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盗賊だって勇者の仲間で良いじゃないか  作者: 桐条 霧兎
第2章 幻影と覚醒、又は神の贈り物
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第2話

 イヤイヤ期に突入したイリスを、何とかティファさんと二人掛かりで説得させ、今はスズレン村に行く為の準備に商業エリアへと向かった。

 イリスはそれでもげんなりとした表情で、ブツブツとアンデットに出会った頃の話が如何に恐ろしかったかを、小声で呪文の様に呟いている。


「はあ、いい加減気合い入れてくれよ」


 しょげて、先程から赤と白のレンガを並び重ねた街の床を眺めるイリスに、溜息交じりに片目を瞑り横に並ぶ彼女を見下ろす。

 アンデットは好きな奴は稀だが、苦手意識を持つ者は少なからず多いと聞く。

 攻撃が当たらない、夜中に急に現れる。

 臭い、ビビる、いくつかの負の理由が存在し、大不人気のモンスターカテゴリーでトップを独走している位に冒険者の中で嫌われている。

 俺自身そこまでの不快感は無く、面倒臭いモンスターとしての認識が大きい。

 この近くだけのクエストをチョイスしても良いのだが、そんな事ではロク経験を得られないのを知っている。

 クロムが大きくなったのは、強力なモンスターの生息圏から外れているからだ。

 危険が少ない街であれば、人は集まり発展し、拠点を構え大きくなって行く。

 それが人間の当たり前の、テリトリーを選別となる材料なのだ。

 わざわざ危険な所に街を作る様なことはしない、それは生きている者の習性となる。

 そんな事を考えていると、イリスは呪文を唱えるのやめて口を開いた。


「だって、お化け怖い……」


 俺の問い掛けに、トーンを落とながらイリスが言った。


「だからお化けじゃなくて、アンデットモンスターだってば。それに滅多に遭遇する事はないから、安心しなよ」


「あたしはソウグウシタ、コワイ」


 何、未知なる物を見た様にカタコトで言ってるんだこの子は……。


「はぁ、それなら護衛馬車でも乗るか?割高だけど……」


「…護衛馬車?」


「そ、護衛馬車。冒険者じゃなく、専属的に職業組合が直々に契約して引き受けてるんだが、遠出する馬車には組合連中が護衛してくれる馬車があるんだ。多分、スズレン村方面はモンスターに襲われる頻度が高いからな、ある筈だと思うんだけど……」


「それだっ!!」


 目の色を変えて俺の眼前にまで詰め寄る。

 仰け反る様な格好で、イリスの接近から離れながらわかったと意思表示を示すが、ちょっと待って欲しい。

 護衛馬車は普通の馬車と違って割高だと言ったが、倍以上の値段差があり、この子はそれが払えるのだろうか。


「イリス…」


「はいはいっ、なんだねヴァイス君!」


 驚くべきテンションの落差に、かなりの戸惑いを覚えながら護衛馬車の値段を伝える。

 普通の馬車であれば、逆にこちらがもしもの際に護衛を行うという事で安く済むのに対して、護衛馬車は俺達冒険者は何もしなくて良く、おんぶに抱っこ状態で披露せずに行けるメリットの分、値段も中々である。


 イリスは俺の伝えた金額を聞くと、ぶわっと汗を流し目線を泳がせながら、暫し考えゆっくりと手短な出店を覗きこみながら、一向にこちらに目を合わせずに一言ポツリと……。


「よろしく」


「おい、せめてこっち見て拝め」


 嘘くさく、「わー綺麗」とか言いながら、イリスはアクセサリーを手に取って俺への視線を避ける様に動いている。

 その棒読みが余計イラっとさせるのだが、そういえばこの前のリリット村のお金も……。


「そういえば、ラビットチャンピオンの時ー」


「あーーーーーーー!!!!!ラナさーん!」


 無駄なオーバーアクションで言葉を遮りながら、ちょうど買い物途中のラナを見つけてると、目にも止まらない速さで俺から逃げた。

 ラナは急に自身の名前を叫ばれ、うさ耳をピーーンと反応しながら驚くと、不意に抱きついて来たイリスに驚愕の目を向けながら受け止める。


「えっ、えっ?イリス氏?今し方ぶり?え?なんでそんな短時間で、感動的なハグを?」


「うわーん、ラナさん会いたかったー!」


 コイツ…どうしてくれよう。


「あれ、ヴァイス氏も?」


 俺が片手を上げて挨拶しながら、へばりつくイリスを引き剥がしてあげる。


「よっ、ラナ。ーっこら、逃げんな!」


「わー後生だー!ラナさん助けてー!」


「アハハ、いつも元気だねイリス氏……」


 ラナが苦笑して、こんなに困ってる顔は初めて見た。

 暴れるイリスの首元を抑えながら、スズレン村に行く為の準備をしている事を話す。


「へぇースズレンかー、それなちょいとお土産頼むよ」


「お土産?いいよー、ラナさんの為なら!」


 ……いや、お嬢さんお金持ってないから、何当たり前に引き受けちゃってるの…。

 だが、まあ普段良くしてくれるラナには、多少の恩返しは考えていたので引き受ける気だから良いが。


「わかったよ、楽しみにしててくれ」


「助かるー、スズレン鉱石がちょーど欲しくてさ。期待しているよヴァイス氏!」


「期待しててラナさん!」


「ふふ、ありがとう。イリス氏、よろしくね!」


 最後にお礼と言って小さな布袋を渡され、ラナは手を振りながらこの場を後にした。

 彼女を見送りながら、見えなくなったところで買い物を再開する。


「ねえ、ラナさんは何を渡したの?」


「ん、なんでもお守り?…らしいぞ。イリスが持っときなよ」


「あーうん、ありがとう。へぇー」


 あ、この反応は興味が失せたな。

 イリスは受け取った袋をポーチに入れるのを見て、俺は先を歩きはじめた。


「ほら、さっさと準備済ませて行こう?」


「ゴチです!!」


「貸しだ!」


「えー、ケチー!」


 …ケチじゃありません。


♢♦︎♢


 あの後スキルショップを覗いたのだが、中々手頃な値段が見当たらず諦め、野宿や砂漠の為の必要な道具を買い揃えた。

 少し大きな荷物になったが、それも必要不可欠な物ばかりなので仕方ない。

 俺達は膨れたリュックを背負いながら、馬車乗り場へと向かった。


「今からの乗れば、ちょうど近くの村に着いて宿で寝れるかもな」


「それが良い!」


 話し合い、これから乗るのは護衛馬車では無く普通の馬車だ。

 ヤルム村向かい、一泊した後に護衛馬車に乗り換える事にした俺達は、あまり待つ事なく馬車が目の前に到着して乗り込む。


「へへ、楽しみ!」


 相変わらずイリスは外の世界にワクワクしながら、移り変わる景色を眺めながら頬を緩んでいる。

 最近は俺も移動のみは静かにしてくれる様になったので、馬車の中で本をゆっくりと読むことが出来る。

 溜まりに溜まったコレクションがここでしか消化出来ないが、これもまあ良いかと最近思っていたりする。


「…………ん?」


 不意にイリスが声を漏らした、クロムを抜けて広い平原を駆けている馬車の進路に、ちょうど真横へと突撃しそうな土煙を見つける。

 目を凝らしながら彼女はその正体を探る。


「ねえねえ?」


 次第に土煙の先頭を走る集団が目に入り、彼女の知識には存在しない物を、横に本を読みふけっている俺へと向き直り肩を揺らす。


「…何?」


 盛り上がってきた所を邪魔され、少し不機嫌気味にイリスを見る。

 イリスは悪びれる様子はなく、「あれ!」とちょんちょんと外を指差す。

 一体なんなんだと思いながら、一つの大きな土煙を上げる行軍が視界に入る。


「なんだ、あれ?」


 雰囲気的に何か、嫌な予感を感じ『千里眼』を発動する。

 視界を広げ、何倍もの視力を増加させ土煙の正体を探ると、その正体に思わず口を大きく開ける。


「おい、嘘だろ……」


 俺の瞳に映し出された物は、ゴワゴワとした体毛に覆われ、珠黄色の瞳を真っ直ぐ此方を見ながら大きな前足を器用に四足歩行しながら向かってくるそれは、獰猛な性格に大きく発達した牙を生やし、身体の特徴は熊の様でありながら顔は狼、走り方はゴリラの様なモンスターは、【ベアウルフ】。

 この平原エリアでは珍しいモンスター、普段は森林の奥に生息している筈のベアウルフは間違いなくこの平原に現れている。


「おじさん、馬車の進路を!」


 手綱を握るおじさんに、土煙の方を指差しながら危険だと伝える。

 突然なモンスターの襲来に、馬車は勢い良く左へとカーブする。

 あのまま真っ直ぐ突き進んでいれば、間違いなくこの馬車はベアウルフの行軍とぶつかり大惨事が起きる。

 手前のカーブにより、それは避けられたのだが問題は変わらず。

 ターゲットが逸れた事で、ベアウルフ達はこの馬車を追いかける形となった。


「どどどど、ど、どうするのヴァイス?」


 体長3メートルを超えるベアウルフ、見た目が可愛らしいラビットチャンピオンと違って見るだけで縮み上がりそうな獰猛なモンスターに、イリスは振り落とされない様にしがみ付きながら叫ぶ。

 考えているのだが、ベアウルフは今だ対峙した事がない俺には、対処に迷う所だ。


「イリス、馬車に近付く奴に"アレ"をやるんだ!」


「わわわ…わ、あ、あれ?」


 ベアウルフはスピードを上げ、既に馬車のお尻を捉えられる程の距離となる。

 かなりのスピードで走るベアウルフは、重たい荷物を引く二頭の馬よりも速かった。


「アレー?アレー……えーっと、アレー???」


 この状況にパニックを起こしているイリスは、俺の考えを読む事が出来ず、更に目を回しながらパニックを起こす。


「あーもう、この間レベルUPして【新スキル】覚えたって自慢しただろ!」


「新スキ……あっ!なるほど!」


 やっとわかったのか、イリスは大きく揺れる荷台の中でしっかりと立ち上がる。

 俺は荷台の屋根に飛び乗ると、彼女は仁王立ちをして、鞘を前に突き出しながら柄を握る。


「良いか、ギリギリまで待てよ!」


 イリスは俺の指示を待つかのように目を閉じ、ベアウルフがようやく馬車に追い付き飛びかかるのと同時に目を開ける。


「今だ、イリス!」


「ー『ブレイク』発動!!」


「ギャウッ!!?」


 彼女の持つ片手剣に魔力を溜め込み、爆散させるスキル。

 攻撃スキルではないが、その爆散させる魔力が相手よりも強い程効果をもたらし、気合い、覇気、牽制を魔力に乗せて相手へぶつける事ができるスキル。

 魔力値が高いイリスには打って付けのスキルで、ベアウルフ達は馬車へと乗り込む又は食らいつこうとしていた奴等から、波動を受ける様に吹き飛ばされる。

 本来の用途は、決められたゾーン内に入り込んだ目標の動きを封じる事ができるのだが、空中で動きを止める事が出来ず、ベアウルフ達はそれを直に受け止める事で吹き飛んだ。


「よし、その調子だ!」


「ガウっ!?」


 連続して打ち出せないスキルにより、撃ち漏らしたベアウルフを俺は短刀で迎え撃ったり、投げナイフを用いながら対応する。

 そしてまたチャージを行い、俺が対処出来ないほどの数で襲ってきたらまた『ブレイク』を行う。

 残りの数が減るのを確認し、俺は短刀を強く握りしめて飛び出す。

 ……この数なら俺一人でやれる。


「はぁぁぁーー!!」


 ー斬。


 着地と同時に一体を短刀で両断し、背後に襲いかかるベアウルフを地面に手を置いて側転する様に避ける。

 そして近付く一体を回し蹴りを食らわせ、上半身が起き上がった所を二本の斬撃が襲う。


「はぁーっああ!」


「ーーーーーーーーーッ!!!」


 更に残りの一体を下から上へと斬り上げ、片目を掠らせ断末魔の悲鳴に似た叫び声を上げるベアウルフの脳天を、ジャンプして狙い一突きする。

 そして最後の一体となったベアウルフに、逃す事も攻撃のチャンスを与える暇なく駆け出し、二本の短刀を突き出して横っ腹へ一閃する。


「ヴァイスーーー!」


 離れた位置に馬車が止まり、イリスが走り寄る。

 俺は楽勝だ、と意思表示に片腕を大きく上げる。


「イリスのおかげで苦労せずに済んだな」


「ほんと!?あたし、役に立てたかな?」


「ああ、今回は上手く行った」


 少しだけ意地悪く伝え、手頃な高さにある彼女の頭を撫でた。

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