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始まりの惑星にて・3

やっと始まりの惑星を出れました。

「トンネル内の車体制御は生きているようじゃな」

「みたいだな」


その会話をきっかけにしてココはタクシーへの同一化を解除した。そもそも洋上に浮かんでいるユニオンの宇宙港への道行きはほとんどが直線の一本道であり、仮にここで攻撃をしかけられれば多少の移動の自由など無意味に等しい。ある見方をすれば逃げ込むには最悪の場所とも言えたが、二人の緊張の色はかなり薄れていた。


理由は簡単である。この銀河にユニオンの施設を攻撃する馬鹿はいないからだ。


ココが髪の毛で、タクシーの前方にある摘みの一つを器用に回すとトンネルの光景が一気に変わった。広々としていたとはいえ、やはり圧迫感を秘めていた天井は消え去り、透き通るような青い空が全面に展開される。もちろん、本当にトンネルの上部が消えたのではない。外部に設置されたカメラの映像を編集し、車のスクリーンに投影しただけの話である。今となっては子供すら驚かない何処のトンネルにもある機能だった。


「さすがカモッラ、諦めが悪いの」


そう言ってココが指差したのは、エミリア惑星軍のマークが翼に刻まれた垂直離陸機だった。フィリオは反射的に反論しようとしたが、何とかそれを思いとどまった。ココが指摘した理由の他に、軍の垂直離陸機がずっと自分達の乗っ車の付近をずっと飛行している理由が存在しなかったからだ。


「くそっ、今までちょっとでも尊敬してて損した」

「まあ、ユニオンの庇護下に入ってしまえば、惑星軍ごときを動員したところで何も出来はしまい。大枚をはたいて、おぬしの母星愛をすり減らしだけに終わったようじゃな」


その軽口を聞いて、フィリオは心がふっと落ち着くのを感じた。ああ、一区切りついたのだ。彼は心の中でそう思った。


だが、それは間違いだった。


先に異変に気づいたのはフィリオだった。言ってしまえばこれ自体が異変なのだ。同一化中ならいざ知らず、フィリオは生身の人間である。探知能力で自動人形のココに勝るなどどう考えてもありえない出来事なのだ。


しかし、間違いなく先に空に違和感を覚えたのはフィリオだった。そこで彼が認めたのは、本筋から大きく外れたものではあったのだが。


「嘘だろ」


横を飛ぶ垂直離陸機の腹部からミサイルのようなものが出現しようとしているを視認して、フィリオは絶望的な声を出した。自分の命もそうだが、ここで惑星軍がユニオンの施設を攻撃すれば、それはすなわちエミリアとユニオンの全面戦争を意味する。


それは疑うべくもなく惑星政府の敗北を意味していた。


しかし、彼の心配は一瞬のうちに霧散してしまった。横を飛んでいた機体が急に黒い靄に包まれたかと思うと、まるで叩きつけられたかのような軌跡でトンネルへと激突し、その上部に穴を開けたからだ。


その異常事態に車の制御システムは当然のごとく緊急停止を選択する。フィリオは衝撃吸収のために噴出されたマイクロジェルから顔を引き抜くと後部座先に視線やったが、先ほどと同じように行儀良く座っていたココは小さく首を振っただけだった。

その理由はすぐにフィリオにも分かった。内部へと落ちてきたトンネル上部の瓦礫が、フィリオたちの進行方向を完全封鎖していたからだ。


「狂星」


車から二人して降りると、ココはトンネルの上部に開いた大穴を見て呻くようにそう言った。フィリオは最初、彼女が冗談を言ってるのだと思った。いや、思いたかったというのが正しいだろう。何せ、彼女の言葉が正しければ、政府どころかこの星の終わりだったからだ。


だが、フィリオの視線の先にあった光景は、彼の望みを易々と打ち砕いた。

彼らが絶対の聖域と目したユニオンの宇宙港が、黒く歪んでいたのだ。


光の加減による屈折などではない。ところどろころに黒い靄まとわりつかせたこの惑

星最大の建造物である巨大ウォーターフロントが、冗談のように空中に浮かび上がり、まるで空き缶が捻られるように中央から軋んでいるのである。フィリオが知る限り、そんなことが可能な存在は一つしかなかった。


狂星──そう呼ばれる黒い靄状の生物がどうやって生まれたのかは定かではない。そもそも、それが生物であるという定義は、かつてそれと話したとされる碩学の言葉に拠るところが大きく、ただの自然現象であるという意見も少なくはないのだ。どちらにしても、それが意味するところは変わらない。


大災厄。これである。


フィリオが知る限り「狂星」が降り立った惑星は五十を超えていたが、襲撃された惑星は幾つかの例外を除いて、完全な死の星へと姿を変えていた。


「まずいの。すでに観測データに異常が出始まっておる。下手すると住人の救出が完了する前に、星の在り方が人間の許容範囲を超えるかもしれぬ」


ココは苦々しそうに言い捨てた。


「狂星」の真の恐ろしさはそこにあった。


宙吊りになった宇宙港には停泊していた無数の星船がまるでマグネットの玩具のようにかつては滑走路であった垂直に近い壁に張り付いていた。


物理法則が捻じ曲げられているのだ。そして、この物理法則への干渉は「狂星」が他の場所に去った後でも永続するのである。


「狂星の影」と呼ばれるその現象に見舞われたとき人間は皆知るのだ。なんと、世界の法則は人に優しく出来ていたことかと。


人が死んだなら殖むことも出来る、街が壊されたなら再建することも出来る、大陸が沈んだのなら隆起させることも出来る、だが現在の人類の科学をもってしても歪められた物理法則を正す方法は発見されていなかった。


エミリアの南半球にいた人間の耳に、一生涯残り続ける奇怪な音が響き渡った。宇宙港が捻り切れた音だった。後で調べたところでは、この音を聞いて突発的に自分の命絶った人間の数は三百二人にのぼったという。


「終わったのか?」


フィリオは自分でも信じてはいない楽観的な予想を口走った。だが、あの世界の終わりのような音と同じくして黒い靄が何処かに消えてしまっていたのも事実ではあった。過去に惑星に降り立った「狂星」がすぐに別の場所へと移動したため、致命的な結果を免れた例も存在してはいるのだ。


「──おぬし、わしと共にナインボールに出ぬか?」


ココはじっと空を見つめたままだった。


「出れるわけないだろ」


ココはフィリオの方に顔を向けるとその答えを鼻で笑った。


「天邪鬼なことよ。何が気にくわん?」

「物心付いてからずっと自分の中にあって、一生付き合っていくんだって、そう思ってた夢を、勝手に叶えやがるっていうお節介な野郎がいたら、ふざけるなって思うだろ、普通」

「なるほど、気が合うの。実はわしも今ふざけるなと思っておるところなんじゃ」

「へえ」

「まあ、聞け。わしにも願いがある。だが悔しいかな、その願いは一人では叶えられんのじゃ。わしにはわしの横に立ち供に願いを叶えてくれる相棒が必要じゃ。だが、その候補者は実にくだらん理由でわしの誘いを蹴るという」

「くだらないだと」

「くだらんのう。そんな夢なら捨ててしまえ」


フィリオはその言葉にかっとなってココの両肩を思いっきり掴んだ。だが、ココは表情一つ歪めず彼の眼をじっと見つめていた。


「何故、夢が飛ばぬ理由になるのじゃ。一生付き合うじゃと、そんなもの下らないナルシズムに過ぎぬはっ」


相手の反論を許さぬ勢いでココは更に言葉を続けた。


「よく聞け、フィリオ・ロッシ、この世界には人が飛ばない理由は幾らでもある。だがな、人が飛ぶのに理由なぞいらんのじゃよ」

「──説得になってねえよ」


ココの両手にかけた力を緩めながら、フィリオは呻くようにそう言った。


「そうか?では一つ、色仕掛けでもしてみるかの。ちょいとそこのお兄さん、わしの背の高さまでしゃがんでみてはくれんかの?」


勝利を確信したとでも言う風に薄く笑っているココの姿がむかついて、フィリオはココの身体を両手で抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこの形である。


「な、なにをするのじゃ」

「別にこれでも顔の位置的には変わらないだろ」


やばいな、この髪ちゃんと触るとすげえ気持ちいい。フィリオがそんなことを思っていると、ココはバタつかせていた手足から力を抜いて、小さくため息を吐いた。


「一勝一分けじゃぞ、フィリオ」


そこは一勝一敗だろというフィリオのツッコミは声になる前にココの唇に奪い取られてしまっていた。


<操縦士承認。跳躍門起動。転送実行。>


フィリオの脳内に響き渡るココの声に合わせる様に、彼女の透明な髪が妙なる響きを奏でながら二人の体を包みこんでいく。


完全な真球を形成したココの髪の中で、フィリオはまだ腕の内にいる彼女のかなり短くなってしまった透明な髪をそっと触った。


「また伸びるのか?」

「というよりまた付くの。ウェッグのようなものじゃ。伸ばすことも不可能ではないが、いちいち使い捨てるというのも不経済じゃろ」


<跳躍完了。同一化完了。起動開始。>


宇宙空間。半径2メートルから先が白に閉ざされた球の中にいることもあって、フィリオは未だに自分がそこにいることが信じられなかった。ココからの口付けを介して、これから起こる現象に関する知識は与えられていたが、それだけでは全ての疑念を打ち消すには到底足りなかった。


そんなフィリオの内心を察してか、ココは彼に自分達が座っている構造物の外観を視せた。


それは真珠の色をした星船だった。


その船が美しいのかどうかは千年先でも議論がある。当たり前の話だが、普通の星船はその規模に関わらず左右対称の形を保っている。何らかの動力を持って前に進む以上、それが最も操作しやすく燃費効率の良い形だからだ。


だが、その船は歪だった。船首の右側が凸っていると思ったら、左側は凹んでいる。あるいは同じく左右で凹んでいても右が球状にえぐれているのに対して、左はほぼ立方体にえぐれていたりする。そこには何の法則性も見出せず、さながら悪ふざけのようですらある。しかし、百人が百人その船の姿を一目見れば、この船に他の形はありえないことは分かってしまう。


第三から第四レースの間に起こったこの船をめぐる美学論争の中で、擁護者の一人、百賢会議アリストクラシアのジョージ・ヨーステンはこのように言っている。


「あれには法則が無いのではない。法則があり過ぎるのだ。何故ならあれそのものが一つの法則に他ならないのだから」



<起動完了。>


白が晴れた。


そこに現れたのはフィリオが何度となく夢見たコクピットそのものだった。


彼の背中を心地よく包み込む操縦席。前方をくまなく見渡せる広いスクリーン。単独での長期の航海を可能にする過剰なほどの計器群。彼の手の大きさにピタりと合わされた操作球。


フィリオにとってはまさに夢のような光景であり、唯一の例外はいつの間にか彼の右に立ったまま控えていたココの存在くらいだった。


「そっちは座ったりしないのか?」

「分かっておるじゃろ?本当のわしはそこにはおらんよ。これは無理なく目線の高さを調整するための措置に過ぎん」


ココに指摘されたようにフィリオにも分かっていた。それらは全て同一化レクリアによってもたらされる莫大な情報量の負荷を減らすために、ココがフィリオに視せている幻の過ぎないのだ。


「その方がありがたいっちゃ、ありがたいけどな。やっぱ、自分の夢は自分でかなえたい。で、改めて聞くがそっちの目的は何だ?お前が凄いのも、この船が凄いのも十分過ぎるくらい伝わったよ。だけど俺は、そこらにいるチンピラだぜ。こんな大層なものに乗る人間じゃねえよ」


フィリオは当然の質問を口にした。


「さて、どこから話したものかの。質問に質問に返すようで恐縮じゃが、おぬし、わしが何歳に見える?」

「裏をかいて七歳とか、そういうオチか?」

「惜しいといえば、惜しいの。正確に言うなら、わしは作られてから一億二千六十二年になる」

「どこが惜しいんだよ」


フィリオはココの言った年齢にそれほど驚きはしなかった。中央銀河に行けば、その程度の齢の機械が趣味的にではあるが動いているという話は聞かないでも無かったからだ。銀河文明三億年の歴史を考えれば、そういったことも十分にありえた。


「じゃが、年齢を聞かれれば、20歳と答えるのが正解じゃろうな。何せ、記録はあっても、記憶が無い身の上での」

「どういう意味だ?」


ココは指で己のくちびるをなぞった。


「正確なところを伝えると、おぬしの頭が爆ぜるじゃろうから比喩に頼るが、中にある情報を全てランダムに並べ換えられた事典がわしの言う記録ということになるかの」

「時系列がバラバラになっているってことか?」

「いや、実質的には記憶喪失に近いじゃろ。手術台を見て、ミシンが思い出されたとしよう。それがただのデタラメなのか、経験によるつながりなのか、それともシュールレアリズムなのか、わしには判断できん。なかなか、難儀なものじゃぞ。記録量があり過ぎるというのも」


フィリオには分かったような分からないような話だった。彼はとりあえず話題を先に進めることにした。


「20歳ってことは、前回のナインボールと関係してるわけだな」

「話が早くて助かるの。わしの最初の記憶は、大破したこの船の船首にペイントされたナンバーナインのマークじゃったよ」

「前大会に出場してたのかっ」


興奮を抑えきれない声でフィリオは聞いた。参加者9組の内、7組が行方不明になるという暗澹たる結果の終わったとされる先のナインボールについての情報は驚くべきほど少なかった。実際にそれを見ていたはずの人間ですら、判を押したようにアームストロングとその愛機の活躍を褒め称えるだけなのだ。


その出場者が目の前にいるのである。興奮しない方が無理というものであった。

だが彼の反応に対して、ココの対応は淡白だった。


「ユニオンの奴らめは、そう言っておるのじゃが、実際のところはよう分からん。きゃつらはわしをナインボールに出場させることに心血を注いでるところがあっての。わしの記憶の混乱をいいことに、あること無いことでっちあげた可能性も否定できんのじゃ。わしはさっさと逃げ出して、この20年の間、方々を回ったのじゃが回復の兆し一つみえぬ、きゃつらの企てに乗ってみるかと腹をくくったのが半年前よ」

ナインボールが20年振りの開催になった理由を告げられたフィリオだったが、今の彼にはそれより大切な質問があった。

「それで、何で俺なんだ?」

「わしにも分からん」

「おいっ」

「おぬしの気持ちも分かるが、実際分からんのじゃよ。昨日、おぬしの名前がふっと浮かんでな。ああ、こいつがわしの相棒かと、そう思ったのじゃ」

「そんな適当な理由かよ」


フィリオは小さくため息を吐いた。


「存外、間違ってはおらんかったと。そう思っておるのじゃがな?」

「言ってろよ」

「で、フィリオ、あれをどうする?」


ココが顎の先で指したのは、惑星エメリアを覆うように展開されている黒い靄であった。肉眼では到底捉えることが出来ない薄いものであったが、同一化の最中であるフィリオにはその禍々しさがよく分かった。


「危なかったの、おぬしの決断があと10秒遅かったら、ここへの転移もままならなかったじゃろ」

「下らないナルシズムは嫌いじゃなかったのかよ」

「うん?別に死ぬつもりなんぞ1ミリも無かったからの。事実、こうしてここにおるじゃろ」


見透かされているのか、信頼されているのか判断に困ったが、フィリオはとりあえず目の前の問題に集中することにした。惑星規模に広がることによって狂星の物理法則への干渉は速度をかなり緩めていたが、このまま放置すれば致命的な結果が待っていることには変わりがなかった。


「武器とか無いんだよな」


答えは分かりきっていた。それはフィリオ自身の覚悟を決めるために儀式に過ぎない。

「機銃ぐらいは付いておるが、あの化生相手に効くかどうかは多いに疑問じゃの」

「ろくな武装もないのに、単独跳躍出来るって滅茶苦茶だよな、この星船──名前とかあるのか?」

「ある。覚えてはおらんが、この船にぴったりの名前が付いておったよ」

「了解」


フィリオは小さく頷くと、その星船をエミリアに向けて進め始めた。狙うは、薄く広がった黒靄の中でも一定以上の密度を保っている赤道上の一点だった。


その動きに呼応するように狂星はエミリアへの包囲を解くと、赤道上の一点へと渦を巻くように靄を回収していく。


「あんなに分かりやすく動いてたら、弱点だって言ってるようなものだと思うけどな」

「言っておくが、あの量の靄に触れたら星船の装甲でも一瞬じゃぞ」

「視りゃ分かるよ」


何重にもわたるフィルタリングが施されているにも関わらず、狂星を視た瞬間から、フィリオは吐き気を抑えるのに必死だった。


あれは存在してはいけないものだ。彼は強くそう確信した。憎悪したと言ってもいい。


フィリオたちの星船はどんどんエミリアへと近づいていく。というより、落下していると表現した方が正しい。もし、彼らの企てが失敗したなら、仮に狂星が仕損じたとしても、惑星エミリアの海底が彼らの命を確実に奪うだろう。


「しかし、良かったの、フィリオ。惑星の重力下にあって跳躍を成功させたとあれば、その経歴だけでユニオンから直々にオファーが来るレベルじゃぞ。夢がもう叶ったの」

「その経歴しか無かったら、一生病院から出してもらえないと思うけどな」


跳躍はなるべく重力の影響が少ない場所で行うというのがセオリーである。星の表面近くでわざわざ跳躍を試みるのは、自殺行為と何ら変わりがないと普通は認識される。


フィリオの眼前で、黒い靄はほとんど闇へと変わり、エミリオの青い海は黒に完全に覆い尽くされてしまっていた。


もはや、彼らの船は完全に万有引力に絡め取られて、舵を取ることすら不可能な状態だった。普通の星船ならこの状態できることは墜落にそなえることだけだ。だが、ココは事なげに事実を告げた。


「跳躍のタイミングは三度ある。命が惜しければ一度目で跳ぶことじゃの」


フィリオはその言葉を聴いていたが、何も返事はしなかった。これからする跳躍へ集中していたこともあるし、命が惜しかったなら、そもそもこのような状況なるはずが無かったからだ。


一度目の跳躍点が通過された。


黒はもはや無限の厚みを持った壁のようであり、フィリオは遠近感を完全に喪失していた。


二度目の跳躍点が通過された。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」


狂星が声ならぬ声で叫んだ。


それを聴きながら、フィリオの集中は全く乱れなかった。彼の意識は、ただ跳躍の際に星船の周囲に発生する跳躍圏、たった周囲6メートルしかないその見えざる剣へと注ぎ込まれていた。


圏の先が、狂星の中心に触れるのを、確かにフィリオは感じとった。


早すぎてもいけないが、遅過ぎても意味は無いのだ。中心の全てを完全に圏の中に入れてしまえば、狂星は簡単にその全てを復元させてしまう。ちょうど核の半分だけを


抉り取れるように、


跳んだ。


「さて、永劫が過ぎ去るのを待つのも間抜けかな」


ダモクレスで独り、少年はマザーグースの一節を口ずさんだ。そして──

次からは、主要登場人物ほぼ登場の「プラクティス」ということになります。いわゆる一つの全選手入場です。

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