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父親のキツイ一言

翌日の午後、土曜日で部活が休みの篤史の元に奈菜が亡くなったという知らせが舞い込んできた。奈菜が宿泊しているホテルに篤史と翔也、留理と里奈の四人は急いで駆けつけた。

町田警部にお願いをして、篤史だけが現場に入れてもらえる事になり、奈菜の遺体を見て言葉が何も出てこなかった。

そして、四人は有加子と共にホテルのロビーで話を聞かれる事になり、篤史は事の全てを町田警部と水野刑事に話した。

「一週間前に被害者の江口奈菜からストーカーをされているという依頼をされた。そういうことか」

町田警部は手帳に篤史が話した事を整理して言う。

「そうや」

「奈菜はなんで亡くなったんですか?」

有加子は自分が担当していた作家が亡くなり、憔悴しきっている声で二人の警官に聞く。

「ベッドの下から睡眠薬が発見されました。睡眠薬を飲んだ後に風呂場へ行き、カミソリで手首を切った。部屋が不自然な点がないところから自殺で間違いないでしょう」

町田警部は部屋の状況から見て、自殺だと言う。

「そんな……。奈菜は自殺する理由なんてありませんよ」

有加子は町田警部が出した結論に反論する。

「では、最近、江口さんが悩んでいるという事はありませんでしたか?」

有加子の反論に聞き返す町田警部。

「夕陽の君を出す前、スランプに陥っているとは言っていましたけど、言うほどそんなに悩んでいる感じはなかったです。ストーカーは別問題ですけど……」

生前、奈菜がスランプに陥っていたと話す有加子。

「プライベートではストーカー以外に悩んでいた事はありますか?」

次に水野刑事が聞く。

「わかりません」

「そうですか……」

有加子の答えに、ため息交じりの町田警部。

そこに哲哉が入ってきて、現場は騒然となる。

「警視、どうなされたんですか!?」

突然の上司の登場に、町田警部も驚いてしまう。

「篤史に依頼した女性が亡くなったと聞いて来たんや」

哲哉は部下の問いに答える。

それを聞いた篤史はオロオロしてしまう。

実はというと、昨夜、奈菜が宿泊しているホテルから帰宅した篤史は、先に帰宅していた哲哉に話さなかったのだ。それは依頼の手紙が送られてきた時もそうだった。しばらく自力でなんとか解決したい、という思いが先立ったのだ。

「篤史、被害者がストーカーに狙われている事をなぜ言わなかったんや?」

事件の概要を話さなかった息子に腹が立っていた哲哉は、まずは頭ごなしに怒らず、先に話を聞く事にした。

「親父の力を借りずになんとかしようと思って…。どうにもならへんかったら、親父に相談しようって思ってたんや」

警視の父親の前では手も足も出ない篤史は、正直に答える。

「その結果がこれか? 相談された時点でオレに言うてくれれば、被害者は亡くならへんかったかもしれへん。自分がやった事はどういうことがわかってるんか? お前は人一人を殺害してしまったんや」

息子に厳しい言葉を投げかける哲哉。

こればかりは哲哉に対して思う事が色々ある篤史でさえも何も言えないでいる。

「警視、そこまで言わなくても……」

町田警部は小川親子の間に入る。

「まぁ、いい。それで被害者が亡くなった現状はどうなっているんや?」

町田警部になだめられた哲哉は、現場がどうなっているのかを聞く。

「被害者のベッドの下から睡眠薬が入っている袋が見つかり、何十錠か飲んだ形跡がありました。睡眠薬を飲んだ後、風呂場まで行き、カミソリで手首を切った、という見解です」

その問いには水野刑事が答える。

「自殺というわけか?」

「現時点ではそう見ています」

続けて、水野刑事が答える。

「自殺ってわけではないと思うで。殺人と自殺の両方で調べたほうがいいと思うで」

哲哉が来るまでに聞いた話を踏まえて言う篤史。

「篤史の言う事が最もだが、今はそれを言える立場やないんと違うか? 篤史」

自分に話してくれなかった事を未だ怒っている哲哉は、今回ばかりは息子が出る幕はないと言い切る。

そう言われた篤史は、奈菜に申し訳ない気持ちからか、シュンとしながら頷く。

「奈菜が亡くなったってホンマですか!?」

そこに一人の男性が血相を変えてホテルに入ってきた。

「あなたは誰ですか?」

町田警部はその男性に対応する。

「坂田光一です。奈菜とは大学時代から付き合っていて、オレが奈良、奈菜が東京で遠距離恋愛をしていたんです」

そう答えた坂田光一は、やんちゃな感じの男性だ。

「坂田さん、ですか……」

奈菜の彼氏と聞いた町田警部は、手帳に名前を書き留めている。

「確かに江口さんは亡くなりました。自殺と他殺の両面から捜査しています」

「奈菜が自殺? そんなわけないやろ?」

有加子同様、奈菜が自殺ではないと言い張る光一。

「ですから、自殺と他殺の両面から捜査しています」

同じ言葉を繰り返す町田警部。

「ところで坂田さん、あなたは奈良にお住まいなんですよね? なぜ大阪にいらっしゃるんですか?」

町田警部は奈菜が亡くなったと一報が入ってから、そんなに経っていないのに、なぜ交際している光一が奈良から来たのか疑問を持つ。

「奈菜が仕事で大阪に来てるって連絡があって、このホテルとは別のホテルに友人と一緒に宿泊してるんです」

光一は友人と一緒に奈良から大阪に来ていると話す。

それを聞いた警官達はなるほど、と思う。

「そのご友人はどこに……?」

光一が言う友人が見当たらない事に不審に思った水野刑事は、辺りを見渡す。

そこにもう一人、別の男性がホテルに入ってくる。

「坂田、江口が亡くなったのはホンマか?」

「ホンマらしいわ」

短時間で憔悴しきってしまった光一は、ショックを隠し切れないまま答える。

「あなたの名前は?」

町田警部は光一の友人に名前を聞く。

「河村貴男です。オレも坂田と江口の大学時代の仲間です」

河村貴男は自分も二人の仲間だと答える。

(この人、どこかで……)

貴男を見た瞬間、どこかで見かけた人だな、と思う。

「警部、被害者のカバンから遺書が見つかりました!」

現場を捜査していた警官が、遺書を見つけたと報告してくる。

遺書と聞いた有加子、光一、貴男の三人はありえないという表情をする。

中身を開けた町田警部は、もう疲れた。さようなら。と書かれた遺書の内容を読み上げる。

「睡眠薬に遺書……。自殺の線がグッと濃くなったな」

哲哉はほぼ自殺だろうという口調だ。

「そうみたいですね」

町田警部も他殺の線は薄くなった、と思いながら頷く。

そして、篤史はそっとロビーを抜け出し、現場となった奈菜が宿泊している部屋に向かった。

まだ鑑識官が捜査中だったが、そんなことは関係なかった。というのも、自分の不注意で依頼してきた女性が亡くなった。それが篤史の中で悔やんでも悔やみきれなかった。せめて、父親である哲哉にだけでもストーカーの件を相談していれば、何か違ったのかもしれない。きちんと報告していれば、奈菜は亡くならなかったかもしれない。

そう思うと、篤史は自殺なのか他殺なのか、何がなんでも特定して、奈菜がなぜ亡くなったのかを判断したかったのだ。

奈菜が使用していた机の上には、ハードコンタクトレンズの容器が置かれていた。容器の中を見ると、中身が入っている。

(ハードコンタクトレンズ? 中身が入ってるな)

ハードコンタクトレンズの中身が容器に入っている事になんら疑問を持つ事はないのだが、自殺するにはおかしい、と思い始めた篤史。

そんな疑問を持ったまま、篤史は部屋からロビーに戻る。

「鑑識さんからの報告で、江口さんの死亡推定時刻は昨夜の十一時から日付が変わって午前一時半に二時間半やという事です。三人のアリバイをお聞きします」

町田警部は死亡推定時刻を報告すると、三人にアリバイを聞く。

「私は寝ていました。奈菜とは別の部屋です」

最初に有加子が答える。

「オレと河村は一緒にカラオケに行ってた」

光一は貴男と一緒だったと答える。

「坂田さんと川村さんはカラオケ店に確認すればいいでしょうが、太田さんのアリバイがね」

「そう言われても寝てたものは仕方ないんじゃないですか?」

有加子はアリバイ証明をしてくれる人物がいない事を冷静になりながら言う。

「坂田さん、江口さんって普段コンタクトレンズって付けてました?」

篤史は奈菜のハードコンタクトレンズの事を光一に聞いてみる。

「してたで。奈菜は強度の近視やったんや。だから寝る時以外はコンタクトしてたで」

光一は奈菜がハードコンタクトレンズを使用している事を知っているようだ。

「そうですか。ありがとうございます」

(強度の近視か。それやのにコンタクトレンズを取った形跡がある。おかしいやんな)

篤史はすでにハードコンタクトレンズが容器に入っている事に疑問を持つ。

「小川、河村って男、見た事ないか?」

翔也が篤史に小声で聞いてくる。

その問いをされた篤史は、自分も同じ事を思ったとドキリとしてしまう。

「そうやんな。オレも見た時、翔也と同じ事思ってた」

「もしかして、昨夜のストーカーの男と違うか?」

翔也は確信的な事を言う。

「ストーカー……?」

篤史はまさかと思いつつ、翔也を見る。

「オレらが近々見たっていえば昨夜しかないやろ?」

「確かに……」

昨夜見たストーカーの男だと気付いた篤史は、自分の中で何かが組み立っていくような気がしていた。

(江口さんのストーカーって河村さんなんか? もし、そうやとしたらなんでストーカーなんかするんや? 自分の友人の彼女やのにそこまでする必要はないやろ?)

篤史は貴男を見ながら、目の前に奈菜のストーカーがいると思うと胸の高鳴りをしていた。

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