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盗賊だって勇者の仲間で良いじゃないか  作者: 桐条 霧兎
第1章 憂鬱であり、不運を発揮する盗賊の少年
8/15

第6話

♢♦︎♢


 早朝、また扉のノック音により起床する。

 この音が毎朝これから起こり得るのか、などと考えながら俺はくるりと包まった毛布を蓑虫の様にして寝に入る。

 ノックの嵐が少しして止むと、諦めたのかと思って安心して寝に入るのだが、少しして荒い足跡を轟かせながら、今度は扉の鍵がガチャガチャと鳴り響く。


「ヴァイスー!もう朝だよ!」


 宿屋の主人に借りたのだろう、ムクリとぼやけた視線の中で彼女ーイリスの片手には部屋の鍵を手に握り締めて俺の元へと歩み寄る。

 それでもまだ眠気を襲う俺は、身体ごと壁方向に転換して背中をイリスに向ける。


「あっ!」


 俺の動作に少し怒り気味に声を上げて、優しく包まれている毛布を、イリスは強引に掴み剥がしにかかった。

 させてはいけない、そう感じた俺は毛布の端と端を力強く掴み丸くなる態勢でガードに入る。

 俺はまだ眠い、その意思は固い。


「もうーーーーー!いつも偉そうにしてるのに朝弱すぎでしょ!」


 耳元で叫ばれた事で眠気が軽減し、諦める事を選んだ俺は、そのまま毛布を握る力も弱めた。


「わっわっ、わわっ!」


 その拍子に、ずっと力強く引っ張っていた為に、急に抵抗が消え、思いっきり力を振り絞っていた彼女はスルリと毛布が抵抗もなく手繰り寄せる事になり、その拍子に仰向けに勢い良く倒れ込んだ。

 俺はムクリと起きながら、寝癖により所々跳ねた赤髪を掻きながら上半身だけを起こすと、間抜けな形で倒れ込んでいるイリスを見る。


「何してんの?」


「うぅー痛い……」


 ボリボリと頭を掻きながらようやく重たい身体をベッドから起き上がり、痛みに悶えるイリスを尻目に身支度を整える。

 昨日ラナから格安で貰った二本の短刀を後ろ腰に装備し、いつもの服装に着替えて今だ後頭部を抑えているイリスに向き直る。


「お待たせ」


「お待たせじゃないよ、一言謝ってよ!」


 頬を膨らませながら、目尻に涙を溜めて訴える彼女に素直に俺は謝罪した。


「寝坊してごめんよ」


「そっちかー!」


 他に何がある?と首を傾げながらポカポカと叩いてくる彼女を押し退けて部屋を出る。

 ブツブツ文句を言っているイリスに苦笑しながら、朝飯は奢るからと言ってご機嫌を簡単に取り戻した。

 軽く腹に詰めて早速村から少し離れた森に向かう、ラビットチャンピオンは体長2メートルの大きさに見た目はウサギ、だが二本足で立ち発達した前足はファイティングポーズを取って殴りかかるモンスター、素早いフットワークがあるも殺される程の脅威はあまり無い。

 だがラビットチャンピオンの攻撃をまともに喰らえば、撲殺されるだろうし骨折も心配される程の重たいパンチに注意するべき所。

 フットワークの軽さだが、左右に反復横跳びの様な感覚で移動するのがラビットチャンピオンの足の構造上の問題で、身体の向きを急に方向転換するのには向いておらず、横に回り込むか背後への奇襲が攻略の鍵となる。

 森を歩きながら、事細かく俺が知り得る知識を懇切丁寧にイリスに説明する。


「ふむふむ」


 本当にわかっているのか不安になる反応ではあるが、今回は片手剣を手にし自動スキルとして『片手剣』を習得した事により、ある程度はまともにやれるだろうと信じたい所だ。

 このクエストが終わったら#魔具__スキル__#ショップに連れてって一つくらいスキルを覚えさせるべきかと考えていると、『感知』スキルに反応がありイリスに止まる様に指示する。


「え、どうしたの?」


「剣を抜け」


 その言葉に状況を把握し、片手剣でありながら小さな両手を掴み俺と背中合わせに立つ。

 これも俺が教えた最低限のパーティ戦闘として言ったが、覚えていてくれてたのかと安心しながら辺りに警戒する。

 俺のスキル『感知』は、全身の五感神経に魔力を増長させ、些細な違和感を感じ取る事が出来る。


「囲まれているな」


 ラビットチャンピオンは群れで行動する。

 数は群れのボスの力量によって変わるのだが、大体が10匹~15匹とされる。

 俺の全身に降り注ぐ"視線"を感知しながら、数を把握する。


 ……1、2…4……6…。


「6体いるな、イリス…基本は君が戦って」


「え?」


「俺はラビットチャンピオン如きは瞬殺で君へと経験値にはならない。大丈夫、ピンチになる時は俺が守るから」


 俺のレベルを察知しているのか、ラビットチャンピオンはほとんどの視線をイリスに向けて隙を伺っている。

 野生の感、モンスターによる強者への脅威を感じているのか…さっきから俺は警戒していても威嚇となる雰囲気は見せていないのだが、俺への警戒の眼差し脅威への眼差しが消えないのだ。

俺はそれが違和感を感じてならなかった。

 本来のラビットチャンピオンなら無策に飛び掛かり襲ってくる筈なのだ、相手が熟練冒険者だろうとナワバリに入った時点で襲いかかる程に、自分達のテリトリーに入られる事が大嫌いな筈なのだ。

 だが、そんな習性を見せる事なく様子をずっと伺っているだけで一向に襲いかかる気配を見せないどころか、ふと視線が一体消えたと思えば増えたり等している。

 今では6体が確実の数字なのかわからない状態にある、何かがおかしい。

 俺はそう思いながら短刀を逆手にゆっくり引き抜き、腕を前に出しながら交互にクロスさせながら構える。


「ねえ、襲ってくる気配というか…姿が全く見えないのだけれ、どぉぉぉぉおおーーーーー!?」


 焦れったいと感じてたのかイリスがこちらに目線だけ送ったのを合図に、木々の俺達の上空から6体のラビットチャンピオンが襲いかかる。

 『感知』スキルによって察知した俺は、素早く目線を外してしまい襲われるタイミングを作ったイリスの首元を掴み、俺達が立っていた場所から離脱する。

 地面を滑る様に、方向をラビットチャンピオンに向けながらイリスから手を離す。


「痛……っ!」


 乱暴に扱われ何が起きたかわからない状態のイリスも、自分達のいた箇所にラビットチャンピオンがこちらに向き直りながら、赤い瞳をギラギラさせて睨んでいる事を視線に入れた様で理解した様子だ。


「バカ、視線を外すなんて」


 呆れた口調でイリスを叱るが、それよりも緊張を解いたタイミングで襲いかかる程の知数が彼等にある事が驚きだ。

 これまで俺は無数にラビットチャンピオンとは戦った経験があるか、今回のケースに関しては始めてである。

 俺の横で立ち上がり剣を構えるイリスを横目に、嫌な予感がひしひしと感じる。


「グシャァーーー!!」


 ラビットチャンピオンが威嚇に叫んでいるのを見ながら、スキルを発動する。


 ー『速度強化』発動。


 それの足元が軽く光るのをイリスは見て、同じ様に彼女もスキルを発動させる。

 レベルUPによって習得したスキル。


 ー『身体強化』発動!


 全身の筋肉を上げるスキル、速度も軽くだがUPするが主に攻撃力の補助なので大幅UPする力で敵を粉砕するスキルだ。

ここに来る前は使い方はある程度、本の知識のみだが教え込んだ。


「油断だけはしないでくれ」


「う、うん!」


 先程の事で多少なりとも身に染みた様で、俺は安心しながらラビットチャンピオンへと走り出す。

 それに連なってイリスも、俺の後を追って駆け出す。

 彼女のピンチになったらと言ったが、ラビットチャンピオンの様子を見るに俺も真面目に戦う事を選んだ。

 圧倒的なスピードに6体のラビットチャンピオンの先頭を眼前に捉え短刀を振るうも、まさかの行動に俺は目を見張った。

 ラビットチャンピオンは俺が突撃したのを見て、一瞬に詰め寄ると紙一重のタイミングで6体は一斉に後方へと大きくジャンプした。

奴等は俺が距離を詰め寄り、目に止まらない早い攻撃を見事見破り防いだのだ。

 空を切った短刀にニヤニヤと笑うラビットチャンピオン。


「こいつら……異常体デミリーターか?」


 モンスターの中ではごく稀に独自進化を遂げたものがおり、それを異常体デミリーターと呼んでいる。

 危険値も不明であり、大幅に難易度が桁違いに高くなる。

 それが何で異常を示しているのかは、相対した者でしかわからない。

このラビットチャンピオンの不可思議なコンビネーションと、類稀なる集団行動は充分に値するのだが、それだけではない事を俺は感じてならなかった。

 ラビットチャンピオンは、本来冒険者見習いだけのパーティでも倒せる事の出来る比較的雑魚に分類するモンスターと言われているが、盗賊ジョブレベル21となれば楽に倒せる力量のモンスターであり、先程の攻撃ならば、いつもの感覚で一体は倒れ伏せ動揺を誘い、残りを駆逐できる筈だった。

 なのに今は一体も倒せず動揺されず、息のあったコンビネーションにより躱され、モンスターにはありえない後方へ飛んで"冒険者から一旦距離"を取る事で、逆に動揺されてしまった。


「イリス、気を付けて」


 躱された事に深追いせずに構えたままの俺に習って、横で立ち止まるイリスに忠告する。


「ラビットチャンピオンは俺なら楽勝な筈なんだ、けど……こいつらは下手したら俺でも苦戦を強いられる可能性がある」


 俺のギルドランクはB、最低Fから上がっていくシステムであり、本来ならばジョブレベル21の段階ではまだEかDの位置にいるのが基本的な流れ、Bたる理由は固有スキルと低レベルであるも、ソロでタイラントタートル等高ランクのクエストを成功出来る事で、特例としてギルドに認められたのだ。

 そんな俺でも今だ異常体デミリーターとは出会った事がない。

 もしこのラビットチャンピオンが異常体デミリーターで間違い無いのなら、ジョブレベルは推定40超え以上だと推察する。

 それほどまでに、異常体デミリーターは危険視する存在なのだ。

 仮にタイラントタートルが異常体デミリーターだったならば、俺は瞬殺される程で、モンスターによって危険値は違う。

今は逆に始めて出会うのが、ラビットチャンピオンである事は幸運だと、ポジティブに思った方が良いだろう。

 タイラントタートルならば、推定レベル150オーバーだと思う。

 ただその危惧する異常体デミリーターであればだが、目の前にいるラビットチャンピオンにそれを示せる程の特徴はない…気がする。

 まず、今だ群れのボスのラビットチャンピオンが居ないのだ、ラビットチャンピオンは群れで行動しその頂点に立つ"キングオブラビットチャンピオン"が先頭に立って戦う筈なのだが、目の前にいる奴等にはそれを思う姿が見えない。


「とりあえず、もう一度」


 先程とは違い正面からの攻撃と、見せかけたサイドからの攻撃に対し、更に地面を蹴りだしてラビットチャンピオンの群れの横に位置する木を蹴り、更に木を蹴って行き、どこから攻撃するかを相手に悟られる事なく一瞬にして、一番後ろにいるラビットチャンピオンの背中に短刀を持ち替えて振り落とす。


「はああーーー!!!」


 イリスも俺の行動を考えたのか、それともただの威勢なのか正面からラビットチャンピオンに向かって剣を向けて駆け出す。

 後ろに並んで居たラビットチャンピオンが、イリスに視線を送っている事を願いあと僅かで刃が届く瞬間。


「グオッ!」


 ーと、どこからか声が鳴ると、俺の攻撃対象が大きく空へとジャンプして俺の短刀はまた空を斬り裂いた。


「ーもう一体、どこに!」


 だが、それよりも声を掛け合ってのこのコンビネーション……そして統率の取れ過ぎている異常さは正に異常体デミリーターとして間違い無い事を示した。

 俺の攻撃が背後からを知って、近くのラビットチャンピオンが腰を捻りながらストレートパンチを打ち込む。


「くっ!?」


「グワァー!」


 短刀を重ね攻撃を防ぐも、背後から更にひと鳴きによって回り込んだラビットチャンピオンが猛攻を仕掛けてくる。

ギリギリの所を身体を仰け反らせ躱す。


 ーしまった、囲まれた!


 イリスの方に視線を向ける隙も無く、四方八方から俺は囲まれ避ける箇所に回り込まれては攻撃を、背後から横からと巧みに仕掛けられ避けるのに手一杯となる。


「くそっ!」


 眼前に白い毛に覆われた拳が迫り、ギリギリの所を短刀で受ける。

 この俺でも危うい状況に、イリスの心配が増していく。

 チラッと何度か見る事が出来たが、5匹が俺に…1匹がイリスを相手にしている。

 相手の観察、そして俺への相手にする人数の多さにはあっぱれな采配だと感心してしまう。

だが、所詮はラビットチャンピオンだ。


 ー『速度強化』限界オーバーリミット発動。

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