第5章 瞬間移動(モウントーム)道(ロード)
アカルがテミアース村のことを知らなさすぎて瞬間移動道に入ってしまって別の村へ瞬間移動してしまうんですが・・・?
アカルは瞬間移動している間はギュッと目をつむっていたが、途中でどうしても周りの様子が気になり、目を開けることにした。涼しい風がアカルの頬を通り過ぎていた。何故かぼんやりしていて少しだけだが、吐き気がした。
「起きたのかい?」
朗らかな声が上の方からした。ぼんやりとだが、アカルより少し年上そうな男の子がアカルの顔を覗き込んでいた。
「え?あ・・・・はい・・・」
アカルはどぎまぎしながら答えた。
「そうか。それはよかった。君、名前はなんていうの?僕は、フェルトだよ。」
フェルトという男の子は気取った感じの子だった。
「あ、名乗り遅れてすみません。僕、アカル・ハルトです。」
アカルが名前を言うと、フェルトは近くにあった机の引き出しから羊皮紙を取り出し、机の上のクジャクの羽ペンでアカルの名前をささっと書いた。羊皮紙には、アカルの他にいろんな人の名前が書いてあった。
「君は、瞬間移動してきたんだね?」
フェルトインクのついた羽ペンを持ったままアカルに聞いていたので、インクが一滴机におちた。
「え?何ですか?その、『瞬間移動』っ――――――― 」
アカルが聞きかけると、部屋のドアの外から、ドンッという何か大きな物が落ちたような音がした。
「僕が見てくるよ。」
フェルトはドアの方へ行き、廊下だと思われるところを覗き、「わぁ?」と言った。驚いた様子だった。
「お じゃ ま しまーす! こ こ に、 ア カ ル と いう 男の子
は い ますかー?」
それはベルンの声だった。ベルンが大声で自分を探しているようだ。
「ベ、ベルン?」
アカルは急いで廊下の方へ駆けつけた。ベルンは玄関の所で立っていた。
「アカル?」ベルンは驚いたようだったが、とても安心したという声で言った。
「ここは、誰の家かな?まさか人間界じゃ―――――― 」
「ないよ。」
アカルはベルンの質問にすぐ答えた(質問をしかけているところをアカルがすぐに答えたのだが)。
「やあ、ベルン君。」
フェルトはアカルとベルンの会話を聞いていたらしくもうベルンの名を羊皮紙に書いたようだった(フェルトは羽ペンと羊皮紙をそのまま持ってきていた)。
「よろしく。君の名前はなんていうの?」
ベルンはフェルトと握手を交わしながら聞いた。
「僕は、フェルトだよ。」
フェルトは気取った感じに言った。
「ベルン・・・なんていうの?」
フェルトは聞いた。
「ベルン・ベリン。」
フェルトは羊皮紙に「ベルン」の次の、「ベリン」を書き加えた。そして、
羊皮紙を白い封筒に入れた。そして、自分のズボンのポケットから金色の小さな笛を出し、「ピッピッピー」と3回吹いた。すると、どこからともなく小さな鳥が飛んできた。それは、鳩だった。
「へぇ、魔法の世界だから梟でも使うかと思っていたけど、人間の世界と同じだね。」
アカルはフェルトが鳩を読んだのは多分名前を書いた羊皮紙を誰かに送るためだと考えた。
「そ、そうなの?人間の世界でも鳩を使うの?」
フェルトは少し顔を赤らめて言った。
「たまにね。梟も使うよ。滅多に使わないけど・・・」
アカルが言うと無意味に鳩はアカルの耳を甘噛みした。
「で、その鳩は何に使うの?」
ベルンが僕も会話に入れてほしいというようにフェルトに聞いた。
「これを送るのさ。」
フェルトは白い封筒をぴらぴらさせて見せた。ベルンはそれを見て言った。
「それって、さっき僕の――――― 」
「そう。さっき君らの名前を書いた羊皮紙だよ。」
フェルトはベルンが続きを言う前に答えた。すると鳩は待ちきれない様子でフェルトの手から封筒をピッと取って、また、さっき入ってきた所から外へ出て行った。
「でも何故そんな、名前の書いたものを送るの?誰宛?」
アカルとベルンは同じ質問をした。
「ええと・・・僕は、ここの村、「ラーイント村」の村長に、ラーイント村に来た人の名前を毎日書いて送る仕事をしているんだ。」
フェルトは羽ペンをかたずけながら言った。
「そして、1日2ルウド、手数料とお給料として貰える。」
フェルトはアカル達の方を見て付け加えた。アカルとベルンはふ~んと頷いた。
「君達は、何ていう村から来たの?」
フェルトは台所に向かいながら聞いた。
「ええっと・・・テー――――― 」
「テミアース村。」
アカルが「テミアース村の」「テミ」の部分を「テーミ」と言おうとしたのでベルンはイライラ声で急いで答えた。
「え?テミアース村?近いねぇ?そこの森を越えればすぐ着くよ。」
フェルトが指差したところには、大きな不気味な森があり、そこはアカルが魔法使いになるために通った森だ、と、思った。が、微妙に違った。
「僕達の住んでいる森とまるでそっくりだ!でも、光る大きなきのこがあるね。」
ベルンは森を眺めながら言った。確かに森の入り口のような所には、きのこだと遠くから見ても、分かるくらいの大きさのきのこがあった。アカル、ベルンがぼーっと外の景色を見ていて、フェルトが紅茶を入れ終わったとき、アカル達が景色を眺めている窓と別の窓から、バサッバサッ、という羽ばたく音が聞こえた。さっき手紙を運んで行った鳩とはまったく別の、白い梟が飛んできた。その梟はくちばしに手紙をくわえていた。フェルトは梟のくちばしから手紙を取り、封筒を自分の杖で開け、口に出して読んだ。
「アカルとベルンはどうやら、間違えてここの村に来てしまったらしい。今すぐに瞬間移動(モウント―ム)道でもとの村へ帰して差し上げなさい。―――と。」
フェルトは手紙を丁寧に半分にたたみ、封筒に戻すと、すぐに机の方へ向かい、棚から羊皮紙を取り出し、アカルがここに来た時にフェルトが使っていた羽根ペンで羊皮紙に手紙の返事を書き始めた。
「これで、よし、と。」
フェルトはおとなしい白フクロウのくちばしに封筒をくわえさせた。梟は封筒をくわえてバサッ、バサッ、と羽ばたいて行った。フェルトは梟が飛んで行くのを見届け、体をくるりとアカルとベルンの方に向け、言った。
「さぁ、アカル、ベルン、君達はもう村に帰らないとハストネス村長が心配するよ。近くに瞬間移動(モウント―ム)道があるから案内するよ。来て。」
フェルトは手招きをしながら廊下の方へ速足で行った。アカルとベルンは顔を見合わせ、走ってフェルトの方へ向かった。フェルトは靴を履いて外に出た。アカルとベルンは最初から靴を履いていたはずだったのに、いつのまにか玄関に自分達の靴があることに驚いた。
外はもう薄暗くなっていた。フェルトは何も言わずにアカル達と歩いた。しばらく歩くと、そこだけが妙に黒が濃くなっている道路があった。
「ここが瞬間移動道だよ」
フェルトは瞬間移動道の手前に立って言った。
「あぁ、うん・・・そのようだね・・・」
ベルンは少し足を瞬間移動道に近づけながら言った。
「アカル、ベルン、またね!」
フェルトは笑顔で言った。
「フェルト、あのさぁ」
アカルが言った。
「ここにまた来れると思うんだけど?」
アカルが言うと、ベルンとフェルトは顔を見合わせて「そうか!」と同時に言った。
「いい考えだよ、アカル。うん。いい考えだ!」
フェルトはニコニコして言った。
「んーと、どうやって来れる?例えば、合言葉を言うとか、また普通に瞬間移動道に飛び込むとか・・・?」
ベルンは適当な合言葉を色々作って口に出して言い始めた(なぜか、「ティーポットカバー」や、「紅茶」などと言っていた)。
「ええっと、ここへ来る時は、瞬間移動道に足を踏み込む直前に、「キャット!」と普通の声で言うんだよ。」
フェルトは「ラーイント村いろいろ」と書いた新品の(アカルにはそう見えた)小さな本を読みながら言った。
「オッケー!でも、なんで「猫」なのさ?」
ベルンは瞬間移動道を覗きながら聞いた。
「さぁね?僕でも分かんない。この村に猫が多いからじゃない?」
フェルトは周りを見ながら言った。気付くと周りには猫がたくさんいた。
「あ、そうそう。「テミアース村」に帰るには、その村の村長の名前を言わなきゃなんないからね!」
フェルトが手をバイバイと振りながら付け足した。アカルとベルンも手を振りながら瞬間移動道に「ハストネス」と言いながら入った。すごい勢いで下へ下りていく。最後にアカルとベルンが見たのは、フェルトの嬉しそうな笑顔と、「ニャー」と鳴いている猫たちだった。