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名探偵と博客人

いわゆる一つのインタールード

スペースなど空けてみました(1/14)

惑星エメリアの衛星軌道上に一台のコロニーが浮かんでいる。ダモクレスと星の海を行くものたちに渾名されるその施設は、ユニオンが多くの惑星政府に強いた首輪だった。


曰く、ダモクレス一台で一時間とかからず惑星全体を火の海に出来る。曰く、惑星上に存在する全ての情報をユニオン本社にリアルタイムで転送し続けている。曰く、惑星軍の総力を上げてもそれに傷一つつけることは出来ない。


その噂の真偽はともかくとして、今のダモクレスがエメリア史上初の交通事故の原因であることは間違いなかった。


「さてさて、フラグが立ちましたとっ」


無人運用を基本とするダモクレスにあって、人の声が響き渡ることはまずないと言っていい。まして、それがユニオンの機密の塊とも言える中央制御室ともなれば言わずもがなだった。


とはいえ、部屋の中に誰かがいたわけではない。その声の主は中央制御室の数多くのスクリーンの一つにエメリアの現状の代わりに映りこんでいた。


画面の女──嘘屋ケーコの容貌は大変に垢抜けないものであったと表現せざるえない。というより基本的に自分の容貌に手を加える気がない女なのだ。


本来であれば艶やかな栗色の髪はもっさりとした三つ編みに成り果て、その花のかんばせの大部分は、この視力回復手術など五分で終わるご時勢にあって無骨な黒縁のメガネで覆われている。画面には映らないが着ている服はサイズ感という概念を十億光年先に放り捨てたようなだぼだぼのオーバオールの一枚であった。ちなみにその下には肌着一つ付けてはいない。


「さてさて、次のステージは無理ゲーなわけですが」


無人の中央管理室にケーコの声だけが響き渡った。もちろん、彼女に一人で延々と虚空にしゃべり続ける趣味があるわけではない。(本人が意識しない内にそのような状況になっていたことは幾度となくあったが)話し相手が入ってき易いようにという配慮である。


「その必要は無いよ」


ケーコはその声をダモクレスのマイク越しに聞いて思わず口笛を吹いた。彼女はダモクレスにある全ての扉の状況を把握していたが、その一つとして開いたものは無かったからである。そもそも、衛星軌道上に存在するダモクレスのレーダーに何の反応も無かった以上、普通に考えればこの施設の中に何かが入ってくる余地など1ミリも存在しないのだ。


個人跳躍ジョイント。本当に実用化されていたとは、明日のヘッドラインはこれで決まりかな」

「実用化なんてされてないさ。平均的な人間が個人跳躍を行えば、肉塊に成り果てるのは目に見えてるもん」


声変わり前とおぼしき甲高い声で、黒いタキシードを隙なく着こなした猫耳の少年は淡々と事実を告げた。


「流石、英雄アルゴノイタイって感心すべきところ?」


もし、この場に他の人間がいたなら何重にも度肝を抜かれただろう。「英雄」とは、ユニオンの最高意思決定機関のメンバーを指す有名な隠語だったからだ。彼らはその重要度に反比例して、公的な場に現れないことで知られていた。その正体が明かされるのは彼らが死んだときだけで、銀河首長連盟の代表ですら、現在のメンバーを全て把握しているわけではないのだ。その正体がまるで世間話のような気楽さで暴露されているである。しかも、それを指摘したのはあの嘘屋ケーコなのだ。


「むしろ感心させられたのはこっちさ。七分ちょっとでダモクレスを全面掌握されるんだもんな。本社の人間の首が面白いように飛ぶのが今から目に浮かぶよ」

「別に今の惑星政府でユニオンに表立って逆らえるようなとこなんて一つも無いんだから、問題無いんじゃないの。むしろエメリアなんて喜んで、惑星全土の最上位管理権限をユニオンに委託してるわけだし」

「ボク達がどれだけ惑星政府を親ユニオン派することに心を砕いてるか知らないわけでもないだろ?」

「ケーコちゃん的にはそれがブラフだと思うんだよね。Divide et impera.(分割して、統治せよ)なんてユニオンが本気で考えてるとは思えないんだけど」

「じゃあ何が目的だと?」


なるほどね。ケーコは心の中で欲しい答えが返ってきたことに満足すると、話題をダモクレスの監視装置が捉えている驚くべき現象へと変えた。


「さてね、あたしに聞かれても。ところで、あんな大物どうやって連れてきたんだい?ユニオンが猛獣使いを飼ってたなんて寡聞にして知らなかったけど」

「もし、あれを制御できたらユニオンは今の二倍は大きくなってるよ。だけど、予測はしていたかな。何故かあのお人形に特別な思い入れがあるみたいだから」

「ふーん、流有だっけ?」


少年はその情報が誰から漏れたのか一瞬考えたが、すぐに止めた。そろそろ部署を一新するのも悪く無いと思ったからだ。


「ミス・ケーコには勝てないな」

「まっ、あたしだって、あの”逝きおくれ”魔女さまには負けるけどね。それと”ちゃん”だから、次わざと言ったら耳の位置交換すっぞ?」


怖い、怖いと言いながら、少年は両手で左右の猫耳を押さえた。


「で、ケーコちゃんとしてはどうなると思う?」

若いっていいわ、本当に。その無邪気な質問にケーコは心底楽しそうに笑って答えを返した。

「フィリオ・ロッシが負けるだろうさ」


次でエピローグが終わる予定。それが終われば、やった全出場者登場となります。

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