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盗賊だって勇者の仲間で良いじゃないか  作者: 桐条 霧兎
第1章 憂鬱であり、不運を発揮する盗賊の少年
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第1話

 それはほんの一ヶ月前の事、何もない本のみしかない俺の部屋で買い貯めていた本の最後の一冊を読み終えた。

 ここの家賃もそろそろ払わなければいけない中、いくらあるのかお金を数えてみた。


 ……………………しまった、昨日の夕飯で使い切ったんだった。

 それも綺麗に……。

 ーしょうがない、自堕落な生活は今回二ヶ月で終わりだ。


 俺は重い腰を上げながらカーテンを開けて眩しい太陽の光を浴びた。

 太陽の位置からしてお昼時だな、なんて事を思いながらもいつもの服装に着替え始め、武器となる短剣二本を腰の後ろにクロスさせながら部屋を出る。

 冒険者の仕事を仲介してくれるギルドに向かいながら、次は何を読もうかと考えていると1人の女の子とぶつかってしまった。


「ーと、ごめん」


「ごめんなさい、今急いでいるので!」


 ギルドから出た子だろう、綺麗な髪で光が当たると空の様な色をしている。

 女の子は急いでいたのか、俺の謝罪を最後まで聞かず、ましてや怒るそぶりも見せずに慌てた表情で手を合わせながら謝って行ってしまった。

 仕事に使う定期馬車の時刻でも迫っていたんだろう、そう深く思わずにギルドの中に入った。


「久しぶり、ヴァイス君」


 顔馴染みの受付嬢に声をかけらた。

 彼女はしっかりとした雰囲気で、むさ苦しいギルドの空気の中で唯一の花といえよう。

 ここ、クロムに来たばかりの頃何かとお世話になったお姉さんでもある。

 フリルのついたメイド服に似たデザインの制服を着て、ギルド連中の目を釘付けにする胸と屈託のない笑顔を武器にここの看板娘をやっている。

 一応何人も女性従業員はいるのだが、どれも勿論レベルが高いのだが、彼女【ティファ】さんには敵わない。

 ファンクラブまである彼女の人気の理由は、このギルドに来た事ある人間の顔と名前を覚えており、誰とでも親しくなるからと、そのはち切れそうな溢れそうな大きな谷間のせいでもある。


「ティファさん、久しぶり」


 クールに決めて挨拶しているが、俺も隠れファンの1人でもある。

 ティファさんだけは俺が根暗で人付き合いが悪くても、唯一俺と笑顔で会話してくれる有難いお姉さんで自分自身唯一心許せる人でもある。

 別に胸に釘付けというわけでは決してない、俺はどちらかと言えばもう少し小ぶりなサイズの方が好きだ。

 ……正直なところ、このサイズでも良い。


 そんな下衆な考えをしているのを彼女は知らずに、可愛い笑顔を向けられ思わず仕事の意欲を高められる。


「貯金の底が尽いたから、クエストを受けに来たんですよ」


「ふふ、また本を読んでたんだね。好きだよね、たまには外にクエスト以外で出た方がいいよ?」


「はは、善処します」


 俺の趣味まで把握している彼女にドキッとしながらもクエストボードに向かう事にする。

 やっぱり俺頃の歳頃はお姉さんタイプにしっかり反応するよな。

 たしか、ティファさんは今年で20歳になると二ヶ月前に言っていたのを思い出した。

 ……ああ、今日だ、だからいつも以上にニコニコしているのか。

 クエストを早く終えたら誕生日プレゼントでも日頃の感謝を込めて渡そう。

 この街に来た頃色々とお世話を焼いてくれたお礼も兼ねて。


「結構少ないな……」


 クエストボードを眺めながら、貼り出されている仕事を見てそんな感想を口にした。

 二ヶ月前までは結構忙しそうな程にボードが収まらないくらいだったのだが、おかげでなんなくここまで引きこもれる金額を短時間で貯められたが、今は大型討伐が殆どであり、残っているのも簡単なその日暮らし程度の少額クエストだった。

 どれにしようか迷っていると、ティファさんは困惑気味に苦笑を交えながら俺の横にやってくると理由を教えてくれた。


「最近冒険者が増え続けたり、中堅レベルの冒険者も増えて来たからね」


 確かこの時期は冒険者学校の卒業シーズン、この街は結構な大きさなので自然とやってくるのが多いんだろう。

 まあ、仕事が減るという事は、この街の治安も良い証になるけれども。


「困ったな…」


 本当に困った……。

 別に大型討伐でも構わないのだが、何分ソロ冒険者なもので時間が長引くのは少し困る。

 帰ってくる頃には新しい本を買う気力も時間も無くなってしまうのだから、でも簡単な少額クエストを受けた所で金が貯まる気もしない。

 そんな事を思ってると、ニコニコしながら一枚のクエストを俺にオススメして来た。


「これなんてどう?タイラントタートル、ヴァイス君ならやれると思うし…報酬も申し分ないよ?」


「じゃあこれで」


 特に嫌な理由もなかったので、即決して紙を受け取る。

 大型クエストの【暴君の亀ータイラント タートルー】討伐。

 超大型の亀なのだが、皮膚が硬く動きがノロいのだが、尾が三本ありそれがとても素早い動きで寄せ付けないモンスターである、だがその甲羅にできている鉱石が希少価値が非常に高いので一体倒して50万、そして鉱石の破損等なしだと300万程の追加報酬を得る。

 甲羅が無傷なら合計350万になるのだ。


「急いで行けば馬車に間に合うよ!早速いってらっしゃい。」


「ああ、うん?」


 一年未満の俺を難易度高めのクエストをオススメし、快くクエストを引き受けた俺は、どこか安心したようなティファさん。

 笑顔で俺に手を振りながら見送ってくれる彼女を見ながらギルドから出る。

 早速いってらっしゃいとは、普段俺が受理されたらそそくさと行くから言ったことなんだと思うのだが、そんな事言われたのは初めてだ。

 一応出る前にいくらかお金をギルドから借りて来た。


 早速出発しよう、今なら定期馬車でタイラントタートルが生息している湖に近い村まで行ける。

 ギルドから出て少し歩くと、定期馬車乗り場のロータリーがある。

 そこでどの方面に行くか何番乗り場と番号が振られ、タイラントタートルが生息しているコニャット村方面に行く便で待つ事にした。


 一応大きな街なので、そこまで待つ事なく馬車が来ると乗り込んで行き先を告げる。

 街の出入口を抜け、広い草原地帯を抜けた先にコニャット村はある。

 討伐難易度が難しいタイラントタートルを選んだのは、地理的に近いし早く帰れるからだ。

 他のはよく見たら数日帰れないのが多過ぎたり、引きこもれる金額に達せない為にこのクエストを選んだ。


「お客さーん、コニャット村到着しましたぜぇ」


 ティファさんに申し訳なく運賃を借りたお金で支払いながら馬車から降りると、俺は村に入る事なく真っ直ぐと森の中に足を運んだ。

 村に行って馬車に乗り疲れたのを休むのは論外、早く獲物を見つける事が俺のモットーである。

 それにタイラントタートルは歩く度に鳥が飛び立ったり、少し木々が揺れる為に見つけやすい。

 ……その分かなりの大きさなのだが、俺にとっては相手が大きい程助かる。


 ほんの数十分森の奥へと入り込むと、タイラントタートルと思われる足跡を見つけた。


「乾いてはいるけど、これでどっちに向かえば良いか判明したな」


 湖があるとされる方角に向かって歩いたのが幸いし、自身の身体がすっぽりと入る巨大な足跡を見つけた。


「よっ、と」


 大きな大木に身軽に登り詰めて森を見渡せる位置に、ここで盗賊スキルを発動する。

 これだけは盗賊だったから成し得られる技なので、良かったと思っている。


 ーー『千里眼』、『感知』スキル発動。


 視野を広げるスキルと、五感を刺激させ小さな違和感をも感じ取る事ができるスキルを発動させ足跡が続く方角を凝視する。


「ーー来た」


 視界で確認するよりも早く、大木にバランスを取る為に手を添えていた方から微かに振動を感知した。

 振動の大きさ、そして伝わり方で距離を測りながらより目を細めながら千里眼の視野をより広げる為に魔力を集中させる。


 かなり離れているが、確かに足跡の方角から2、3羽の鳥が飛ぶのを確認する。

 だが、それと木々が一本倒れたり次第に土煙が登ったりしていた。


「誰か襲われているのか?」


 まあ他の冒険者と鉢合わせる事は多々あるが、視界に捉える漠然とした状況を見る限り襲われている事がわかった。

 仮にタイラントタートルを討伐している雰囲気ならば、身を引いて任せるのだがタイラントタートルの暴れっぷりを見て襲われていると考えた俺は枝から降りてその場所を目指して走り出す。


 ーー『千里眼』解除、『速度強化』発動、『感知』持続。


 腰元の短剣を一本だけ引き抜き、タイラントタートルが暴れる位置まで近づく。


 ーやはり、推測は間違っておらず木々が倒れた暴れながら移動していたのを目にして地面を観察する。

 足跡は一つ、俺と同じソロ冒険者か…村人のどちらかだろう……。

 見るからにして襲われているで間違い無いようだ。


「めんどくさいけど、本の為だ。急いだ方が良いかな」


 ーー『感知』解除、『速度強化』オーバーリミット発動。


 ため息を吐きながら前進の魔力を足に集中させ、大きくジャンプをする。

 一気に森を飛び越えてタイラントタートルの姿を見つけると、1人の冒険者が必死にタイラントタートルの尾から逃げているのを確認し、腰元のポーチからロープが結び付けられた投げナイフを取り出す、それを尾に狙いすませ……投げる。

 それは見事に一本の尾に真っ直ぐ深く突き刺さると、タイラントタートルが痛みなのか、追いかける人物に向けてその尾が振り落とされた。

 その勢いに乗っかりながら、引っ張られた勢いでタイラントタートルの背中に上手く着地する。

 鉱石の結晶の山でできた甲羅を抜け出しながら追われている人物が無事なのか確認する。


「あのー、大丈夫ー?」


「えっ!?」


 不意に投げかけられた言葉に、格好からして冒険者と追われる人物はタイラントタートルを見る。

 声をかけられた冒険者からしたら、殺そうとするタイラントタートルが急に喋り出したと思ったのだろう。

 少し間抜けな表情をしていた。


「あれ、君はさっきの……」


 此方に向き直った人物を見て、思い出した。

 彼女はギルドの前でぶつかってしまった女の子だった。


「えっ?……あっ!」


 ようやく俺の存在を見つけたらしく、声を上げるとみるみる青ざめ始めて何やら言葉にならない声を上げている。

 なんだ?俺の顔に何か付いているのかな、顔は洗ったし……。


「う、後ろー!」


 ん、と後ろを振り向くと尾が此方に向かって来る。


「ぎゃーーー!!!」


 女の子が悲鳴なのか、涙目で騒ぎながら目元を抑えて慌てる。


「ねえ、大丈夫?」


「ひゃわっ!!」


 俺は間一髪の所で尾を躱して、女の子の後ろに着地したのだが、どうやら彼女は目を手で覆っていた為に、急に現れた俺にまた悲鳴を上げた。

 タイラントタートルを見ると、ハエを叩く気持ちでやったのだろうが希少価値の高い鉱石がいくつも砕けてしまっているのを見て落ち込んだ。


「あれじゃ半値も良い所だな」


 自分の落ち度による失敗なので反省していると、女の子はお礼を言わずに抱き付いてきた。

 着痩せするタイプか、少し柔らかい物が腕に当たる。


「ちょ、急に何を……」


 見るからにして歳下で駆け出しの冒険者なのか、助けられたことに安堵した表情と少しばかり瞳に涙を溜めながら話さない女の子にどうすれば良いか考えていると、タイラントタートルはそんな事お構いなくに此方を睨む形で頭を下げ三本の尾が此方に向けられていた。


 『感知スキル』を解除していたのを裏目に、尾が此方に迫ったのに反応が遅れる。


「おい、離ーーー!!」


 2人が立っていた箇所に、三本の尾が重なり合い大きな土煙が上がった。

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