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Episode01 終わりの始まり。



※本作は「EveningSunlight」続編です。

先に本編をお読みくださると、幸いです。



「んー、今日も一日疲れたー!」

 思いっきり伸びをすると、肩の力を抜いた私は自転車の鍵を手に取った。

「んじゃ芙美、お疲れ様ー!」

 言いながら友達が一足先に校門を出てく。

「うん! お疲れ様っ!」


 振り返す腕が、何だか重たいな。

「私たちも、帰りますか」

 後ろから声がかかって、私は振り向く。

ごめんね、今日はすんなり帰る気はないんだ。

「寄り道しようかなって思ってるけど、一緒に来る?」

「いいですよ!」

 ぱっと輝くその顔。よっしゃ、と気合いを入れると、私は地面を蹴った。チリンチリンと気持ちいいベルの音が、響き渡った。

 オレンジの光を放つ太陽は、今日はさっきからずっと雲の中だ。




 私、藤井芙美は中学三年生。

 東京と神奈川の県境を流れる多摩川の傍を、毎日自転車で通学している。

 とは言うものの……、残すところ九ヶ月くらいになった中学生活のなかで、部活に登下校にのんびり勤しんでいた私にも来るべきモノがやって来た。

 そう、高校受験だ。

 仕方ないよ、みんなするんだから。私だけ遊んでる訳には、いかないもん。

 今日、私は二年以上もお世話になった手芸部を引退した。ついでに塾にも通うことになったから、明日からは電車通学にしなきゃいけなくなった。

 今日のこの帰り道が、最後の自転車通学になるんだ。夕暮れの多摩川は、しばらくお預けになっちゃうんだ。

 だから、せっかくだし足を伸ばして遠回りして帰ろう。昨日からそう決めていた。




「どこまで行きますか?」

 土手上の道に上ると、後ろの子が尋ねてきた。

 私の部活の後輩である彼女の名前は、大井真香(まなか)。家は多摩川沿いにあって、いっつも部活終わりには私と一緒に自転車で河川敷の土手を帰ってるんだ。

 不器用だけどすっごい頑張りやさんで、私なんて不真面目だなって思えるくらい。入部した頃あんなに苦手だった刺繍は、今や得意分野になっちゃってるし。

 それに何だか、私のことをすっごく慕ってくれている。

 嬉しいんだけど……、ちょっと変な気分なんだ。私、別に何か特別なことをしたわけでもないのに。

「南に下ると国道1号線があるじゃない? あそこまで行ったら引き返そう」

「けっこうありますね……」

「疲れそうなら無理に付いてこなくてもいいんだよ?」

 そう言った途端に、真香ちゃんの声に力が入る。「いえ! 大丈夫です私!」

 ふふ。思わず、笑みがこぼれた。




 プラスマイナスゼロの法則。

 一日のうち、悪いことがあればその分必ず良いこともある。最後には絶対にゼロに落ち着く。自分で見つけたその法則を、私はそう呼んでる。

 その力はホンモノだ。二度も転んだりセクハラされたりした日には、人間国宝に出会ったりプロの写真家さんに写真を撮ってもらえたりしたし。

 全てのことはみんなこの法則で説明つくんじゃないかな。それくらい、強い拘束力があるんだ。

 そんなこの法則も、電車通学になればどうなるか分からない。

 だから、今を目一杯楽しもうと決めたんだ。

 普段よりゆっくりと、私は自転車を走らせた。でこぼこのアスファルトは走っている感触がリアルに伝わってきて、何だか余計に気持ちがよかった。




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