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Episode05 不調法則?




「お二人は、いつもここに?」

 訊ねてるのは蒲田くんだ。

「まあね、好きだからよくいるよ」

「ここの風景、好きなんですか?」

「お、よく聞いてくれたねー。俺は夕暮れの写真撮るのが好きでさ、邪魔するほど大きな影のないここなら無限にそういう写真が撮れるって訳だよ。な、大森?」

「……いや、そうは言いますけど俺には行き先を選ぶ権限ないじゃないですか! いっつも先輩が勝手に……」

「ははは、悪い悪い」

 六郷さんたちが返してるのを聞きながら、私は目を細めた。

 なんかもう、自転車降りて座り込みたい気分だよ。

 違和感の正体が、やっと分かった。今日、「プラスマイナスゼロの法則」の調子が悪いみたいだ。なんかさっきから、嫌……とまでは行かなくても変なことばっかり起きてるのに、プラスに転じてくれない。その挙げ句、自分でプラスを打ち消しちゃったりしてる。

 どうしてだろう……。

「センパイ、どうしたんですか? 顔が何だか疲れてます」

 真香ちゃんの心配そうな声が、耳の中で響いた。

「そう……だね」

 ハンドルに体重をかけて、私は笑みを浮かべた。

「遠回りしたら、なんか疲れちゃったのかもしれない」

 笑っては、いなかったかな。


 大丈夫。

 あの法則は、絶対だから。

 今日中にはきっと、いいことあるよ。

 そう、自分に言い聞かせる。






「あ、やべ……」

 蒲田くんが変な声を出した。

「このあと引退お疲れさま記念で家族と晩飯に行くの、忘れてた! 藤井、写真も撮らないならそろそろ行かね?」

「あ、うん……」

 頷かない理由もなかった。むしろ、帰る切欠が出来た。ありがとう蒲田くん、と言う気にはならなかったけど。

 隣で大森さんが目を輝かせてる。「外食か、いいねー。ここ最近金がなくて行ってないからなー」

「すみません、じゃあ私たちは先に……」

「俺たちのことは構わないよ」

 頭を下げた私にも、六郷さんは笑って言ってくれた。

「気を付けて帰るんだよ」


 うん、

 色々気を付けて帰ろう。




「…………」

「…………」

 オレンジ色のカーテンに彩られた世界に、私たちはまたゆっくりとこぎ出した。

 誰も、何も言わない。いつか川崎さんと経験したのと違って、今度の沈黙は何だか重たかった。

 気まずい。でも、今は何を言っても場が白けちゃうような気がする。これが人間国宝との違いなのかな、ってふと思ってみたり。


 蒲田くんは、どんな未来を思い描いているんだろう。

 やっぱり、高校に進学しても野球なのかな。だとしたら、野球の強い学校目指して受験するんだろうか。

 だとしたら、いいなあ。ハッキリした目標が見えてるのって。

 真香ちゃんは……さすがに受験はまだ先だしなあ。でももしかしたら、もう学校選びを始めてるのかな。行動は早い子だし、案外もう候補は固まってるのかもしれないよね。


 私も高校生になったら、変わっていかなきゃいけないんだろうなぁ。

 オトナに。

 自分でも、よく分からないモノに────





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