Episode02 頑張り屋の後輩と、ずるい私
「あ、サッカーしてますねー!」
真香ちゃんが声を上げた。
河川敷の開けた場所で、二つのチームが試合をしてるのが見える。赤いユニフォームを着てる方のチームが、ちょっと優勢みたいだ。
「体育でもあんなに活躍できたらなあ」
向かい風に負けないようにため息をつくと、真香ちゃんは追い付いてきて聞いてくる。「藤井センパイはスポーツ系には見えないですよ、手芸やってる方がずっと輝いてます!」
「……それを認めたら私に手芸しかいいとこ無いみたい」
「そんなことないですよ! ない……ですよね!」
やばい、プライドが音を立てて崩れてくのが分かる。
私は下を向いた。言われてみたら、私って手芸以外に何が出来るだろう。勉強はもちろん運動もダメ、特技は裁縫だけかぁ……。
軽く凹んでいると、真香ちゃんは急に自転車を寄せてきた。
「センパイ、そんな落ち込まないでください。それに引き換えたら私なんてクラスのバカ代表みたいな扱い受けて────
きゃあっ!」
ガシャンっ!
ハンドルがぶつかった!
「わ、ちょっ待っ──!」
転んだのは私だった。すごい音と一緒になって、砂利だらけの道の脇に倒れ込む。痛ったーい!
「わわわ、すみませんセンパイっ!」
自転車を投げ棄てるように止めると真香ちゃんが駆けてきた。「ほんとにごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
「う……ん……」
明らかに無事じゃなかったけど、自転車を退けながら私は笑い返した。いや、あんなに目に涙までためて言われたら責められないよ。
「ふらふら走ってた私にも非があったよ。真香ちゃんは大丈夫?」
「私は大丈夫なんですけど……その、本当にすみませんでした! 私不注意だから……!」
「いいよ、いいよ」
振った手で、私は自転車を起こした。大丈夫だよ、真香ちゃん。私ほんとに気にしてないから。
ここで「マイナス」のネタを貯めとけば、後で間違いなくいいことになって返ってくるじゃない。自転車事故に見合うプラスがあるとしたら、けっこう大きいのが期待できるよ?
まだ泣きそうな顔をしてる真香ちゃんにもう一度笑いかけると、私はカバンを拾い上げる。
その時、気がついた。
「あ…………」
持ち上げたカバンのチャックについていたキーホルダーが、壊れてたんだ。大きなひびが入って、一部が欠けてる。
さあっと顔が蒼褪めるのが分かった。
どうしよう、これ前に蒲田くんにもらったプレゼントなのに……!
「……どうしたんですか?」
様子がおかしいって思ったんだろう、真香ちゃんに尋ねられる。ううん、と私は首で示した。
「ちょっと待ってて、カバン乗っけるから」
そうだよ私、キーホルダーは残念だったけど……これでまたプラスのネタが増えたじゃない。
後ろめたい思いを抱えながら、私はまた地面を蹴った。
蒲田くん、ごめん。今度何か私もあげるから、それでおあいこにしてください!
国道1号線の橋がかかっている場所まで、数キロ。
ゆっくり自転車を走らせながら、私たちは色んなことを話した。
部活のこととか、勉強のこととか。
真香ちゃんは自分で言うほどバカなんかじゃないと私は思う。早めに勉強始めた方がいいよって言ったら、少しずつならもうやってますって返された。まだ中二なのに。
それとも私が遅すぎただけなのかな。揺れるハンドルを押さえながら、私は睨むみたいに川面を見つめていた。夕焼け空を映した水面は色とりどりに輝いて綺麗だったけど、やっぱり西の方には雲が迫り出してお日さまを隠してた。
最後なのに、残念だな。
夕焼けが見られるだけマシだよね。そう思いながら国道1号線の橋に上る坂道を駆け上がったその時。