃんはお化粧が嫌いだった。

別に悪いことだとは思いたくなかったからお互いをパンちゃんと、ごんちゃんと呼び合っていた。そう呼ばれることで、呼ぶことでお互いを認め合っていた。


そんな数年前の話を思い出すのはそんな彼女の訃報をつい今しがた電話で受け取ったからだ。階段から滑りおち、打ちどころが悪かったのか病院に運ばれた後に死亡したらしい。

告別式が行われているらしい。なんで今まで連絡が来なかったと少し憤りを覚えなくも無かったが、連絡網は小学校以降配られなかったし当然なのかもしれない。高校時代からの友人である私の連絡先はスマホのロックによって守られていたらしい。

喪服を出さないといけない。入学式以来クローゼットに入れっぱなしだったスーツを取り出しスカートのホックを留めた所でストッキングが無いことに気付いた。おまけにズボンで隠れていたのを良いことに脛からは不要な毛が根を張っていた。

スカート穿かないの知ってるんだし、もっと事前にラインとか送ってくれないと困る。


二人の家から真ん中の距離のファミレス、その少し手前にお寺があった。視界に入れる程度だったそこに足を踏み入れる。既に宴会のような空気になっている周囲を無視して真っすぐ進んだ。

時間も遅かったためか焼香にはご両親が静かに立っているだけだった。

花に囲まれたそこはFB厨のごんちゃん好みの空間に見えた。光の加減もいいから千枚くらいの連射で満足しそうだ。

焼香だけほうり投げてさっさと帰ろうと前に進んだのに見ろと言わんばかりに開いていた棺桶の窓をのぞかずには居られなかった。

死後血色を失った肌は陶磁のように白く、死後化粧を施されたのか唇が瑞々しく照っていた。もともと整っていた顔立ちが化粧によって際立たせられていた。最近流行りの太い眉毛も相まって女優に見えてくる。

「すごく綺麗だね、ごんちゃん、でも」

可哀想の言葉を飲み込んだ。

他人に見せるために飾り立てられた彼女はとても綺麗だった。

他人に見せるために着飾るわけじゃないと言っていた彼女はもう死んでいた。

目頭を押さえて背を向けた。流そうとしている涙が一体どんな感情なのか分からなかった、


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