囁き
平凡で普通を突っ走り、はや28年。彼女にも振られ、仕事もやらかしの日々。
このままアドレナリン無しの日々が続く……はずだった。
月から来た少女は俺に助けを求める。
あの静かに空に浮かぶ月は、今大戦争の真っ最中らしい!?
えっっ!俺なんかでいいんですか?
「****!」
俺は自分の叫び声で目が覚めた。
(変な夢だったなぁ…)
カーテンの隙間から月の光が部屋に差し込んでいて少 し明るい。今何時かと時計に目を向けると、午前2時と読み取れた。
「はぁ~、まだ夜中じゃん」
俺は再び布団をかぶり目を閉じるが、なか なか寝付けない。
かれこれ20分くらい経っただろうか、
(茶でも飲むか…)
俺は夢で少し興奮してしまった神経を鎮めるため、お茶を飲もうとリビングへ向かった。
さほど広くもない我が家は、寝室を出るとすぐリビングが見え、カーテンを閉めていないせいもあって、月明かりで照明を点ける必要がないくらい明るい。
俺はキッチンへ行きやかんを火にかけ、ぼーっとその火を見つめながらさっき見た夢を思い出していた。
銀髪の少女。月の光に照らされて、キラキラ輝く髪がとても印象的だった。年は10歳くらいだろうか。
「かわいかったなぁ」
別に幼女趣味では断じて、断じて!ないが、俺がその少女の顔を思い浮かべニヤニヤしていると、
『ぴーっ!』
と、やかんが俺を一括した。
「はぁ、30手前にもなって、何考えたるんだ…」
俺は湯気のたつカップを持ち、リビングのソファーに腰をおろす。
電気を点けない部屋から見る夜空は、やたら明るく感じた。
(明日も天気いいんかなぁ)
立ち上がりベランダへ近づく。
空には三日月にも満たない程の細い月が、暗い夜空を照らしていた。
「あんなんでもこんなに明るいなんて…健気だねぇ…」
か細いながらも存在感をみせる月。
自身満々に輝く月に嫉妬する。
「何俺月に妬いてんだか……何も考えてなかった昔に戻りたいなぁ……」
とかぼやいてみた。
誰でも1度や2度、過去に戻りたいと思った事はあるだろう。
戻れるなら高校生くらいがいいかなぁ。
連れと野球したり、ゲームしたり、(彼女はいなかったけど)、一番楽しかったなぁ(彼女欲しかったけど)
そんでもう少し勉強して、まともな大学入るな!
とか妄想を巡らしていると、月に一筋の雲が差しかかった。
「あ!!」
そのうすい雲は月に照らされ銀色に輝き、まるで長い髪のように見えた。
「夢で見た女の子みたいだ!えーと、名前は…」
………………あれ?
思い出せない?!
確かに夢で名前を呼んだはず。それで目が覚めたのに………
「俺、そんなにおじいちゃん……」
自分の残念な記憶力に老化を感じながら、
(夢だったししょうがないよね♡)
と、言い訳してベッドへ戻った。