Episode06 謝罪の王子様
バリバリバリ!
突然だった。すごい音を立てたかと思ったら、ペダルが何かに引っ掛かった!
「うわ!?」
足が動かない。バランスを崩しそうになって、私は慌ててブレーキを掛ける。「どうしたんですか!?」って後ろから叫んだのは、真香ちゃんだ。
「藤井、ちょっと止まろう! 路肩に寄って!」
言われるがまま、私は足で地面を蹴って自転車を道の端に寄せた。サドルから降りると、先に降りていた蒲田くんが駆け寄ってくる。
「何だったんだろ……!」
下を見た瞬間、気づいた。
わざわざ言う必要もなかったかな。誰の目にも明らかに、私の自転車は壊れてたんだ。
ペダルの動力を車輪に伝える、チェーン。それを覆っているカバーが、ぐにゃっと曲がってペダルを引っ掻けてる。
まさか、って思った。原因は、蒲田くんと会う前のあの事故だったんじゃ……!
「これなら直せそうだな、カバーの歪みさえどうにか出来れば」
ペダルを睨みながら、蒲田くんはニッと笑う。「よかったな、藤井。大したことなくて」
「直してくれるの?」
「ああ。あんまり時間ないけど、まあ飛ばせば何とでもなるよ」
言いながら、蒲田くんはカバーに手を引っ掛けて────、
「痛った!」
後ろに飛び退いた。
弾みで自転車が傾いて、蒲田くんの上に!
「わ、ちょっと大丈夫!?」
駆け寄ろうとした私は、はっとした。カゴから飛び出したカバンが、蒲田くんに乗っかってる。
隠してたつもりだった、蒲田くんのプレゼントのキーホルダーが。
「……しくじったわー、金属製だってこと忘れてた……」
自転車を押し上げながら立ち上がろうとしてる蒲田くんは、その時確かに壊れたそのキーホルダーを目にしてしまったと思う。
「あ…………」
「…………!」
どうしよう、どうしよう何て言い訳しよう……! いや待って、素直に起きたことを話せば……! いやいや待ってよ、それじゃ真香ちゃんが……!
おろおろする私の顔を、蒲田くんは見上げた。
その目が少し、悲しげに笑う。
「やっべ、ごめん藤井。壊しちゃったわ」
え……?
「たぶん、落ちた衝撃で壊れたんだと思う。欠けちゃったよ」
自分が壊したんだって勘違いしちゃったんだ。予想もしてなかった展開に、悲しんでいいのか喜んでいいのか分からない。
「う、うん…………」
とても蒲田くんを直視できなくて下を向くと、またさらに何か勘違いしちゃったみたい。蒲田くん、今度は土下座まで始める。
「あ……ごめん! マジごめん!」
「い、いいよいいよ!」
お願いです、顔上げてください! このままだと私が罪悪感に駈られてそこの多摩川に入水自殺したくなるから!
そこまで思い至ったところで、蒲田くんはやっと頭を上げた。
笑ってた。
「けど、なんか嬉しかったなー。プレゼント、カバンに付けててくれたんだ。大事にするって机の中に仕舞われるより、ずーっと嬉しいよ」
……やっぱり、多摩川に飛び込みたくなってきた。
「これ、プレゼントだったんですか……」
横から、真香ちゃんが覗き込む。「かわいいですね……!」
「だろだろ? これ絶対似合うと思ってさー、バレンタインのお返しにプレゼントしたんだよ。あん時の藤井の顔って言ったら……」
「……もしかして、センパイと蒲田さんの関係って……」
「あれ、さっき言ったじゃん。彼女候補だって────」
「ちょっと!?」黙ってられなくなって私は割り込んだ。
「なにを想像したか分からないけど、違うからね!? そんなんじゃないからね!?」
冗談じゃないわよ、ってとこまで口から出そうになって慌てて押し込める。いや、ほんと違いますから! ただの友達ですから!
「……違ったの……?」
ああもう、ここにも面倒臭いのがいる!
「だから────」
声をあらげようとした、その時だった。