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理解出来ない思い

貴男が奈菜のストーカーかもしれないという思いを持った篤史。

(とりあえず、この事件を早く調べたほうがいいやんな)

そう思う篤史は自分が父親に今回の事を言わなかった事の汚名挽回のため、早くなんとか解決しよう、と思っていた。

担当者の有加子、奈菜の交際相手の光一、二人の友人の貴男。奈菜を取り巻く三人を見る篤史。

すると、有加子と光一が同じペンダントをしているのが篤史の目に入った。二人がしているペンダントは、珍しい星の形のペンダントだ。そのペンダントを見た篤史は、今までの事が蘇ってきた。

そして、ロビーを抜け出した篤史は、奈菜の部屋に再び行くと、これは自殺ではなくて他殺だと判断して、その証拠を探す事にした。

奈菜が亡くなっていた風呂場を見る。見る限り、おかしいところはないが、よく見てみると不自然に血痕が途切れた箇所があった。

それはカミソリで奈菜の手首を切ったと思われる血痕が、5cm幅で血痕が付いていない箇所がある。

(犯人は恐らく服の上から何かを着て犯行に及んだんや。この5cm幅に途切れた血痕の行方は、犯人が着ていた物に付着していると思う)

それを見た篤史は、大体の事件の事がわかり、このことを話すのが自分に課せられた義務なんだ、と思っていた。

ロビーに戻ってきた篤史は、何かを決意したような表情をしていた。

「今日のところはこれでいいでしょう。また何かあればこちらからお呼びします」

町田警部はこれ以上何も出ないと思い、有加子達三人に帰ってもいいと言う。

「警部、まだ帰らせたらアカンで。この事件の犯人がわかったんやから……」

何かを決意したままの表情で町田警部に三人を帰らせてはいけないと言う篤史。

「事件って遺書も見つかってるんや。自殺やと……」

町田警部は何を言っているんだといわんばかりの口調だ。

「江口さんは自殺やない。殺害されたんや。まず、犯人は江口さんの部屋に行き、睡眠薬入りの飲み物を飲ませた。その後、眠った江口さんを風呂場まで連れていき、刃物で江口さんの手首を切り、自殺に見せかけた」

篤史は部屋で見た事を元に推理する。

「でも、手首を切ったとなると多少は犯人も江口さんの血は浴びてるんやないのか?」

哲哉はその点に関しては、どう説明するんだと聞く。

「ジャージやレインコートなどを着て犯行に及んだんや。そして、あらかじめ用意していた遺書を置いて立ち去った」

哲哉に問いにもきちんと答えた篤史。

「自殺が他殺なら話は変わってきますね」

ある程度の話を聞き終えた水野刑事は、他殺となると一から調べ直さないといけないと言う。

それを聞いた哲哉と町田警部はそうだなと頷く。

「それで犯人は誰なんや?」

翔也は犯人の名前を早く言えよという口調だ。

「今回の事件を計画したのは、太田さん、坂田さん、川村さんの三人なんや」

篤史は静かに言う。

三人が犯人だと聞いた全員は、唖然とした表情を見せる。

「三人が犯人なん?」

留理はまさかというふうに言う。

「そうや。三人が共謀して江口さんを殺害したんや」

有加子達を見ながら言う篤史。

「三人はどういう役割なん?」

里奈はショックを隠して篤史に問う。

「それぞれの役割は、川村さんが江口さんをストーカーをする男性。太田さんと坂田さんが江口さんを殺害した。計画は三人でしたんやと思う。三ヶ月前から川村さんがストーカーをして、それを同じ女性の太田さんに話す。そして、オレにどうにかして欲しいと相談に来る。そして、ストーカーを苦に自殺した、というストーリーやったんや」

「私達が犯人だという証拠はあるんですか?」

そう問う有加子は怪訝な表情を浮かべている。

「江口さんが普段付けているハードコンタクトレンズです。さっき部屋に行ったら、容器に入ったままやったんです。坂田さんに聞くと、江口さんは相当な近視のようで、寝る時以外はハードコンタクトレンズを付けていたと言ってました。それなのに江口さんはハードコンタクトレンズを付けてへんかった」

奈菜がハードコンタクトレンズを付けていない事を証拠に挙げる篤史。

「寝る前やからじゃないのか? 別に部屋にいれば、付ける必要はないと思うが……。ましてや、自殺しようと思っているならなおさらやと思うで」

哲哉は奈菜がハードコンタクトレンズを付けていなくても不思議はないのではと反論する。

「確かに親父の言うとおりや。でも、ハードコンタクトレンズを付いていないと、いくら自殺するにしても手元が切るにしては怖いと思う」

篤史はハードコンタクトレンズを付けずに自殺をするにもおかしいと言う。

「それもそうですね」

視力は悪くないが、コンタクトレンズを付けずに手元の作業はしにくいだろう、と思いながら頷く水野刑事。

「それと風呂場に江口さんの血痕が途切れた箇所がありました。恐らく、江口さんの血痕が付かないように太田さんか坂田さんが着ていた物に江口さんの血痕に付いていると思います」

奈菜が付けていないハードコンタクトレンズと奈菜殺害時に使用していたと思われる服に付いた奈菜の血痕が証拠だと篤史は断言する。

犯人だと名出しされた三人はうろたえている。

「太田さんは東京、坂田さんと川村さんは奈良から来てるから捨ててなければ荷物の中にあると思います」

証拠品があれば……、というふうに言う篤史。

「もう、ダメよ。これ以上、隠せないわ」

有加子は他の二人に声を震わせながら言う。

「オレ達が奈菜を殺害しました」

観念出来ないと思ってのか、光一が三人の犯行だと認めた。

「なんで江口先生を殺害したんですか?」

里奈は奈菜と一番近い存在なのに……、と信じられない様子だ。

「オレと有加子さんは四ヶ月前に付き合い始めた。前に奈菜が住んでいる東京のマンションに遊びに行った時に有加子さんと会って、その時に有加子さんから連絡先を書いた紙をもらったのが始まりやった。付き合い始めたけど、なかなか奈菜に別れ話を切り出せなかった。それで河村に事情を話して、ストーカーをしてもらい、奈菜を恐怖に陥らせた」

光一は事の発端を話した。

「二人が付き合っているのはわかっていました」

篤史は有加子と光一を見て言う。

「え?」

二人は驚いた表情を見せる。

「あなた方は同じペンダントをしているな、と不思議な気持ちになりました。なぜ同じペンダントをしているのか。偶然にしては珍しい形のペンダントなのになんかおかしいな、と思いました。よくよく考えてみると、もしかしたら、二人は付き合っているんじゃないかと推測して、そこから江口さんを殺害したのではないか、と思いました」

篤史は有加子と光一がしているペンダントで気付いたと話す。

「川村さん、あなたは相談された時点で止めるべきだったんじゃないですか? それなのにあなたは江口さん殺害に加担した。それは友情ではないと思います」

「断り切れなくて……。確かに相談された時点で坂田の犯行を止めるべきでした」

貴男は友人の犯行を止められなかった自分を恥じているようだ。

「太田さんと坂田さんも卑怯だと思います。江口さんを騙してコソコソと付き合ったりして……。別れてから付き合うのが筋なんじゃないですか? 正直、そこまでして付き合いたいという二人の気持ちがわかりません」

有加子と光一の関係を諭す篤史。

「そうやな。少年にこんな事を言われるなんてどうかしてるな。大学時代からずっと付き合ってた仲なのに、最近では奈菜と会ってても何も話せなくなってた。別れ話でされも……」

光一は奈菜との関係がすでに破綻していた状況を終わらせる事が出来なかったようだ。

有加子のほうも自分が担当していた作家の交際相手と付き合い出した事に後戻り出来なかったようだ。

そんな三人の思いを受け止める事も理解する事も出来ない篤史は、ただ見ているだけしか出来なかった。

それは他の全員も同じだった。

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