単眼の探偵 1
その男、呉賀テツオの第一印象は想像を超えるものだった。
胸元に小さく魚の刺繍の付いた白いポロシャツ、豪腕と称するに相応しい二の腕。清潔感のある紺のジーンズに、カジュアルではあるものの控えめなスニーカー。アクセサリといったものは腕時計程度に収まり、極めて簡素な出で立ちだった。
しかし、それらで補えないほどに目を引くのは”単眼の機械頭”だった。
「やあ、君が依頼人の久住ハルカさんだね。どうぞお掛けになって」
その声質こそ(そもそもどこで声を出しているのかは不明だが)低音ではあったが、態度は極めて丁寧であり、声だけならば容易く緊張を解すものだろうと感じる。
しかし、顔の半分を占めるレンズのような単眼に覗き込まれると、より身体が強張っていく。
とは言え見た目に物怖じしていても意味はない。ぐっと拳を握って気持ちを引き絞り固まっていた口を開いた。
「あの! 依頼なんですが----」
「良いハーブディーが入ったんだ。いかがかな?」
「えっ、いやその……」
勇気で出した言葉は柔らかな口調に遮られ、あっけなく空中で瓦解する。戸惑う私を他所に呉賀さんは黙々とハーブティーを注ぎ、来客用の机の上に置く。
「どうぞ。立ち話もなんだし、座って飲むといい」
「あ、あのっ! 気持ちは嬉しいですが私は----」
「急いでいる、だろう? お父さんのことは私も心配だが、依頼人である君も心配だ」
「私は平気です! それよりも……」
「そのクマもそうだが目の充血が酷い。恐らく何か情報がないか寝る間も惜しんでネットで探していたのかな。でもその様子だと目ぼしい情報は無かったようだ。人はストレスを抱えた際にはどこかにぶつけて発散させる。君の場合は唇だね。何度か唇を噛んだのか僅かに腫れている」
まるでセラピストのような柔らかな態度に業を煮やし、声荒げかけた瞬間、呉賀さんは端を切ったように滑らかに告げた。
そしてその全てが見事的中していたからこそ、喉元まで出ていた言葉を見失った。
「どうしてそんな……」
「経験値による観察と推測さ。僕は元軍人でね。常に周囲を観察する癖が染みついているのさ。さ、まずは座って話を聞かせてくれるかな?」
呉賀さんはこれまでと変わらず柔らかな口調で座るよう促す。
先程の言動でそれまで感じていた物腰の柔らかさからくる不安感と不信感が緩やかに拭われていった。
私がソファに腰掛けると呉賀さんの単眼に「^」の記号が浮かび上がった。まるで絵文字のような感情表現に思わずプッと吹き出してしまった。
そう。元軍人でありサイボーグの「呉賀テツオ」との出会いは想像を超える程に柔らかなものだった。