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盗賊だって勇者の仲間で良いじゃないか  作者: 桐条 霧兎
第1章 憂鬱であり、不運を発揮する盗賊の少年
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第4話

 ーそして、プロローグと繋がる。


「ヴァイス君、おはよう。イリスさん、おはようございます」


 ギルドに入るとすぐ様俺達に気付いたティファさんが箒を片手に挨拶をしてくれた。

 それだけで今日、一週間の元気が貰えると思いながら昨日の事を思い出した。

 あれから本屋へと行ったのだが引きこもれる程の本を購入出来ず、ましてや50万の山分けにしてホクホクの筈のイリスは今日もクエストに行くと約束を結んで来た。

 約束は朝なのだが、現在昼過ぎてあり彼女の怒っている理由でもある。

 ここまで来るのに大した距離でもないのだが、イリスはおしゃべり好きの今時の女の子である為かマシンガントーク(主に遅刻の愚痴)がギルドに入った今でも続いている。

 今日も元気な笑顔で仕事をしているティファさんが、優しくイリスの話(愚痴)を聞く。

 話を聞き終えるのを待つ間、クエストボードに立つ。

 どうやら今日もクエストはあまり増えていない様子で、イリスに丁度良いクエストが見当たらなかった。


「参ったな……」


 たかが1つ下なのだが、冒険者として一年無事に生きてる事は充分な腕前である証なのである。

 その為には見習い冒険者を守り育てるのも、俺達一年目以降の冒険者(パーティ仲間)の務めなのだ。


「おっ、これなら」


 一枚の紙をボードから引き抜きながらイリスの方に様子を伺う。


「ーでね!」


 まだお話に夢中な様子と、いつの間にか俺の愚痴から別の会話にチェンジしているではないか、俺は思わずがくりとバランスを崩しながら溜息を思わず吐いて呆れてしまった。

 どうして女の子は、こうもお話が長く脈絡もないまま次々と新しい会話を矢継ぎ早しに続くのだろうか。

 ゆっくりとボードから離れ、会話に夢中のイリスの頭を軽く小突く事にした。


「あ痛っ!」


「いつまで話してるんだ、クエストも決めたし。そろそろ行くよイリス?」


 頭をさすりながら涙目でこちらを振り向くイリスに、先程ボードから取って来たクエストを眼前に突き付ける。

 何か言おうと口を開きかけたイリスは急に見せられた紙を受け取らず、口に出しながら読み上げる。


「…リリット村にて繁殖しているラビットチャンピオンを討伐、一体に付き5000G」


 ギルドランクは推奨最低のFから、ジョブレベルも1~となっている。

 報酬は少ないが、一番見習いにとっては丁度良いクエストだとおもうのだが、イリスは小さくむぅーと唸りながらこちらに視線を移す。


「タイラントタートル討伐出来たならもっと上の……」


 何を言ってるのだろうこの子は、タイラントタートルを討伐したのは俺でありイリスはただ俺の剣をへし折るのと足を引っ張っていただけではないか。

 信じられないとばかりに、自分は出来ると信じて疑わないやる気に満ち溢れた彼女と暫し視線をぶつける。


「イリス……」


「うんっ!」


「却下だ。寝言は俺だけの特権だし、タイラントタートルは俺が討伐した訳でイリスじゃない」


「でも私達パーティ、だよね!」


 …だよね!じゃない。それってつまり俺がまた苦労して討伐して私はおこぼれに預ろうと言う腹なのだろうか。

 この子のステータスが無性に気になって仕方ない、知力は本当にその者の知数になる。

 限りなく低いだろうと想像しながらこめかみにシワが寄せられる。


「パーティだろうと、イリスは何も出来ない事には変わりません」


 期待してこちらを見続けるイリスを、俺はバッサリと斬り捨てる。

 簡単に予想出来そうな答えの筈が、全く予期しなかった様に驚愕の表情で固まるイリス。

 なんだろう、既に2日目でパーティ解散申請を出したい気持ちに駆られながら頭を抱えていると、ティファさんがパチンと間に入る様に口を開く。


「そういえば、ヴァイス君の短剣折れちゃったのよね?どうするの?」


 タイラントタートルで乱暴な扱いでへし折られたのが一本、刃こぼれにより修復不可能な状態が一本。

 現在俺の腰には二本の剣は残念な状態で、話を聞いていたティファさんが問いかける。


「あーうん、クエスト決めたら買いに行こうかと思って、ちなみにイリスのも」


「ええ!あたしのも?」


「両手剣なんて重くて触れないだろ?背中に背負ってても時折肩が痛くてベルトを直したりしてるの気付いてないとおもってるのか?」


 昨日の帰りも引きずりながら運び、鞘にしまう際も背負っていた鞘をベルトから外してから収めていた。

 そんな非効率な、自分の身の丈に合わない武器等満足に戦える筈もない。


「だって……ーは、両手剣の方が」


「なんだって?」


「なんでもない!両手剣が良い!」


「何言ってるんだ、我儘で武器を決められるのなら冒険者にレベルもステータスも関係ないんだよ」


「そうだねー、慣れない武器を無理して使うのは危険だと私も思いますよ」


 俺の言葉にティファさんも賛同して説得にまわってもらった。

 俺の言葉だけだと膨れっ面でそっぽを向いて聞く耳を持たなかったイリスであったが、ティファの言葉には素直に耳を傾け俯きながらも納得した。

 ……本当にパーティ解散を視野に入れるべきじゃないかと真剣に考えた。


「ティファさん、これ」


「うん、ラビットチャンピオンの討伐ね」


 先程の紙を受け取り手続きの為にカウンターに向かったティファさんを見送りながら、溜息を吐いて不貞腐れているイリスを見る。

 本当に彼女は冒険者学校を卒業出来たのだろうかと疑いの目を向ける。


「魔導端末貸してくれ」


「………なんで」


 ご機嫌斜めな彼女がそっぽを向きながら冷たく言う。

 怒りに身を任せて引っ叩いてやりたいが、歳上であり冒険者の先輩としては我慢して丁寧に説明する事が義務だと思い込みながら、怒りで握った拳をゆっくりと息を吐きながら抑える。


「……ステータスを見なきゃイリスにピッタリな武器を見繕えないだろ?」


 それを聞いて「ちょっと待って」と一言言って魔導端末を弄りだす。

 何をしてるのだろうかと覗き込もうとするが、彼女はそれを睨んで静止させる。


「はい、これ」


 液晶に映し出されたステータスを眺めると、名前欄ジョブレベルギルドランクが見えず、ステータスのみが映し出された画面をこちらに向けている。


 "・ステータス

 力 ・12→16   器用・9→14

 丈夫・24→34   敏捷・22→36

 知力・7→9    精神・19→21

 運 ・17→23   魔力・20→27


 ・スキル       ・自動スキル

 『身体強化』(LvUP)  無し   "


 ーと、表示されている。

 なんと言う事だ、イリスが昨日嬉しそうにレベル1から5に上がったと騒いでいたのだが、このステータスの成長が二箇所悲惨過ぎている。

 まさか知力がたったの"2"しか増えず、精神も"2"しか増えていないのだ。

 他のステータスは目覚しい成長を遂げているのに対して、明らかに酷く目立つ二箇所を見ながらイリスを交互に見て納得しかけてしまう自分がいる。


「…ああ、うん。ありがと……」


 なんと他に声をかけて良いかわからずに目元を手で覆いながら端末をお返しした。

 だが、ステータスを見る限りやっぱり両手剣よりは俺の考える通り片手剣、しかもかなりの軽量型がオススメだと確認した。

 後はタイラントタートルから逃げ続けた事で敏捷力が一番の成長を遂げている事で素早い剣技をする剣士のジョブじゃないかと考えていると、手続きが終わったティファさんが戻ってくる。


「ヴァイス君、遅くなってごめんね。手続きは完了です。ご武運を」


 いつも通りに笑顔で手を振って見送ってくれるティファさんを後ろに、俺が泣いた理由を一生懸命考えるイリスを引きずりながらギルドを出た。

 武器屋はギルドのある区画から2つ離れた商業区画にある。

 少し遠いが、俺も武器はないのだから仕方ないと思いイリスを連れて行く。


「ねえ、何処に行くの?」


 本当に残念な知力が立証された、タイラントタートルの時も思ったが彼女は記憶力が非常に乏しい、実に残念な程にだ。

 また思わず涙が出そうになるが、なんとか目元を抑えてながら定期馬車乗り場に着いて商業区画に向かう馬車に乗り込む。


「言ったでしょうイリスさん?武器屋に行くんですよ?」


 伝わり易くとても優しい優しい口調で彼女の目線に立って説明してあげる。

 そんな俺に怪訝な顔で俺の表情を引き気味に見ながら頷く。

 なんでだろうか、彼女が引いた事で俺がまるで残念な子扱いされてる気がしてならない。

 馬車が目的の区画に到着すると、そのロータリーから降りる。

 商業区画は商業ジョブ系統の様々なお店が広がる、俺は目移りするイリスを引っ張りながら一軒の武具屋へと入る。

 防具も一緒に売っているお店で、俺のお気に入り鍛治師が切り盛りしている。

 【子豚の弾丸】と変わった名前の武器屋だが、実力は折り紙付きである。

 扉を開けるとカウンターに暇そうにしているうさ耳をした女性が俺に気付く。


「いらっしゃ、あーー!ひっさしぶりじゃんヴァイス氏ー!」


 彼女の名はラスティーナ・ヴェリーチェ、獣人族ビースト人間ヒューマンのハーフであり、一見俺と変わらない人間である様に見えてうさ耳がピンと伸びているのが獣人族のハーフの特徴と言えよう。

 ラスティーナ、親しい者にはラナと呼ばれている彼女は嬉しそうに駆け寄り手を握るとぶんぶんっと上下に揺らす。


「久しぶりラナ。この子はイリス、それでイリス、この人はここの鍛治師をしているラスティーナ」


「珍しいねー、ヴァイス氏が人と一緒に居るなんて、よろしくねイリス氏。僕の事はラナって呼んで?ヴァイス氏の知り合いなら僕の大事な友人だよ」


「よ、よろしくお願いしますラナさん」


 軽い自己紹介を終え、なんとか握られた手を離してもらえた。

 流石の鍛治師で握られる手が痛い……そう思いながら、フーと赤く晴れた手を冷ましながら、はしゃぐ彼女に申し訳無さそうに二本の短剣を手渡す。

 ラナはそれを受け取って引き抜くと、折れた方の短剣を見て黙って眺める。

 それを見てイリスが恐る恐る折れた事情を話し、ラナは黙って聞いた後にまた黙り込み、少ししてふぅーと息を吐きながら口を開いた。


「……あー折れちゃったか、タイラントタートルの尾を一刀両断出来ると自信持ってたんだけどな」


 頭を掻きながらどこか悔しそうな気持ちを隠す様に笑う。


「まあ、試作品だったしね」


「試作…品?」


 イリスが首を傾げたので、俺が口を開いた。


「それはラナの初めて作った剣なんだよ。俺はまあ、テストみたいなもんさ」


「そうそう、だから気にしないでおくれよイリス氏!」


 テストと言ってもやっぱり悔しそうにしながら、もう一本の剣も引き抜き状態を確認する。


「うん、直すよりも新しくした方が良いね!丁度良かったよヴァイス氏、2つ目の新作を作って見たんだ。これよりも強度と切れ味は上だと思っていいよ」


 そう言って奥から二本の今度は短刀を渡した、刀身は片刃長さおよそ30センチと前回の短剣に比べ短めに作られており、軽さは変わらず刀身の幅に厚みと透き通ったほどの美しい刃だった。

 俺は何度か短刀を振りながら馴染み具合を確認し頷く、確かに見事だ俺の手にピッタリ馴染む。


「うん、良いよ。これにするよラナ」


「へへ、良かった!」


「それと…」


 イリスを前に出させる。


「この子に軽い片手剣をお願いしたいんだけど」


「軽い?どれくらいだい?」


「今一番軽い剣」


 事情を説明すると、イリスの身体をあちこち触りながら観察する。

 くすぐったいのか、イリスは笑い声を洩らしながら身をよじる。


「とりあえず……今あるのはこれだけど、まだ重いかもしれないね。僕の短剣一本でよろめいたって事は、もっと軽くしなきゃいけない。とりあえずはこれで少しの間我慢してよ、君に合った片手剣を作っとくからさ!」


「良いの?この子正直言ってこれ買ったらカツカツだと思うよ」


「え?買ってくれるんじゃないの!?」


 ほんと、惚けた事ばかり言うの好きだなと思いながら呆れ顔で「そんな訳ない」と口にする。


「うん、僕で良ければ作らせてよ。試作品として安く譲るからさ」


 安いと言う言葉に反応したのか、ラナの手を握り嬉しそうに了承した。


「じゃあ、気を付けてねー」


 久しぶりの再会なので、少し談笑を交えて会計を済ませ【子豚の弾丸】を後にした。

 やっぱり女同士だと意気投合、仲良しになるのは早くお店を出る頃には堅苦しく話をしていたイリスも砕けたお外用の口調では無くなっていた。

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