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番外編 もしもアパートの住人が剣と魔法とファンタジーの登場人物だったら

 ふと思いついたので書いてみました。

 ある日、北に魔王が現れ、世界征服をすると人間へ宣戦布告をしてきました。

 魔王は魔族を率いるもので、人間よりもずっと強い存在です。

 人々はなすすべもなく世界の滅びを待つしかありませんでした。

 しかし、一人の青年が岩に刺さった勇者にしか抜けない伝説の剣を抜いたことで状況が一変します。

「勇者よ、魔王を倒すのだ!」

 そして国王は彼に魔王を倒すように命じました。

 けれど、彼には大きな問題がありました。

「僕が勇者なんて無理だよ……」

 彼は勇者とは思えないほど弱虫で泣き虫だったのです。

「そんなことないですよ!トーカ様なら絶対に素敵な勇者になれます!」

 勇者のサポートを命じられた聖女キヨミはトーカに激励を送ります。

「素敵な勇者ってどんな人なの?」

「魔王を倒し、世界に平和をもたらしてくださる慈悲深いお方です!」

「僕なんてそんな人に絶対なれないよ」

「さあ!まずは仲間を集めますよ!」

 キヨミは弱音を吐くトーカを引き連れ、仲間探しを始めます。



 

「魔王退治?別に構わんが俺でいいのか?」

 二人はまず王国騎士団で最強といわれているトマに声をかけました。

「はい!よろしくお願いします!」

 キヨミは深く頭を下げてお願いしました。

「まあ国王からもいわれてるし、協力してやるよ。それで勇者はどこにいる?」

「あそこです」

 キヨミが指差したのは物陰に半身を隠している勇者でした。

「……この国大丈夫か?」

 トマは思わず、そうつぶやきました。

 トーカは人見知りでもあったので、トマと普通に話せるようになるまで一ヶ月かかりました。

 王都でそれ以上仲間が集まらなかったので、とりあえず旅を始めることにしました。



「魔王退治?おもしろそうじゃん!いいぜ!仲間になってやるよ!」

 次に仲間になったのは旅先で出会った歌姫のチアキでした。

「ありがとうございます、歌ひ」

 トーカの顔の隣に拳が風を切る音が聞こえました。

「歌姫って呼ぶんじゃねえよ!」

 チアキは女扱いされるのが大嫌いで、拳で戦うことが得意でした。

 トーカは半泣きで謝り、チアキに許してもらいました。




「魔王退治?いいよ。大した力になれないと思うけどよろしくね」

 ダンジョンで出会った魔法使いネコに声をかけると快く仲間になってくれました。

「大した力にならない?お前がいれば俺は魔王だって倒せる」

 トマはネコに一目惚れして、暇さえあれば口説くようになりました。

「トマ、ちょっとしつこいよ?」

 あまりにひどい時にはネコの雷(魔法)が落ちます。

 でも穏やかな性格のネコはめったに怒りません。


 


 その後は無事に進み、魔王城に一番近い町にまでやってきました。

 五人はそこで村娘達から話を聞きました。

「魔法はすげーつえーんだぞ!どーんてバーンて山を壊しちまった!」

 アメは体全体を使って魔王が山を破砕した時のことを教えてくれました。

「あの城には人を騙す悪魔がいるから気をつけなさいよ!」

 クモは少々高飛車な態度ではあるもののしっかりと忠告してくれました。

「お城の方からいつも不気味な煙が出てて空が変な色になっちゃったんです。あと獣の声も聞こえます」

 ハレは村から見える魔王城のことを詳しく説明してくれました。

「村の大人達……魔王……倒そうとして……入り口のゴーレムに……やられた」

 ユキの声はとても小さく、トーカ達は耳をすまして聞きました。

「時々、村に吸血鬼が来てみんなの血を吸っちゃうの!」

 ミライは元気一杯な声で恐ろしいことをいいました。

 どうやら強いのは魔王だけではないようです。

 トーカは今にも倒れそうなほどに真っ青な顔になりました。

 しかし、ここまで来たら後には引けません。

 キヨミは渋るトーカを連れて仲間とともに魔王城へ向かいました。




「これ以上先にはとかせんとよ!」

「魔王様ハ侵入者ヲ排除セヨトノ御命令デス」

 城の入り口には石像に化けていた二体のゴーレム、ヒムカとジユウが奇襲を仕掛けてきました。

 皆は危なげなく避けて、反撃します。

 トーカは聖剣を振り下ろし、キヨミは全員に支援魔法をかけ、トマは剣を突き刺し、チアキはメリケンサックをつけた拳で殴り、ネコは雷魔法を使いました。

 トーカ達の容赦ない攻撃にゴーレムは倒れました。




「あぁ!なんて美味しそうな匂いの女なんだろう!まるで熟した林檎のように罪深いほど僕を誘惑する!その血はきっと年代物のワインにも劣らぬほど芳醇な風味!今すぐに全てを吸いつくしたい!いやそうしよう!」

 城内の一階には吸血鬼シンがいました。

 吸血鬼はトーカ達には目もくれず、チアキに襲いかかります。

「気持ち悪っ!」

 チアキはドン引きした顔で向かってくる吸血鬼の顔に拳を埋めました。

 人間の何倍も強いはずの吸血鬼は予期せぬ不意打ちに心も体も撃ち抜かれてしまいました。


 


「ああ。勇者御一行ですか。今手が離せないので少し待っててもらえますか?」

 二階の厨房では狼男フェイトが何やら真っ黒な何かを鍋で煮込んでいました。

 明らかに食べ物とは思えないほど異臭もします。

 ほどなくして狼男は満足げな顔をして火を止め鍋に蓋をしました。

「今のはなんだったんだい?」

 ネコが全員の代わりに狼男に問いかけます。

「私の料理ですよ。私はこの城の料理番をしております」

 狼男は不思議そうな顔でいいました。

 場の雰囲気が凍りつきます。

「あれが料理だと……?」

 皆が信じられないような顔で鍋を見ました。

 どう見ても料理というより、毒物を作っていました。

「魔女達には私の料理の良さがわからないようですね」

 その言葉にキレたのはトマとネコでした。

 魔女とは女魔法使いの蔑称(べっしょう)です。

「獣ごときがいうじゃねえか」

「悪い狼には躾が必要だね」

 トマは拳で殴り、ネコは雷をまとわせたナイフを飛ばしました。

 そして二人だけで狼男を倒しました。




「ここから先には行かせません!」

 ゴーストのソータが四階への登り階段前で行く手を阻みました。

「ひぃいいいっ!?ゴ、ゴースト!?」

 トーカはアンデット系のモンスターが大の苦手でした。

 十歳にも満たない姿のソータにも本気で怖がっています。

 なぜならアンデット系のモンスターは技の相性が悪く、トーカの攻撃がほとんど効かないからです。

「ここは私がやります!」

 キヨミは懐から聖書を取り出して、浄化魔法を唱えました。

「うわぁあああ!」

 彼女の魔法によってソータは天国へと旅立ちました。


  


「これ以上俺の仕事を増やさないためにもここから先に行かせない」

 堕天使ヴェルはやる気のあるのかないのかよくわからないことをいいながら、四階の廊下で行く手を塞ぎます。

 めんどくさそうな態度でも彼は強く、五人がかりでもなかなか倒せません。

 だからでしょう。

 ヴェルは油断して失言してしまいました。

「アンデットしか倒せない聖女がいるパーティなどに俺が負けるわけがない」

 その言葉にトーカがぶちキレました。

 弱虫で泣き虫なとても勇者とは思えないと周囲に馬鹿にされてもキヨミが支えてくれたからです。

「堕天使ごときがキヨミのなにがわかるだ?いってみろよ!この✕✕やろうが!」

 トーカは別人のような怒りパワーでヴェルを倒しました。

 



「勇者達よ、よくぞここまで辿り着きました。しかしあなた達の旅もここまでです」

 悪魔リョーヘイは魔王の謁見の間の前で仁王立ちしていました。

「それなら力づくで通してもらうぞ」

 トマはリョーヘイを睨みつけます。

 頭にある一対の角以外は普通の人間の姿に似ていました。

 しかし、今まで戦った誰よりも強く、トーカ達は全く歯が立ちません。

 チアキが攻撃を避けそこねて、体制を崩したところにリョーヘイは追い打ちをかけます。

 しかし、その攻撃はチアキに当たることはありませんでした。

「いくらリョーヘイでもこの娘は僕が先に見つけたんだ!抜け駆けしようなんて許さないよ!」

 チアキの影から出てきたシンがリョーヘイの攻撃を受け止めていました。

 トーカ達は状況が理解できずに目を見開くばかりです。

「シン、魔王様を裏切るつもり?」

 リョーヘイは冷たい視線でシンをにらみます。

「忠誠よりも愛のほうが大切ってことに僕はチアキに会ってようやく気づいたんだ!彼女は僕の月だ!」

 太陽の光が苦手な吸血鬼にとって夜空に浮かぶ月は輝きの象徴で、最大級の褒め言葉です。

 シンの参戦により形勢は逆転し、リョーヘイを倒すことが出。来ました。




 ついにやってきた魔王との決戦。

 目の前にある謁見の間への扉を開ければ勝っても負けても全てが終わる。

「思えばここまでの道のりは長かったな」

「そうだね。本当にいろんなことがあったよ」 

「最後に吸血鬼が仲間になるなんて思っても見なかったぜ」

「僕もまさか運命の者が人間だなんて思いもしなかったよ」

「それもあと少しで終わりですね」

「みんなで無事に帰れるかな……?」

 トーカはここ一番の弱音を吐きました。

「何弱気なこといってんだ」

「それもトーカくんらしいね」

「ここまで来たらやるしかねえだろ?」

「俺、この戦いが終わったら絶対にチアキと結婚するんだ!」

「ここには苦楽を共に旅した仲間がいるんです!だから!大丈夫です!」

 仲間達の激励にトーカは気持ちを奮い立たせます。

「そうだよね!魔王を倒して皆で国に帰ろう!」

 まっすぐ前を見る姿に今までの弱々しさはなく、勇者そのものでした。

 トーカは扉を開けます。

 謁見の間の中央に魔王はいました。

 その隣には影のようにドラゴンのサクラが立っています。

 魔王は玉座からトーカ達を出迎え、不敵に笑いました。

「よくぞ俺の配下を倒し、ここまでやって来たな。褒めてやろう。しかしお前達もここまでだ。俺の名はクオン。お前達を滅ぼす存在だ」




「なんで俺が魔王なんだよ!」

 ニューヨークにあるビームカンパニー本部の社長室のベッドの上で勢いよく上体を起こし、今見た夢を思い出して久遠は叫んだ。

「いや出てくるのが遅いからもしかしたら魔王かも?って思ったりもしたけどもだからってほんとに魔王じゃなくてよくね!」

 泣きそうな声をあげながら彼は頭をかきむしった。

「夢って願望が出てくるっていうけど実は俺って世界征服がしたかったのか!?なんてこった!いや待てよ?それはそれで面白そうじゃね?」

 先ほどまでの悲壮な雰囲気はどこへやら。

 にやりという効果音がつきそうな悪い笑みを浮かべた。

「いいねえ!世界征服!やっちまおうか!」 

 久遠は握りこぶしを作り、天高く突きあげた。

「朝から何を馬鹿なことをいっているんですか」

 今にも暴走しそうな久遠を制止したのは秘書のリアンだ。

 整った顔の眉を寄せて、頭を押さえる姿からは彼の苦労がにじみ出ている。

「馬鹿なことって!?一応俺はお前の上司なんだけど!?え?もしかして下克上狙ってる?リアンが社長になったら俺は一文なしになるじゃん!?そうなったら絶対に晴達に嫌われる……。うわ、何それ。死ねる」

 久遠は頭を抱えた。

 だが、それをしたいのはリアンの方である。

 どんな夢を見たのか知らないが自分の上司が突然魔王と連呼し、挙句の果てには世界征服を企み始めたのだ。

 一瞬、転職を本気で考えたほどである。

 だが久遠のこうした突飛な発言は放置していると悪化する。

 先日の超高速機がその例だ。

 久遠のもっと早く日本につきたいという発言から開発計画が始まり、実行へと移された。

 走行時の爆音と離着陸の滑走路の問題で一般人への実用化へ移っていないことがまだ救いではある。

 良くも悪くも久遠に尊敬を抱く社員達はこうした久遠の願いを全力で叶えようとするから質が悪い。

 決して損失が出ないことがなおさら腹立たしい。

 だからいくら注意しても同じことを何度もやるのだ。

 そもそも久遠は既にビームカンパニーを通して世界征服をしたも同然である。

 この人はこれ以上何を望むというのか。

「詳しいことは後で聞きましょう。朝食の支度が出来ております。クロエも先に起きて社長を待っております」

 リアンは話をずらすことにした。

 このままこの話を続けるのは精神衛生上、誠によろしくない。

「もうそんな時間か!?あ~。仕事だるい」

 久遠はベッドから降りて、クローゼットを開ける。

 ハンガーに吊り下げられたスーツの中から一着を選び、パジャマから着替えていく。

 リアンはその姿を確認すると部屋を後にし、リビングへと向かった。

 このようなやり取りは久遠が本部にいる時の恒例行事である。 


 最後の最後まで咲楽の存在を忘れていました。


 さすが元軍人です。気配を断つのもお手の物です(笑)


 お察しの通りこの話は久遠の夢オチで、時期的には正月後くらいの話です。

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