Episode,2 神嫌いな人里のキネシスマン
またも、突然だが。この2人は、旅をしている。そう、大男の里に帰る為の旅を。少女の里の方へは行かないのかって、何を言うんだよ。
少女の種族が分からないのに、自ら死に行くのかい? もし神族だった場合、人喰族はその土に足の裏が触れただけで終わりだろう。土地神様からの天罰と言われているが、でも逆に人族だった場合、大男の里は北のもっと向こうで、大きな人里行こうとすれば反対の南のもっともっと向こうである。
2人の足では、短くて7ヶ月で着く。長くて10ヶ月。
それに比べて、大男の里、人喰族の里はざっと言って3ヶ月。短くても長くても3ヶ月だろう。
どうして今日は里の話をしたかは、この話を読んでいけば分かるよ。
「……あづい…あづぐないの?」
『暑くない。』
「ありえねぇ」
と、頬をつたい顎下まで来た汗を手の甲で拭うと前を向いた。
人喰族の大男・ギュラ。
『いくらでもいると、思う。』
その隣を歩く人間の少女・キュー。
「…そろそろ、ちょっとちゃう人里でも見えりゃーええんやけどなぁ……」
『ねぇ、時々思うけど、何なのその口調』
「あ、これは、俺が親父似やからや。」
ギュラは、家族の事を軽く話し始めた。
「でな、親父さー、ブリッジでトイレし…あ、キューは家族とかどんなんなんだ?」
『さぁ』
「さぁ…って、お前の家族だろー?」
キューは、いつもより少し足を速め出した。
「え、速い。うん、ちょっと待って。」
それでも、ドンドン足を速めていく。
「速いって!!…俺、脳筋!脳筋だから!」
何とかしてキューの足を遅めようと説得する。
そんな事をしてる内に、とある薄い白色の塀に囲まれた大きさは中位の人里の前に着いた。
「…泊めてもらう事は、出来そーだな。」
人族は、ほぼ全ての種族と仲が良く。心が広いらしい。
「すみません、」
塀の門の銀の鎧を身につけた兵士達に話をかけるギュラ。キューは、そんなギュラの背中から顔を覗かせキョロキョロと周りを観察する。
「では、お入り下さい。」
ギイィィィという音ともに、木で作られた門が重く開く。
「我が街、クリスティルをお楽しみください!!」
その言葉が終わると同時に門に一歩足を踏み入れる。その時、ギュラは恐る恐る踏み入れていた。もし、この人里に土地神が居座っていたら危ないからだ。
『早く行って』
キューは、そう言って蹴りという名の膝カックンをする。
「あうっ、痛い…俺、この前の狩りん時の痛み若干残ってんだよ〜」
『じゃあ、何で休まなかった。』
「そ、それは…」
『僕に言って、休むことはいつでもいくらでも出来た筈、どうしてしなかった。』
キューは、周りを観察しながら歩いていた。
「…それは、一秒でも早く。里につきたかったから…」
『先ずは、あんたが健康になって、里につく事だろ。』
そう言うと、キューは先へ急いだ。
「…そうだな、先ずは宿探しだな。」
『この前狩った魔物の毛皮売り。』
キューにそう言われて、ギュラは衣売りの所へと急いだ。
「750エール、…」
ギュラの手には8枚の紙のお金。
それを見たキューは『微妙』と伝えた。
「言うなよ!言わなかったのに!!」
猫が威嚇する様に喚いた。ギュラは、手に持ったお金を再度見る。
『本当の事だ。』
「でも、宿費はとれる!」
『なら、良い。』
と、キューがまた前を向いた瞬間、女の人とぶつかった。
「きゃっ、ごめんなさい!」
女の人が持っていた大きな籠の中の小さい木の実が散らばる。
「あーあ、キュー何やってんのー?」
ニヤニヤしながらギュラはキューに言った。
だが、それより怖い顔でキューから睨み返された。
「うっ、ごめんって。」
『ごめんなさい、大丈夫じゃないですね。』
と手枷がついた手で一つ一つ大事に拾い上げる。それに気付いた女性は、少しずつゆっくりと確実に拾った。
そして、最後の一個をキューが拾うと女性が「それはあげるわ」と、キューの手を自分の手で包み込む。
『ありがとうございます。』
キューは素っ気なく離れて、ギュラの元へと去った。
「お兄さん、ですか?」
女性は、大きな籠を持ちながら立ち上がった。
「え、嫌、…相棒です!!」
「相棒?」
女性は首を傾げて、キューを見つめる。
「そうなんですか〜」
そう言って女性は小走りで2人に近付き、キューに目線を合わせるため、中越しになり、籠を地面に置いた。
「名前はなんていうのかな?」
『キュー』
「そうなんだ〜、私はクリスティーナ。クリスティーナ・コウスキーキ。ティナって呼んでね!」
キューは、そっぽを向きながら考えるとティナの方へ向き返し、伝えた。
『ティナさん、』
「あ、」
ギュラが何かに反応した。
「何で、ティナはさん付けなの?!」
『お姉さんじゃん。立派な。』
「俺も立派なお兄さん!」
『自称じゃん。』
そんな光景を見て、ティナは微笑んだ。
「あははは、本当の兄妹みたいね!仲悪いんだが、良いんだかって感じで!
そういえば、貴方の名前は?」
ティナは、ギュラに訪ねた。
「俺?俺は、ギュドラだ。ギュドラ・クリースコ。ギュラで大丈夫だぞ!」
「はい、分かりました。ギュラくん。キューちゃん。」
『うん』
「は?!何でキュー、そんな素直なんだよ!」
キューは、怒ったギュラの膝を後ろから思いっきり蹴る。
「だがら、いだめでるっで…ッ!!」
それに構わず、もう一回ぶっ蹴る。
「あ、私、雑貨屋をやっているのだけれど。貴方達、旅人よね? 是非来て!ね?」
半ば無理矢理にティナは、キューを引っ張り、自分の店へと連れていく。連れていかれるキューは、後ろのギュラをチラッと見た。
「あ!待ってくれよっ!!」
ギュラは、2人を追いかけた。
ティナの足は、タンタンッと軽いスキップを奏でている。
里の人達はティナを見た瞬間、疲れたような顔が笑顔になり、声をかける。
最初は、魚屋の叔父さん。少しデタラメについた木の板の箱を運んでいた。
「よぉ!今日も、元気だね。また、旅人さん、連れて!」
次は、鮮やかな色の花を売るお婆さん。12色のブーケをお客さんに渡そうとしていた。
「ティナちゃん!今日、いい花があるから、後でおいで!」
その後は、ティナの雑貨屋に着くまで、里の全員に話しかけられたのではないかという位話しかけられた。
「此処!」
ティナが指を差した方向を見ると、少し古ぼけたような白いと金の線で彩られた店だった。
「……綺麗でしょ?」
『今までの店と比べれば。』
「ささっ、入って!!」
ギュラが着いたと思って少し休んでいると、また行動を開始して、店の中へと入り出したティナとキュー。息を荒らげながら、渋々と店の中へと足を踏み入れるとシュトと音がした。 それは、ギュラのすぐ右横の壁でだ。
恐る恐る、右横の壁を見ると立派に磨かれたナイフが一本刺さっていた。
「あーあ、当たんなかった。」
レジの机から降りた厚い重ね着の男は、マスクで口を隠していた。その男は、ナイフを抜くと恐怖に怯えているギュラと目を合わせた。一つため息を吐くと、背を向けて数歩歩き止めた。
「……ディーナー、ディーナー・ブランケット・コット。皆から、ブランと言われている。お前の事は、ティナから聞いた。」
そのまま、ブランが歩いていったのは、レジの机。その机の横には、ティナに抱きつかれたキュー。その場所の近くの机にブランは、腰をかけた。
「すみません、何が起きたんですか?」
ギュラが恐る恐るティナ達に近付くと、ブランがギュラの首元にナイフを突き立てる。
「うわっ?! あ、危ないだろ!!?」
抗議をするギュラ。それに対して、ブランは答えた。
「……反応、出来ただろ。人喰族なら。」
其処でハッとした、いくら人族でもティナや里の人達みたいに中身まで優しい人は少ない。 例えば、ブランだ。最も悪い例と言っていいだろう。恐怖に怯えてる奴も居れば、こうやって戦おうとする者も現れる。最近、そういう集団が出来たとか出来てないとか、噂があった気がする。
「…た、確かに反応は、出来た。」
そう言って、ギュラは一歩下がり距離を取る。
「そして、色んな考察が出来ても良いだろう。」
ナイフを下げ、また背を向けるブラン。
「例えば、ティナがお前の敵だったとするぞ。……今の状況は。」
「あ」
ティナが抱いているのはキュー。キューは、捕まってる。
「万が一の時の事と、危機感、それと人を疑う事を考えろ。後、今の俺にも攻撃が出来る。」
「ねぇねぇ、そんな話してないでもっと楽しい話しない?!」
ティナが口を挟む、ブランはそれを見ると呆れたようにレジの机に片手を添え、飛び越え、レジ番に戻る。
「しろよ。話。」
「うん!私の店はね、さっきも言ったように雑貨屋なの!」
と、ティナはキューから離れながら店内をくるくると回る。
「…キュー、大丈夫か?」
『気にはしない事』
それを言って、腰を屈めた床に置かれた商品を見つめていた。その商品は、綺麗な星型の宝石で出来たチョーカー。
「……キューに似合いそうだな。」
『何言ってんの』
「ティナ、これいくら?」
ギュラは、その宝石を指さした。ティナは、商品の位置を把握しているようでその問いにはすぐに答えた。
「スタースリーチョーカーね!320エールになりまーす!」
手持ちは、750エール。
「げっ、たけっ…。」
「宿は取ってあるの?」
ティナがギュラに問いかけた。困惑しているギュラに代わり、キューが答えた。
『まだ、』
「あれれ、だったら足りないね。」
「え」
「ここのお宿は、1人…500円なの。」
と、ティナは左手の指を全部立てながら、言った。
「うわぁぁぁっ!もっと、狩っとくべきだったぁぁ!」
頭を抱え出すギュラ。そんな時、レジ番をしていたブランがティナを呼び出した。
「なぁに、ブラン?」
「アイツら、泊めてやれば…。どうせ、商売の支障にはならない。」
トントンと指で机を叩きながら、簿記のページを捲った。
「…ブラン、今日は何だか穏やか!」
「…………は? お得意の〝アレ〟か?ハッ、癪に障るな。とっととやれ。」
ブランは、のそっと座っていた椅子から立ち上がり、ティナのおでこにデコピンをする。
「いったーいっ!女の子のお肌は敏感なんだぞーっ!」
と、デコピンをされた所を涙目で両手で抑える。
「じゃあ、言ってくるからね!」
「……そんなん、求めてねぇよ。〝紛い物〟。」
ブランの声がマスクの中で貯まり消える。彼の声は嘘はつけない。そういう〝生き物〟だからだ。
「2人とも〜、今日は私の家に泊まっていかない? 何のくらい泊まっていくの?」
ティナの問いにギュラが悩む。キューは、そのギュラを見つめギュラの足を見た後。ティナの顔を見て言った。
『1週間。1週間で。』
「は?! 1週間?!何、言ってんだよ?!」
怒ったギュラは乱暴にキューの肩を掴み、振り向かせる。
「俺は、1日でも!早くッ!!里に着きてぇんだよ!!!こんな所でそんな道草喰ってる場合じゃ…!」
「止めろよ、」
ブランがギュラとキューの間にナイフを3本入れる。
「……お前、人の〝気持ち〟ってもんを考えた事あるか? この餓鬼は、お前の為にそんなに長くしてやってんだ。…分かるよな?」
“ 『先ずは、あんたが健康になって、里につく事だろ。』”
この里に来た時のキューの言葉を思い出した。
「……あ、そうだったな。キュー、お前でも心配してくれてるんだよな。」
『忘れてたか、三歩歩いて忘れるやつか。』
「そうそう!それ!俺、それなんだよ!」
と、ギュラはティナに320エールを余分に30エール払った。ギュラは、それをお礼として見てくださいと言って受け取ってもらった。
「……1週間経ったら、早くこの里から出てけ。人外。」
ブランは、ギュラを睨んだ。
「うっ、分かったよぉ…そんなに睨まいでくれ……。」
『心配してるんだが、してないんだかな』
「そうだな…キュー、」
ギュラは、少し疲れ気味に頭を抱え、キューに問った。
「お前さ、真名…何っーの…」
その問いに対して、少し考えるとキューは答えた。
『知らなくても、あんたは生きれるし、大丈夫だ。知らなくてもな。』
その時、ティナの大きな声がギュラとキューを呼ぶ。
『じゃあ、先行ってるから。』
そう言って、キューはギュラをその場に置いて、足枷を揺らしながら走っていった。
「…そうか。生きてけるか、キューって知ってるだけ……良いか。」
ギュラは、しっかりと前を向くとティナの後を着いて行く。二階へと来た。
2階は、少し狭い様だがまあ綺麗な方だろう。
廊下を歩いて分かったことがある、扉と扉の間に三本とも違う色の花が立ててある花瓶が置かれている事。
「この花はね、いつもブランが持ってきてくれるの!綺麗だよね〜!」
ティナは、花を横目で見ながら廊下を歩く。
花瓶には、ブルニア、ローレル、スモモの花が飾られている。
『ティナさん、』
「どうしたのー?」
『あの人とは、部屋を別にしてもらえませんか?』
と、キューはギュラを見た。
「な、何で?!」
すると、パンと手と手を叩き合わせると少し大きな声で言った。
「あー、女の子ですからね〜!」
「あ」
『嫌、分かろう。あんたも一応男。』
「はい……」
キューの発言でギュラはブランと一緒の部屋に、キューはティナの部屋に行くことになった。
「あー、何でこーなったのかなー」
「こっちの台詞だ。何で、お前なんかと…」
ブランの部屋は、ベッドが2つ。部屋の半分以上をベッドが支配している。そして、窓が1つと小さな棚が1つ。そして、木の天井から垂れ下がる1つの小さな電球。
「……古いな…」
ギュラは、上から見て左のベッドに仰向けに寝転んでいた。おでこに手の甲を置くと、隣のベッドの上で色んな工具を散りばめて何かを弄っているあぐらをかいているブランを見た。
「何してんの?」
「……これは、…魔連動オルゴールだ。」
「ま、まれんどー?」
「そっ、魔連動だ。…知らないのか?……魔連動っーのはな、魔力で動いてその魔力の属性に反応して曲を変え、奏でるって奴だ。……餓鬼が居るんなら、知ってるだろ。人型の子供に人気だからな。特に魔族。」
ブランは、自分の魔力を少し流すと棚の上に置いた。それと同時に音が鳴り出す。
その音は、強く悲しそうで優しい音だった。
「…寝ろよ、……あ、寝る前に明日、何か食いたいもんあるか?」
「喰いたい物? んーっ、ハンバーグ!肉汁たっぷりで!」
「体に悪いぞ。」
「俺が喰いたいから良いんだよーっ!てか、お前が作んのかよ。心配!」
ブランは、寝っ転がりながら答えた。
「明日は俺がご飯で、デザートはティナの担当。」
「つまり、当番制だな!」
「それ以外なんがあんだよ。」
そう言って、ブランは小さなボールを投げて、電球のスイッチを押した。電球の光が消える。オルゴールの音と月の光に眠りに誘われる。
「お休み…」
「ああ、寝ろ。」
ブラン、こんな時でもマスク外さないのかよ…。
そうして、ギュラは眠りについた。
翌朝、ブランはもう起きたのか。ベッドには居なかった。
「……起こしてくれりゃー良いのに。」
立ち上がった瞬間、ドンと大きな音が聞こえた。二階である事は確かだ。
ギュラは、音のした方向へ走り出した。
着いた所は台所。
「いて、…ティナ、お前火は弄んなよ。オーブン弄れよッ!?」
ブランは、オーブンを強く指さす。
相変わらず、ティナは笑っていた。
「…あれ?ギュラくん、起きてたんだぁ!」
ティナは、ボールを抱えながらこちらへ振り返った。
「おはよう、…何してるんすか?」
「あー、これ?」
ブランが曲がったフライパンを見ると、ティナを真顔で見た。
「あははさっき、やっちゃって〜」
頭を掻きながら、申し訳なさそうに言った。
「……だから、ティナぁ、…火は弄んなってっつってんだろぉぉぉがぁぁぁぁ!!!!!!」
バキンと音を立てながら、ブランが持っていたフライパンの取っ手を握り壊す。
目だけで、あれだけ気迫がある。
「ごめんね〜、ちゃんとマカロニ作るから、ね?」
手を合わせて、ブランに謝罪をする。
「今回は許してやる、その代わりデザートに専念しろ。…後、マカロンな。」
そう言いながら、ブランはメモ帳とペンを胸ポケットから取り出し、フライパンとマカロンとハンバーグの具材を書いて、ティナに押し付けた。
「……あー、ねみぃ…フライパンは一番いいのは買ってこい。」
と、椅子に座り、机に伏せ、眠りにつく。
「じゃ、私、行ってくるね!晩御飯楽しみにしててね♪」
ティナはギュラにそう呟きながら、隣を通りすがった。ギュラは、首元に右手を添えるとキューを探し始めた。
「キュー!キュー?!起きてるよなー?」
ガタンと聞こえた。 何処からだ。と、ギュラは音がする方へ進んだ。
「……ここかな、」
倉庫から聞こえた。何で倉庫なんかに、と思いながら開く。
そこには、沢山の荷物に埋もれているキューが見つかった。
「?!キュー!どうしたんだよ!これ!?」
『良いから、退けろ。足の部分しか退けれない。』
「あ、ああ!今、退けるな!?」
ギュラは、荷物を整えながら退けた。そして、退け終えるとキューの上半身を立たせながら「……大丈夫か?」と言った。
『大丈夫だ、あんたは。』
「え、俺?さっき、起きてー…」
また、首元に右手を置きながら宙を見た。
「ティナ達見てー」
『ティナ、さん…』
「……ティナと何かあったのか?」
キューは立ち上がると、ギュラの隣を通ろうとした時。
「待てよ、何かあったんだろ?…言えよ。」
冷静なギュラは、キューにとっては久しぶりだろう。キューは振り返ると言った。
『ティナは、〝キネシスマン〟だ。』
「……え、」
『どういった力かは、知らないけど。』
それだけを言って倉庫から去りゆくキューは、済ました顔で生活を続けようとする。
彼女は、知らない。クリスティーナ・コウスキーキが〝キネシスマン〟と知っただけで、この村では────────大罪だと言う事を。
そして、彼女は今日の日常を1人で過ごそうとしてしまっていた。
「─────枷のお嬢さん、少し宜しいでしょうか?」
そして、満月の夜。ギュラも一人トボトボと村を歩いていた。今日はヤケに村は静かだった。
「帰らなくちゃいけねーのに、……」
ギュラは、ティナの力の詳細を知ろうとしていた。だが、何の成果も無し。
「…あーあ!何の為にあるいてんだがっ…!」
ギュラは夜空を見つめた。風の音が静寂を揺らす。
「この里、こんなに静かだっけ…キューならわかんだろぉーな!」
と手を伸ばした時、声が聞こえた。ギュラは振り返る。里の民達が火のついた松明を掲げながら、ギュラを指差して、何かの怒号の様な声を上げる。
「居たぞ!人喰族だ!」
「俺ぇ?! 逃げた方が良さ────」
前向いたギュラのこめかみに何かが掠り、その何かは地面に突き刺さった。…獣の小さな牙、何故、こんな物が飛んできたんだ。
「…何で、…?!」
ギュラが後退りで少し前進ながら、横目で後ろを見た。
民達が持っていたのは、吹き矢。確かに、獣の牙は飛ばせる。
「何でっ、吹き矢なんて!物騒すぎだろ!!この里!」
キューよりかは遅いが、走り出した。
もし、捕まったら?考えたくない。
だが、そんな考えを巡らせていたギュラも力尽き、立ち止まっていると民の男が吹き矢から牙を飛ばして来た。
もう駄目だ刺さると思って目を閉じた時、鎖の揺れる音が聞こえ、目を開けた。
キューが足で牙を蹴り飛ばしたのだ。
「キュー!お前、今まで何処で……」
キューの首には、枷がしてあった。でも、そんなに丈夫そうな物じゃなく、呪物でもなさそうだ。
「こん位ならっ…!」
バキンと手で首枷をぶち壊した。
『ありがとさん』
ギュラに会えて、ほっとしたのか膝を地面につけた。
(……疲れたのか、ここまで…走ってきてくれたんだな。)
『どっかの誰かさんの所為で、疲れた。』
「わ、悪かったなぁ…!!こっちだって、今さっきこんなこったなったんだ!」
『そう、根源に行く事は?』
キューは、真っ直ぐ見つめてくる。キューの真剣な時の目はギュラには怖く見えるらしく、怖気づいた様に溜めった息を吐いて
「何処か、分かんか?」
『目星位ついてなきゃ、行こうって僕は言わない。』
「…ほんじゃ、走っか!」
走り出すと、キューもギュラのスピードに合わせて走っている。
行く先は村長の家。この里では少し珍しい地面から生えた木を中心に家を作り上げた家。
「腐ってない事が奇跡って言われる奴だ…!」
『腐らせたいのか。』
「ちゃうわ!!」
キューは、村長の家の前に着くと扉を蹴り壊した。金具の方は壊れてないので、後々修復は可能だろう。
2人は同時に足を踏み入れた。2人の目の前には、槍を構えた男2人が居た。手元から仄かに煙が出て光ってる、強化魔法を使っている様だった。だが、強化魔法などでは、2人は止められない。
その男を2人は蹴り飛ばし、投げ飛ばす。正に無双。
「キュー!!怪我ないか?!」
『足くらいどうってはこない。』
ギュラは、キューの足を見ると切り傷がある事に気付いた。村族と、人無族は傷の治りが格段に違う。人無族は、切り傷は30分程度で治る。
“ 「私、傷の痛みも心の痛みも、嫌いなの。─────守ってくれる?」”
長髪の女性の声が頭に響く。 嫌だ嫌だ嫌だ、と心の中で叫ぶとギュラはキューが蹴り飛ばした相手を殴りにかかった。
少し驚いたキューは、すぐさま。
『止めろ、それ以上危害を食わればどうなるか。分かるよな。』
ギュラは、キューの気持ちを聞くと殴るのを止め、キューに頭を下げた。
「ごめん、また迷惑をかける所だった…ごめん。」
『もうかけてる』
「ごめん」
その時、白いヒゲの濃い村長が杖を支えに立ち上がった。
「仲がええのぉ。…所で、其処の枷のお嬢ちゃん…〝キネシスマン〟かのう?」
『そう思ってもらっても構いませんよ、髭爺。』
すると、村人が「お前、村長になんて事を」と叫ぶが村長がそれを静かに止めた。
「…それでの、話があるんじゃが。」
村長が杖を少し下を持ち、杖の先を床から離すと唱えた。
「自然豊かな世界に問う 我は自然に生きよう
──────────〝マナクルウィッヅ«枷の森»〟!!」
村長は、杖をぐるぐると回しながら、魔陣──魔法陣を作っていく。
「これって、もしかしなくてもヤバ───」
その時、ギュラの首に木が絡まった。
『何やるんだよ、クソ爺。』
珍しく怒るキュー。村長は、不敵な笑い声を上げると魔法の風と共に話し始めた。
「儂等は、神様と言う手の届かないお方に信仰はしない。それに、神と思っとらんのじゃ…〝キネシスマン〟が唯一の神と思っておるんじゃよ…。……それに、お嬢ちゃんは〝キネシスマン〟。クリスティーナも、〝キネシスマン〟。神が2人もこの里に居られるのは、奇跡に近い事じゃどうじゃ?お嬢ちゃん、この里に住まないか?不自由はさせない。只、里から出ない事だけを約束してくれれば。」
『その生活も、楽そうだが。僕は、この馬鹿を里までエスコートしなきゃ駄目だろうから。無理────』
村長は、杖の先でキューを差すと言った。
「拒否権がない事を言うのを忘れていた。悪かったね、お嬢ちゃん」
キューが、村人達に取り押さえられる。
「き、キュー!!」
ギュラも、何とか声が出せる状態。少しずつ木の締め付けが強くなっているのだ。
「止めろ!」
村人がギュラを見ると呆れたように言った。
「拒否権は無いと言った。そして、お前を処刑する。神様にお前のような野蛮な種族をつかせておく訳にはいかない。」
「チッ、離し…やがれッ!!!」
ギュラは、その村人の腹を蹴る。
「かっ…………てめぇ────ッ!!!!」
村人がギュラの顔を殴ろうとした時、指を鳴らす音が聞こえ、ギュラの首を締め付けていた木が一瞬で燃える。
ギュラがそんな中、少し見えたのは村長の椅子の後ろで人が持っていたナイフが輝いていた事。
「ケホッガハッ……ぎゅー!!」
声が枯れている、その時キューを取り押さえている村人が1人吹っ飛んだ。
そして、1人が吹っ飛んだ事で周りの力が全て緩んだ。全員で強化魔法を使っていたのだろう。
「離せェェェェェッ!!!」
ギュラは、得意の腕力でキューを助けるとキューは気絶していた。あんなに暑い男の中に居たからだろう。
「…遅くなった、ごめん……疲れてるよな。」
キューを抱っこすると扉へ向かおうとしていたギュラは、村人によって塞がれてしまう。
「……クソがッ……!!」
また、指が鳴る音が聞こえると1人の村人の服が燃え始めた。「ああああっ!」「うわあああ!」「こっち来んなああ!」などの悲鳴が聞こえる中、ギュラの手を取り、村長の家から出る者がいた。
「ブラン?!何で、お前、……!!」
「この里は危険だ。それに、あの村長、魔族だぞ。…餓鬼も何で知ってって言わねーんだよ。」
ブランは目的地を教えず、ギュラの手を掴んで走る。
「神は、嫌いだ。…望めば望む程、本当に存在しちまうからな。」
「…詳しく、説明出来るならしてくれるか?」
「……ティナの野郎、自分が神にならなくちゃって頑張っててさ。……でも、それは逆効果だった。そして、…ティナは、二重人格になったんだ。」
「二重人格…?」
ブランは、少しずつ話し始めた。
「一つ目は、元の優しい性格。二つ目は神としての人格だ。…本物の神になろうと今も必死なんだ。皆に平等に愛を、ってな。」
「……辛かったな、おまえもティナも。」
「は?何で、俺が…」
ギュラは、キューを見ながら、言った。
「俺も、多分だけど…辛い事が合ったんだよ。残念だけど、俺、そういう所の記憶が欠如してるみてぇで……」
「記憶喪失、か。」
空を見上げて、月を眺めると一段と走るのを早めたブラン。
「ちょっ!!ブラン!!!痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」
涙目になりながら走っているギュラを置いて、ブランは里の裏口を通って、その先に居るティナと出会った。
「ティナ……」
ブランがティナの名前を口にする。
「同じ〝キネシスマン〟としての自由は、〝力の発展〟にも繋がると言っておきましょう。
…じゃあね、ギュラ!!」
ティナは、目に涙を貯めていた。ティナもティナなりに己の間違いを気付いていたのだろう。
「ああ、また会える時、会えたらいいな。」
ギュラは、森へ続いている道を駆け足で走り始めた。そんなギュラをティナは、静かに見つめていた。
その場に取り残されたティナと、ブラン。すると、ブランがティナの後ろから静かに優しくティナに抱きついた。
「……今日は、満月かぁ。」
ティナは、空を見上げながら、呟いた。ブランは、右手でゆっくりとマスクを外す。
「…くれるよな?」
静かに呟いたブランの口の歯は、全て尖っていて白く輝いていた。
「お腹空いたのかぁ…そっか……飲む?」
「ああ、」
ブランはティナの首に噛み付いた。
(本当は、ずっと前からお腹空いて癖に…我慢しがちなんだから。……オーラで分かるんだよ、こっちは。)
ティナは、《オーラを見る力》の〝キネシスマン〟である。これは、キューの力よりかは制御可能な能力である
そして、ブランは新種族の〝吸血族〟である。まだ、知名度は低いがそこそこの数がそこそこ増えている。
(あの子達のオーラ、不思議だったな。…それにしても、キューちゃん、正直な子なんだね。)
「森、…俺も、……眠い………。」
ギュラは、キューを地面に寝かせるとその場に倒れて寝だした。
月の光が2人を照らす。