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303号室  吸血鬼 その3

 その2の続きです。

 とてもあの部屋で眠れる状況ではなかったので、アキの部屋に泊まることになった。

 アキが布団を敷いてくれるのを断って、同じベットで眠った。

 シングルベットは二人で眠るには少し狭かったけど、こんなに近い距離にアキがいることが嬉しかった。

 数時間後、隣で寝ていたアキが目を覚ました。

「ん……しん?」

 アキは寝起きで舌足らずな声で僕を呼んだ。

 気だるげな目が誘っているように見えて、少し鼓動が早くなった。

「なあに、アキ?」

 とびきり優しい声でアキの名前を呼んで、額にキスをした。

 それだけでアキは顔を真っ赤にさせる。

「いきなりそういうことすんなって何度もいってんだろ!」

 完全に目が覚めたアキが僕を睨んだ。

 赤い顔で睨まれても全く怖くない。

「キスしていい?って聞いても断るのは誰だっけ?」

「だからっていきなりそういうことされるのは困んだよ」

 察しろ、バカ。

 アキは小さく呟いて、新の胸に頭突きをした。

 なかなかの衝撃だったけど、受け止めきれないほどじゃない。

「アキは本当に可愛いね」

「可愛いっていうんじゃねえ!」

 もう一度頭突きをされる前にアキを抱きしめた。

「捕まえた。もう離さないよ」

 腕の中でアキが暴れても、びくともしない。

 少し本気を出すだけでアキの力が強くたって抱きしめ続けられる。

「くそっ!ぜんぜん離れねえ!この馬鹿力が!」

 悔しそうに僕を罵倒するアキがおかしくてつい笑ってしまう。

 僕が吸血鬼だって知ってるのに、本気で抜け出そうとしてる。

 緩やかな時間はアキの携帯の着信音で終わってしまった。

 着信音に気をとられた隙にアキは抜け出し、床に置いてあった携帯を取り、電話に出た。

「おうリョーヘイ。わざわざ電話してくるなんてどうした?」

 相手はリョーヘイらしい。

 半身を起こしたアキに背中から抱き着くと、脇腹に容赦ない肘打ちが飛んできた。

 いくら吸血鬼でも急所への一撃は効く。

 アキから離れ、痛みに悶えつつ耳を澄まして会話を盗み聞きする。

「ごめん。寝てた?話したいことがあるんだけど今すぐにでも僕の部屋に来てくれない?新は部屋の片付けがあるだろうからアキ一人でいいよ」

「え?なんで?俺、用事があるんだけど?」

「話はすぐに終わるよ。新にも関係する大事な話なんだ」

「本当だな?ならわかった。すぐ行く」

 アキは通話を切ると、すぐに僕から離れようとした。

 昨日、リョーヘイの部屋に姉が行ったことを思い出して、腕に力をこめた。

「行かせない」

「新も話聞いてただろ?お前にも関係あることなんだから聞かねえわけには行かねえだろ?だからさっさと離せよ」

「いやだ」

「お前はこの指輪を俺を縛るために渡したのか?そこまでしてお前は俺にいうことをきかせててえのか?」

 アキは指輪をした左手を僕の前に突き出した。

 あげたことが夢じゃなくてと安心する。

「それは違う!好きだから、愛してるから渡したんだよ!」

 アキのしたいことなら全力で支えるつもりだ。

「だったら俺が帰ってくるまで待てるよな?」

 にやりと笑ったアキにしまったと思うがもう遅い。

 しっかりと言質を取られてしまった。

 外に出る支度をするアキに俺はもう何もいえなかった。

「すぐに帰ってくるから。そんな顔すんなって」

 拗ねたままの俺の頭をアキは背伸びをして撫でた。

 それだけで嬉しくなり、だらしなく顔が緩む。

「わかった。いってらっしゃい」

 別れのキスをしようとしたら、脛を蹴られた。



 

 それが一時間前のことだった。

 さすがにおかしいと気づき、リョーヘイの部屋に向かうと誰もおらず、鍵も閉まっていた。

 アキはどこに行ったのだろうか?

 近くの駐車場で遊んでいる四つ子達なら何か知っているのかもしれない。

「ねえ、雲ちゃん達。アキとリョーヘイがどこに行ったのか知らない?」

 声をかけると縄跳びで遊んでいた四つ子と未来ちゃんが振り返った。

「大学に行くっていっていたわよ」

 雲ちゃんは息を乱していた。

「まさか新にい、置いてかれたのか?」

 雨ちゃんは三重跳びに挑戦している。

「……かわいそう」

 雪ちゃんは新に同情する目を向けた。 

「雪ちゃん、そんなこといっちゃダメです!」

 晴ちゃんは無意識に新の傷を抉った。

「二人を探してるのっ?」

 未来ちゃんは輝くような笑顔で新を見上げた。 

 一気に精神的疲労が溜まり、お礼をいってその場を後にした。




 いったん部屋に戻り、部屋着から着替え、財布と携帯を片手に大学に向かった。

 忘れずに自分とアキの部屋の鍵(合鍵を貰っている)を閉めた。

 自分の部屋の片づけは後回しだ。

 休日だからか人が少ないが、サークル等で使うために大学自体は開いている。

 よく使う教室から見て周るも二人はいなかった。

 近くと通りかかった人に二人を見た人がいないか、聞くもそれらしい人はいなかった。

 お礼をいって、その人と別れた。

「『黒猫』かな?」

 今日は二人ともバイトが休みだったから可能性は低いがもしかしたらいるかもしれない。

 電話をかけてみると店長の猫さんが出た。

「やあ、新くん。どうしたのかな?」

「忙しいところすみません。アキと部屋の掃除をする予定だったんですが、リョーヘイと出かけたらしくて。二人を見てませんか?」

「いやこっちには来てないよ。そういえばさっきアキくんがヴェルくんと待ち合わせして教会に行く、といっていたのをフェイトから聞いたよ」

 アキがヴェルくんと教会に何をしに行ったんだろう?

「ありがとうございます。それじゃあ失礼します。」

 意味が分からなかったが、隣町の協会に向かった。




「黒野原さんですか?待ち合わせしてませんよ?」

 ヴェルくんは不思議そうな顔でそういった。

 最近、ヴェルくんがキリスト教に興味を持ちだしたことはアパートの住人の間で周知の事実だ。

 天使だからか牧師服が良く似合っている。

「え?それってどういう」

「それよりもせっかく教会に来てくださったので、説教を聞きませんか?」

「いや今はそれよりも」

「こちらの部屋で行っています。あ、そこに段差があるので足元に気をつけてください」

 新が何かをいう度に遮られて、二時間ほど全く興味のないキリスト教の説教を聞かされ、心身ともに疲れた。

「そういえば灯火と聖生さんと黒野原さんと三人一緒にアパートの近くのスーパーに行くのを見かけましたよ」

 少し重い体でスーパーへと向かった。




「アキさんですか?すみません。わかりません」

「今日まだ会ってないですよ」

 またしても二人は不思議そうな顔でそういった。

「そうなんだ。それじゃあ、アキがどこに行ったのか心当たりはない?」

「そうですね。確か」

 灯火くんの言葉をタイムセールを告げる放送が遮った。

「灯火くん、タイムセールが始まりましたよ!急がなくちゃ卵がなくなってしまいます!」

「新さん、すみません!僕、行かなくちゃいけないんです!」

「ああ、うん。いってらっしゃい」

 熱く燃える二人に小さく手を振った。

 笑顔が引きつってしまうのもしかないだろう。

「何いっているんですか!新さんも行くんですよ!」

「えっ!?」

 どこにそんな力があるんだろうと思うほどの力で二人に引かれ、歴戦の戦士(おばさま方)が集う戦場(タイムセール会場)の中に放り出された。

 吸血鬼の能力のおかげで二人に指定された商品のほとんどを買うことが出来た。

 だが、もう二度とタイムセールに行きたくない。

「新さんまで付き合わせてしまってすみません」

「すみませんでした。でもおかげでこんなにたくさん買えました!これお礼です!」

「ああ、ありがとう。それでアキがどこにいるか心当たりある?」

 タイムセールはたった三十分程度だったが、かなり疲れた。

 これほど疲れたのは小学校の登山以来かも知れない。

「そうですね。もしかしたら『黒猫』かもしれませんね。新しいデザートを試食してくれる方を探してました」

 確かに甘いもの好きなアキなら行っているのかもしれない。

 タイムセールしていた商品をいくつか分けてもらって、喫茶店『黒猫』に向かった。




「アキくん?来てないよ」

 先ほどと電話口でしたのと同じ答えが猫さんから帰ってきた。

 カウンター席でがっくりと肩を落とした。

 ここまで来てそれはあんまりだ。

「何があったのか知りませんが、これでも食べて元気を出してください」

 新の前に数枚のクッキーとほんのりと湯気の立つ紅茶が差し出された。

「いいんですか?」

 背後を振り返ると制服姿のフェイトさんが微笑んでいた。

 おそらくクッキーを作ったのは猫さんだろう。

 フェイトさんは紅茶を淹れることは得意なのに、料理の腕は壊滅的だ。

「新商品のクッキーですよ。感想をいただけたら嬉しいのですが?」

「ありがとうございます」

 お礼をいって、クッキーと紅茶を素直にいただいた。

「とても美味しかったです。個人的にはチョコクッキーが好きですね。ココアの風味が絶妙で何でもいけそうです」

「そうですか。それでしたら紅茶はアッサムが一番ですね。ダージリンと一緒にいただくのでしたらマナクリームやアイスを添えるとよいでしょう。ドライフルーツのクッキーでしたら、アールグレイがいいですね。それから……」

 フェイトさんが紅茶好きだということを忘れていた。

 突然始まった紅茶講座に帰るわけにもいかず、一時間ほど付き合った。

「新、時間をとらせてすみません。紅茶のこととなるとすぐに熱くなってしまって……いけませんね」

 ホクホクとした笑みで謝られても誠意をまったく感じなかった。

 勉強になったので、お礼をいった。

「アキがどこに行ったか心当たりはありませんか?」

 答えを期待せずに二人に聞いてみた。

「この時間ならもう家に帰っているんじゃないかな?」

 予想通りの答えを貰った。

 二人のクッキーと紅茶のお礼をいって、アパートへと戻った。

 



 夕日が沈みかけて、夜になろうとしていた。

 さすがに駐車場で遊んでいた四つ子達の姿はない。

 どこかの部屋から夕飯の匂いが漂ってきた。

 そういえば今日は朝からクッキーと紅茶以外、何も食べていない。

 成人した男にそれだけでは到底足りない。

 意識した途端に腹の虫が煩く騒いだ。

 吸血鬼でも食事は必要で、血を吸うだけでは栄養が足りない。

 アキの部屋をノックしても返事はなかった。

 中に人がいる気配もない。

 今まで移動の途中でアキとリョーヘイに何度も電話をかけたが二人とも出なかった。

 しぶしぶ自分の部屋に向かうと、扉の前に姉さんがいた。

「あら、遅かったわね。どこにいたのよ?」

 姉さんがへらりと僕に笑いかけた。

 帰ったとばかり思っていた姉がまだいたことに少なからず苛立った。

「邪魔。そこどいて」

 八つ当たりだとわかっていても止められなかった。

「あらあら。イライラしちゃって。そんなにアキくんが側にいないことが不安なの?」

 おかしそうに笑う姉を扉に押しつけ、顔の横に手をついた。

 金属製の扉が軋む音がしたが気にしていられない。

「なんで姉さんがアキがでかけたことを知ってんだ?」

「嫌だわ。怒っている新が面白くてつい口が滑っちゃった」

 ごめんなさいね、とわざとらしく謝った。

「今まで僕がいろんな場所に行ったのも姉さんの仕業?」

「そうよ。皆にはお願いをして嘘を吐いてもらったの」

 姉さんは悪女のような笑みを浮かべた。

 作為的なものを感じていたが、まさか本当にそうだとは思わなかった。

「姉さん、アキをどこにやった?返答次第では」

「あたしを殺す?そうしたらアキ君への手がかりは完全になくなるわよ」

 目の前の姉が憎らしくて殺してしまいたい。

「何してんだよ、新!?」

 アキの焦る声に意識が移った。

 声のした一階へ手すりを乗り越え、飛び降りた。

 三階から降りた程度で傷つくやわな体をしていない。

「アキっ!無事でよかった。何もされてない?」

 アキは近寄る僕を手で制した。

「アキ?」

 俯くアキに不安がよぎった。

 まさか今までアキがいなかったのは僕のせい?

「リョーヘイと彩香さんに婚約指輪をもらう意味を教えてもらったんだ」

 アキは二人にいったい何をいわれたんだろう。

 不安だけが募り、息をすることだけでも辛くなる。

「俺はもうリョーヘイや新に守られるだけの存在じゃない。辛いことも乗り越えられる」

 きっと顔をあげて、僕を見上げた。

 その目には一つの覚悟が宿っていた。

 ああ、僕は捨てられてしまうのか。

 迫ってばかりでアキの気持ちを考えていなかったのかもしれない。

 でも僕はアキが好きで、アキしか好きになれない。

 悪いところがあるなら治すから、だから僕を捨てないで!

「だから二人で一緒に幸せになろうぜ、新」

 アキは背後から黒い小さな箱を取り出して、僕に突き出していった。

 一瞬、いわれた意味が分からなかった。

 上半分が開かれアキと同じ指輪が収まった黒い箱と、アキの言葉を頭の中で繰り返し、ようやく意味を理解した。

「アキっ……!」

 僕は感極まり、その場で顔を押さえて泣いてしまった。

「なんで泣くんだよ!?もしかして嫌だったのか!?」

 アキは先ほどの凛とした声から一変して焦った声になっている。

 どうしていいのわからずに、うろたえている姿が見えなくてもわかった。

「今すごく幸せすぎて夢みたい。アキを好きになってよかった」

 涙で濡れる僕の手をアキは引っ張った。 

 突然の痛みに顔から手を離し、目を大きく開いた新をアキは笑う。

「バーカ。夢じゃねえよ。なんだったら新をこれからいつでも幸せにしてやろうか?」

 ふっと優しげにアキは笑った。

 今まで可愛く思っていたアキがかっこよくて、顔が赤くなっていくのがわかった。

「あたしの弟ながらこんなに愛されて羨ましいことね。ねえアキ君、新に愛想をつかしたらすぐにいってね。あたしが身も心も慰めてあ・げ・る❤」

 いつの間にか降りていた姉に忘れていた怒りがこみ上げてきた。

「そんなこと一生ねえから引っ込んでろ、この〇ッチが」

 怒りをこめて睨めば、なぜか嬉しがられた。

「ああっ!実の弟に罵られるのもいいわね。ぞくぞくするわ。アキ君も遠慮せずに私を罵っていいわよ?」

「え、遠慮します」

 アキは完全に引いていた。

 ずっとそのままの反応でいてほしい。

「うふふ。初心で可愛い反応ね。ほんと新にはもったいないわ。ねえリョーヘイくん、略奪愛も素敵だと思わない?」

 アキの背後からリョーヘイが現れた。

 もしかして最初からそこにいた?

「新相手にそれをやろうと思えるのは彩香さんだけです。絶対にやめた方がいいですよ。彩香さんが殺されます。アキはよくて軟禁でしょうね」

「それもそうね。他人に恋愛感情を持たなかった新がアキ君をあれだけ愛しているもの。でも、一度くらい新と恋人の取り合いをやってみたかったのだけれど残念ね」

「俺からアキを奪ったら殺すぞ、〇バズレ」

 馬鹿なことをいい出した姉を殴り倒したい気持ちを押さえて、声にこめた。

「あたしじゃなくても新は相手を殺すでしょ?」

「当然だろ」

「はあ!?俺はそんなに信用ねえのかよ!」

 僕の言葉に反応したのはアキだった。

「アキの愛は疑ってないよ。でもアキはすごく魅力的だから無理やり誰かに奪われそうで怖いんだよ」

「魅力的ってお前の方が魅力があるじゃねえか!この間ファンからガチ告白されたの知ってんだぞ!」

 なぜか逆切れされてしまった。

 というよりなんでそのことをアキが知っているんだろう?

「ああ、あの子ね。アキの足元にも及ばない魅力だったら断ったよ」

「笑顔でさらっとファンが聞いたら絶句するようなことをいうなよ」

 アキは呆れたようなだが、どこか嬉しそうな笑みを浮かべた。

「だってこうでもいわなきゃアキは僕を信頼してくれないでしょ?僕の目にはいつだってアキしか映ってないんだよ」

「それ絶対嘘だろ」

「じゃあ今から証明してあげようか?ちょうど姉さんもリョーヘイもいるしね」

「ここで露出プレイを行うというの!?さすが私の弟ね!いいわ!いいわよ!最後まで見てあげるからしっかり乱れなさい!」

 そういう意味でいったわけじゃない。

 アキが乱れる姿を見られるのは僕だけの特権だ。

「彩香さん、落ち着いてください。そんなわけないです。友人の行為なんて見たくないです」

「あら?だからこそ興奮するんじゃない!」 

「彩香さんに普通の反応を期待した僕が馬鹿でした。じゃあ二人とも僕と彩香さんは帰るから。いちゃいちゃするのはいいけど、公共の迷惑にならないようにね」

「あ~ん。これからがいいところなのに。リョーヘイくんのいじわる!」

 リョーヘイに首根っこを掴まれ、どこかへ連れて行かれるが、途中で目ざとく次の得物を見つけ、リョーヘイの拘束から逃げて飛びついた。

「そこのお兄さん、あたしといいことしませんか?」

「ああ?お兄さんって俺のことか?」

 帰るところだったのか偶然通りかかったトマさんを捕まえていた。

「ええ、そうですよ」

 トマさんの腕を取って豊満な胸に押しつけ、潤んだ瞳で見上げた。

 普通の男ならそれで陥落するだろう。

 今回は相手が悪かった。

「悪いが俺にはそういうのいらねえんだよ。わかったらさっさと家に帰りな」

 年を重ねた男だけが持つ色香を最大限活かしたトマさんの微笑に、歴戦練磨はずの姉が純粋な乙女のように顔を赤くしていた。

 そんな顔も出来たんだ。

 姉の拘束が緩んだ間にトマさんは何事もなかったかのように家に帰った。

 しばらくして正気に戻った姉が追いかけてきたリョーヘイに声をかけた。

「せっかくだからリョーヘイくん、帰る前に一発あたしとヤらない?」

「ウィーなら喜んでやりますよ。今、マルオパーティーにはまっているんです」

「え、マルオパーティーを一人でやってるの?それ楽しいの?」

 珍しく彩香が引いていた。

 数人で遊ぶことを前提としたゲームを一人でやるリョーヘイが信じられないようだ。

 僕も最初は信じられなかったが、アキによると昔からそうらしい。

 リョーヘイのメンタルそうやって鍛えられたのだろう。

「すごく楽しいですよ」

「お姉さん、リョーヘイくんの気が済むまで付き合うわ。だから次からマルオパーティーをする時には友達とやってみたら?もっと楽しいと思うわよ」

 変態に変な気を使われてしまった。

 リョーヘイは僕とアキの他に友達がいないわけではないが、僕らが有名すぎて話しかけるのに気後れしてしまうらしい。

 一人でいる時は割と声をかけられている。

「わかりました。今度、誘ってみます」

 明らかに安心する姉に笑みが零れた。

 リョーヘイは自分の部屋に姉を呼んで、健全に三時間ほどマルオパーティーをしたらしい。 




 今日はアキを探し回って、片付けが進まなかったので泊り続行だ。

 同棲しているみたいで嬉しい。

 このまま片づけをせずにアキと暮らしたいなと思った。

「そういえばアキはどうして僕に指輪をくれたの?」

 後ろからアキを抱きしめながら尋ねた。

 いろいろあって聞き忘れていたけど、なぜアキは僕に指輪をくれたのだろうか。

 それも渡したものと同じ物を。

 テレビを見ていたアキが振り返った。

 なぜか不思議そうな顔をしている。

「婚約指輪って相手がくれた指輪と同じ指輪を次の日までに渡さなきゃいけねえんだろ?」

 そんな決まりを初めて聞いた。

 少なくとも日本では一般的じゃない。

「それってもしかしてリョーヘイと姉さんから聞いた?」

「そうだけど?え、まさか違うのか?」

 嫌な予感ほどよく当たるものだ。

 アキも二人に騙されたことに気づいたらしい。

 出来れば最初に聞いた時に気づいてほしかった。

「違うよ。婚約指輪はどっちかでいいんだよ」 

「俺は恋とかそういうのよくわかんねえから常識みたいにいわれたら信じまうだろ」

 僕から顔を逸らして口を尖らせるアキが実際の年より、幼く見えてすごく可愛い。

「でもありがとう。すごく嬉しいよ」

 素直に気持ちをこめてお礼をいう。

 今までたくさんプレゼントを貰ったけど、僕とアキが同じ気持ちなのだと感じられて一番嬉しかった。

「そりゃあよかった。探した甲斐があったぜ」

 アキは再び僕に背中を向けるけど、赤く染まった耳で照れているのはバレバレだ。

「アキに僕の指輪のサイズ教えたっけ?」

「この間一緒に買い物した時にいってたじゃねえか」

 アキの指輪のサイズを知りたくて、買い物の途中でよったアクセサリーショップでさりげなく聞いたのだ。

 その時に聞き返されて答えたのを覚えていてくれたらしい。

 暖かくて幸せな気持ちがこみ上げてくる。

「アキ、やっぱり好き!大好き!愛してる!」

 腕の中にいるアキを強く抱きしめ、髪に頬を寄せた。

 何やら文句が飛んできたけど、照れ隠しなのはわかってる。

 ずっと焦がれていたけど、六年越しで思いが叶った。

 幸せすぎて夢かと疑ってしまうけど、その度にアキが愛の鉄拳で現実だと思わせてくれる。

 アキが側で惜しみない愛をくれるから、僕には血なんていらない。

 ようやく手に入れたアキからの愛は僕にとっては何にも代えがたい宝物だ。

 お互いが死ぬまで大切にしよう。

 僕の思いに答えるように左手の薬指につけた指輪が輝いた。



 長くなってすみません。


 自分で書いておきながら、『このリア充が!!』と憤りを感じてしまいました。

 アキと新は永遠に爆発してしまえばいいと思います。

 

 愛する人から無償の愛を得た吸血鬼の次は管理人室、英雄兼大家と四つ子です。

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