第1章 テミアース村
皆様、クレヴァと魔法使い、第1章のページを開いていただき、ありがとうございます。
私は、まだまだこれからですが、この、『クレヴァと魔法使い』を、面白い物語にしていこうと思います。
これから、よろしくお願いいたします・・・
2000年2月26日
マトリック通り 2番地に住む10歳男の子クレヴァ・スプレンディットはついこの前、通っていたエクセレント小学校が火事でなくなってしまったので、学校が再び建て直されて完成するまで家で勉強したり昼食を食べたりしなければならなかった。
クレヴァは、昼食を食べ終わり、「ごちそうさま」の挨拶をして、席を立ったところだった。
「アカル、どうだった? 俺の手作りミートスパゲッティーは」
3歳年上の兄のヴィゴラスがクレヴァに昼食についての感想を求めた。
ヴィゴラスはいたずら好きだが、頭は良く、将来はレストランを開き、そこのシェフになるそうだ。だが、はヴィゴラスにシェフになってほしくないと思った。実はクレヴァにとってヴィゴラスの料理はほとんど(卵焼き以外は)まずい。
例えば、ケーキなんかだと、砂糖を入れ過ぎ、小麦粉も入れ過ぎ、甘すぎの粉々ケーキになったことがある。
今日のミートスパゲッティーは、手作りのミートソースに隠し味だと言って砂糖を入れたせいで、とても変な味になっていた。
「あー? うーん……まあまあ」
クレヴァは否定の言葉は嫌いなので適当に答えた。
「そうか……ん? お前、いつも『まあまあ』って言ってない?卵焼き以外」
クレヴァはヴィゴラスがクレヴァにとって自分の料理がまずいと思っていると少しでも考えてくれれば、少しはシェフになるために、料理教室にでも通ってくれるのではないかと期待した。
「そうか。お前は素直じゃないな。みーんな旨いって言うぞ? 本当のこと言えよな?」
ヴィゴラスはにっこり笑った。クレヴァはもうどうでもいいや、と思い、勉強机に向かった。
クレヴァは整理整とんされた机の上に少し散らばっている消しカスを集め、ゴミ箱に捨ててからドリルや筆記用具を取り出し、リビングに戻った。
「ちょっと買い物してくる!」
ヴィゴラスは明日の昼食の材料を買いに行った。クレヴァは今日の夕食には何がでるのだろうと想像していた。
「今日のランチはホットケーキ、デザートは桃のシャーベットです」
シェフの格好をしているヴィゴラスの姿。
「うわぁ、美味しい!」
美味しそうに食べている自分の姿も思い浮かんだ。
「まずい!こんなのまずいよ!」
横に座っている小さな男の子はスパゲッティーをペッ、ペッと吐き出している。
「まずいよ!まずい!まずいよ!」
パチン!
いきなり頬に一瞬、激痛が走った。
「え?」
クレヴァはいつの間にか居眠りをしていたようだ。
「まずいなぁ……あっ!生きてた!」
クレヴァは声のする方を見た。
「気がついた?」
自分と同い年くらいの、頬にそばかすがたくさんある、栗毛色の髪をした男の子が一生懸命にクレヴァを起こそうと叩いていたのだろう。
「君は……誰?」
クレヴァは起きあがって聞いた。クレヴァが今いるのは、温かい所で、緑の草原だった。
「僕は、。君は?」
ベルンという男の子はアカルの名前を聞き返した。
「僕は、アカル・ハルト。よろしく」
アカルは立ち上がったが、まだ頭がぼんやりしていたので足下がフラッとして倒れかけた。
「ここは……どこ?」
アカルは周りを見廻し、たずねた。
「テミアースだよ」
ベルンはさらりと答えた。
「なんだって?テミアース?テミスなら知ってるけど……?」
アカルは世界地図を何度も読んだことがあるが、「テミアース」という国や村、集落は聞いたことも、見たことも無かった。
「テミアース!ここの村の名前だよ。案内するよ」
ベルンはイライラした口調で言った。
「あ、うん……」
アカルは自分にこれは変な夢だと言い聞かせながらも少しこの現実のような夢のような世界を楽しんでいた。
「あ、ちょっと待って。実は、魔法使いにならないとこの村の魔力に負けて消えてしまうんだ」
ベルンは困った顔をしてアカルを見た。
「じゃあ、僕、帰る」
アカルはきっぱりと言った。だが、アカルはどうやってここに来て、どうやって帰るのか分からなかった。
「どうやって、帰るの?」
アカルはベルンに、聞きにくそうに聞いた。
「ごめん、分からないんだ」
ベルンは申し訳なさそうに答えた。アカルは帰りたい気持ちもあったが、魔法使いは自分の住んでいた世界では非常に珍しい者なので、
「じゃあ、僕、魔法使いになるよ」
と言ってしまった。ベルンはとてもうれしそうに首を縦に振った。
それからテミアースの村の中心にある暗い不気味な森の前に村の住民が集まって、アカルとベルン、村長だと思われる、青いローブを着た、背の高い、優しそうなおじいさんが真ん中のコンクリートで造られたステージのような物の上に立って周りをきょろきょろ見たり、オロオロしていた。
「さて、皆様、『森の前の儀式広場』に来て下さり、ありがとうございます」
村長がようやく口を開いたのでベルンとアカルは少しだけ緊張がほぐれた。
「今日は村の住人が一人増えるかもしれん。このアカル・ハルトという男の子が魔法使いになりたいと思っているそうじゃ。そこで、魔法使いになるための儀式を始めようと思う」
村長が言い終わると『森の前の儀式広場』がざわざわと騒がしくなった。
「アカルよ、言っておくが、儀式では、辛い試練が待っており、その試練を乗り越えないと魔法使いにはなれんのじゃが、それでも儀式に参加するか?」
村長はアカルを真剣な目で見た。
「もちろん、儀式で死ぬことはないが。もし死にそうになったら、もう一度儀式をやり直すか、家に帰るということもできる。死ぬことはない」
村長は急いでつけ加えた。
「あの、儀式をしなかったら、どうなるんですか?」
アカルは正直言って、今になって、また魔法使いになろうか どうしようかと迷っていた。
「もちろん、家に帰ることができるが、もうここへは戻れぬ。せっかくの魔法使いになるチャンスを潰してしまうことになる」
村長は「魔法使いの儀式」という薄汚れた本をローブの中から取り出してサッと目を通してすぐにしまった。
「やりましょう。ここまで来たんだからね」
村長はアカルがそう言ったのを聞いて目をキラキラ輝かせた。
「では、儀式の準備を始めよ」
村長はローブから杖を取り出し、アカルの両手に杖先を向け、唱えた。
「スティッカム!合う杖よ現れろ!」
アカルはあっと息を呑んだ。何も持っていなかった自分の手に焦げ茶色の細い杖が現れた。
「これでよし、と」
村長はアカルとベルン、集まった人達に微笑んだ。
「あ、もしも君が魔法使いになれたらの話じゃが、わしの名前を覚えとってくれんかの?わしの名前はウィスト・ハストネスじゃ。これですべての準備・・・あっ、あと、これは必要じゃのう」
ハストネスはローブの中から赤い、やっぱり薄汚れた本を取り出した。本には「基本呪文と禁断の呪文集」と書いてあった。
「基本呪文しか唱えてはならんぞ?禁断の呪文を唱えるとすべての記憶を消されて家に戻される。よいな?」
アカルはコクリと頷いた。
「よし、では行け。あそこに森への入り口があるじゃろう。杖は好きに使ってもいい。箒を使ってもよいぞ。帰りたくなったり、道に迷ったりしたときはのろしをあげるんじゃ。気を付けて、行けくんじゃ」
村長はアカルに再び微笑んだ。
「じゃあね。気を付けえて!」
ベルンは手を振ってアカルを心配そうに見送った。
『クレヴァと魔法使い』、第1章は面白かったですか?
クレヴァはなんと、魔法使いの儀式に出てしまいました。
どうなるのでしょうか!?
魔法使いになれるのでしょうか……!?
是非、『クレヴァと魔法使い』、2章にもお付き合いください。