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盗賊だって勇者の仲間で良いじゃないか  作者: 桐条 霧兎
第2章 幻影と覚醒、又は神の贈り物
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第1話

 イリスとパーティを組んで、半月程経った。

 彼女はクエスト、オフ関係無しに俺を毎朝叩きに起こしにやって来るのも半月と少しが経つ。

 満足に本を読めず、未読の本達が部屋の床を埋め尽くす様に増えて行く。

 今日も変わらず煩い声で叩き起こされ、眠たい(まなこ)をパチパチさせながらぼーっとベッドの上で脳みそを覚醒させる。

 俺の意思に反してカーテンは開かれ、眩しい太陽が部屋を明るくする。

 イリスはカーテンの次に窓を開けると、その美しい白銀が青白い輝きが増した。

 今だ眠気と格闘する俺へと向き直りながら、仕事の衣服を投げつける。


「ふあーーーーー…………」


「ほらほら起きて?」


「んーー………」


 相変わらず朝早いなと思いながら、渡された衣服にもぞもぞと半眼のまま着替える。

 着替え終わり、短刀を腰後ろに差し込みながら寝癖を整える。


「お待たせ、イリスってなんでそんなに朝が早いだよ」


「んー、昔から早起きが習慣でね」


 イリスは片目を瞑りながら、眠そうな俺を覗き込むような形で言う。

 その上目に、最近の俺はどうもドキッとしてしまう。

 これは女性への免疫がない証拠なのか、これまでしっかりとした交流は学生時代のアスティア………は違い、ギルドの受付嬢のティファさんくらいだった。

 あの人はいつも笑顔で、まるで俺を弟の様にお世話してくれたりと何かと面倒見が良く、俺も良くしてくれる姉の様に感じていたので、イリスとの接し方や距離感がイマイチわからないでいた。


「へ、へぇー、そうなんだ」


 軽い相槌を打ちながら、既に当たり前と化した2人でギルドに向かっている。

 まあ、起こされなきゃ昼過ぎまで寝ているか、下手したら夕方まで起きない俺なので仕方のない事なのだが、パーティとしてしっかり働くにはイリスに起こされるのが当たり前となった。

 なので、俺の部屋の合鍵をオーナーから一々借りるのもあれなので、俺が持っている予備用を渡す様になっていた。


「あ、おはようヴァイス君、イリスさん」


 カウンターテーブルを拭いていたティファさんが、俺達を見て笑顔で挨拶してくれる。

 やはり1日の始まりであり、仕事前にティファさんの「おはよう」を聞くのはやる気が満ち溢れるな。

 なんて思いながら俺も笑顔で挨拶を返す。


「おはようございます。ティファさん」


「おはようございまーす!ティファさんっ!」


 ここも当たり前となった光景が一つ、イリスはトテトテとティファさんの元へ小走りで向かい、ガールズトークを始め、俺はそれを尻目にクエストボードに向かって仕事を選びに向かう。

 過去に2度程イリスが自分で選ぶと駄々をこねて任せた事があるが、どうしようもないやる気に満ちた顔で背伸びをするクエストばかりをチョイスする事で禁止した。

 ギルドランク推定A以上であったり、職業(ジョブ)レベル推定40オーバーであったりと、この子バカじゃないのか?と心配になる程の無謀なクエストばかりにホトホト残念でならない。

 この前喜びながら新スキルを獲得したと見せびらかし、レベルも異常体(デミリーター)によって大幅6レベルUPした事を自慢していたが、知力は酷いままだった。

 全ステータスが大幅に上昇していた中で、彼女の知力は9→32と他の数値と比べ全く上がっていなかった。

 記憶を滾り寄せてのステータス表示は確か……


 力 ・16→98   器用・14→72

 丈夫・34→129   敏捷・36→130

 知力・9→32    精神・21→72

 運 ・23→89   魔力・27→162


 と、こんな感じで上がっていた。

 異常体(デミリーター)と戦闘を"経験"した事によって経験値は貰えた様だが、戦闘を"行った"経験が少なく数値の上昇が不安を覚える。

 その中でも目覚しい数値が魔力だ、基本ソード系統の職業は魔力よりも力や、丈夫さが上がる様な物なのだが、イリスのステータスには魔力が格段に成長していた。

 まあ、色々と両親の才能の受け継ぎによっては職業チョイスを間違えたと思える程の、例外的なステータスになる場合もある。

 ……思わずピンク頭のアスティアを思い浮かべてしまった。


「お、最近はクエストが充実してきたな」


 俺達に手頃なクエストがようやく増えてきた様で、真剣に迷ってしまう。

 なんでもティファさんの計らいで、率先して俺達レベルのクエストを集めてくれたらしい。

 流石仕事が出来、ギルドの看板娘なだけはある。


「これなんてイリスならやれる気が……」


 レベル1~20までは、この先の自分にとってかなりの貴重なステータス基盤となる成長期だ。

 実戦経験を積むに積んで、ステータス向上を今の内にしとかなければ、20を超えた時点でステータス向上は徐々に鈍くなると言われる。

 確固たる経験を積まなければ、レベルが上がろうがステータスは伸び悩むのだ。

 今回俺はキングラビットが異常体(デミリーター)だったおかげで、ステータスはまあまあな成長を遂げられた。

 正直イリスには倒せない相手と戦闘を経験するよりも、倒せる相手の方がステータスの数値が全然伸びが違うので、極力俺は援護に回るだけのクエストをチョイスする事にしている。

 今回選んだのは、スズレン村と呼ばれる砂漠地帯が広がる場所に住み着いた【サンドスネーク】の討伐を手に取る。


「やれる……かな?」


 サンドスネーク、砂漠地帯を主な生息地としているが、全長約5メートル~最大13メートル超えまで成長するモンスター。

 見た目はキングコブラの様だが、色が灰色と茶黄色を混ぜ合わせた色をしており、大きさによって危険度が上がる。

 子供位で1メートル~2メートル程あるも、それくらいならば非力な物でも倒せるが、それ以上だと冒険者に依頼しなければ丸呑みにされる危険がある。

 毒は牙にないのだが、全身の鱗と砂煙を擦り撒き散らす事で毒の鱗粉の様な物が発生する。

 一応比較的毒に危険性は少ないのだが、長時間大量の鱗粉を吸い込むと呼吸困難を起こし死ぬ恐れがあるので注意する必要がある。


「イリスー、これとかどう?」


 ティファさんの仕事を邪魔している様にしか、一見見えないイリスを小突きながらクエスト用紙を見せる。


「痛っ!ヴァイス、いっつも叩かないでよ!」


「ふふ、なんだかんだ言ってパーティ上手くやれているのね」


 当たり前と化したやり取りに、ティファさんが口元を隠しながら微笑ましそうに笑いかける。

 俺達のここまでのやりとりは、ほぼ毎日行われていると言える。

 ティファさんが笑った事で、俺は気恥ずかしくなり赤髪をポリポリと掻いた。

 そんな俺の反応を見て、また面白いとばかりに笑みを浮かべるティファさんに、俺は視線を外してイリスにクエストを了承するか伺う。


「ヘビ……か、ニョロニョロ系駄目苦手ー」


 案の定、ティファさんの言葉に何も感じないのか、イリスはずっとクエストの紙を眺めており、サンドスネークを想像しながら舌を出して苦い顔をする。


「ニョロニョロって……」


「だって、こう手足ないのに素早くニョロニョロ動いて…うへぇ~」


 イリスは腕をまるで蛇の様に動かしながら、如何に彼等の気持ち悪さを訴える。

 俺的には彼女の腕の動きの方が気持ち悪いのだが、一体どんな風に動かせば波の様な動かし方が出来るのか……。


「報酬的にもいい方だよ、15万Gだって」


 金欠問題が深刻なイリスにとっては、手頃な値段であり良い相手になると思うのだが、金額とイリスのレベルに合わせてチョイスしたのを察してもらいたい所だ。

 イリスは俺への気持ちが察せない様子で、離れた位置にあるクエストボードを細めで眺めおバカを発動させる。


「それならあれやろうよ、キングレオ討伐!」


「ぶっ、ゲホゲホ。バカ言うな、俺達一瞬で死ぬわ!」


「イリスさん!?それは無謀過ぎて、流石に許可出来ないわよ」


「えーーー、異常体(デミリーター)より強いの?」


「……あれはラビットチャンピオンだったからだ、そこまでの危険度は高い方じゃなくても、俺達危なかっただろ。個体によって全然違う。キングレオが仮に今回の異常体(デミリーター)と戦えば瞬殺できる程の化物だぞ」


 キングレオ、頭がライオンを模っし身体は強靭な筋肉を持った人の様でありながら、金色の体毛で覆いながら名前に恥じぬ強さを兼ね備えているモンスター。

 獰猛な性格で、モンスターの中で唯一武器(・・)を持つ危険モンスター。

 討伐受理推奨はギルドランクでは無く、純粋に強いと思われる域、職業(ジョブ)レベル60オーバーをギルドが設定している程にだ。

 如何に危険かを教えると、イリスはブルブル震わせながらサンドスネークをティファさんに無言で渡す。

 最近は少しまともな考えもできる様になってきたイリスに、ほっと胸を撫で下ろしながらクエストの手続きを待った。


「スズレンってどんな村か知ってる?」


 脈絡ない会話を投げかけるのは変わらない様で、不意にイリスが訊ねる。


「あー、砂漠地帯にある村かな。銅貨の原料となる鉱山がそこにはあるんだよ。大きめなオアシスに街を作って、その側にある岩壁の中で発掘しているとか……俺も行った事はないけど、ちょっとした観光地にもなったりしてるな」


 耳にしただけの話をイリスに説明すると、なんだか楽しそうにティファさんの方へと向き直る。

 多分これは、ちょっと遊ぼうと考えている顔だ。

 そんなイリスを横目に、不安点を解消する為に彼女に視線を送る。


「イリス、クエスト行く前に必要な物を揃えたいから、魔具(スキル)ショップへ行こうと思うんだけど、一緒に来るか?」


「行く!」


「そっか、それとスズレンはクロムから3日掛けて行くから、その準備もしないとな?」


 俺の言葉にキョトンとしながら俺を見て固まるイリス、その後ろから手続きが終わったティファさんがやって来た。


「あ、ヴァイス君。無事にクエストじゅー」


「えええええぇぇぇえーーーーーー!!!!」


「きゃっ、え?」


「おわっ!?」


 ティファさんの言葉を遮りながら、イリスはギルド内に響き渡る声量で叫んだ。


「え、じゃあ……移動中、眠くなったら?」


「そりゃあ、野宿でしょ。ねえ、ティファさん?」


「ええ、普通は……」


「そんなぁ~、お風呂は?」


「ねえよ」


「えーーー!」


 何がそこまで嫌なのか、冒険者となれば彼方此方へと行かなければならない。

 数日かかる距離を昼夜飛ばす程、お馬さんも強靭ではない。


「野宿嫌なのか?」


 俺の問いにうぅーと小さく唸りながら、イリスはコクコクと涙目で頷いた。

 何をそこまで嫌がるかわからないが、冒険者と名がある通りこれは一種の冒険になるのに、イリスはミミズがうねっている様な口元をゆっくりと開いて語る。


「クロムに配属決まった時に5日掛けてここに来たんだけど………」


「けど?」


 途中で口ごもるイリスを、ティファさんは覗き込む様にしながら聞く。


「お化けが出た……」


 イリス、それはお化けではなく。

 ……アンデットタイプのモンスターだよ。

 呆れた表情で、俺は顔に手を当てながら項垂れた。

 ティファさんは優しく頭を撫でながら、「怖かったねー」とか言って慰めながら俺を指差して「ヴァイス君居るから大丈夫だよー」とか、子供をあやすように言った。

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