興味の内側
深夜、背の高い金網と有刺鉄線が張り巡らされている敷地内を歩いていた。
敷地内には幾つかの小さな建物、そして、大きな『石の塊』がある。
それらを、一時間に一回、紺色の制服を着て見て回るだけの簡単な仕事だ。
真っ暗な中をブラブラと歩いてゆく。
灯りは落とされているため、わずかな月明かりと手に持った懐中電灯だけが頼りだった。
建物の外にも中にも異常がないことを確認してゆく。
しばらく歩き続けると、大きなコンクリートの壁の前に着いた。
その壁に寄りかかり、エリ元に付けたスピーカーマイクに話しかける。
「こっちは異常ないっスよぉ」
そう言うと間もなく、ザッ……と、小さく雑音が入り、
「『こっち』じゃなく場所を言え。あと『異常はありません』だ」
反対方向を見て回っている先輩が応えた。
いつも重苦しい先輩の声が、無線ではいつも以上に重苦しい。
「『石の塊』東側、異常はありませーん」
手に持っている大きな懐中電灯で、寄りかかっている『石の塊』を叩いた。
ボクが『石の塊』と呼んでいるこれは、本当に、ただの円柱状のコンクリートの塊なのだ。
一周しても入り口らしい入り口もなく、コンクリートの壁が続いているだけだ。
気になり、インターネット上の航空写真で上の部分も見たが、写真にはキレイな灰色の真っ平らな円形があるだけだった。
「先輩、オレらってなにを見回ってるんスかねぇ?」
大した期待もせずに聞いてみた。
「……うちが委託されている仕事は『建造物にダレも近づけない』ということだけだ」
先輩の話の途中で、
ドッ……ドッ……ドッ、ドッ、ドッ、ドドドドドドッ――
地面が大音量の唸りを上げた。
足元が大きく揺れはじめ、それを皮切りに更に大きな機械の動く音がひびき始める。
毎晩同じ時間、同じように動き出すが、なんの音なのかはまったくわからなかった。
「オレたちの気にすることじゃない。さっさと一周して戻ってこい」
騒音の中で、その言葉を最後に先輩は通信を切ってしまう。
先輩の言葉は無視して、壁のような『石の塊』に近づいてよく見てみる。
打ちっぱなしのコンクリートのようだが、異常なほど滑らかだ。
地面よりも石の振動のほうが強い。
震源は、やはり、この石の内部だと思う。
地面を揺らすほどなのだから、中ではとても大きなものが動いているのだろう。
さっさと済ませてしまおうと、石の外周を早足で回ってゆく。
半周を過ぎ、もう十メートルでゴールというとき、
――ンッ、ドンッ!
すぐ横の壁から、おかしな音と振動を感じた。
地鳴りのように辺り一帯に響いているリズミカルで単調な機械の動く振動とは異なるものだった。
なかからヒトが叩いている――そんなふうに思えた。
手を当て、耳を押し付け、石の中の音に意識を澄ませた。
鈍く響く機械の音。
そのなかに、わずかだがやはりヒトの――
「オイ」
突然の声とともに、後ろからエリ首を掴まれた。
すごいチカラで壁から引き剥がされる――はずだった。
ボクの手と顔の側面とが『石の塊』から離れなかった。
「あぁ……これはもう付いたな」
横目で声の主を見ると、それは先輩だった。
相変わらずの無愛想な顔が、いつも以上に無愛想だ。
――くっついた?なんの話だ?
そう思い石から離れようとするが、びくともしない。
どうやら本当にくっついているらしかった。
「へんはい?」
クチまでくっついてしまっているため、うまく喋ることが出来ない。
「そろそろやるんじゃないかと思ってな」
自分のチカラで壁を押して剥がそうとするが、そうすることで、むしろ少しずつ手が石に飲まれているように思えた。
「オレの知る限り、お前で四人目だ。珍しいことじゃない」
言いながら先輩は、トランシーバーや懐中電灯やなどの支給品をボクのカラダから外していた。
「あいをひへ――おぶッ」
話している途中で、壁に顔を押し付けられてしまう。
顔が石にめり込んでいるにも関わらず、息苦しさはなかった。
「十五分ぐらいすれば終わるから。……まぁ、あきらめろ」
先輩はボクの背中に手を当て、カラダを石に押し付けた。そして、くっついてしまう。
もがけばもがくほどにめり込んでゆく。
真っ暗な視界、背後からは先輩の足音が遠のいてゆくのが聞こえる。




