第5話
【子豚の弾丸】を出て定期馬車乗り場へと向かう。
リリット村に着く頃には少し日付が傾く時間だろうと考えながら、念の為に一泊する可能性がある事を伝える。
「コニャットよりも遠いの?」
「そうだね、コニャットは行き帰りで半日と考えると……リリット村は朝早く向かってすぐ帰ったら夕刻って感じだよ」
「じゃあ今から向かうと夜になる可能性があるんだね」
「うん、タイラントタートルみたいに一体だけの討伐なら翌朝でも良いんだけど……ラビットチャンピオンは群れで行動しているから、今から向かって朝から討伐に動いた方が効率が良いんだ」
ほーと感心する彼女にガックリと項垂れる。
一応ラビットチャンピオンは冒険者見習い向けでもある筈で、冒険者学校でも何度か習う筈なのだが記憶に無いようだ。
リリット村行きの馬車に乗りながら幸先不安になるも、仕方ないと自分に言い聞かせながら座り込む。
「ちなみにさ、ラビットチャンピオンについてはどこまで知ってる?」
「…………」
アホな顔をして固まるイリスに、流石レベル5に一気に上がった筈なのに2しか知力が上がらない事を痛感した。
どうやらこの反応は無知な様だ、全くもって何も発しない彼女をほっとく事を選び馬車に簡易的に切り抜かれた窓の様な隙間から外を眺める事にした。
多分今ご説明を丁寧に言っても忘れそうな子なので、討伐前に説明した方が効率が良いと判断する。
商業エリアからの乗り込みなので活気に沸いており、おバカな子が初めて見ればお祭りだと思いたくなる様な風景だろう。
イリスも何も言わない俺に追求する事なく、外の風景にいつの間にか目線を送り大興奮している。
「ねえねえ、今日お祭りなの?」
本当におバカな子が目の前に居たのを忘れてました。
そんな幼稚な感想に、わからなくもないのだが…そのまま口にしなくても良くないかと思いながら苦笑いで肯定する態度だけ取る。
「だよね!だよね!」と興奮気味に更にテンションを向上させながら外を眺める。
本当にたった1つの歳の差なんだろうかと思う程、イリスは子供っぽいなと思った。
身長も確かに小さく、俺の身長が165近くでそこまで無いが…いや、成長期途中なのでまだまだ伸びる筈、そんな俺の身長とは20センチも下らしい。
イリスから聞いた際身長は140程らしく、一緒に居れば兄妹の様にも映るかも知れない。
だが、そんなお祭りに見える商業エリアを抜けてまた広い平原を突き進む。
「さて、ラナから買ったその片手剣持てそう?」
両手剣の時はさほど大きくなかったのだが、重たい理由で背中に背負っていたが、今回は腰元に装備できてる様で確認の為に聞いてみた。
「うんー、レベルが上がって力が増えたからなのかな。少しまだ重いけど全然振れるよ!でも……」
でもと口ごもり財布を取り出して中身を見る。
綺麗に空っぽだ、たった1日で何を使ったのか知らないがラナの元で買った片手剣は10万もしなかった筈なのだが……イリスは一晩で40万で豪遊した様だ。
おかげで馬車代と宿泊代等貸しではあるが、俺持ちになる始末だ……。
今度強制的に勉強会を開いて知力を上げるしか無い、俺は本を読む事が趣味なのが影響しているおかげでステータスも知力はずば抜けている。
多少こういった地味な事でもステータスに影響するのは助かる事だし、ごく自然的な摂理でもある。
可哀想な子を眺めながら、どう勉強を教えよう物か思考していると気付いた時にはリリット村に着いた。
コニャット村に比べれば大きな村で、農産地として俺達の住むクロムに野菜を運搬している。
クロムの野菜は8割がリリット産でもある、野菜農家の村のせいかこの時期には野菜を狙ったモンスター特に草食キングの異名を取るラビットチャンピオンの群れが野畑を荒らすのだ。
村に着いた俺達はギルドに報告して、明日からの討伐を伝えながら宿を取る。
特にこれと言って観光名所なわけでも娯楽がある訳でも無いので、宿で休む事がベストなんだがイリスはインドア派ではなく生粋のアウトドア派なのか、せめて宿でご飯は勘弁しろと駄々をこねた。
……一文無しの残念なお嬢さんなのにだ。
仕方のない形で夕飯付なのに、宿屋の店主に断りをいれて近くの酒場へと向かう事にした。
「良いな、ちゃんと返せよ?」
「わかってるって、お金に煩いとモテないよ?」
「金の切れ目が縁の切れ目って言葉をイリスに教えとく」
「なにそれ?」
この言葉に俺は負けを認める他言い返す言葉が浮かばなかったので酒場まで黙って向かう事にした。
何度目かの本当に残念な子だと痛感した。
彼女の為にもお勉強会は必須だと思いながら酒場を見つけ中に入り、夕飯を済ませて宿に戻った。
その帰り道に気になる事を話をしたが、割愛しまたの機会にでも思い出そうと思う。
部屋に戻って装備と服を脱ぎ、本を取り出して読む事にした。
内容は魔王に攫われた暇を助けに行く勇者の物語、ありふれた話で似た様な物語が無数にあるのだがパーティメンバーが個性的だと本屋の主人がオススメしていたので買ってみた。
読みふけって見ると、確かにこの物語は勇者込みで個性的である。
下心あるエルフの勇者に、ドワーフの遊び人、音痴な人間の吟遊詩人、煩悩と欲望にまみれたコビットの僧侶と獣アレルギーの武闘家獣人族がハプニングを起こしながらお姫様を助けるのだが、最終的に魔王は倒し姫と素敵な出会いをするのが……衝撃的なブス姫と言うオチ、ギャグ冒険譚の話についつい所々笑えてしまうのだが、やっぱりかとため息を吐いて落ち込む。
この個性的冒険話でも、勇者の仲間に盗賊の文字はない……ましてや旅先で出会う極悪な盗賊を描かれ酷い結末を迎えている。
夢が叶えられないのだから物語が描かれ本となる、妄想を文章化として物語を紡ぎ読者にファンタジーの憧れを投影させてくれるのに、俺は夢は一冊も叶えてくれなかった。
「ある訳ないんだよな……」
背凭れに大きく背中を預け、不思議な世界の摂理と理を考える。
何故神は、我ら人々を数多な種族を作るだけではなく…職業をも限定させたのだろうか、望まぬ未来を強制的に作ったのか。
そもそも神の意志なのか、この世界のシステムに対しては何一つ謎のままに疑問を抱いて仕方がなかった。
そして、誰もがそれに疑問を抱かないこの世界に気持ち悪さも覚える。
何故なんだ、そう考えてもあれからいくらか資料を探しても答えらしい答えはない。
俺は椅子から立ち上がり、考えるのをやめて風呂へと向かい浸かる事にした。
明日は出来るだけ早く起き、ラビットチャンピオンを討伐しようと思っているからだ。
ゆっくりと浸かりたい所だが、早起きばかりはイリスよりも自分が心配するのでさっさと済ませて風呂を出る事にした。
「ふわぁー……」
大きな欠伸をしながら廊下を歩いていると、丁度階段を登り終えて俺の正面から黒のローブを見に纏い深くフードを顔まで覆っている人がやって来た。
邪魔にならずに壁際に寄り、フードの者を見送る。
……ん、身長が俺よりも小さいか、同じくらいか。
そんな事を通り過ぎる辺り観察しながら見送った、別に人の顔が見えなくても悪とは限らない…本の読み過ぎて英雄への憧れの厨二病チックな考えに恥ずかしくなりながら、自分も部屋に戻ろうと思い足を動かすがもう一度チラっとフードの者を見る。
黒フードの者は部屋の前まで来たのか立ち止まり、そして俺の方へ視線を送っていた。
「え、あの……入っちゃった」
何かあったのか、いや見てたの気のせいだろうか。
だが、間違いなく俺を見ていた気がしたのだが、俺と視線が合った?事によりそそくさと部屋の中へと入って行ってしまった。
なんだったのだろう?と思いながら部屋に戻り明日に備えてもう寝る事にした。
♢♦︎♢
あたしは部屋に設置されたベッドの上で体育座りをしながら、部屋に備え付けられたロウソクを眺めていた。
あたしの白銀の髪色が若干オレンジに照らされながら、偶然、いや必然的にティファさんによって助けて貰った彼ーヴァイス・リンスリードについて考えていた。
生涯をかけても覚える事が出来ない事もある珍しい固有スキル保持者、彼の言った『#完璧なる盗み(パーフェクトセフト)』を発動した時の事を思い出す。
彼は空中に高く飛び、持ち前のスキル『千里眼』を合わせあたしの両手剣に目線をやって見事に手元にスキル名の様に完璧な盗みを行なった。
ちょうどあたしはその時横の茂みに隠れ、折れた彼の剣に対して慌てていた時だった。
「神の気まぐれの産物……ギフト…」
固有スキルはジョブレベル60オーバーによって熟練者が稀に習得する事が出来ると言われている。
決してジョブレベル60により100%覚えるわけでもない、中には100を超えて覚えた人もいる。
手に持っている魔導端末を起動させ、自身のステータスを眺める。
前回のタイラントタートルとの戦闘によって得られた経験値でレベルが5に上がったのを見ながら、先生が言っていた初期スキルについて思い出す。
"・イリス・エスフェラーテ 勇者Lv5 RankE
・ステータス
力 ・16 器用・14
丈夫・34 敏捷・36
知力・9 精神・21
運 ・23 魔力・27
・スキル ・自動スキル
『身体強化』 『片手剣』
自動スキルは魔具ショップで買い習得する事があるとヴァイスは言っていた。
ごく稀にレベルUPにより習得する事があると言われたが、何が習得出来るかはわからないとの事で買う方が効率が良いと言われた。
【子豚の弾丸】を後にした後に彼に買って貰って習得した『片手剣』を見る。
そこで『両手剣』が良かったのだが、彼は頑なに向いてないと一蹴され駄々を捏ねていたら奢りという事で飛び付いてしまったのだが、あたしは#職業を見ると思わず俯いてしまった。
"勇者"低レベルでもステータスは驚く程の高さを誇り世界の宝とされると言われているが、どうも自分のステータスは低過ぎる。
それにあたしは勇者には興味がない、と言うよりも今の時代勇者の価値は無いに等しい。
魔王亡き現代において、勇者なんて存在価値など無いのだから……。
なんでヴァイスに打ち明けられなかったのか考えて見ながらベッドに体育座りのまま横にコテンと倒れる。
彼はどこか怖かった、何かを恨んでるいや呪ってる程に……祖父が言っていた言葉を思い出す。
「イリス、勇者は決して真の仲間になる者以外は名乗っちゃいけないよ」
祖父と父……いや、代々エスフェラーテ家は勇者の家系で魔王を討伐したのもあたしのご先祖様との事、史実や伝記様々な物語にも知れ渡っている家名に勇者として知られた後の扱いはわかりきっている。
まるで宝石の様に、触れた瞬間爆発する危険物の様に、あたしを見てくれない"勇者"を見る瞳が嫌いだ。
真の仲間とは何か、あたしをあたしとして見てくれると言うのは一体どんな視線なのか、ティファさんが言っていた。
職業を言ってもぞんざいに扱ってくれそうな冒険者がいると、パーティを組んでみると良いと、それがヴァイス・リンスリードだったのだけれど、結局彼には名乗れなかった。
瞳の奥に眠る何かが引っかかり、そして優しくあたしを見てくれる雰囲気をあたしは無くしたくなかったんだ。
「寝よう……」
慣れない事ばかり真剣に悩んでしまって疲れたと、そう思いながら彼女イリスは目を閉じた。