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苦手な方はご注意ください。

Jonathan Burning -最後通牒-

作者: 井鷹 冬樹

 大きな暗雲が高層ビル群を立ち込め始めている。その壁に水滴が、滴り始めようとしていた。その高層ビルの中にある会長室には、目をつむりふんぞり返っている老年の男がいる。

 応接のソファに、ジョナサン・バーニングが足を組み、時間を確認した。


「ふむ……」


 時間は深夜0時。


 男は時間を確認した後で、眠る老人の脈をとった。

 心拍は平常。この心拍はのちに下がったり上がったりと変化していくが、最終的にはまっすぐな横線を示していくのだ。

 彼は安らかな眠りついたと答えるには、少々無理があるが、彼が苦しんでもジョナサンにとって計画の範囲内。

 そろそろ心拍に変化が起き、苦しみ始める。


「っぐ……ごっ……」


 老人は途端に、睡眠を続けながらも苦しそうに胸を掻き毟った。

 ジョナサンは、腕時計で確認しながら、小さく呟く。


「急げ……急ぐんだ……」


 老人の目覚めはもう来ない。

 掻き毟ろうとする動きもやめ、手はゆっくり下へと崩れ落ちていった。

 ジョナサンは、彼がもう息をしていない事を確認した後で、機材を床に置いていた黒いリュックに入れて、この部屋に侵入する為に開けていた通気口の元へと近づいた。


「15秒の遅れか。くそっ」


 彼は、通気口の中へ入り、内側からボルトをしめ直す。

 そのまま狭い空間を慎重に通りながら、ジョナサンの計画は第2段階へと移った。

 通気口から人気のいないリネン室へ入り、埃かぶった黒い服を脱ぎはじめ、脱いだ服をリュックに入れる。

 予め着けていたスーツを確認し、リュックをゴミ箱に入れ、リネン室から出ていった。

 

 後日、通りの大きな電光掲示板とモニターが、ニュースが流れている。ニュースの内容は、大手軍需産業の会長が急性脳梗塞によって死去したとの事。




 それから2週間が経つ。



 彼の日常は大抵、自分の楽しみと仕事の練習に時間を費やした一日。それは、この業界の仕事を教えてくれた師からの教えだった。

 その教えを守るために、彼はチェスが楽しめるカフェで、そこの常連とチェスをする。それが彼の楽しみである。

 時間が午後の5時になると、彼はチェスを止めて、家に戻り、仕事の練習。練習は2時間で、内容はお手製の射撃場で射撃、木人を使った武術稽古など様々な練習。

 その2時間を終えると、彼は体を洗い、着替えて、いつものネットカフェにより、パソコンを使い始める。

 パソコンを使うのは、ブログ更新……。というのは名ばかりで、実際は、匿名依頼・連絡がないかを確認だった。

 その予定は変わる事無く、毎日、その繰り返しで過ごしていた。ただ、その繰り返しが突然、変わる日はある。

 

 午前3時。


 ジョナサンは目を開けた。

 自室のエアコンが涼しい風を与えてくれている。彼は体勢を変えて、横たわっていたベッドから、起き上がった。背伸びをし、いつも通り、寝室からダイニングキッチンが備わったリビングを通り、食器棚に置いていた透明なガラスコップと歯ブラシを取り、軽いあくびがジョナサンを襲いながら、洗面所へと向かった。

 鏡に映る自分を見ながら歯磨きをし、自分の白い歯により光沢と純白さに磨きをかけていく。口をゆすぎ、顔を洗い、タオルで水滴をふき取っていく。水滴をふき取ったタオルをかごに入れ、洗面所から出るとリビングのソファに男が座っていた。彼の姿はスーツで、ネクタイはなく、どこか落ち着いている。

 彼の正体は、ジョナサンは分かっていた。大抵こういう入り方をするのは、同業者かマフィアか元同業の友人か。


「やぁ、バーニー」

 

 ジョナサンは男の声に対して、彼が元同業の友人であるマイケル・タージェスである事を悟り、溜息をついた。


「随分と迷惑な入り方だな? どこで学んだ? マイク」


「まぁ、そう怒るな。この前の仕事実に見事だったぜ」


「そりゃどうも」


 彼は組んでいる足を変えて、ジョナサンに告げた。


「だがな、別の問題も発生してるのは、知っているか?」


「何?」


 彼は疑心を持つジョナサンに数枚の紙を手渡す。

 手渡された紙をジョナサンは、左手に持ち、目を通した。

 最初の文面には《報告書》というタイトルで記されている。


「お前がこの前、あの軍需産業の狸爺を殺っただろ? どうやら、表は自然死で片付けたそうだが、裏では、殺った人間を追いかけているらしくてな。片端から探し回っているらしい」


「それでわざわざ、俺にこの情報を?」


「お前を失いたくはないからな。いい仕事関係だからな」


 マイクは席を立ち、リビングから出ていこうとしている。


「ああそれと、次の仕事の依頼も来ているらしいが、やめておいた方がいい」


「随分とお前らしくないな。依頼は必ず受けるそれが俺だ。まぁ、とはいえ、やる人間がいないから俺がやるってだけかもしれんが。代わるか?」


「おあいにく様。俺は休暇だよ。じゃあな」


 マイクはそのまま、手を軽く振って、ジョナサンの家を出て行く。彼が出た後、玄関のドアが、ゆっくり閉じていった。

 ジョナサンは、静かになったリビングの中で、ソファに座り、腕を組んだ。

 それから数時間後、ジョナサンは依頼を確認する為にネットカフェに立ち寄り、パソコンを起動する。

 特殊なページに入り、依頼を確認した。

 1件の依頼が音声メッセージ付きで、表示されている。彼は、そのまま付属付きのイヤホンを耳に着けて、メッセージに耳に流し込む。

 


『この前の依頼、ご苦労だった。口座に振り込んでいるから確認してくれ』


「どうも」


『だが、別問題発生した。君が完了した軍需産業AF社会長ジョン・ブロックスの暗殺について、友人であり、AF社の重役に天下りしたダレス・ブラッドフォード元米軍准将が、これについて調べ始めたそうだ』


「ダレスが?」


『知り合いかね?』


「若いころにちょっとな……」


 会話と同時に画面から白髪でオールバックの軍人の気質あふれる老人の写真が写っている。

 男の会話は続いた。


『これを調べられてしまうと、我々と共に君も危ない立場となる。よって君にはこの男をどんな形もいとわないから彼を暗殺してもらいたい』


 少し口ごもりながらもジョナサンの返答は早かった。


「……分かった。引き受けよう」


『よし。ならば、君にとっておきのシチュエーションと道具をこちらから準備しておこう』


 普通の依頼ならば、ここまでの事をしないはずの依頼人がわざわざここまでする事に彼は首をかしげながら訊いた。


「やけに優しいじゃないか?」


『今回は、我々にも危険が迫っているのでね。なるだけ穏便に済ませておきたいのだよ』


 イヤホン越しの相手が言う理由を耳にしたジョナサンは、納得しうなずいている。


「なるほどね」


『それでは、宜しく頼む。ああ、そうそう。最近、ダレスの元にジェフキンという傭兵が接触しているという噂だ。気を付ける事だ』


 ジェフキンという男性の写真が表示されている。ジョナサンより老けており、輪郭や顔のスタイルからジョナサンは男がヨーロッパ系で、ロシアに近いタイプの人間だと判断した。

 彼はイヤホンをはずした。

 通話は終了し、動画は真っ黒のスクリーンとなっている。その数秒後に、メールの着信がなり、ジョナサンはそれをクリックする。

 メールの内容には、シチュエーションと装備について、依頼遂行の日時と共に記載されていた。


「やけに段取りがいいな。まぁ、いい」


 ジョナサンはパソコンを閉じ、近くの料金箱に銀の硬貨を数枚入れた後で、カフェを後にする。

 外の風が涼しい。風を体感しながら彼は、周りを気にする事無く、自分のバイクを停めている駐車場へと向かった。


 午後10時。


 ダレスは自宅の書斎で、パソコンを操作している。PCにはブロックスの死因について記載された死亡報告書のデータが入っている。

死因は急性脳梗塞と書かれている。


「急性脳梗塞……」


 腕時計の時間は、既に夜の10時を過ぎていた。

 彼はジョンの死因をより深く調べていく。

 すると彼の書斎に置いているスマートフォンから着信が鳴った。番号は不明。彼は少し、疑念を持ちながらもゆっくりと指でタップし、スピーカーに耳を当てた。


「誰だ? こんな時間に……はい。ブラッドフォード……」


『久しぶりだな。ダレス』


 相手はどこかで聞いた声。自分が教官だった時の訓練生の中にいたような気がしている。

 その中でもとび抜けていた奴の事を思い出した。


「その声は、バーニングか?」


『久しぶりだな。それよりあんた、今、どこにいる?』

 受話器を持ちながら、ダレスは近くの窓で姿を確認しようとするが、外は暗く人影を感じる事はなかった。


「自宅の書斎だが?」


『窓から何か見えるか?』


「何も。真っ暗なだけだが……」


『そこから離れろ』


「あれは……」


 遠いところから一台のSUVが停まっている。後部座席の窓が開いており、そこから、何か先端らしきものが見えた。

 気付かれない様にダレスは、目線を下に向けると赤く小さなレーザーポイントが左胸の洋服に止まっている。

 それを付随するようにジョナサンは告げた。


『あんたは狙われている』


 ほくそ笑みながら、返す。


「きついジョークだな」


 ジョナサンは彼の反応に気にする事無く、質問を続ける。


『ブロックスが死んだ事は?』


「ああ、知ってる。葬式にも出た」


『次はあんたが棺桶に入る番だ。あんたは狙われている』


「……」


『脱出の手助けをするから、そこから移動してくれ。頼む。旧友の願いだ』


「分かった」


『まずはあらゆる自宅の照明を消すんだ。移動する時は、しゃがみながら進め。いいか、気付かれるなよ』


「ああ」


 彼はジョナサンの指示に従い、急いで配電ブレーカーのある車庫へ向かい、配電ブレーカーの戸を開き、全てのブレーカーを下におろし、照明を落とす。


『ガレージを開けて、車に乗るんだ。数キロ先の公園で待っている』


「分かった」


 ダレスはジョナサンの指示通り車に乗り、車庫から勢いよく、車を発進させた。

 数キロ先の公園まで、猛スピードで走行していく。その間までに敵が追ってきていないかダレスにとって、不安を感じていた。


『よし。そのまま、公園の駐車場に車を停めてくれ』


 彼はハンドルを切り、駐車場へと入るが、途中でブレーキを踏み、車を停めた。

 正面のライトによって照らされる人影が妙に不気味だった。

 ライトが示す先にジョナサンは立っていた。ダレスにとってその姿は安堵するべき場面だったが、そうは言えなかった。

 ジョナサンの左手には、消音器がついて拳銃があった。

 それを見たダレスはため息をついて、察した。


「やられた」


 彼はシートベルトをゆっくり外して車から降り、軽い挨拶をジョナサンに向けてかわす。


「やぁ。こんばんは」


 ジョナサンの表情は重々しく苦い表情でいた。

 ダレスは続ける。


「久しぶりだな」


 ジョナサンは拳銃を構える事はない。だが、左手には持ったままだった。

 沈黙が2人の間に入る中で、ダレスは続けた。


「ここまでこれば、もう安心か?」


「ああ、そうだな」


 ジョナサンは左手に持っている拳銃を彼に向けた。

 ダレスは彼が向けた拳銃を見て、自分が相手の罠に嵌った事を知る。

 もっと早く気付くべきだったと後悔も感じていた


「やられた」


 ダレスは軽い笑みを浮かべて、拳銃を向けている暗殺者にそう返した。


「すまない。この件を公にするわけにはいかないんだ」


「あの殺し方、実に完ぺきだった。私が見込んだだけの事はあるな。そして私への誘導も完ぺきだった」


「そりゃどうも」


 ダレスはゆっくりと両手を後ろに組む動作をしながら、後ろに片付けていたホルスターの留め具をはずす。


「1つ訊かせてくれ。ジョンをどうやって仕留めた」


「それは教えられない」


「教えてくれてもいいんじゃないか?」


「……」


「ダメか。まぁ、いい。これで自分にもメリットができていたからな」


「メリット?」


「で、どうするんだ? このまま私を殺せば、事件になるのは間違いないぞ」


「心配は無用だ」


「そうか。それなら安心だよ。これでジョンの所に……」


 その瞬間、ジョナサンは、近くの車の間に隠れた。銃声が聞こえたからだ。ダレスの方向を見ると、ダレスの姿は駐車場のコンクリートにうつ伏せで倒れている。頭部から血が流れ出しているのも見えた。

 彼は、他の相手がいる事に気付き、急いで自分が乗っているバイクの方向を確認する。鍵はさしたままでいつでも走れる。

 次は、他の人間がいるかを確認。すると、奥から、大男3名がゆっくりとアサルトライフルを構えながら駐車場へと入ってくる。

 3人の男のうち1人は、依頼時の男の顔によく似ていた奴だった。


「あれは……ジェフキンか……何故、ダレスを?」


 ジョナサンは今のポジションから移動していき、バイクに乗りやすい位置に向かう。だが、このままでは、バイクに乗る前に襲われて撃たれるのは簡単に予想できた。バッグに入れていたスモークグレネードを取り、ピンを外して、3人の方向に投げる。

 灰色の煙が、駐車場を覆い包む。続けて駐車場の照明を撃ち、暗くした。

 3人は拳銃に備えていたタクティカルライトをつけ、それぞれ移動していきながら、ゆっくりとジョナサンを探し回ろうとしている。

 煙が充満し、駐車場が煙で見えなくなってきていた。

 その中でバイクのエンジン音が3人の耳に響く。大きなうなりをあげて、ジョナサンが運転するバイクは走り始めた。

 3人はバイクがある方向にアサルトライフルの銃口を向け、引き金を引き始める。そのままバイクは勢い強く駐車場を出ていく。

 バイクの後を、3人の男たちは乗っていた車に乗って、後を追いかけた。

一台のバイクが夜のフリーウェイを飛ばし、走行している。

 その後方、4WDがバイクの後を追いかける様に走行。スピードメーターが示しているのは100という数字に赤い針が停まっているという事。

 4WDの車内は屈強そうな男が3人。むさ苦しい空気を漂わせている。

 彼らは、運転手以外がアサルトライフルを備え、いつでも攻撃できるように準備していた。

後部座席の男が、車の天井にある窓を開け、上半身を出し、備えていたアサルトライフルを前方のバイクに向け、照準をバイクにまたがるジョナサンに向ける。放たれる弾丸がバイクにまたがる運転手に確実に当たる様、しっかり構えた。

 それに対してジョナサンは、ミラーでその姿はすぐ確認した。次の瞬間、アサルトライフルの銃口から硝煙と火花が飛び出す。1秒間に何発も。

 バイクは弾を避ける様に左右へ蛇行しながら走行していく。フリーウェイを走る車のクラクションとバイクのエンジンが鳴り響いた。

 ジョナサンはスタングレネードのピンを抜き、後ろの車に向けて投げ込んだ。


「フラッシュバン!?」


 強い閃光が車に乗っていた3人を襲う。運転手は、慌てて、ブレーキを踏み、車を停めた。

 バイクは、後方の車が停まったのを確認しながらもスピードを上げ、彼らが追いかける事が出来ないようにした。



 それからジョナサンはバイクを走らせて、ネットカフェの元へ行き、PCの元へと座った。

 特定のアドレスに連絡し、イヤホンを着ける。


『依頼時以外の連絡をされると困るのだがね……』


「俺だ。どうなっている。ダレスは死んだが、邪魔が入ったぞ」


『まさか……そんなはずはない』


「ジェフキンはダレスを殺した。もしかしたら、情報が偽物だった可能性がある。情報源はどこから得た?」


『……』


「あの時、ダレスの情報を知っていたのは……まさか……」


 ジョナサンは、ある事に気付いたのだ。情報を知っていたのは、オペレーターだけではなかった事。


「マイク……」


「分かっただろう? お前が狙われているのを……」


 声がする方向に、彼は視線を向け確認した。そこにはマイクが立っている。後ろには先ほどフリーウェイで撒いたはずのジェフキン達が車に乗っていた。

 マイクの手には拳銃を持っている。


「乗ってくれるか?」


 それを言われた彼は、素直に従い、車に乗る事にした。


『おい、どうした?』


 マイクは拳銃でPCの画面を撃ち抜き使えない様にする。


「お前がジェフキンと手を組んでたとはな」


「いい関係だろ?」


 後部座席の真ん中に座り、状況を見つめる。

 相手は前に2人、ジェフキンとマイクが乗り、後部は左右に1人ずつ、ジェフキンの部下たちがジョナサンを監視する。

 車は走りだし、夜の街をドライブする。


 ジョナサンは助手席で窓に写る景色を見ているマイクに訊いた。


「どうしてこんな事を?」


 彼は淡々と答える。


「ダレスは会長の死因を調べていた。あのオペレーターは何も知らなかったようだが、会長暗殺の依頼人は、ダレスだよ」


「何?」


 返ってきた反応に、マイクは少し呆れを含みながら彼に説明した。


「知らなかったのか? おいおい。ダレスが会長の件を調べていたのは、仕事が完了しているかどうかの確認だぞ」


「……」


「会長と俺は相互の契約関係だった。だが、お前のおかげそれもおじゃんだ。感謝してるよ」


 車は高架橋へ入った。

 ジェフキンの部下が、注射器を取り出して、液体を容器の中に詰め始める。


「ダレスの暗殺を匿名依頼したのは俺だ。架空の依頼料を振り込ませただけで引き受けてくれるからな。流石だよ」


 ジョナサンは高架橋に入ってからタイミングを数え始めた。


 助手席に座るマイクは後ろのジョナサンに告げる。


「仲間になってもらおうか迷っていたんだがな。会長の暗殺依頼をお前が受けて、気が変わったよ。お前は俺たちとは馬が合わない」


「俺は昔から思ってたぜ」


 ジョナサンは、バックルの隠しボタンを押して、そこから出た小型のナイフを持ち、左の男の首筋に刺し、持っていた注射器を奪う。

 そしてそれを素早く右隣の男の刺した。男は反撃をする事もできず、一瞬の出来事に襲われていった。

 注射器が刺さり、男は液体の影響で体勢のバランスを崩しながら、目をつむる。


「おまえっ!」


 マイクはホルスターに片付けていた拳銃を抜き、セーフティーを解除しながらジョナサンに向けて引き金を引こうとするが、彼の足の蹴りで拳銃は運転席の窓付近を撃ち、ガラスに亀裂を起こした。

 左の男は、刺さった首を抑えるが出血が止まらない。ジョナサンはそれに拍車をかける様にナイフを抜き取り、シート越しに、ジェフキンの背中に刺した。


「あああああああ!!」


 刺されたジェフキンは、反射行動として、そのままアクセルを踏み続け、車のスピードを上げる。スピードメーターの針が、7から8へ。

 ジョナサンは次に右後部座席のドアを開けて、注射器が刺さっている男を右のドアから勢いよく落とした。

 男はそのまま転がるタイヤの様にコンクリートに体を叩きつけられていく。

 マイクは拳銃を再び彼に向けようとするが、今度は彼に腕を掴まれ、思うような方向に撃つ事ができず、拳銃は隣で痛みと闘いながらハンドル操作しているジェフキンの顔に向けて発射し、弾丸が彼の頬を撃ち抜いた。

 彼は、前かがみになり、ハンドルから手が離れ、顔とハンドルが密着する形になった。その間もジェフキンの足はアクセルを踏み続けている。

 操作する者を失った車はそのまま高架橋の歩道に進入し、走行していく。

 ジョナサンは、右ひじでマイクの顔に数回、殴りつけ、拳銃を離すように仕向けるが、相手も手ごわく、銃は掴んだまま。

 そのまま車は走行し、正面の工事用車両にぶつかろうとしている。

 その中でジョナサンは、よそ見をしてそれに気づく。

 だが、マイクはそのよそ見をすきに、ジョナサンを拳銃で殴り、後部座席に叩きつけ、再び拳銃を突き立てた。


「これで終わりだ」


 刻々と工事車両に衝突するのが迫っているおよそ7秒間。


「そうだな」


 と彼はそう言って後部座席のシートベルトを掴み、腕に巻く。


「?」


 マイクは異変を感じ、車の前面に視線を向けて確認し、そこに工事資材が積まれた車両が停まっているのを初めて知った。

 衝突に備える事も出来ず、マイクは息をのみ、目をつむる。

 

 2、1。


 車は大きな悲鳴と衝撃を高架橋であげた。

 ジョナサンの体は衝撃で前に飛ばされそうになるが、シートベルトを体に巻き付けていたことが功を奏し、なんとか身を守る事ができた。

 車は前面がぐちゃぐちゃとなり、走行する事も出来ない。ジョナサンはゆっくりと後部座席を降りて、車から離れた。

 非常にひどい事故現場となっている。

 前座席に座っていたマイクとジェフキンの姿は、工事車両の資材との正面衝突によってぐちゃぐちゃになっており、肉片と血の溜まりができている。

もはや彼らに息はない事が確実だとジョナサンは見て判断した。

 近くの手すりに行き、彼は背を預けて座った。

 わき腹からくる痛みがひどい。


「くそ」


 彼は再び、立ち上がり事故の衝撃でけがをした左わき腹を押さえつつ現場を後にする。痛むわき腹が、ジョナサンに今日の時間の長さをより感じさせた。冷たい夜の風が吹く。

 高架橋の照明が彼らに起こった出来事をただただ強調させていた。


                  END


第2回The Killer's Project-2nd turn 参加作品です。 


イメージソング『Jonathan Jet-Coaster』(BUCK-TICK)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本格的だと思いました。話のペースは良く、アクションの部分の描写も容易にイメージできました。暗殺の世界の人間が騙し騙されの表現も上手いです。 [一言] 色々勉強させて頂きました。
[良い点] 臨場感があって、まさにジェットコースターでした。 ジョナサンを狙っているのは誰か、ダレスを狙っているのは誰か……最後までしっかり謎があって、どんでん返しも驚きました。 息を潜める殺し屋の…
[良い点] 後半、アクション映画のワンシーンを彷彿とさせるような展開とスピード感が素晴らしかったです。特にジョナサンが車内で戦うシーンは洋画を見ているように光景が目に浮かびました。 最初にジョナサン…
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