第6章 魔法使いクラブ
ビュンビュン、ビュンビュンと、冷たい風がアカルの頬を通り過ぎた。今まで足が地面に着いたという感覚はなかったが、やっと足が地面に着いたという感覚がした。
「アカル!大丈夫?」
ベルンがアカルを起こした。そこは、「テミアース村」だった。
戻ってきたんだ。テミアース村に。
アカルは自分たちがヴァレットモールで倒れていたことに気付き、少し恥ずかしくなった。
「大丈夫、だよ。うん、大丈夫。」
アカルは周りを見回しながら言った。とても眩しかった。今は朝だろうか?太陽の位置からして朝だった。太陽が東にある。
「アカル、僕たち、君のペットを買いに来たんだよね?行こっか!」
アカルはまだ頭が混乱していたが、ベルンに手を引かれたので、そのまま着いて行くことにした。
「いらっさいませー!」
「魔法使いのペット専門店」に入るとボロボロの服、スカートを着て、丸いメガネをつけている、いかにも変人らしい太ったおばさんが迎え出た。
「あのぉ、アカルのペットを買いに来たんだけど・・・」
ベルンはアカルの背中をトンと押しておばさんに見えるように前にやった。
「ふぅ~ん。あんたが、アカルかい。」
おばさんはアカルをジロジロ見ながら言った。
「はい。僕がアカル・ハルトです。」
アカルはあまりにおばさんがジロジロ見ているので少し嫌になってきた。
「あんたにゃ・・・モリフクロウがぴったりさね。」
おばさんは一番奥の「モリフクロウ」と書いたケージを指差した。アカルはモリフクロウのところへ行き、しばらくしゃがんで観察していた。モリフクロウは、アカルを見ると、興奮してホーホーと鳴きまくっていた。
「食事は?どうするの?」
アカルがモリフクロウが入れられているケージに指を入れて遊びながら聞いた。
「食事は、自分で狩に行くから気にしなくてもいいよ。でも何か心配があれば、あたしに相談することだね。」
おばさんは近くに近ずいてきた白いアメリカンショートヘアのおでこをカリカリしながら言った。
「アカル、君にピッタリだよ!」
ベルンがアカルにモリフクロウを買うように促した。アカルはしばらくの間、モリフクロウを眺めていたが、他の動物を見たいと思い、立ちあがった(アメリカンショートヘアがビックリして「シャー」と言った)。
「ベルン、僕もこいつはいいと思うけど、他の動物も見てみるよ。」
アカルはそう言って他の梟を観察したり、他の猫や蛙なども観察していた。だが、結局良いペットが見つからず、モリフクロウを買うことに決めた。
「ベルン、僕、もうちょっと魔法を練習したい。」
アカルはモリフクロウの3ルウドと4ヴァルを出しながらベルンに言った。ベルンはアメリカンショートヘアの背中を撫でながら言った。
「そう、だね。後で話そうか。」
アカルはモリフクロウをかごに入れてもらい、かごを持ってベルンと店を出た。
「で、どうする?」アカルは魔法のことについて言ったつもりだったが、ベルンには分からなかったらしい。
「えー?何の話?」
ベルンはアカルの方を振り返って言った。
「ほら、魔法の練習の話だよ。」
アカルが言うとベルンはアカルに歩調を合わせて言った。
「君なら練習しなくてもいいだろ?」
「いや、それが練習しないとダメな気がするんだよ。」
アカルが言うとベルンはふぅ~ん、と一度考えるような姿勢をとって言った。
「アカル!いいところがあるよ!」
「何?」アカルはベルンがいきなり大きな声をだしたのでビックリしたが、落ち着いた声で聞いた。
「「魔法使いクラブ」!あこならいろんなとこから魔女や魔法使いが集まってきてるからレベルの高い魔法使いに教えてもらえるよ!」
ベルンは「これで決まりだ!」という感じに話した。
「うん、そりゃあ、いいや!みんな瞬間移動(モウント―ム)してきたんだろ?」
ベルンは頷いた。
「で・・・・これからどこ行くの?」
アカルは魔法使いクラブのことを考えていた。
「アー?えーと、魔法使いクラブ――――――じゃなかった。箒置き場」
ベルンは歩く早さを早めながら言った。
箒置き場に着くと、やっぱりいろんな箒が浮いていた。
「ベルン、また箒に乗って行くの?」
アカルは浮いている自分の銀色の梟のマークがついた箒を触りながら聞いた。
「勿論箒で行くよ。」
ベルンは答えた(ベルンはもう箒にまたがっていた)。アカルは少し嫌々、少しワクワクしながら(手に梟の入ったかごを持って)箒にまたがった。
「1、2、3!」
ベルンはアカルに聞こえるくらいの大きさの声で言い、さっと地面を蹴って、空に飛び出した。ベルンに続き、アカルも同じように(アカルは地面を蹴らずに)空に飛び出した。
今回は時間がまだまだたくさん余っていたので、ベルンはゆっくり飛んでくれたので、アカルはゆっくり景色を楽しむことができた。
箒で飛ぶって、とても気持ちいい!
アカルは初めてそう思った。
ベルン、アカルはしばらく下の方をゆっくり飛び、いきなり上の方へ高く飛び上がり、ビュンビュン飛ぶ速度を上げた(いきなり速度と高度が上がったので、モリフクロウは興奮してかごの中で翼をばたつかせた)。アカルは始めて箒に乗ったときの感覚を味わった。
頬に風が当たり、平手打ちを食らったように痛い・・・・
でも、アカルはとても気持ち良かった。空が青く、雲が少ない。太陽の暖かい光が、アカルとベルンを照らしていた。
それから20分ほど空高く飛んだだろうか?ベルンはゆっくりと高度を下げた(モリフクロウはまだ興奮していた)。
「アカール!今からー、森へー、下りるよー!」
ベルンは後ろにいるアカルを振りかえり、大きな声で、森にに下りるという仕草をとった。アカルは下にある大きな森をふと見下ろした。その森は、アカルが魔法使いの儀式を行った森だった。まだあの森にドラゴンやら蛇やらという恐ろしい生き物がいるというだけでゾクッとした。
森は前のように暗かった。
アカルは森に入ってすぐに、周りにドラゴンや巨大蛇、変な生き物はいないかを確認した。結局、ドラゴンや巨大蛇はいなかった。そして、アカルは自分の梟のかごを持ち、ベルンは杖をポケットから取り出し、周りを明るくする呪文を唱えた。
「テゥ・リータ! 明るくなれ!」
ベルンの杖にポッと明るい明りが灯った。
「行こう。アカル、あと、3、40秒歩けばすぐ着くよ。」
ベルンは杖を自分より前に出しながら歩いた。アカルはどんな所に「魔法使いクラブ」があるのかとワクワクしていた(時々ドラゴンの腹の中にあるのではと恐ろしい想像をしていた)。すると、ベルンはいきなり立ち止った。
「着いたよ。ここだ!」
ベルンはにっこりして言った。
「う、ん?」アカルはどこかすぐ近くに小屋でもあるのかと、周りをキョロキョロ見まわした。
「え?ベルン、そんな、魔法使いクラブなんて、どこにもないじゃないか?」
アカルが不思議そうに言うと、ベルンは地面に落ちている大きな石を指差した。
「え、じゃあ、その石の下に・・・?」
アカルは大きな石を不思議そうに見ながら聞いた。
「うん。そうだよ。この下。」
ベルンは当たり前のようにに答えた。ベルンはよっこらしょと大きな石をよかして、穴の中に足を踏み入れて、言った。
「ついてきて。大丈夫だから」
ベルンはそう言い残して穴の中にどんどん入って行った。アカルはベルンの杖の明りが見えなくなるまでそこに突っ立っていた。少し不安だったのだ。
アカルは、ベルンと同じように明りの呪文を唱え(「テゥ・リータ! 明るくなれ!」)、穴の中に杖先を向けた。穴の中にはゆるやかな坂の階段があった。アカルは梟のかごを階段に置いてから自分も階段に足を着けた。そして、ベルンがよかした大きな石を元の位置に戻してから階段を下りはじめた。穴の中は思ったよりも温かかった。
しばらく階段を下りていると、明りが見えた。それは松明の明りだった。アカルは杖の明りを消す方法を呪文集で調べて、杖の明りを消してから(「イレン・シウィ 明りよ消えろ」)、近くにある一つの部屋からベルンが手招きをしているのを見つけ、急いでそこへ向かって歩いた。
「アカル、遅かったじゃないか!何してたんだよ?」
ベルンはほとんど体を部屋の中に入れ、顔だけを扉から覗かせていた。その扉は、木でできていて、とても古そうで、でも、何故か壊れかけている感じもしない扉
「いや、石を元の位置に戻したり、ほら、梟もいるしね・・・」
アカルは梟のかごを持ち上げて見せた。
「あぁ、そっか!うん、分かった。じゃ、行こう。」
ベルンはドアをアカルとベルンが入られるくらいに開けて、アカルの腕をグイッと引っ張って、中に入った。部屋の中では、20人くらいの人が集まって呪文を唱えたり、薬らしきよく分からない物を作ったりしていた。20人くらいの人達は、アカル達が部屋に入ってくると、さっとアカルとベルンの方に注目した。
「こ、こんにちは・・・」ベルンがぎこちなく挨拶した。
すると、堂々とアカルとベルンに向かって歩いてきた子がいた。その子はアカルとベルンより1歳か2歳年下だと思われる、黒髪の毛を上の方でおだんごに結んだ、ブルーの瞳を持つ、可愛い女の子だった。
女の子はベルンの方に手を差し出し、ニッコリ微笑んで言った。
「初めまして。私、ミンクス。ミンクス・ライントよ。よろしく!」
ミンクスは、どぎまぎしているベルンの手を無理矢理取り、握手した。
ミンクスは、今度は突っ立っているアカルの方に手を差し出した。
「よろしく!」ミンクスはそう言ってアカルにも微笑んだ。
「よろしく・・・・」アカルもそう言って、ミンクスの手を取り、握手した。
すると、ミンクスは満足気な表情を浮かべ、アカルとベルン以外のみんなの方に向き直り、言った。
「みんな、聞いて!」
ミンクスが大きな声で言うと、ザワザワしていたのが治まった。
「多分、この2人は、ここのクラブに入りたいという人だわ!」
ミンクスはアカルとベルンの方を振り返って、「そうでしょ?」と、言った。アカルとベルンはそれに対し、大きく頷いた。
「・・・まぁ、そういうわけで、このお二人をクラブに入れてあげても、いいわね?」
ミンクスはまたみんなの方に向き直り、聞いた。
「僕は、いいと思うな・・・」
気取った、聞き覚えのある声がした。
「フェルト?」ベルンはビックリして言った。
「何?友達?」
ミンクスは嬉しそうに聞いた。
「あぁ、うん。友達!だから、入れてあげなよー!」
フェルトはニッコリして言った。
「私も賛成だよ。だって、アカルはこの前魔法使いになったばかりだから、魔法とか、そういうのは練習した方がいいとおもうよ。」
金髪の髪をポニーテールにした女の子が、ぽつんと言った。
「うん、俺も賛成だな、新入り!」
髪の長い、とてもハンサムな男性が言った。その後は、「反対」という声は挙がらず、「賛成」という意見がほとんどだった。
「オッケー!んじゃ、ちょっとそこで待ってて!」
ミンクスはそう言って部屋から出て行った。その直後に、さっきのハンサムな男性がアカルの目の前に来て、笑顔で言った。
「よぉ、初めまして、だな!俺は、ヤンナ・ザラン。よろしくな!」
「よろしく、僕は、アカル・ハルト。」
アカルもニッコリして言った。
「あ、そういやぁ、どうしてルーンはおめぇの名前を知ってたんだろうなぁ?」
ヤンナはそう言って立ち去って行った。アカルは、そういえばと、思い出した。
――――――ルーンはきっと、この村の人だ。儀式を見ていたのかな?
アカルはそう、思った。
それから、5分程すると、ルーンが古そうな扉から、息を荒げて部屋に帰ってきた。ルーンの手には、白い、色々書いてある開かれたくしゃっとしたノートがあった。
「おまたせ・・・」ルーンが近くにあった、お洒落な白い、花が描かれた椅子に座りながら言った。
「ルーン、それ、何?」
ベルンがノートを指差して聞いた。
「これ? これは、メンバー表よ。メンバー表に名前を書くと、いつ、ここが開いていないか、いつ、ここが開いているかが分かるのよ・・・自然に頭の中に情報が入ってきて、入って来た時は、頭の中で「ピー」という音がするのよ」
「仲間が危険な状態にあれば、「ボーッ」という音が何度もなるのよ」
ルーンが椅子の真横にある棚の上からダチョウの羽根の羽根ペンを取って、ベルンに渡しながら言った。
「ベルン、あんたから先に、ここに名前を書いて」
ベルンは頷いて、羽根ペンを受け取り、ペンをインクに浸してからメンバー表に自分の名前を走り書きした。アカルもベルンから羽根ペンを受け取り、メンバー表に自分の名前を丁寧に書いた。
「オッケー、ありがとう。じゃあ、今日はとりあえず、見学と言う事で・・・」
ルーンがアカルからノートを受け取りながら言った。
「あぁ、うん」アカルが少し残念そうに頷いた。
ところで、今アカル達がいる部屋には、5つの扉があり、それぞれ練習、学んでいる事が違った。
1つ目の扉から部屋へ入ると「呪文」。2つ目の扉から階段を少し上ると「占い」。3つ目の扉をよじ登ると「歴史」。4つ目の扉を通り抜けると「魔法薬」。5つ目の扉の鍵を魔法で開けて入ると「呪い」。となっていた。
見学には、ルーンが付き添ってくれた。
「あぁ、あなた達に魔法薬の部屋を見せてあげられないのは、残念だわ!」
ルーンが「魔法薬」と書いてある札が貼ってある扉の目の前で嘆いた。
「魔法薬?「惚れ薬」とか作るやつ?」
ベルンがワクワクしながら聞いた。
「そうよ。ベルン、あなた、惚れさせたい人でもいるの?」
ルーンがニヤリとして聞いた。
「いや、そういうんじゃ・・・」
ベルンの顔が少し赤くなるのを、アカルは見た。
「魔法薬」以外の部屋は全て見学できたので、だいたいは満足できた。でも、やっぱりアカルとベルンは、魔法薬の部屋はどんなものだろうか、と気になっていた。
「うん、これで、見学は終わりよ!どうだった?気に入った?」
ルーンがニッコリして聞いた。
「あぁ、気に入ったよ」アカルが満足気に言った。
「あぁ、気に入ったけど、「魔法薬」の部屋を見られればもっと、気に入ったかも」
ベルンが少し残念そうに言った。
「アカル、それは良かったわ!ベルン、そんな残念そうな顔をしないで。本格的に魔法を使えるようになったら、「魔法薬」の部屋に入れるんだから・・・」
ルーンが言った。
「そろそろ、帰る?」
アカルがベルンに聞いた。
「帰るなら、箒を用意しようか?」
フェルトがいきなり後ろからアカルに聞いたので、アカルとベルンは思わずピョンと、ジャンプをしてしまった。
「あぁ、フェルト!大丈夫だよ。箒は持ってる。ありがとう」
ベルンが急いで言った。
「そうかい?じゃあ、外への近道を教えるよ」
フェルトがベルンの手を引きながら言った。
「じゃあ、ルーン、ありがとう。情報を待ってるよ」
アカルはルーンや他のみんなに手を振りながら言った。
「またね!」