第9話 筑紫の皇子~後編~ 菅原道真・天神伝説殺人事件
《大和太郎事件簿・第9話/筑紫の皇子》
〜菅原道真・天神伝説殺人事件〜
《後編》
『東風ふかば にほひおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ』(十訓抄より)
筑紫の皇子33;
2011年8月24日(水) 午後7時ころ 東京の毎朝新聞・社会部
鮫島姫子と向山部長が部長机のところで話している。
「大和太郎が追いかけている事件とその神威示現斎が関係しているらしいのです。」と姫子が言った。
「大和探偵の追いかけている事件とは?」
「それが守秘義務とか言って、答えてくれないのです。」
「姫子が言うように、その多沼圭子と云うのがペンション『さんが』の従業員だったとして、岳内林太郎の事件と関係があったかどうかだな。」
「どこかで、殺人事件でも起きているのでしょうかね?」
「大和は私立探偵だから、単なる人物調査と云うことかもしれないぞ。」
「それでしたら、多沼圭子と会った時に逃げるように私の腕を引っ張った意味が判りません。それに、神威示現斎に出会った時も知らない素振りした意味が判りません。」と姫子が言った。
「なるほど。大和太郎は京都の大学出身だったな。」
「ええ。京都にあるD大学神学部の藤原教授と親しくしているようです。」
「今のところ、東京ではそれほど大きな事件は発生していないよな。京都の京滋出張所に電話して、何か事件が発生しているのか訊いてみるか。」と言って向山部長が電話を取った。
「おう、立原か。ちょっと訊きたいことがある。」と向山が言った。
「何でしょうか?」と受話器の向こうに居る立原記者が訊いた。
「そっちで何か大きな殺人事件でも発生していないか?」
「今ですか?何もないですね。暴力団も大人しくしていますよ。」
「他社の動きはどうだ?たとえば、朝読新聞社の中山とか云う事件記者の動きはどうだ?奴っ子さんには何回か出し抜かれているからな。」
「中山記者ね。そういえば最近、九州で殺人事件があったみたいな事を仲間の記者にしゃべっていましたね。どんな事件かは判りませんでしたが・・・。」
「九州で事件?場所は?」
「判りません。」
「そうか、判った。有りがとう。」と言って向山は電話を切り、再び電話を掛けた。
「おう、福岡支社の山上か?」と向山部長が言った。
「はいそうですが、どちらさまでしょうか?」と山上記者が訊いた。
「東京本社の向山だ。」
「ああ、部長。こんばんは。」
「そっちで今、殺人事件が発生しているのか?」
「ええ。都府楼殺人事件というのが県警本部管轄で発生しています。捜査はそれほど進展していないようですがね。」
「都府楼殺人事件?」
「太宰府政庁跡で菅原清隆と云う福岡天神にあるホストクラブの男が殺されました。本名は中牟田岩男と云うのですが。」
「その菅原は京都と関係があるのか?」
「流石、部長ですね。菅原清隆は京都の出身です。」
「そうか、判った。朝読新聞の奴等には気をつけろ。抜かれるなよ。」
「朝読が何か動いているのですか?」
「京都の中山と云う用心のならない事件記者が動いている。そっちも気をつけろ。」
「はい、判りました。」
「ところで、大和太郎とか云う私立探偵の名前を聞いていないか?」
「大和太郎ですか?知りませんね。でも、名前は確認していませんが、もう証拠不十分で釈放されましたが、容疑者として逮捕勾留されていた竹中直義の無実を晴らすために私立探偵が動いているとは聞いていますが。」
「それだ、それ。」
「はあ・・?」
「多沼圭子と云う名前は警察から出ていないか?」
「多沼圭子ですか?初耳ですね。」
「ちょっと調べてくれ。その多沼圭子が関係しているのかどうか。」
「判りました。県警の刑事に訊いてみます。また連絡いたします。」
「おう、頼んだぞ、山上。」と言って向山は電話を切った。
「おい、姫子。こいつは面白くなってくるかも知れんぞ。神威示現斎が殺し屋の岳内林太郎の父親だとしたらだがな。神威示現斎と多沼圭子から目を離せないな。長野出張所に連絡しておくから、姫子も明日から長野出張所に詰めろ。事件の全体像は福岡支部からの情報を基にして俺が考えておく。朝読には負けんぞ。ぐふふふっ。」と向山部長がライバル心をむき出しにして言った。
筑紫の皇子34;
2011年8月25日(木) 午後2時ころ 福岡県警本部・応接室
東京から飛行機で福岡に来た大和太郎と棚橋刑事が福岡県警本部の応接室で話している。
「神奈川県鎌倉市に大伴一郎名義で暴力団組長・岡上正一が潜んでいます。そして、長野市鬼無里にも大伴一郎名義で神威示現斎こと岳内太郎がいます。岳内太郎は神武東征伝説殺人事件の犯人である岳内林太郎の父親である可能性があります。なぜなら、神威示現斎と一緒に居る多沼圭子は岳内林太郎の経営していたペンション『さんが』の従業員であったらしいのです。そして、多沼圭子の父親である大伴善男が会津美里町で殺されたかもしれない事実。殺されていた男は大伴善男ではないかもしれません。表現をかえて、大伴善男に見せかけて殺された男の存在としましょうか。それに、多沼圭子はホストの菅原清隆こと中牟田岩男を都府楼跡地で殺したのかもしれない。これらの事実をどのように結びつけて考えればいいのかです。兎に角、長野県警本部には鬼無里に居る多沼圭子の監視をお願いしておきました。福岡県警にも確認連絡があったと思います。」と太郎が言った。
「ええ、多沼圭子の監視の件は私も聞いています。まず、岡上一郎と岳内太郎が同じ名前の大伴一郎を使っていると云う事実。そして、同じ苗字の大伴善男が多沼圭子の父親であると云う事実。そして、大和探偵の説では、会津と鬼無里と京都は『紅葉伝説』で繋がり、その紅葉は大伴一族であると云う事実。大伴一族の遠祖である天忍日命は天孫ニニギ尊が筑紫日向の高千穂峰に降臨する時に太刀や弓矢を持って同伴した人物とされており、神武東征時には遠祖である日臣命が大和の宇陀の丘まで道を切り開いたので道臣の名を賜わっている。そして、大伴一族は伴善男の時代に没落するまで、大和朝廷の武力を担う一族として活躍していたと云うことでしたね。」と棚橋が言った。
「それに、万葉歌人で太宰府長官であった大伴旅人や太宰府次官、越中の国司であった大伴家持も大伴一族です。埼玉県入間郡毛呂山町にある出雲伊波比神社は日本武尊が東征凱旋の時、同行の侍臣・大伴武日に命じて神祠を創建させ、柊の矛を納めたとされています。大彦命などの四道将軍が日本国平定のために各地に軍事遠征した時には大伴一族の軍事担当者が同行したと考えられます。」と太郎が付け加えた。
「天皇家の軍事部門長の地位から没落した後も藤原一族の影の軍団として国家守護のために武力を行使した一族、それが大伴一族であったのでしょうかね?」と棚橋が言った。
「769年の道鏡事件の時、都から宇佐神宮に神託を請けに行く時や大隅半島に流された時に和気清麻呂を影ながら護衛したのも藤原家から指令を受けた大伴一族ではないかと謂われています。大伴一族の表舞台からの没落後は皇家系譜の武家である平氏と源氏が台頭してきました。同じ武門の家柄ですから、平氏と源氏に、もどこかで大伴一族の血が混ざっているかも知れませんね・・・。」と太郎が言った。
「影の軍団である大伴一族が都府楼殺人事件に関係しているのでしょうか?」と棚橋が言った。
「神武東征伝説殺人事件の岳内林太郎はK国情報機関・KISSの弾武典の陰謀から国を守るために殺人を犯したと白状しています。」と太郎が言った。
「大伴一族は国を守るため、影の軍事集団、あるいは秘密結社として、現在でも国家警護的な活動をしているのでしょうかね?」と棚橋が言った。
「どうでしょうかね?当時、岳内林太郎は単独犯だったと自白していますからね。また、岳内林太郎が大伴一族の末裔とは判明していませんし、鶴岡八幡宮寺の社家となった大伴一族もいるようですから、日本国の安泰を願っているのは確かでしょう。」と太郎が言った。
「今後の捜査活動はどうしますか、大和探偵?」と棚橋が訊いた。
「現在、福岡県警の依頼で長野県警が多沼圭子を監視しているのでしたね。」
「ええ。私が大和探偵から連絡を受けて、県警本部長から長野県警に多沼圭子の監視を依頼してもらいました。」と棚橋刑事が言った。
「今後、鬼無里にいる多沼圭子と岳内太郎がどのように動くかですね。そして、鎌倉にいる岡上正一と岳内太郎の関係があるのかどうか。相手の動き待ちですかね。」
「中牟田岩男を殺した犯人は多沼圭子と岡上正一ですかね?」
「どうでしょうか?殺された中牟田岩男の正体が良く判っていませんね。」と太郎が言った。
「京都出身のホストでは不十分ですか?」
「殺しの動機です。中牟田岩男が殺されなければならなかった理由。岡上正一が情婦である多沼圭子と中牟田岩男の関係を怒って殺したのなら、多沼圭子も殺されていなければならないでしょう。むしろ、多沼圭子を殺して、ホストと云う商売をしている中牟田岩男は殺さないのではないでしょうか?ホストクラブ『ぷらむ』の地域を縄張りとしている暴力団から報復や損害補てんを求められかねないですからね。むしろ私は、菅原清隆と名乗り、『こちふかば おもいをこせよ うめのはな あるじなしとて はるなわすれそ』の刺青をしていた理由に興味があります。影の軍団・大伴一族が動いているとすれば、この歌の意味に関係があるのではないでしょうか?」
「どうして、歌の意味と殺人が関係あるのですか?」と棚橋が訊いた。
「今年の1月から5月にかけて、FBIの仕事を手伝っていた時に判ったことがあります。K国をバックアップしている集団の中にブラッククロスと云う秘密結社が存在しています。K国の秘密情報機関KISSはそのことは知らないでしょう。自分たちはK国のために活動していると思い込んでいるようです。特に、あの弾武典はそうです。彼はK国の大伴一族みたいな人間です。『国の為』が合言葉なのでしょう。しかし、ブラッククロスの狙いは別の所にあります。神の計画の実現です。ブラッククロスの謂う神の計画とは何なのか。その内容が良く判りませんが、『ナンバーセブン計画』と彼らは称しています。」
「ナンバーセブン計画ですか?」
「菅原道真や天満宮には数字の七に関係することが多いのです。七本の松がピカピカ光り大阪天満宮が創建されたり、通りゃんせの歌に出てくる七歳の子のお祝、北斗七星と北極星に関係する大将軍八神社は菅原道真の産土神社とされています。6月25日生まれ、1月25日の左遷命令、2月25日死亡など2+5=7です。因に、福岡県警本部の住所番地は東公園7番7号ですが、これは洒落ですかね・・・?」と太郎が言った。
「2と5で7ですか、なるほど。菅原清隆こと中牟田岩男はブラッククロスと関係があると?」と棚橋が言った。
「ブラッククロスは直接には日本国内で活動していません。末世立法・オメガ教団を媒介にしてナンバーセブン計画を遂行している可能性が考えられます。」
「中牟田岩男とオメガ教団に繋がりがあるかどうかですね。」
「もし、関係があれば、私の推理に真実味が出てきます。」と太郎が言った。
「早速、公安部と相談しながらオメガ教団と中牟田岩男の関係に焦点して捜査してみます。」と棚橋が言った。
「中牟田岩男と多沼圭子の関係も再捜査してください。福岡以前に京都で出会っていて、ホストクラブで出会った時には面識があった可能性もありますからね。」と太郎が付け加えた。
「それから、会津美里町で殺されていた男が大伴善男でないと仮定した場合、死んでいた男は誰なのでしょう?」と棚橋が言った。
「その場合、死んでいた男は大伴善男かその仲間に殺された可能性が大きいですね。」
「大伴善男に仲間がいるのですか?そして、何故に殺されたのですか?」
「判りません。大伴善男の立場で考えると、自分を殺そうとしたので殺した。あるいは、大伴善男の秘密を知ったので殺した、と云うことでしょうかね?」と太郎が言った。
「大伴善男の秘密ですか・・・。やはり、今回の殺人事件は大伴一族が関係している訳ですね。」と棚橋が考え込んだ。
※大将軍八神社;
京都北野天満宮の南西方向すぐ近く(200m)にある神社。
祭神は5男3女神(天忍穂耳命、天穂日命、天津日子根命、活津日子根命、熊野樟日命、沖津島姫命、中津島姫命、市杵島姫命)である。
平安京の都が出来る以前は火雷天神社として雨降りの農業神として祀られていた場所であるとされるが、平安遷都の時、都を鎮守するため桓武天皇の勅願により大和国の春日山麓よりこの地に勧請された神とも伝えられる。当時は大内裏の西北にあり、王城への疫神の侵入を防ぐ塞神を祀る四隅祭・道響祭を取り行う祭場神祠として794年に創建された。当時は将軍堂と呼ばれ、須佐之王命を祭神とする祇園の八坂神社の境外末社であった。大将軍八神社内にある方徳殿には80体の神像群が祀られており、50体が武装像、29体が冠衣束帯像、1体が童子像であると云う。29点を結ぶ直線が作る50個の三角形、すなわち五十鈴との関係は何なのか?また、ただ1体のみの童子像は何を意味しているのか不明である。冠位束帯像は古代の星占いである星曼陀羅の絵に描かれている北斗七星の星々を表す円の中に描かれている人物像と同一である。この神社には生まれ干支に対応する守護星十二支守が配布されているが、その御守り袋に描かれている絵が北斗七星である。北斗七星は北極星を回転中心にして回座する。星曼陀羅の絵には太陽、月、水星、金星、木星、土星なども描かれている。
また、5+3=8、7+1=8である。
筑紫の皇子35;
2011年8月26日(金) 午後3時ころ 福岡県警本部・捜査会議
「公安部の話では、九州地区でのオメガ教団の支部はありません。富山県の高岡市と北海道の札幌市にしかオメガ教団の支部はありません。ただ、北九州市若松区にオメガ教団の研修所があり、全国からの信者が研修に来ているようです。表面上は法に触れる活動はしていません。今年の3月に岡崎市内で爆破テロ未遂事件がありましたが、その犯人の中にオメガ教団に関係する男女二人がいました。この男女はオメガ教団の札幌支部長とその秘書でしたが、今年の1月末でオメガ教団を辞めていました。オメガ教団が関与した証拠がなく、その二人の自白によると、5年前に香港にあるドイツ企業の人間でハンス・マルクスという人物に雇われ、その指示によって活動していたらしいのです。最初は日本にドイツ企業の支店を構える為の調査活動の補助と云うことであったが、男女関係に金銭を絡めた陰謀に引っ掛かり、ハンス・マルクスの言いなりにならざるを得なかったようです。オメガ教団に入信したのもハンス・マルクスの指示だったようです。その後は報酬が大きく成り、積極的に協力していく様になったと云うことです。事件の背景は世界的秘密結社ブラッククロスがオメガ教団を利用して岡崎市内での爆破テロを計画したと推定されています。」と棚橋刑事が説明した。
「それで、被害者の中牟田岩男とオメガ教団の関係はあったのか?」と高円刑事部長が訊いた。
「いえ、中牟田岩男がオメガ教団と接触していた形跡は見つかっていないようです。」
「オメガ教団とは無関係か。」と高円が呟いた。
「中牟田岩男に関して、新しい事実が判明しました。」と結城刑事が言った。
「何、新しい事実?」
「はい。昨日、中牟田岩男が住んでいた管理人から警察に電話があり、中牟田が会員だったフィットネスクラブから宅急便で段ボールは箱が送られてきたと云うことでした。それで、マンションに行ってきました。どうも、フィットネスクラブの中牟田のロッカーに残されていたスポーツ衣類が返却されてきたようです。その中に、修験道に関する本が一冊が入っていました。管理の話では、数カ月に一回くらい修験修行で英彦山や宝満山に登っていたらしいのです。」と結城が言った。
「その修験道の本の題明は何でしたか?」と棚橋が訊いた。
「題明は『ザ・修験』、著者は神聖修験研鑚教の弾武典です。現在は教祖の弾武典が行方不明で、神聖修験研鑚教は解散して存在しません。」
「弾武典はK国秘密情報機関KISSの要員と考えられます。また、数年前にあった田代幸造と橘幸平の誘拐犯人として警視庁から指名手配中の人物です。」と棚橋が言った。
「弾武典は指名手配中でしたか、忘れていました。」と結城刑事が言った。
「中牟田岩男と弾武典が接触していたかどうかだな。」
「現在の所、不明です。マンションの部屋からは神聖修験研鑚教に関する資料などは何も発見されていませんし、修験装束も発見されていません。」
「なぜ、管理人は中牟田が修験修行をしているのを知っていたのだ?」と高円が訊いた。
「以前、太宰府天満宮に参拝に言った時、偶然に、近くの道でばったり修験装束の中牟田岩男と会ったらしいのです。その時は、中牟田が宝満山から降りて来た時だったそうです。」と結城刑事が言った。
「ようし、中牟田がKISS要因であったかどうかだな。」
「公安部からの情報では中牟田岩男がKISSであったかどうかは不明とのことでした。しかし、もう一度、調査してみる必要がありそうですね。」と棚橋が言った。
筑紫の皇子36;
2011年8月28日(日) 午前3時ころ 北九州市若松区響町のオメガ教団研修所
響灘に面した海岸線の埋立地には企業の工場や倉庫が立ち並んでいる。
その工場倉庫群の一角に地上3階建て相当の倉庫風ビルが7棟ある施設がある。その施設のある敷地の出入門にはオメガ教団研修所と書かれた小さな表札が埋め込まれている。
その研修所の建物の敷地内で未明に小さな爆発があった。
研修のために宿泊していた信者に怪我人はいなかった。
爆発が発生した直後に駆けつけたパトカーや消防車は敷地内に入るのを拒否された。
しかし、夜が明けて捜査令状を取った警察が敷地内に入った時には、爆発現場は希麗に清掃されており、黒く焦げたビルの壁に穴があいていると云った状態であり、ビル内部も整理整頓された状態であった。
教団関係者の証言では、プロパンガスのボンベからガスが漏れており、そこに、上の明かり取り窓から金属枠が落ち、その時に出た火花がプロパンガスに引火したのである、と云う事であった。
しかし、警察の鑑識課が調べた結果ではダイナマイトの爆発ではないかと思われる試薬による化学反応結果が出ていた。
筑紫の皇子36;
2011年9月4日(日) 午前10時ころ 国会前庭の時計塔前にある噴水池の近く
日曜の朝ということで、国会議事も休会であり、人通りはほとんどない。
噴水池の周りにあるプラスチック製のベンチに座りながら、半田警視長と大和太郎が話している。
「日曜日にお呼び立てして申し訳ありません。」と半田が言った。
「いえ、商売柄、警察と同様に休日は有って無きが如しですから、気になさらないで下さい。」と太郎が答えた。
「ありがとう。」
「で、お話と云うのは?」と太郎が訊いた。
「先週の日曜日に北九州市若松区響町の埋立地にあるオメガ教団研修所ビルで爆発事件がありました。」
「大きな事故でしたか?」
「若松署からの報告では、けが人は無く、ビルの壁に穴が開いた程度だったようです。ところが、警察の現場調査ではダイナマイト爆発と推定できるのですが、オメガ教団は不注意によるプロパンガス爆発と主張しています。爆発現場近くには取って付けた様に焼け焦げたガスボンベとガス器具が置かれていたようです。それに、爆発当初は警察や消防署が敷地内立ち入るのを拒否しています。その後、若松署が危険物登録違反の容疑で家宅捜索令状を取って研修所内に入ったのですが、目ぼしい証拠品は無かったようです。オメガ教団は何かを隠そうとしているようですが、それが何なのかが判りません。ただ、現場近くの芝生の上に一部分が焦げている熊野神社の烏文字で書かれた午王神符の紙きれが落ちていたそうです。その午王神符の紙切れには朱墨で『八』の字が大きく書かれていたようです。その紙切れの一つの隅にはセロテープが着いており、爆発現場の壁にも同じ成分のセロテープの残骸がくっついていたそうです。」
「セロテープでビルの壁に貼られていた午王神符が爆発で飛ばされたのですかね。でも、朱文字の八が書かれた午王神符とは、神武東征伝説殺人事件を思い出しますね。」と太郎が言った。
「それです。あの事件の仲間たちが動いているのではないかと、私は心配しているのですが。更に、別の推理もできますが・・。」
「別の推理とは?」と太郎が訊いた。
「今年の3月にあった岡崎市内の爆弾テロ事件の実行犯である男女ふたりは秘密結社ブラッククロスのハンス・マルクスの指示でオメガ教団に入り込んでいたと言っていました。しかし、ブラッククロスはオメガ教団を影で支援している秘密結社であり、万一に備えて、教団による爆弾テロとの関係を見破られないために男女ふたりは企業家のハンス・マルクスに雇われた従業員と云う形にしていたのだろうと推測しています。ブラッククロスは爆破テロには無関係と云う事にしたかったのでしょう。」と半田が言った。
「今回の爆発事件もブラッククロスの指示で教団がテロのための爆弾造りを行っていたと云うことですか?」と太郎が訊いた。
「断言はしませんが、その可能性もあるのではないかと私は考えています。」
「教団関係以外の他の人物による爆破と云う考えは無いのでしょうか?」と太郎が言った。
「確かに、その可能性もあります。しかし、オメガ教団を誰が狙うのかと云う点に疑問があります。オメガ教団に恨みを持つ人物や組織の犯行とした場合、富山県高岡市か北海道札幌市のオメガ教団支部を狙うのではないかと思うのですが。研修所程度で小さな爆発を起こしてもね・・・。」
「確かに、半田警視長のお考えも一理ありますね。それで、その件で私に何か依頼事でも?」と太郎が訊いた。
「大和探偵が手伝っている福岡県警の殺人事件ですが、聞くところによると、あなたの意見ではオメガ教団と殺された中牟田岩男が関係しているのではないかと云うことですが、その根拠を聞きたいと思いましてね。」と半田が言った。
「ああ、その事ですか。単なる仮定・推理です。もし、オメガ教団と中牟田岩男が繋がっていたとすれば、背後にいるブラッククロスのナンバーセブン計画と繋がってくるのではないかと思いましてね。」
「そのことが訊きたいのです。何故にナンバーセブン計画が出てくるのか、大和探偵の発想が知りたいのです。」と半田が言った。
「都府楼殺人事件に関係している、菅原道真を祀る天満宮です。」と太郎が言った。
「天満宮?」
「ええ。何故か知りませんが、天満宮は七と云う数字に関係があるのです。大阪天満宮の伝承に登場する七本の光る松の木。『通りゃんせ』の歌に出てくる七才の子のお祝とは何か。そして、京都北野天満宮の近くにある菅原道真の産土神社である大将軍八神社の北斗七星のお守り袋。更に、菅原道真には25と云う数字が付いて回っています。1月25日に太宰府左遷が伝えられました。2月25日に太宰府で死亡しています。そして、丑年の6月25日が誕生日。2+5=7です。」と太郎が言った。
「なるほど。七に関係がある天満宮とナンバーセブン計画が関係しており、殺された中牟田岩男は菅原清隆と名乗り、東風吹かばの短歌の刺青をしており、天神の御子を標榜していた訳ですからね・・・。」と半田が考えるように言った。
「オメガ教団のバックアップをしているブラッククロスが動いているならば、KISSの弾武典も活動しているかもしれません。神武東征伝説殺人事件の犯人であった岳内林太郎の父親・岳内太郎と思われる人物が大伴一郎と云う名前で長野市鬼無里に住んでいるのです。しかも、都府楼殺人事件の参考人と思われる多沼圭子と一緒に住んでいるのですからね。」と太郎が言った。
「もし、大和探偵の推理が事実なら福岡県警だけに都府楼殺人事件を任せておけないですね・・・。うーん、どうするかだな。事件の背景がナンバーセブン計画であるとするならば・・・。しかし、世界的な秘密結社であるブラッククロスのナンバーセブン計画とは何なのか?目標は何なのか・・・?CIAやFBIから情報収集しなければならないな・・・。」と刑事局長補佐の半田警視長が考え込んだ。
「それから、長野市鬼無里に住んでいる岳内太郎のことですが、神威示現斎の修験装束で私の前に2回も現れたのも、私を誘導するためだったのかも知れません。また、事件記者の鮫島姫子さんの前にも1回現われています。しかも菅原道真に関係する、北野天満宮、太宰府天満宮、亀井天神に姿を現わしてですからね。偶然、私たちの前に現れたとしては、何かおかしいですね。私と鮫島さんは例の神武東征伝説殺人事件では岳内林太郎の逮捕に貢献していますからね。理由は、私たち二人に復讐するためにですかね・・・。」と太郎が言った。
「復讐のためなら、この私や鈴木刑事なども狙われて当然です。たぶん、復讐ではないでしょう。何かに誘導したいのではないでしょうか?岳内林太郎は日本を守るために平然と殺人を犯しました。また、岳内林太郎は自分の父親も殺し屋であったと証言しています。日本を守る過激な集団が存在するのかも知れませんな。鎌倉の大伴一郎、鬼無里の大伴一郎、そして、会津若松の大伴善男。」と半田が言った。
「大伴一族ですか・・?日本国を守護する過激派・影の軍団ですかね・・・。」と太郎が考え込んだ。
「とすると、オメガ教団の研修所を爆破したのも大伴一族の岳内太郎かも知れないな。ナンバーセブン計画か・・・。」と半田が考えるように呟いた。
「もし、岳内太郎が私や鮫島記者を自分たちの居る場所に誘導しているとしたら、彼と多沼圭子は鬼無里からそろそろ姿を消すかも知れませんね。オメガ教団の研修所を爆破した後ですからね。」と太郎が言った。
「長野県警の刑事が8時間ごとに交代で監視していますから、二人を逃がしませんよ。」と半田が言った。
「今、気が付いたのですが、二人が住んでいる家は忍者屋敷かも知れません。どこかの部屋の床下から外部に繋がる地下トンネルが掘られている可能性もあります。注意してください。」と太郎が言った。
「忍者屋敷か。気が付かなかったな。これはちょっとまずいかな・・・。」と半田が呟いた。
「ところで、オメガ教団の研修所ですが、敷地内に建っている研修棟ビルは7つあります。この7つのビルを上空から見ると、北斗七星の配置になっており、柄杓の先斗部分に相当する二つのビルを結ぶ線は真北に向かっています。この意味は何でしょうね、大和探偵。」と半田が訊いた。
「北斗七星ですか・・・。何でしょうね?ブラッククロスのナンバーセブン計画と関係しますかね・・・。」と太郎も考え込んだ。
「やはり、ナンバーセブン計画の正体は何なのかですね・・・。オメガ教団を監視している公安部の態勢を整え直す必要がありそうですね。」と刑事局長補佐である半田警視長が言った。
「オメガ教団の研修所はいつ頃出来たのですか?」と太郎が訊いた。
「1年半前ですが、それが何か?」
「いえね、ナンバーセブン計画が始まった時期がいつごろかと思っただけです。」と太郎が言った。
「ナンバーセブン計画が始まったのは1年半前なのかどうかですね。もっと以前からかも知れません。日本のアメリカ大使館に駐在しているCIAやFBIから何らかの情報が得られればよいのですがね。」と半田が答えた。
「今回、爆破された研修棟ビルは北斗七星で云うと、どの位置にある星に相当しますか?」と太郎が訊いた。
「確か、柄杓の杓部の先斗にあたる、北極星に一番近い星に相当していましたね。」
「先斗部ですか。確か、京都の祇園界隈は先斗町にありましたね・・・。」と太郎が意味あり気に言った。
「平家物語の『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり』ですか・・・。現場は北九州市若松区にある、響灘に面した響町ですからね。」と半田が洒落を言った。
「しかし、午王神符に八の文字が書かれている意味は何ですかね。」と太郎が言った。
「神武東征伝説殺人事件の時は十種神宝の呪文字による結界崩しが目的でしたね。」と半田が言った。
「今回は岳内太郎による結界崩しですかね?」と太郎が呟いた。
「北斗七星の形をした結界が何処かに存在すると云う事ですか?それをブラッククロスが構築したとでも?」
「いえ、単なる想像です。確証がある訳ではありません。これから結界を築こうとしているのかもしれません。それを岳内太郎が防ごうとしているのかも知れません。」と太郎が言った。
「京都祇園にある八坂神社の八ですかね?」
「宇佐八幡宮の八。北野天満宮の近くにある大将軍八神社の八。北斗七星の七つの星と北極星を合計しての八。それとも、ナンバーセブン計画の七の上を行く八かもしれませんね。」と太郎が半田を混乱させる様なことを言った。
「参りましたね。七の謎に八の謎ですか。ふーん・・。」と半田が考え込んだ。
筑紫の皇子37;
2011年9月5日(月) 午後4時ころ 京都市修学院の藤原教授宅
「そこで、先生のご意見を聞きたいのですが。」と太郎が言った。
「大伴一族ですか?確かに、菅原道真の母親の血筋は伴氏を名乗っています。本来は大伴氏ですが、第53代淳和天皇の諱である大伴を避けて伴氏を名乗っていますが、大伴氏の血筋です。」と藤原教授が言った。
「ええっ、菅原道真には大伴一族の血が流れているのですか。」と太郎が意外と云った表情で叫んだ。
「なんだ、知っていて大伴一族の事を聞いてきたのかと思いましたがね。知らなかったのですか。確か、長野市鬼無里へ行った時にお話ししませんでしたっけ?」と藤原教授が言った。
「そんな話ありましたか。すいません、覚えていません。」と頭を掻きながら太郎が言った。
「神武東征の時、熊野で大和への道に迷った一行の中で賀茂建角身命が空を飛んで大和までの道を発見しました。そこで、神武天皇から八咫烏と命名されます。下鴨神社の祭神となる賀茂建角身命とこの時同行していた軍事担当者が大伴氏の先祖の日臣命です。」
「熊野本宮大社の牛王神符に描かれている八咫烏ですか。ところで、滋賀県の琵琶湖のほとりにある比良明神こと白髭神社の神主であった神良種の子である太郎丸の夢に菅原道真が現れて託宣したので京都北野の地に北野天満宮の前身である社祠が創られました。神良種は奈良の大神神社と関係があるのでしょうか?」と太郎が訊いた。
「菅原道真が太宰府で死亡した2年後、付き人であった味酒安行が神託を受けて天満大自在天として菅原道真の神殿が太宰府に創られた。それが現在の太宰府天満宮です。ところで、奈良の大神神社には活日神社と云う摂社が祀られています。祭神は高橋活日命で崇神天皇の命で大物主大神に備える酒を醸造した人物です。この神社の祭りの時に神楽が舞われます。その神楽の名称は『うま酒みわの舞』と呼ばれ、活日命が詠んだ歌で作曲作舞されたとされています。この話から味酒安行は大神神社と関係がある人物ではないかと想像できます。また、大神神社を創祠した大田多根子は大神氏の先祖であり、また賀茂氏の先祖でもあります。大田多根子が書いた『秀真伝』は琵琶湖の比良明神の近くにある水尾神社に神宝として残されていました。水尾神社は三尾神社とも呼ばれています。」と藤原教授が説明した。
「そうすると、能登の賀茂神社と菅原道真の天満宮との繋がりがある訳ですか。」と太郎が言った。
「そうです。能登にある日本のピラミッドの葬祭殿である賀茂神社と天満宮が繋がります。」
「天満宮と関係がある数字7の謎とピラミッドが繋がるとなると、神の計画を実現するために活動しているブラッククロスのナンバーセブン計画は今年の3月に実行が計画されていたナンバーファイブ計画と同じで、世界のひな型の日本国で何か事件を起こそうとしているのかも知れないですね。」と太郎が言った。
「あの時のルル・アラブ師の話では、カバラ数秘術でしたかね。数字の5は『神の峻厳』、『燃える蛇』であり、また『放火魔』でもありましたね。数字の7は『神の恩寵』、『神』であり、また『略奪者』でしたね。」と藤原教授が言った。
「『神の恩寵』であり、また『略奪者』でもある、ですか・・・。」と太郎が考え込んだ。
「ところで、下鴨神社に御生神事と云うのがあります。賀茂祭か葵祭と云う名称のほうが有名ですかね。葵祭の行列は5月15日ですが、行列の前日である5月12日の午の刻に行われる御生神事のことは、一般にはあまり知られていませんね。かつては4月に行われていた神事です。上賀茂神社では御阿礼神事が行われます。」と藤原教授が言った。
「御生神事ですか?」と太郎が訊き返した。
「高野川沿いにある八瀬比叡山口駅近くの御蔭山麓にある御蔭神社で行われる神事です。御蔭神社は下鴨神社の境外摂社です。現在の社殿は山麓にある神社ですが、江戸時代中期以前は高野川の中洲に社殿があった神社です。御生とは生命の誕生を意味します。また、神の降臨を意味しているとも謂われています。東西二つの社殿の前には正方形を象った磐座があります。旧社地のころには同じ形の磐座が二つあったと謂われています。この磐座はエジプトのピラミッドを上空真上から見た時の形を表現していると云う学者もいます。上賀茂神社の本殿前にある円錐形をした二つの砂山の方がピラミッドを彷彿させますがね。確かに、下鴨神社にある東本殿と西本殿と印璽社本殿の並び方はオリオンの三ツ星の配置をしており、エジプトのギザにある三大ピラミッドと同じ配置に並んでいます。また、東と西の本殿に至る祝詞屋とその前にある幣殿がエジプトでは参道と葬祭殿に相当し、さらに幣殿に至るには通らなくてはならない四脚中門が四足動物であるスフィンクスを想像させます。そのことを考えると、日本のピラミッドである能登の宝達山、石動山、円山の葬祭殿に相当する志賀町矢駄の賀茂神社の意味がはっきりしてきます。」と藤原教授が言った。
「やはり、能登のピラミッドが登場しますか・・・。」と太郎が感慨深げに呟いた。
「大和君。そうすると、何か見えてきませんか?」と教授が言った。
「はあ?」
「竹内文献モーゼ伝説殺人事件の時に大和君に私が出した宿題のことですよ。」と教授が言った。
「ああ、鹿島神宮沖の鹿島灘にある見目浦の海中磐座の真北に天津教の皇祖皇太神宮がある理由ですね。」と太郎が言った。
「判りましたか?」と教授が訊いた。
「いえ、まだ・・・。」と太郎が答えた。
「下鴨神社の真北には鞍馬寺があります。」
「なるほど。金星から降臨して来たサナート・クマラが居た鞍馬山がある訳ですね。そして、能登の鹿島町の北にはエジプト・ギザの葬祭殿に相当する賀茂神社があると云う訳ですね。確か、先生の推理では天津教の創始者である竹内巨麿にはサナート・クマラが憑依していたと云うことでしたね。」と太郎が言った。
「そうです。北と南を結ぶ関係です。また、賀茂神社の御生神事に菅原道真の天満宮の七の謎を結び付けると何が見えますかね。」と教授が言った。
「ルル・アラブ師が言っていたことですか?」と太郎が訊いた。
「いえ、違います。江戸時代中期までは、御生神事が執行される御蔭神社の敷地は高野川の中洲にありました。また、北野天満宮の近くを流れる天神川と御室川の合流地点に木島坐天照御祖神社があります。この神社の神域は元糺すの森と呼ばれており、下鴨神社境内にある糺すの森の元祖とされています。木島坐天照御祖神社には三つ鳥居があり、現在は元糺すの池の中に建っていますが、江戸時代中期までは御室川から引き入れた小川の中洲に建っていました。木島坐天照御祖神社の主祭神は火明命です。また、松尾大社、木島坐天照御祖神社、下鴨神社、日吉大社を結ぶ霊ライン上には近江八幡市の日牟礼八幡神社があります。そして、これらを結ぶ霊ラインの延長線上には夏至の太陽が昇る日の出の位置があります。江戸中期までの御蔭神社と三つ鳥居はともに川の中洲ににあった訳です。」と教授が言った。
「夏至の日の出ラインですか。そして、元糺の森を流れる川の中洲にある三つ鳥居から生まれ出る太陽の神ですか?それが、能登にある日本の三大ピラミッドである宝達山、石動山、円山と関係してくる訳ですか。大伴一族の鬼女・紅葉の首が鬼無里から飛び去って行った呉羽山麓にある皇祖皇太神宮を祀る南朝派・竹内宿禰一族の存在。その陰には越中国司であった大伴家持の末裔の大伴一族が居るのかもしれませんね・・・。富山県高岡市の二上山頂にある射水神社奥宮に祀られている日吉大神こと大山咋神は上賀茂神社の祭神である賀茂別雷神の父神とされる。二上総社射水神社で行われる築山神事は天上から地上に神を迎える神事でしたね。そして、石川県鹿島郡にある石動山と茨城県鹿島市にある鹿島神宮を結ぶ石動霊ライン上にある榛名富士山頂で宝達奈巳さんが行った石長姫を宇宙から帰還を迎える榛名山斎生神業。この石動霊ライン上には能登の葬祭殿・賀茂神社や宗像三女神を祀る意冨志麻神社がありましたね。しかし、菅原道真の七の謎には結びつきませんが・・・。」と太郎が考え込むように言った。
「はっはっはっは。大和くん。3+4=7じゃないですかね?」と藤原教授が言った。
「3+4=7と云いますと?」と太郎が訊いた。
「オリオンの三つ星とそれを囲むオリオン座の4つの星です。平家星と呼ばれるベテルギウス、源氏星と呼ばれるリゲル、女戦士と呼ばれるベラトリクス、そして、巨人の剣を意味するサイフと命名された星です。ベテルギウスは死滅寸前の赤色超巨星で、星自体が膨張したり縮小したりしています。地球との距離は640光年であり、現在、地球で見ているベテルギウスは640年前のものです。現在ではすでに爆発して超新星・太陽となって輝いているかも知れません。下鴨神社の東本殿、西本殿、印璽本殿をオリオンの三つ星に例えれば、本殿の神域を取り囲む玉垣の四隅に埋め込まれた結界石がこの4つの星に相当します。」
「その結界石が爆発したらどのような事になりますか?」と太郎が訊いた。
「判りませんね。ただ、東京の亀戸天神社では『株立』の事を『十立』と書き、一つの草木から株分けされた状態を十立と云うそうです。もちろん、元の草木とは太宰府天満宮を意味し、株分けされた木は亀戸天神社などの全国に分祀された天満宮のことです。」と教授が答えた。
「『十立』と書いて、『かぶたち』ですか。爆発する事は株分けで『かぶたち』なのですかね・・・?」と太郎が呟いた。
そして、半田警視長から聞いたオメガ教団研修所で見つかった午王神符の『八』は八咫烏である大伴一族を示しているのではないかと太郎は考えた。
「あの午王神符は『八咫烏である大伴一族が参上した』と云う宣言だったのかも知れないな。そして、ナンバーセブン計画を阻止すると云う意志表示なのかもしれないな。しかし、岳内太郎はどのような手段でブラッククロスと戦うつもりなのだろ?」と太郎は思った。
筑紫の皇子38;
2011年9月7日(水) 午前11時ころ 福岡県警本部の捜査会議
「警察庁・刑事局長からの通達により、本日の捜査会議から公安部の人間も参加することになった。これは、オメガ教団と都府楼殺人事件が繋がるのではないかとの推理に元づくものである。8月28日の日曜日未明にあったオメガ教団研修所での爆発事件についての見解を公安部の大宮刑事から説明してもらう。よろしく。」と高円刑事部長が言った。
「公安部の大宮です、よろしく。刑事部長から説明があったように、先日、北九州市若松区の埋立地にあるオメガ教団の研修所でダイナマイトの爆発と思われる事件が発生しました。オメガ教団ではプロパンガスが漏れていて何かの火が引火したと主張していますが、我々の判断とは異なっています。これは、オメガ教団が何かを隠そうとしているのではないかと思われます。その何かが不明ですが、世界的秘密結社のブラッククロスによるテロ計画と関係するのではないかとの判断が刑事局長から出されました。ご承知のように、オメガ教団はブラッククロスやK国秘密諜報機関KISSと繋がっています。昨日、アメリカ大使館内に事務所を構えているCIA及びFBIとの合同会議を警視庁公安部が始めました。FBIからの情報ではブラッククロスがナンバーセブン計画を推進しているとのことです。ナンバーセブン計画の内容は不明ですが、今年の春に公安部が阻止したナンバーファイブ計画と云うテロ計画の延長線上にあるテロ活動ではないかと思われます。現在、都府楼殺人事件の関係者と目される岳内太郎と云う人物が浮かび上がっている様ですが、岳内太郎は5年前にあった神武東征伝説殺人事件の犯人であった岳内林太郎の父親であり、何らかの組織に属しているヒットマン・殺し屋ではないかと考えられる人物です。岳内太郎の属している組織の実態は不明ですが、都府楼殺人事件の参考人である暴力団・聖武祇園連合会組長の岡上正一もこの組織の一員ではないかと刑事局長は考えておられます。以上の観点から公安部がマークしているオメガ教団、KISS、ブラッククロスが都府楼殺人事件に関係していると云う前提で公安部が捜査会議に参加することになりました。よろしくお願いします。」と大宮刑事が言った。
「そう云うことだ。ところで、鎌倉にいる岡上の動きはどうなんだ?」と高円が訊いた。
「神奈川県警からの報告では、岡上には目立った動きはないようです。」と結城刑事が言った。
「棚橋刑事。長野市鬼無里に居る多沼圭子の動きは何か判っているか?」と高円が訊いた。
「9月4日から姿が見えなくなっているとの長野県警からの報告です。どうも、家屋から外部への抜け穴トンネルが掘られていたようで、多沼圭子と岳内太郎には逃げられたようです。現在、所在不明です。」と棚橋が言った。
「逃げられたか・・・。何か、新情報はないのか?状境の進展はないのか?」と苛立つように高円が言った。
捜査員一同は黙り込んだまま、捜査会議は終了した。
筑紫の皇子39;
2011年9月8日(木) 午前8時ころ 大分県の宇佐神宮境内近く
宇佐神宮の境内には、二つの山がある。ひとつは上宮(本宮)のある小椋山、もうひとつは大尾山である。大尾山には大尾神社と護皇神社がある。大尾神社は八幡大神が奈良の大仏開眼の式典から伊予の宇和経由で帰還した時、穢れを祓い終えるまでの15年間、この山に鎮座されていた。和気清麻呂が弓削道鏡に関する託宣の真偽を確認する神託を受けたのもこの大尾神社であった。護皇神社には和気清麻呂が祭られている。小椋山の神域と大尾山の神域は境内横に流れる寄藻川から分かれた小さな小川(御食川)で分離されている。小椋山の神域全体は寄藻川と御食川に囲まれた神域となっている。大尾山への登り口には大きな石灯籠が左右に二基づつ計四基ある。上り口から急な登りの石段が続いている。この登り口の前には、御食川に平行して細い小さな舗装道路が走っている。
御食川沿いの道端に駐車している白い小型乗用車の後に、モスグリーンのジャガーが静かに止まった。
そして、白色のワンピースを着て、青色の小さなファッション帽子を頭に載せた貴婦人が車から降りた。そして、そのジャガーは静かに走り去った。
貴婦人はサングラスをはずし、それをハンドバックに入れた後、大尾山登り口にある石灯篭の前に立っている男に近づいて行った。
「広子ちゃん、久しぶり。突然、呼び出して申し訳ない。」と背広姿の棚橋刑事が言った。
「お久しぶりです、光弘さん。」と貴婦人の大賀広子が言った。
しばらくの間、ふたりは他愛のない話をした。そして、貴婦人が訊いた。
「それで、今日は何でしょうか?」
「菅原道真の太宰府天満宮について訊きたいのだが・・・。」と棚橋が訊いた。
「やはり、何かの事件ですの?」と大賀広子が訊き返した。
「ああ。都府楼殺人事件で参考にしたいのだが。」
「太宰府天満宮の何がお知りになりたいのですか?」
「何でもいい。知っていることを話してほしいんだが。何が参考になるのかは判らない・・・。」
「そうですか。何から話しましょう・・・。」と少し考えてから広子が言った。
「菅原道真は京都と関係が深いから、天開稲荷のお話でもいたしましょうか。光弘さんもご存じでしょうが、太宰府天満宮の境内には、石の祠に祭られている天開稲荷があります。この天開稲荷は京都の伏見稲荷を勧請したものです。」
「正一位の伏見稲荷か。」と棚橋が呟いた。
「石の祠なので古墳跡と思っている方もおられますが、この石の祠は40年くらい前に造られたものです。先日、日本古代史学会の文献を読んでいましたら、富山県のT大学の宝達教授の論文に伏見稲荷の事が載っていました。埼玉県の比企郡に原伏見稲荷神社の小さな社祠があり、この地の原伏見稲荷神社が京都伏見稲荷の基社であると宝達教授は推理されていました。この比企郡の原伏見稲荷神社近くにあるポンポン山には味鉅高彦根を祀る高負彦根神社があるそうです。昔は玉鉾氷川明神と呼ばれていたそうです。710年の創建ですから日本書記や古事記が編纂された時代に造られたのね。味鉅高彦根は賀茂大神とも呼ばれており、賀茂一族のご先祖です。京都の下鴨神社の祭神の先祖でもあり、出雲の大国主命と宗像三女神の一柱である沖津嶋姫との間に生まれた御子です。そして、この地は日置部が火継神事を行った場所で、石川県の能登半島にある日置郷とは出雲族との親戚関係にあると推理されていました。大国主命を出雲大社の杵築宮に祀った天穂日命は菅原道真のご先祖です。ここに、菅原道真と賀茂大神が深い繋がりがあることが判ります。出雲大社の舞殿の後ろに天満宮の社祠が祀られている意味がこれです。そして、京都の伏見稲荷は渡来人の秦氏である伊呂具秦公が創始したことになっています。秦氏が関係するとされる木嶋坐天照御魂神社は蚕神社とも呼ばれていますが、この神社には三つ鳥居があります。また、三つ鳥居のある奈良の大神神社は出雲族の大貴巳命を祀る神社です。大貴巳命は大国主命の事です。そして、滋賀県近江八幡市には大国主命とその妻神である沖津嶋姫を祀る大嶋神社があります。また、大嶋神社の近くには水茎の岡と呼ばれる小高い山があります。この山は、万葉集の時代には琵琶湖の中に浮かぶ島だったようです。そして、山の頂城には土地の豪族による城が築かれており、水に囲まれた城、すなわち水城と呼ばれていたようです。
ちなみに、太宰府は外国からの攻撃に備える為に築かれた水城と呼ばれた盛り土の大きな土塁群を治める政庁でした。大伴家持の父親で太宰府権帥(長官)でもあった大伴旅人が詠んだ歌があります。
『益荒男と 思える吾れや 水茎の 水城の上に 涙 拭はん』
この場合、水茎は水城に掛る枕詞で、水茎とは水を吸い上げる能力が他の草木比べて大きい竹のことですが、竹で作られている筆を意味するとも、流れるような筆跡を表す言葉であるとも謂われています。
『男丈夫と思っていた私でも、出陣して行く兵士たちの乗った船を、この水城の上から見送る時には、(これから起こる彼らの苦難を想うと)涙が出てしまう』と云った意味でしょうか。大伴一族は大和朝廷の軍事部門を統率した一族でした。」と大賀広子が言った。
「大伴一族か・・・。それと賀茂一族。」と棚橋が呟いた。
「大伴一族と賀茂一族が出てくれば、もう一つの一族が思い出されるわね。」と広子が言った。
「もう一つの一族?」と棚橋が訊いた。
「日本書記によると、賀茂一族の先祖である賀茂建角身命は神武東征の時に熊野から大和への道筋を発見した功によって八咫烏と云う尊称を朝廷からもらいます。八咫烏は三本脚です。私の研究では、神武が東征する時には軍事部門を統率する大伴氏、星の位置などの天文観察をして進行している方角を知る役目の賀茂氏、そして、神から託宣を受ける神武天皇の食事の準備だけでなく、神に饗食を供え、神を祀り託宣を請ける手助けをする大膳職の武内宿禰一族が同行していたはずです。」と広子が言った。
「武内宿禰か。大きな白髭を生やしている男。この宇佐神宮の摂社では黒男神社の祭神だな。」
「私の生まれた大賀家の口伝では、八咫烏の三本脚は賀茂、大伴、武内の一族を顕わしているとの事です。」と広子が言った。
「その三家族の子孫が天満宮に絡んでくる訳かな?」と棚橋が訊いた。
「それはどうか判らないわね。ところで、近江八幡市の水茎の岡については、出口王仁三郎の言霊の話が有名ね。」と広子が言った。
「出口王仁三郎の水茎の岡とは?」
「言霊学の大家である大石凝眞素美と出口王仁三郎は水茎の岡山に登って、琵琶湖の湖面に漂う神代文字である水茎文字を見たと云う話があります。霊能がないと見えないらしいのです。それには、未来に起こることが書かれているらしいのです。大本教の教祖である出口ナオが神によって書かされたお筆先と同じく、天地創造の神が水茎文字を書いているのだと王仁三郎は言っています。その水茎文字は言霊文字であり、声を出して読めれば、そのことが実現するとも謂われています。」
「言霊か・・・。ところで、筑紫皇子のことで何か知らないかい?」
「筑紫皇子?はじめて聞く名前ね。知らないわ。」と広子があっさりと答えた。
「そうか・・・。君でも判らないか・・・。」
「ところで、大膳大夫・安倍益材の息子であった安倍晴明は陰陽師の賀茂忠行に弟子入りし、忠行の子である賀茂保憲から天文道(陰陽道)と云う陰陽寮での職務を譲り受け、後年の土御門家の発祥へとつながります。一方の陰陽師・賀茂家は暦道を引き継いでいきます。太宰府での菅原道真の住居は榎社で、その近くに水が涸れないと云われている晴明井戸があります。また、京都・下鴨神社の鴨氏は大和葛城の出身で、葛城・鴨神社の祭神は味鉅高彦根です。すると、京都・下鴨神社は出雲と繋がり、先ほども言ったように、大国主命を祀る出雲大社・杵築宮を創祀した天穂日命の末裔である菅原道真とも繋がってきます。そして、天満宮天神の菅原道真公は下鴨神社の御生神事とどのように関係してくるのか・・・。それがよく判りません。陰陽師と天満自在天・菅原道真の関係があるのか、ないのか・・・?陰陽師・賀茂忠行の先祖に賀茂朝臣吉備麻呂と云う遣唐使の一員として中国に渡って陰陽道を勉強した人物がいます。太宰府大弐(長官)もしていたようです。この吉備麻呂の孫が賀茂比売と云って淡海公・藤原不比等の妻です。そして、聖武天皇の母親である藤原宮子を産んだ女性です。余談ですが、修験道の開祖・役小角も葛城・鴨の出身です。また、天智天皇は近江(淡海)京を創っています。藤原不比等は藤原鎌足の子とされていますが、天智天皇の御子ではないかとの噂もあります。」と広子が言った。
「そうすると、藤原氏と賀茂氏と奈良・東大寺大仏建立を詔勅した聖武天皇が血縁関係にあるのか。うーん。」と棚橋が考え込んだ。
「何か、考えている事がありますか、光弘さん?」と広子が訊いた。
「天満宮では、七と云う数字が絡んでくるが、それについては何か知っているかい?」と棚橋が訊いた。
「四三の星、あるいは七剣星と呼ばれ、夜空に輝く北斗七星かしら・・?中国の道教では死を司る星とされています。北斗とは霊獣・玄武という蛇を背負っている亀に似た動物を意味するのかもしれないわね。それとも、元は天神社の地であった京都・大将軍八神社の北辰・北極星と北斗七星が示す謎かしら?北極星を中心に時計の剣針のようにぐるぐると回っている北斗七星。大将軍八神社は京都祇園にある八坂神社の末社です。祭神も須佐乃王命とその御子とも呼ばれている宗像三女神と五男神です。」
「そうすると、天満宮は祇園・八坂神社が関係してくるのか。」と棚橋が言った。
「直接の関係はないけれど、それを関係付けるのが四三の星、あるいは、七剣星なのかも知れないわね。」と広子が言った。
「祇園と聖武を繋ぐ賀茂一族が四三の星か?」と棚橋が呟いた。
「表現を変えると、須佐乃王命と東大寺大仏を繋ぐ宇佐八幡神かしら。おほほほっ。」と広子が謎を掛けるように含み笑いをした。
「どうして、宇佐八幡宮が出てくるのかな?」と棚橋が訊いた。
「直感的に云えば、東大寺大仏の開眼供養には宇佐八幡神が勧請されましたわ。」
「なるほど、飛躍のある考え方だね。間を埋める何かがあるのかもしれないね。修験道の神業か、陰陽師の呪祖か、それとも、他の何かが・・・。」と言いながら、部外者には公表できない大賀家口伝があるのだな、と棚橋は思った。
「部外秘の大賀家口伝とは、宇佐神宮に関することか、八幡神に関することか、それとも、奈良の大仏開眼に関係することなのか・・・?」と棚橋は想いを巡らした。
「ところでね、光弘さん・・・。」と広子がやさしく、ゆっくりと棚橋に背中を向けながら甘えるように言った。
「広子ちゃん、何か言いたいのかい?」と棚橋がやさしく訊いた。
「私もね、御子が欲しいの、光弘さんの・・・。うふふふ・・・。」
「えええっ。おいおい、突然に何を言い出すのかと思ったら・・・・。あの時、理由は言わなかったけれど、12年くらい前に、僕たち二人は結婚が出来ないと言い出したのは広子ちゃんの方だよ。」と慌てたように棚橋が広子の背中に向かって言った。
「判っているわ。結婚はしなくていいの。光弘さんの子供が欲しいの、私。」
「まあ、二人とも独身だから、不倫にはならないけれど・・・。そろそろ、自分の後継者が欲しいと云うことかな?」
「まあ、そういう意味もあるけれど・・・、私も年だからね・・・。」と言葉を濁すように広子が言った。
「参ったな。広子ちゃんからそんな話が出てくるとは思わなかったな。子供を産んで育てるのは難しいことが多いからなあ。ちょっと考えておくよ。」と冷静さ取り戻した棚橋が言った。
「お願いね・・・。光弘さん。」
「それじゃあ、これで。今日はありがとう。」と棚橋は広子に向かって軽く手を上げ、白い小型乗用車に向かって歩いて行った。
大賀広子はハンドバックから携帯電話を取り出し、宇佐神宮鳥居前の駐車場で待っているジャガーの運転士に電話を掛けた。
そして、棚橋は車に乗ってエンジンを掛けた。その時、車のFMラジオからビリー・バンバンが歌う『また君に恋してる』の曲が流れてきた。
♪朝露が招く 光を浴びて♪
♪・・・・・・・・・・・♪
♪いつか風が 散らした花も♪
♪季節めぐり 色をつけるよ♪
♪・・・・・・・・・・・♪
♪いつか雨に 失くした空も♪
♪涙拭けば 虹も架かるよ♪
♪また君に恋してる・・・・・・♪
♪まだ君を好きになれる・・・・♪
曲を聞きながら棚橋は昔のことを思い出していた。
「中学時代は猪突猛進の『火の玉会長』だったな・・・。広子ちゃんには参ったな・・・。」
筑紫の皇子40;
2011年9月9日(金) 午前11時ころ 福岡県警本部・捜査会議
「昨日、神奈川県の鎌倉市いる岡上正一が西洋弓・ボウガンで狙われた、と神奈川県警からの報告があった。岡上の命には別状はないらしい。」と高円刑事部長が言った。
「神奈川県警の刑事は岡上と接触したのですか?」と棚橋刑事が訊いた。
「いや、事件を目撃したが、矢が命中しなかったのでそのままやり過ごしたらしい。」
「それで、矢を放った犯人は捕まえたのでしょうか?」
「いや、逃げられたらしい。午後8時ころ、JR鎌倉駅近くのレストランで食事をした岡上が店を出てきて、歩道を歩いていたところを、近づいて来た車から狙われたようだ。たまたま、岡上が歩道の段差で躓いたので、頭上を矢が通り過ぎたようだ。尾行していた刑事が車のナンバーを視認し、緊急手配を懸けたが、盗難車で、現場から2Km先で乗り捨てられていた。」
「それで、岡上の動きに変化はないのですか?」
「一度、自宅に帰ったが、しばらくして、JR鎌倉駅から東京方面に向かったらしい。神奈川県警の刑事が尾行したが、岡上は東京駅前でタクシー乗ったらしい。刑事もタクシーで追跡したが、一度タクシーから降りて、200mくらい歩いたところで、待っていたタクシーに再び乗り込んで走り去ったようだ。タクシーから降りて尾行していた刑事はタクシーを捕まえられずにそこで撒かれたらしい。明らかに尾行に用心した行動を取っていたようだ。現在、岡上正一は行方不明だ。」と高円が言った。
「岡上は尾行に気づいていたと云うことでしょうか?」
「そうかもしれない。命を狙われたのだからな。犯人から尾行されていることくらいは考えていただろう。」と高円が言った。
「岡上は警察が監視していることを知っていたのではないでしょうか?」と棚橋が言った。
「どうして知っていたのだ?」
「鶴岡八幡宮の神殿前で話していた男は刑事の尾行に気づいて逃げました。当然、そのことを岡上に連絡したと思われます。」
「しかし、岡上は今まで逃げなかったではないか。」
「警察に監視されているなら、自分の身に危険はないと考えていたのでしょう。しかし、命を狙う人物が現れた。岡上は3か月以上前から自分が命を狙われているのを何らかの情報で知り、そのため九州から姿を隠し鎌倉に来たのではないでしょうか。」と棚橋が言った。
「それでは、命を狙っている人物は誰だ?」
「菅原清隆こと中牟田岩男を殺した人物か、組織ではないでしょうか?」
「組織とは?」
「オメガ教団かそれに関連する組織です。大伴一郎と名乗っていた岡上正一と、同じく大伴一郎を名乗っていた岳内太郎は仲間である可能性があります。タクシーを利用して尾行を撒く手口は大和探偵から聞いている岳内太郎の手口と同じです。当然、岡上の情婦であった多沼圭子も。多沼圭子は情婦を装っていただけなのかも知れません。」と棚橋が言った。
「オメガ教団関連組織と岳内太郎の組織の坑争か?」と高円が言った。
「二つの組織の争いなのか、そうでない何かがあるのか。北九州市若松区にあるオメガ教団の研修所を爆破した犯人が岳内太郎の組織であったとしたら、どうなりますか?警察庁・刑事局長が推理されているように二つの組織が都府楼殺人事件に関係して動いている可能性は益々高まります。」と棚橋が言った。
「公安部の意見は?」と高円が訊いた。
「現在のところ、オメガ教団から鎌倉に向かったヒットマンがいたと云う情報は受け取っていません。しかし、東京の公安本部に確認してみます。ところで、何の効果もなかったオメガ教団研修所爆破事件の目的は?」と福岡県警公安部の大宮刑事が訊いた。
「岳内太郎の組織が警察にオメガ教団の動きを知らせるのが目的とすれば、警察に監視されているのを承知の上で岡上は鎌倉に留まっていた、と云う事になります。」と棚橋が言った。
「それは、ブラッククロスのナンバーセブン計画の動きを警察に判らせる為と云うことか。うーん。しかし、岡上正一、多沼圭子、岳内太郎の行方がわからないとなると、捜査の重点をオメガ教団に向けるしかないかな。これが、岳内太郎の狙いだった訳か。警察の目をオメガ教団に向けさせることが。しかし、ブラッククロスが中牟田岩男を殺し、岡上正一を狙う目的、動機が判らないな・・・。」と高円刑事部長が言った。
「それが判れば、ナンバーセブン計画の目的が判明することになりますね。」と公安部の大宮刑事が言った。
筑紫の皇子41;
2011年9月12日(月) 午前11時ころ 東京・溜池にあるアメリカ大使館内会議室
朝海刑事局長、半田刑事局長補佐、警視庁公安部員3名が米国大使館駐在のFBI、CIAと合同会議をおこなっている。日本の警察庁からの会議開催要請に対して米国側が応じたのであった。
FBI日本支部からはジョージ・ギャリソンと2か月前に前任者と交替する形で赴任してきたばかりのギャリソンの上司であるキャサリン・ヘイワード女史の2名が出席している。
CIAからは海外防衛協力部所属のジョージ・ハンコックとトム・スミスが出席している。
半田警視長が会議の冒頭に英語で合同会議の趣旨と日本国内でのオメガ教団やブラッククロスの動きを話したあと、FBIからブラッククロスによるナンバーセブン計画に関する情報が述べられた。
「FBI本部が監視しているファウスト薬品株式会社の創業者であるクルト・ボルマン、通称K・Bに関することを報告いたします。K・Bは秘密結社ブラッククロスではナンバーファイブと呼ばれています。今年の3月ころにあったナンバーファイブ計画の総指揮を執った人物です。ご承知のように、日本警察やFBI、CIA、ロシア諜報部の活躍でナンバーファイブ計画を阻止できました。現在はアメリカ東部のニューハンプシャー州ウォズボロ市の別荘とボストンにある薬品会社のオフィスがK・Bの活動範囲です。ブラッククロスの活動資金の一部はファウスト薬品社から出ていると考えられますが、資金提供の手口は判明していません。現在、取引企業などを調査していますが、特に怪しい企業は見出せていません。現在のところは、K・Bがブラッククロスとしての動きをしている雰囲気はありません。ナンバーセブン計画についてはナンバーセブンと呼ばれる人物が指揮を取っていると思われますが、ナンバーセブンなる人物の特定には至っておりません。性別は男であると思われますが、国籍、住所、名前、職業、など一切が不明です。ブラッククロスはナンバーテンと呼ばれる人物が総合的に動かしていると思われますが、ナンバーテンなる人物の正体も全く不明です。」とジョージ・ギャリソンが言った。
「ナンバーセブン計画がテロ計画と仮定して、テロ活動の動きなどは無いのでしょうか?」と半田が訊いた。
「ナンバーファイブ計画の時、日本からロシアに渡ったハンス・マルクスと名乗る人物に関して、CIAが追跡調査しています。ウラジオストックからシベリア鉄道経由でイランに入国しましたが、入国した後の足取りが不明です。イランと親交があるロシアの諜報部が何かを握っているかも知れませんが、CIAでは情報を得られていません。」とジョージ・ハンコックが言った。
「イランから出国した可能性はないのですか?」
「国境検問所などを通過した形跡はありませんが、検問所以外から何処かに移動してしまった可能性を否定できません。現在、ヨーロッパ各地域、中東各国のCIA関連の諜報員がハンス・マルクスの消息を追跡中です。日本国内には戻ってきていませんか?」とハンコックが訊いた。
「通常の入国管理局を通過してハンス・マルクスが日本国内に戻った形跡はありませんが、非合法な手段、特に韓国漁船や中国漁船を使って日本に入国している可能性もありますので各県の警察公安部や海上保安庁には継続的な調査依頼を出しています。」と半田が言った。
「現在のところ、秘密結社ブラッククロス要員で認識されている人物はハンス・マルクスとK・Bだけです。」とキャサリン・ヘイワードが言った。
「あとは、オメガ教団とK国諜報機関の動きを監視していくしかないのでしょうかね・・・。」と半田が言った。
「ナンバーファイブ計画の時、秘密結社ブラッククロス要員たちがウォズボロ市にあるK・Bの別荘に集合した時に乗ってきたリコプターについて、FBI本部が米国内で調査中ですが、ブラッククロス要員に辿りつくには、もう少し時間がかかるでしょう。彼らも用心していますから、確証を得るには至っていません。」とキャサリン・ヘイワード女史が言った。
「世界規模でのナンバーセブン計画を成功させるには、雛型である日本での計画を成功させる必要があるとブラッククロスは考えています。なぜ、日本が雛型なのか、その理由は不明ですが・・・。ハンス・マルクスは必ず日本に現れるはずです。」とFBIのジョージ・ギャリソンが言った。
「それでは、オメガ教団に現れる可能性もある訳ですかね?」と半田が言った。
「必ずしもそうとは限らないでしょう。ナンバーファイブ計画の失敗から学んで、別の組織を利用している可能性も考える必要があるでしょう。」とジョージ・ハンコックが言った。
「別の組織ですか?」
「ブラッククロスは多くの企業を傘下に持っていると噂される組織です。まだ、実体は全く解明されていませんが・・・。アメリカ政府内にも情報員が潜り込んでいますので、我々CIAでは情報漏洩や情報消滅、情報操作に注意しています。この会議の情報もブラッククロスに漏れるかも知れません。この会議室には盗聴器はありませんがね。」
「秘密情報は漏れるものと考えろ、と云うことですか?」
「日本の警察内にもブラッククロスの情報員は潜り込んでいると考えておくべきしょう。」とハンコックが言った。
「判りました。」と半田が言った。
筑紫の皇子42;
2011年9月12日(月) 午後2時ころ 京都烏丸御池にある朝読新聞・京都支社
朝読新聞・京都支社の社会部内の事務机で事件記者の中山隼人が電話で話をしている。
「都府楼殺人事件の担当刑事から聞き込んだのですが、北九州にあるオメガ教団研修所で爆弾テロにありました。その現場には、午王神符の紙きれが残されていたらしいのです。その紙切れには、朱墨で八と云う文字が書かれていたそうです。これって、以前あった神武東征伝説殺人事件に似ていませんか、中山さん」と受話器の向こう居る福岡支社の陣内義則が言った。
「確かに、そうだな。それに公安部が捜査会議に同席しているとなると、何かあるな。あの事件の時、最後に、毎朝(新聞)さんに特ダネをさらわれたなあ。あの悔しさを晴らすチャンスかな、今度の事件は。」と中山が逸る心を抑えながら言った。
「何か、参考になる話はありませんかね、中山さん。」と陣内記者が訊いた。
「あの時の犯人は琵琶湖畔にある比良明神こと白髭神社の近くでペンションをしていた男だったな。そうそう、岳内林太郎とか云ったかな。」
「ええっ、岳内林太郎ですか?」
「そうだが、何か?」と中山が訊いた。
「ちょっと小耳にはさんだのですが、岳内太郎とか云う人物が事件に絡んでいるらしいのですが。岳内林太郎と関係がありますかね。」
「岳内太郎はどのように事件と絡んでいるのだ?」
「よく判りません。刑事が話しているのに聞き耳を立てていましたらその名前が出てきただけです。容疑者なのかどうかは不明です。」
「そうか。他に何か聞いていないのか?」
「ああ、聖武祇園連合会と云う暴力団組長の岡上正一が姿をくらましていますが、その所在が不明との事です。岡上正一は事件の参考人である多沼圭子の情夫です。」と陣内が言った。
「聖武祇園連合か、京都と関係がありそうな、意味あり気な名前だな。それに岡の上の正一とくると、小高い岡山である京都深草稲荷山にある正一位・伏見稲荷かな? 判った。こっちで少し動いてみるよ。大和探偵が北野天満宮近くにあった養護院にいた被害者・中牟田岩男を調べていたようだからな。それと、岳内太郎か。『こちふかば にほひをこせよ うめのはな あるじなしとて はるなわすれそ』だったな。いや、中牟田岩男の刺青は『おもいおこせよ』だったな。」と中山隼人の頭脳はフル回転していた。
筑紫の皇子43;
2011年9月13日(火) 午前11時ころ 毎朝新聞・東京本社の社会部
「部長、岳内太郎と多沼圭子に逃げられました。」と姫子が向山部長に報告した。
「逃げられたか。まあ、警察も抜け道トンネルに気が付かなかったのだから、仕方有るまい。」と、逃走したと云う情報を事前に得ていた向山は比較的冷静であった。
「岳内太郎と多沼圭子は琵琶湖の比良山に現れるかも知れません。」と姫子が言った。
「なぜだ?」
「神武東征伝説殺人事件の時は、岳内林太郎と多沼圭子は琵琶湖周辺が本拠地でした。」
「そこにまた現われるのか?もっと他所にもアジトを持っているだろう。」
「そうかも知れません。でも、なんとなく感じるのです。」
「姫子の感か?」
「琵琶湖のアジト近くにも、鬼無里のアジト近くにも白髭神社がありました。それに、岳内太郎は白髭神社にお参りしていました。岳内家のキーワードはたぶん、白髭神社です。京滋出張所の立原さんを動かしてください。」
「うーん。まあ、打つ手がないからな。試しに、網でも張ってみるか。」と言って向山が電話の受話器を取った。
「ああ、立原か。本社の向山だ。ちょっと訊きたい事がある。朝読(新聞)の中山記者の動きはどうだ?」
「今のところ、大きな事件がないので静かですよ。私もそうですが・・・。」
「九州の福岡県の都府楼殺人事件の話は知っているか?」
「ええ。この前、部長が電話で聞いて来た事件ですよね。ちょっと調べて知識だけは持っています。今のところ、この事件で中山が動いている雰囲気はありませんが・・・。」
「ちょっと注意しておいてくれ。中山記者は油断のならない奴だからな。」
「判りました。」
「それから、以前あった神武東征伝説殺人事件の犯人が住んでいた場所は覚えているか?」
「ええ。本社の鮫島記者と調査した、琵琶湖畔の高島市にあるペンション『さんが』ですよね。今は、廃屋になっていますよ。昔は、ペンションの前にある前峰寺の宿坊の客がコーヒーを飲んだりしていたのですがね。」
「その宿坊はまだあるのか?」
「ええ。修験者がよく宿泊していますね。そういえば、3か月前に前峰寺の近くに行きましたが、新しいそば屋が宿坊の近くに出来ていましたね。修験装束の人たちが手打ちそばを食べに寄るらしいですよ。」
「これからパソコンのメールで人物の顔写真を送るが、その人物がその宿坊の近辺に出没していないか調べてほしいのだが、やってくれるか?」
「もちろんですよ。部長からの依頼は最優先でやらせていただきます。」
「ありがとう。じゃあ、岳内太郎と多沼圭子の顔写真をメール添付で送るので、よろしく頼む。それから、言い忘れていたが、その時、神威示現斎とか云う山伏姿の男を見かけたら注意してくれ。」
「神威示現斎ですね。」
「そうだ。その男が岳内太郎だ。よろしく頼む。」と言って向山は電話を切った。
筑紫の皇子44;
2011年9月15日(木) 午前11時ころ 福岡県警本部・捜査会議
「事件発生から2か月が過ぎた。また、岳内太郎、多沼圭子、岡上正一が消息不明になって、殺人事件の捜査が行き詰っている。オメガ教団との関連性の事実も見つからない状況だが、何か新しい情報はないか?何か気が付いた事があれば、言ってくれ。突破口を見つけないとな・・・。この時期に突破口が見つからないと、迷宮入りになりかねないぞ。」と高円刑事部長が全捜査員に向かって危機感を伝えた。
「はい、ちょっと気になる情報が手に入りました。」と山内刑事が手を上げて言った。
「山内、何かあるか?」と高円が訊いた。
「3か月前にホストクラブ『ぷらむ』を辞めて東京で俳優をしている田村敏夫と云う男が昨日、ふらっと『ぷらむ』に立ち寄りました。仕事で福岡に来たので、昔の仲間と話すために来たそうですが、私も何か新しい情報がないかと思い『ぷらむ』に行ったところで、偶然にその男と出会いました。そのホスト仲間の証言ですが、ちょっと気になるのです。」と山内刑事が言った。
「それで?」
「多沼圭子が天神駅前にあるホストクラブ『ぷらむ』に初めて来た時、そのホストだった田村敏夫と菅原清隆こと中牟田岩男が多沼圭子の相手をする役目だったらしいのです。店内で何か問題が発生した時、目撃証人が必要になるので、『ぷらむ』では一人の客には必ず二人のホストが付くそうです。中牟田が多沼圭子から指名を受けていたので、田村はサブ・ホストの役目だったそうです。その初対面の日、菅原清隆が自分の本名は中牟田岩男で京都出身であると言ったらしいのです。すると、多沼圭子が自分も京都に住んでいたことがあると言って二人は意気投合したようです。しかし、京都市内の話では意見が分かれたりして、何か、その日はぎくしゃくしていたそうです。しかし、その次からも、多沼圭子は菅原清隆を指名して来たようです。以前の棚橋刑事からの報告では、二人は京都で出会っている可能性があると云うことでしたが、ふたりが、もし以前からの顔見知りであったとすると、ホストクラブでの初対面の話と異なってきます。また、別のホストで北川伸一と云うホストが一ケ月前に『ぷらむ』を辞めているのですが、この北川が多沼圭子の事を気にしていたらしいのです。多沼圭子が帰ったあとに、北川はその日、多沼圭子と中牟田が話していた内容を田村にしばしば訊いて来たそうです。『ぷらむ』を辞めた後の北川伸一の消息は不明です。」と山内刑事が言った。
「中牟田岩男が殺された事件当日の北川伸一のアリバイはどうだったのだ?」と高円が訊いた。
「サラ・シスターズと云う外資系投資会社の日本支社長でオードリー・カートライトと云う女性とデートをしていました。オードリー・カートライトは東京のオフィスから出張で福岡支部に来ていたようです。通常、福岡支部には男性の従業員が3名居るだけです。一応、その女支社長から北川伸一のアリバイは確認してあります。」と結城刑事が言った。
「付け加えますが田村敏夫の話では、北川伸一は多沼圭子が『ぷらむ』に来店を始めた1ヶ月後くらいに東京のホストクラブから移ってきたらしいです。」と山内刑事が言った。
「オードリー・カートライト支社長の話でも、東京のホストクラブで北川と知り合ったと言っていました。」と結城刑事が付け加えて言った。
「そうか。ところで、大分県警の棚橋刑事。この件で何か意見はありますか?」と高円が訊いた。
「すぐに思い当たる事実はありませんが、次のような推理ができます。中牟田岩男は偽物であったかも知れないと云うことです。」と棚橋が言った。
「殺された中牟田が偽物か?」
「以前、神武東征伝説殺人事件を捜査した時のことです。殺された人物は本来の戸籍上の人物ではなく、K国秘密情報機関KISSによって送り込まれた人間でした。今回も、K国をバックアップしているブラッククロスが関係しているとなると、本来の中牟田岩男はすでに死亡しており、偽物が中牟田岩男に成り替わってホストになっていた可能性が考えられます。そのため、本物の中牟田岩男を知っていた多沼圭子はその偽の中牟田岩男に近づいて行った。はじめは中牟田岩男ことホスト・菅原清隆に何らかの目的で近づこうとしたのでしょう。岳内太郎の組織、例えば影の軍団とでも呼んで置きましょうか。影の軍団の一員として菅原清隆に近づく目的があった多沼圭子は、最初は菅原清隆が中牟田岩男とは知らなかったのではないでしょうか。しかし、話の中で自分の知っている京都の中牟田岩男を名乗る菅原清隆に何かを確認したのではないでしょうか。その何かとは、ホスト・菅原清隆は影の軍団が監視を続けているブラッククロスかオメガ教団に協力している人間であると考えたのではないでしょうか。菅原清隆に近づく目的がその確認だったという事かもしれませんね。」と棚橋が言った。
「なるほど、中牟田岩男はオメガ教団の信者かブラッククロスの一員と云うことか。」
「どちらかと云うと、ブラッククロスの一員、あるいは、KISSから送り込まれた人間であった可能性が大きいのではないでしょうか。にせもの中牟田岩男自身は自分の役割は知らされていなかったと思います。神武東征伝説殺人事件の時も殺された人物たちは自分の真の役割は知らなかったようです。」
「その、にせもの中牟田の役割とは何だ?」
「例の刺青の短歌です。『こちふかば おもいおこせよ うめのはな あるじなしとて はるなわすれそ』が何を意味しているのかです。オメガ教団研修所の研修棟ビルは七つあり、北斗七星の配置をしています。なぜ、影の軍団がオメガ教団研修所のビルに爆騨を仕掛けたのかです。北斗七星と菅原道真の関係がブラッククロスのナンバーセブン計画と関係しているのかどうかですが・・・。」と言いながら、大賀広子から聞いた話を棚橋は思い出していた。
「影の軍団か。武内宿禰は白髭神社の祭神である場合もあったな。神武東征伝説殺人事件の時の岳内林太郎の住処の近くには白髭神社こと比良明神があったな。父親の神威示現斎・岳内太郎も白髭神社近くに居たな。この比良明神の真南には近江富士と呼ばれる三上山があり、そこには御上神社があったな。そして、近くの近江八幡市には言霊の水茎の岡か・・・。そうか、もしかして、言霊による神威示現か・・・。」と棚橋は考えを巡らせた。
「よし、北川伸一の顔写真を手に入れて、取り合えず、事件の参考人として全国の警察に紹介してくれ。北川から話を聞きたいからな。それから、結城。サラ・シスターズ投資社のカートライト支社長に電話して、北川伸一の所在を知っているかどうかを確認しておいてくれ。」と高円刑事部長が言った。
筑紫の皇子45;
2011年9月16日(金) 午後1時ころ 埼玉県東松山市の大和探偵事務所
太郎は今後の行動計画を考えながら、昨日の棚橋刑事からの捜査会議に関する電話報告内容を思い出していた。
「多沼圭子と菅原清隆こと中牟田岩男が初対面の時には京都に関する話の内容が食い違っていて、気まずい雰囲気だったということであったな。とすると、中牟田岩男は京都の事をよく知らないのかもしれないな。あるいは、多沼圭子の方が京都をよく知らないと云う場合もありうるか。しかし、多沼圭子は中牟田を指名し続け、中牟田に接近して行った訳か。とすると、接近の目的が、中牟田の何かを知るためであった。何を?もしかして、ほんとうの中牟田岩男は死んでいて、多沼圭子が京都の高村工務店で知り合った中牟田岩男とは違う人物がホストの菅原清隆であったとすると・・・。では、中牟田岩男に成り済ましていたホストの菅原清隆とは何者か?多沼圭子は影の軍団・大伴一族の一員だとして、大伴一族はオメガ教団に目を付けている訳だな。あるいは、オメガ教団の背後にいるブラッククロスか、それともKISSの人間か?はてさて、ホストの菅原清隆は何者なんだ?そして、多沼圭子を見張っていたと思われるホストの北川伸一は何者か・・・。北川伸一のアリバイ証言をしたサラ・シスターズの支社長のオードリー・カートライトは何者か・・・。」と太郎は考えを巡らせていた。
その時、事務机の上の電話が鳴った。
「はい。大和探偵事務所でございます。」と太郎が受話器を取った。
「アメリカ大使館のジョージ・ハンコックです。」と流ちょうな日本語が受話器から聞こえてきた。
「これは、これは。その節はお世話になりました。」と太郎が言った。
「挨拶は省略します。今から、箭弓神社に来ていただけますか?」とハンコックが言った。
「この事務所の近くにある箭弓神社ですか?」
「そうです。牡丹園の中の池の前で待っています。」
「この事務所で会うのは不味いのですか。」と太郎が訊いた。
「まあ、そういう事です。」
「判りました。5分くらいでそこに行きます。」と言って太郎は受話器を置いて、事務所を出て行った。
午後1時10分ころ、箭弓稲荷神社の牡丹園
大和太郎の探偵事務所がある東松山駅前のビルから2分くらい歩くと箭弓稲荷神社の入口にある大きな鳥居の場所に出る。箭弓稲荷神社の祭神は宇迦之御魂命と豊受媛命である。もちろん、地元の野久ヶ原に住んでいた白狐の穴宮稲荷も団十郎稲荷と呼ばれ、芸道の神様として祀られている。
参拝者駐車場への入口を左手に見て、鳥居から30mくらいのところに境内への入口がある。
境内への入口を入り、右に30mくらい行くと団十郎稲荷と呼ばれ、白狐の父母子の彫り物が随神として飾られている、芸道向上の願いを叶えてくれる穴宮稲荷の社祠がある。江戸時代の7代目・市川団十郎が歌舞伎『葛葉姫・子別れの段』が好評を拍したお礼に寄進した社祠らしい。その祠の前には石の鳥居が1本と小さな赤い鳥居が7本建っている参道が設けられている。境内への入口から30mくらい奥の正面には拝殿がある。拝殿の左横の広場を越え30mくらい南に行くと牡丹園の入口があり、その前に石の鳥居がある。その石の鳥居をくぐり牡丹園の入口から30mくらい奥へ進むと、小さな池に出る。池の左右両脇には形の良い、手入れが行きとどいた松の木が2本ある。左側の松は良い形で空に向かって真っすぐに伸びている。右側の松は地面に平行に伸び始めており、将来は龍の松と呼ばれるようになりそうな雰囲気である。
そして、その池の向こう側には平成元年に北野天満宮を勧請した天神社の祠と小さな石の鳥居がある。
池の真ん中には石で丸く二重に囲まれた領域が創られている。噴水が湧き出す源なのか、池の中の聖域と云った雰囲気である。
牡丹園の上空には筋状の白雲が尾を棚引かせる様に青空の中にスッーと浮かんでいる。
「お待たせいたしました。」と言って太郎は右手を差し出した。
「わざわざ、すいません。」と云いながら、ハンコックは太郎の右手を取って、握手をした。
「それで、ご用件は?」と太郎が訊いた。
「あそこを見てください。」と言って、ハンコックは牡丹園の入口にある鳥居の方に目を向けた。
「二人の男性が話していますね。」
「あまり大きな声を出すと、彼らに聞こえます。」
「彼らは私を監視している人物ですかね。」と太郎が言った。
「たぶん、そうでしょう。」
「やれやれ。よくあるのですよ、あの手の人物が事務所の周りをうろついていることが。盗聴電波発見器で調べたところ、事務所内には盗聴器は仕掛けられていませんが。」と言って太郎は右手を振った。
「心あたりはありますか?」
「たぶん、オメガ教団かブラッククロスでしょう。」と太郎が言った。
「なるほど。」
「わたしの周りをうろついても仕様がないと思うのですがね。それほどの秘密を握っていませんし、秘密の話は事務所ではしませんから。」と太郎が言った。
「これからの話は、秘密にお願いします。大和探偵に対しては、CIA要員と同等の扱いが許可されていますので、お知らせし、また協力をお願いしたい事があるのでお話しするのですが。」とハンコックが言った。
「はい。判りました。秘密厳守をいたします。」と太郎が答えた。
そして、二人は、池の前にあるベンチに並んで座った。
「先日、警察庁の方と警視庁の公安部の方がアメリカ大使館に来られました。」
「ああ。半田警視長たちですね。」
「御存じでしたか。」
「ええ、CIAとFBIから話を聞く予定と云うことしか知りませんでしたけれど。」
「話の内容はブラッククロスのナンバーセブン計画についての詳細情報があれば、それを聞きたいと云うことでした。」
「それで。」
「警察庁や公安部の組織には他国などの諜報員が潜り込んでいると思われますので、詳細な情報は不明として返事いたしました。我々は情報漏洩には気をつけています。しかし、我々はアメリカ海軍情報部やFBIとの協同調査によって、ブラッククロスのある程度の動きを捉えています。ここ数カ月間は特に動きがあります。特に、日本国内では何かあると思われます。」とハンコックが言った。
「アメリカ海軍情報部は日本人スタッフを駆使しているようですね。」と太郎が言った。
「それについては、CIAと関係ない部外組織のことなので、私は何も知りません。」
「そうですか。失礼いたしました。それで・・。」
「大和探偵もご存じと思いますが、今年の2月26日にニューハンプシャー州・ウォルフボロ市のクルト・ボルマン邸で、ブラッククロスが会議を行いました。この会議に参加したクルト・ボルマンを除く9人のメンバーが乗って来たヘリコプターを現在も追跡調査しています。アメリカ国内のリコプターの整備工場で整備に出されたすべてのヘリコプターのフライトレコーダーを調べていています。そして、投資会社のサラ・シスターズの所有しているヘリコプター20機のうちの1機が会議当日にニューヨーク市からウォルフボロ市へ行ったことを3か月前に突き止めました。たぶん、サラ・シスターズはブラッククロスの資金調達企業でもあるのでしょう。そして、世界各地での支社がブラッククロスの活動拠点になっています。日本国内では東京支社の他、札幌、名古屋、大阪、福岡に支部を持っています。そして、サラ・シスターズの会長や幹部を監視したところ、最近になってやっと、ブラッククロスとサラ・シスターズの関係が判明しました。」
「サラ・シスターズ投資社ですか。そして、その日本での動きとは?」
「先日、サラ・シスターズの日本支社長であるオードリー・カートライトが北九州市若松区にあるオメガ教団の研修所に行きました。表向きは福岡支部との打ち合わせ会議でしたが、博多にある宿泊ホテルから夜間に外出して、オメガ教団の車で北九州市若松区に行きました。しかも、ホテルを出る時は男に変装をしていました。」
「女が男に変装するのですか・・・。」
「尾行者や全国の道路上にあるオービスシステムの監視カメラに対する用心でしょう。」
「なるほど。」
「一方、人工衛星からの監視映像では、オメガ教団研修所の隣にある貸倉庫へのトラックの出入りが活発化していました。我々がそのトラックを追跡調査したところ、ロシアのウラジオストックから北九州に入港した貨物船からの荷物でした。じつは、我々の工作要員が潜入調査したところ、オメガ教団研修所の隣にある貸倉庫とオメガ教団研修所とは地下トンネルで繋がっていました。貨物船からの荷物がオメガ教団研修所いある地下工場に運び込まれているのでしょう。表向き、荷物は海産物と云う事でしたが、海産物が入っている冷凍庫が曲物ではないかと考えています。まだ、証拠をつかんでいませんが・・・。」
「その曲物が危険物であると云うことですね。」
「そうです。これについては、現在、ロシア駐在のCIA工作員が調査活動を行っています。真の荷主が判明すれば、内容も掴めると思います。荷物の件にからんで、もう一つの情報が手に入りました。」
「もう一つの情報ですか?」
「ナンバーセブン計画に関する動きです。ナンバーファイブ計画では日本がひな形で、世界でのテロ計画成功への踏み台であると云うことでした。今度のナンバーセブン計画でも日本がひな形とブラッククロスは考えているようです。そして、日本での標的は4か所であるとの情報です。その4か所がどこなのかが判りません。あるいは、他の3か所を加えた、合計7か所が標的にされるのかも知れません。オメガ教団研修所のビルは北斗七星の七つの星の配置に建てられていますからね。大和探偵の意見を聞きたいのです。」とハンコックが言った。
「現在、福岡県太宰府市で発生した都府楼殺人事件ですが、これがナンバーセブン計画の一つではないかと思っています。たぶん、日本での標的である4か所の一つではないでしょうか。」と太郎が言った。
「都府楼殺人事件の事は、先日、警察庁の方から聞きましたのである程度の内容は承知しています。」とハンコックが言った。
「それでしたら、話は早いですね。4+3=7です。」
「4+3=7ですか?」
「4が標的の場所ですが、3は神殿、または予言・神示を意味しているのではないかと私は考えています。」
「具体的に言うと?」
「京都に下鴨神社があります。4とは神殿を囲む玉垣の四隅にある4個の結界石を意味します。3はそれに囲まれた神殿で東本殿、西本殿、印璽社の3神殿を意味しています。この玉垣と神殿が作る形はオリオン座の形と同じです。平家星と呼ばれるベテルギウス、源氏星と呼ばれるリゲル、女戦士と呼ばれるベラトリクス、そして、巨人の剣を意味するサイフの4ツ星が4個の結界石。オリオンのベルトと呼ばれる三ツ星のアルニタク、アルニラム、ミンタカが3神殿です。」
「3が予言・神事であると云うのは?」とハンコックが訊いた。
「日本国内では、江戸時代末期から明治にかけて新興宗教が幾つか起こりました。金光教、黒住教、天理教、大本教が幕末明治の4大宗教です。そして、昭和に入り一二三神示が予言として現われました。一二三神示は日嗣神事とも呼ばれ、艮、すなわち最後の神示とも呼ばれています。一二三神示が3で、幕末明治の4大宗教が結界石です。これも4+3=7ですが、ブラッククロスは西洋の秘密結社ですのでオリオン座で考えるべきでしょう。」
「それで、4つの場所はどこですか?」
「ひとつは太宰府です。オリオン座では巨人の剣を意味するサイフです。The Saiphです。すでに、菅原道真の歌に似た短歌の刺青をしていた中牟田岩男とされる男が殺された場所です。」
「なるほど。それで、残りの3つは?」
「源氏星と呼ばれるリゲルは神奈川県鎌倉市です。源氏が開いた都市であり鶴岡八幡宮があります。鶴岡八幡宮の社家は大伴一族です。平家星と呼ばれるオリオンの右肩の位置にある赤色巨星・ベテルギウスは山口県下関市の紅石山にある赤間神宮です。平家一門の安徳天皇が祀られ、平家一門が滅亡した檀の浦の近くです。平家と云う巨星が滅んだ場所です。横には日本西門鎮守八幡宮があり玉依姫も祭神の一柱です。また、平家が檀の浦に逃げてきた時に伏見稲荷を勧請した紅石稲荷神社もあります。そして、オリオンの左肩の位置にある、女戦士と呼ばれるベラトリクスは福島県会津か、長野県の鬼無里です。女戦士として平維茂と戦った大伴一族の紅葉が生まれた土地・会津か、あるいは、紅葉が死後に祀られた寺がある土地・鬼無里です。太宰府の殺人事件と同じように、これらの地にブラッククロスが殺して結界崩しの生贄とする人物が居るはずです。その人物を早急に発見しなければなりません。あなたから電話を頂いた時にそのための行動計画を考えていたところです。」と太郎が言った。
「なるほど、グッド・タイミングでしたかね。」とハンコックが言った。
「太宰府では中牟田岩男と云う人物が殺されました。会津では身元不明の人物が、多沼圭子と云う女性の父親・大伴善男と間違われて殺されています。鎌倉では岡上正一と云う大伴一郎を名乗って潜伏していた人物が命を狙われました。」
「殺されたり、狙われた人物は大伴一族ですか?」
「それは判りませんが、大伴一族と関係があるかもしれません。と云うのは、日本国を護ると自称する影の軍団と思われる人たちが存在しているようです。その人たちは大伴姓を名乗っています。」
「日本を護る影の軍団ですか・・・。秘密結社ですか?」とハンコックが訊いた。
「どうでしょう。そう云った表現が適切かどうかは判りません。」と太郎が答えた。
そして、
「中牟田岩男は大伴一族の血を引いていたのだろうか?としたら、岳内太郎が送り込んだ人物と云うことになるが。いや、多沼圭子が監視対象としていた人物だから、たぶん、中牟田岩男はブラッククロスから派遣された生贄だろう。会津美里町の川原で発見された、警察によって大伴一郎と認定された正体不明の顔をつぶされていた男もブラッククロスから派遣された生贄なのか?そういえば、左肩に紅葉の刺青をしていたな。しかし、会津美里町で死んだのは男だったな。オリオンの左肩にあたる星・女戦士ベラトリクスは鬼無里で死んだ大伴一族の紅葉と云うことかな? ところで、多沼圭子は会津で生まれ、鬼無里で育ったのであったな。しかし、ブラッククロスは多沼圭子を殺そうとはしていなかった。都府楼で中牟田岩男を殺した時に、一緒に多沼圭子を殺せたはずだ。ブラッククロスが送り込んだ生贄。それは誰か?そうか、多沼圭子の情夫であった岡上正一とは京都深草稲荷山の岡の上の正一位、すなわち伏見稲荷と云う事か?平家一門の御子である安徳天皇を祀る赤間神宮のある紅石山。そこにある紅石稲荷は伏見稲荷を勧請したのであったな。そうすると、鎌倉で殺されかけた岡上正一はブラッククロスの標的の一人・平家星のベテルギウスだった訳か。しかし、岡上正一は大伴一族ではなかったか?多沼圭子は岡上正一が、中牟田岩男と同じようにブラッククロスから派遣された生贄かどうかを調べるために、岡上に近づいたのか? 岡上は多沼圭子から自分がブラッククロスの生贄であると聞かされて鎌倉に逃げたかどうかだな。岡上正一と多沼圭子はブラッククロスの標的ではないのかどうか?他に誰かいるのかな?
やはり、ブラッククロスが狙う源氏星・リゲルに関係する人物とは誰か、女戦士・ベラトリクスとは誰か、ということをはっきりさせることが必要だな。その人物をどのようにすれば見つけられるのかな・・・。やはり、探すべき場所は山口県下関市と神奈川県鎌倉市、福島県会津美里町か長野市鬼無里と云うことか?しかし、オメガ教団研修所が爆破されたと云う事は、大伴一族VSブラッククロスの戦いがすでに始まっているのか・・・。まずは、暴力団・聖武祇園連合会組長である岡上正一の正体を確認する必要があるな。それと、福島県会津美里町の宮川で殺されていた男の正体も、だな。」と太郎は考えを巡らした。
「大和探偵、何か考えが浮かびましたか?」と太郎の様子を見ていたハンコックが訊いた。
「いえ。まだ何もはっきり判っていません。」
「そうですか・・・。」
「ところで、CIAは日本の暴力団についての調査活動はしていますか?」と太郎が訊いた。
「ある程度の調査はしていますが、それが何か?」
「暴力団・聖武祇園連合会組長である岡上正一の素姓を調べてほしいのです。ナンバーセブン計画に関係しているはずです。」
「聖武祇園連合会の岡上組長ですね。判りました、調べましょう。」とハンコックが言った。
「それから、サラ・シスターズの日本支社の動きも調査していただけますか?」
「サラ・シスターズの日本支社についてはかなり調べてあります。何が知りたいですか?」
「長野地方か会津地方に人材を派遣しているかどうかです。」と太郎が言った。
「そのあたりの報告はまだないですね。早速、調べてみましょう。」とハンコックが言った。
「ところで、岳内林太郎のことはご存じですか?」と太郎が訊いた。
「誰ですか?」とハンコックが訊き返した。
「数年前にあった神武東征伝説殺人事件の犯人の名前ですが、ご存じなかったですか?」
「ええ。始めて聞く名前です。」
太郎はジョージ・ハンコックが秘密結社ビッグストーンクラブのミスター・Jではないかと想像していた。そして、ミスター・Jなら岳内林太郎のことを知っているはずであった。それを確かめるために、ハンコックに質問したのであった。
「岳内林太郎のことを知らないとなると、ハンコックはビッグストーンクラブではないのかも知れないな。しかし、トボケテいる可能性もあるな・・・。」と太郎は思った。
「先ほど、大伴姓を名乗る影の軍団の話をしましたが、影の軍団とブラッククロスが敵対していると思われます。そして、岳内林太郎の父親と思われる岳内太郎と云う人物が今回の事件に絡んでいると思われます。」
「オメガ教団の研修所が爆発した話を半田警視長から聞きましたが、その爆発は影の軍団が仕掛けたということですか?」とハンコックが訊いた。
「御察しの通りです。」
「大伴姓を名乗る影の軍団ですか。CIAでも調査しましょう。」とハンコックが言った。
筑紫の皇子46;
2011年9月17日(土) 午後1時ころ 新幹線・のぞみ車内
大和太郎はJR京都駅で棚橋刑事と落ち合うために、東海道新幹線で東京から京都に向かっていた。
一方、棚橋刑事も山陽新幹線で京都に向かっていた。
棚橋は大賀広子から聞いた水茎の岡と言霊の話に興味を持っており、高円刑事部長に願い出て休暇を貰い、滋賀県の近江八幡市に行くことに決めたのである。そして、大和太郎に電話連絡し、同行を求めたのであった。そして、太郎も同意したのであった。
「呪文を使って、神威示現斎こと岳内太郎が亀戸天神で雨を降らせたと云うことであったな。その呪文が言霊か?神威示現斎がブラッククロスと戦う武器が言霊であるのかもしれないな。日本国を守るために、ナンバーセブン計画の阻止を行う手段として言霊を使うのか?」と大和太郎から聞いた毎朝新聞記事の話を思い出しながら、都府楼殺人事件と神威示現斎の関係を、棚橋刑事の持っている独特の感性で推理していた。
太郎の乗っている東海道新幹線・のぞみが米原駅を通過する頃、太郎のポケットにある携帯電話がブルブルと震えた。太郎はのぞみの乗車口通路に出て、携帯電話をポケットから取りだした。
電話は藤原教授からであった。
「大和でございます。」
「もしもしい、藤原ですう。」といつもの落ち着いた口調ではなく、やや上ずった声が聞こえた。
「何かありましたか?」と太郎が訊いた。
「天満宮の七の謎が解けたよう。」と教授が言った。
「ええっ、ほんとですか? 今、新幹線で米原駅を通過したところです。今、教授はご自宅ですか?」と太郎が訊いた。
「ええ。修学院の自宅に居ます。」
「では、1時間後くらいにご自宅に伺います。ああ、京都駅で待ち合わせている大分県警の棚橋刑事が同行します。」
「大分県警ですか。宇佐八幡ですね。では、待ってます。」と教授は言って、電話を切った。
筑紫の皇子47;
2011年9月17日(土) 午後2時半ころ 修学院離宮近くの藤原教授宅
「いろいろと文献を調べましたよ。」と応接テーブルの上の書物を右手でさすりながら、藤原教授が言った。
「それで、天満宮の七の謎とは?」と太郎がせかせる様に教授に訊いた。
「岐阜県不破郡垂井町にある南宮大社です。」
「南宮大社ですか。それで。」
「南宮大社の主祭神は金山彦命ですが、配祀として見野命と彦火火出見命も本殿に祀られています。そして、この本殿の裏に七王子神社があります。七王子とは大山祇神、中山祇神、麓山祇神、錐山祇神、正勝山祇神、高淤加美神、闇淤加美神の七柱の神です。高淤加美神は雨を降らす天の龍神、闇淤加美神は谷川に湧き水を流す地の龍神です。ところで、南宮大社の社伝によると、神武天皇即位後に八咫烏を配祀したと云うことであるので、下鴨神社の祭神・賀茂建角身も八咫烏と呼ばれており、南宮大社と下鴨神社は何らかの関係があると思われます。また、祭神の見野命の子孫と思われる見野王が、天武天皇の時代に長野県の鬼無里に派遣され、火雷天神の御子である加茂別雷命を祀る加茂神社を鬼無里の地に創建しています。菅原道真を祀る北野天満宮も火雷天神の祠があった地です。また、菅原道真は死後に天満自在天神となって清涼殿に落雷させ、火災を起こしたと噂されます。七の謎を秘めた天満宮と八咫烏を祀る南宮大社が加茂神社を介して結びつきました。そして、加茂神社と云えば、能登のピラミッド・石動山を祀る葬祭殿・賀茂神社があります。そして、この石動山には五つの宮・五社権現があります。大宮、白山宮、火宮、剣宮、梅宮です。そして、大山祇神が大宮に相当し、中山祇神が白山宮、麓山祇神が火宮、錐山祇神が剣宮、正勝山祇神が梅宮に当たります。そして、梅宮には白馬にまたがった色白の本地仏・勝軍菩薩と鍛冶の神様である天目一箇命が祀られていました。」
「白馬に乗った白い仏様の勝軍菩薩と火を使う鍛冶の神様ですか。」と太郎が言った。
「それが何か?」と教授が訊いた。
「いえ。以前に妙な夢を見たことがありましたので、そのことを思い出しただけです。」
「なるほど、火を使う白い神様の夢ですか。どこかで聞いた話ですね。」と教授が呟いた。
「ところで、高淤加美神、闇淤加美神はどうなりますか?」と棚橋刑事が訊いた。
「それは、榛名山です。確か、大和くんの話では3年前、榛名山斎生神業が南宮大社の神官・宝達奈巳さんによって行われました。その時に現れた2柱の金龍神が天空から降下してくる高淤加美神、地上から立ち昇る闇淤加美神です。風水思想で謂う天の龍と地の龍です。」
「その南宮大社の七王子神が北斗七星と云う訳ですね。」と太郎が言った。
「七を暗示する天満宮は火雷天神の丹塗矢。四三の七ツ星は下鴨神社、五二の七剣星は南宮大社であり、能登のピラミッド・石動山と榛名山を合わせて北斗七星ですか。」と棚橋が言った。
「あっはっはっはー。流石ですね。大和くんから聞いていましたが、宇佐神宮の棚橋刑事の発想は面白いですね。」と藤原教授が言った。
「何故に、私が宇佐神宮なのですか、教授?」と棚橋が訊いた。
「あっはっはっは。失礼しました。私の頭の中にある大分県は宇佐神宮なのです。」
「はあ、そうですか?」と棚橋は良く判らないと云った表情をした。
「確か、クフ王ピラミッド内部にある王の間からはツバーンと呼ばれる龍座のα・ドラコニス星が見えたとされる北通気孔がありましたね。現在の北極星は子ぐま座のポラリスと呼ばれる星ですが、ピラミッドが創られたと思われる紀元前2500年ころの北極星はツバーンでした。ツバーンとはアラビア語で龍と云う意味だそうです。地球の歳差運動のため、北極星の位置は長年月をかけて少しづつ移動していますからね。因みに、紀元前3000年ころにメソポタミアにいたカルデア人がシュメール人から天文学を学び、西洋占星術を考え出したとされています。また、クフ王ピラミッドの王の間にある南通気孔はオリオン座の三ツ星の一つ・アルニタクが見える位置につくられていました。アルニタクの三つ星での位置はギザ・三大ピラミッドのクフ王ピラミッドの位置です。たぶん、カフラー王、メンカウラー王のピラミッドの南通気孔が発見されれば、それぞれに相当する星が見えるのでしょうね。」と太郎が言った。
「また、三大ピラミッドのあるギザの東にはエジプトの首都カイロがあります。カイロはイタリア語で勝利者を意味します。石動山の梅宮に祀られていた勝軍菩薩。大本教の出口ナオが自動書記・お筆先をした『三千世界一度に開く梅の花』と関係がありますかね?」と教授が言った。
「梅ですか。天満宮と関係があるのかも知れませんね。」と棚橋が言った。
「大本教のお筆先に『梅で開いて、松で治める。竹は外国の守護。』と云うのがあります。梅は教え、松は政治、竹は武を意味するとの事らしいです。武とは外敵から自国を守るための力です。」と教授が言った。
「竹は武力ですか。水茎の岡は竹の城ですかね。」と棚橋が言った。
「昔は、武器である弓矢は竹で作りましたね。」と太郎が言った。
「確か、竹とは水茎のことでしたかね。竹の柵で守られた城が、すなわち言霊で守られている精奇城ですかね。」と教授が言った。
「ところで、遅くなったので今日はもう近江八幡市へは行けませんね、お二人さん。」と教授が言った。
「そうですね。明日にしましょうか。」と太郎が棚橋に向かって言った。
「それが良さそうですね。宿泊予約してある京都Tホテルから、明日の朝、レンタカーで行く事にしましょう。」と棚橋が言った。
「私も同行してよろしいかな?」と教授が訊いた。
「もちろん、OKです。教授も水茎の岡には興味がありますか?」と太郎が訊いた。
「水茎文字が現れる地蔵浜沖の湖底には藤ケ崎龍神が住んでいる龍宮があるのではないかと謂われています。その龍宮のある場所は下鴨神社と南宮大社を結ぶ霊ライン上にあります。地蔵浜には何かありますね。それと、この霊ライン上には、大国主命と奥津嶋比売を祀る大嶋・奥津嶋神社もあります。この神社には応神天皇、大山昨命、彦火火出見命、須佐乃男命、高皇産霊命を祀る摂社があり、さらに白山神社と彫られた石碑がある遥拝所もあります。大嶋・奥津嶋神社も調べてみたいですね。本当は彼岸中日に行けば良いのですがね。明日はまだ秋分の日ではありませんね。」と教授が言った。
「どうしてですか?」と棚橋が訊いた。
「水茎文字は彼岸中日に現れると謂われています。でも、霊能がない我々には水茎文字は見えませんから、明日行ってもいっしょですかね。あっはっはっは。」と教授が笑った。
筑紫の皇子48;
2011年9月23日(金) 秋分の日 午前9時ころ 近江八幡市・水茎の岡山
滋賀県近江八幡市の琵琶湖岸に牧浄水場がある。この浄水場とさざなみ街道と呼ばれる湖岸道路を挟んで、水茎の岡山と呼ばれる標高188mの小高い山がある。浄水場の横には湖岸緑地岡山園地と命名されたキャンプ小屋がある緑地公園がある。湖岸は牧水泳場となっている。その水泳場から琵琶湖岸に沿って西に100mくらい歩くと大きな磐座を祀る藤ケ崎神社がある。
藤ケ崎神社には龍王とその妃で、ナトと呼ばれる姫龍神の二柱の龍神が祀られているらしい。湖底には龍宮があるのかもしれない。藤ケ崎神社磐座の背後には、琵琶湖に浮かぶ沖島がみえる。沖島には沖津島姫を祀る奥津島神社がある。ここ藤ケ崎神社前の海岸は地蔵浜と呼ばれ、風光明媚な場所として万葉集にも歌われている。この神社のすぐ南側には水茎岡山の西端にある頭山があり、その頂上には昭和天皇の御即位記念の石碑がある。
出口王仁三郎が言うには、「水茎文字が竹生島方面の湖水面に見える時、地蔵浜にはさざ波が打ち寄せる。」そうである。
湖岸緑地岡山園地から湖岸道路を渡ると木々に囲まれて水茎岡山への登り口がある。
そこには昭和5年5月に建立された、『名勝水莖岡』と彫られた、高さ2mくらいの石柱がある。
水茎の岡山は古代には琵琶湖の中に浮かんでいて、亀山と呼ばれていたらしい。
石柱から20mくらい先に行くと急坂に設けられた石段が眼前に迫っている。石段の一段は平均で8cmくらいであり、貯水場のある中腹の丘までは283段ある。貯水場の門はそこから、高さ12cmくらいの石段を17段登ったところにある。
(8cm×283)=2264cm≒75尺(日本尺寸法)、12cm×17=204cm
金網製の貯水場門扉越に草原が広がっているのが目に入る。
コンクリート等で作られている深さ5mくらいの貯水槽は8m×15mくらいの面積があり土中に埋められている。そのため、貯水槽のコンクリート天蓋部は足下にあり、草の下に埋まっている。4隅には空気抜きの為、直径20cm、高さ30cmくらいの結界石かと思わせるような角が草の中から飛び出ている。貯水槽の北側フェンスの前に立つと、周辺に育っている草木を透して琵琶湖の湖面が目に入ってくる。
「かつて、ここには水が湧き出ていた池があったのかしら?」と宝達奈巳は思った。
祝日であるが、周囲には他に人の姿は見えない。あまり、観光客が来るような場所ではないようである。今日の宝達奈巳の服装は白い修験装束である。
そして、宝達奈巳は日文祝詞を奏上した後、琵琶湖の竹生島方向に向かって言霊を謡った。
「ひふみよい むなやこともちろ らねしきる ゆえつわぬそを たはくめか うおえにさりえ てのますあせえ ほれけー、ん。」と宝達奈巳は玉歌神勅・ひふみ47文字を噛じるように謡った後、最後に「ん」と飲み込んだ。
さらに、メモを見ながら謡い始めた。
トノクニサ ツチノミコトー
ホノクニサ ツチノミコトー
カノクニサ ツチノミコトー
ミノクニサ ツチノミコトー
ヱノクニサ ツチノミコトー
ヒノクニサ ツチノミコトー
タノクニサ ツチノミコトー
メノクニサ ツチノミコトー
・・・・・・・・・・・・・
このトキは ミコオシヒトの
トツキまえ タカギのミキの
アヤこえは カミのオシエは
・・・・・・・・・・・・・
トコヨクニ(常世国) ヤモヤクタリ(八方八降り)
ミコ(御子)うみて みなそのクニを
治めしむ これ国君の
始めなり 世継ぎの神は
クニサツチ(国狭津雷尊/国狭槌尊) 狭霧の道を
受けざれば サツチ(狭津雷)に治む
ヤミコカミ(八御子神) をのをの御子を
ヰタリ(五人)生む ヤモ(八方)の世継ぎは
・・・・・・・・・・・・・
コシクニ(越国)の ヒナルノダケ(日成の岳)の
カンミヤ(神宮)に キ(木)のミ(実)を持ちて
ア(生)れませば ニワ(庭)に植えをく
ミトセ(三年)のち ヤヨヰ(弥生)のミカ(三日)に
・・・・・・・・・・・・・・
その御子は アメカカミカミ(天鏡神)
ツクシ(筑紫)タ(治)す ウヒチニ(泥土煮尊/大濡煮尊)もうく
このミコ(御子)は アマツヨロツカミ(天万神)
・・・・・・・・・・・・・
ササケヤマ(笹気山) ココ(九)のクミ(酌)とは
ヤヨヰミカ(弥生三日) サカツキ(盃)ウ(創始)める
神の名も ヒナカタケ(日永竹)とぞ
タタユ(讃)なりけり
奈巳は秀真伝の全四十章のうちの第二章・ホツマツタヱ ミハタのフ(二)・『天七代、床酒章』を七五調で奏上したのであった。その内容は国常立尊には8人の御子がいて、この8人は地球の8大地域に天降り、それぞれの地域の人類始祖となったと述べられているらしい。
この話は宇佐八幡での大神比義の逸話で、辛国の城に八流の幡を天降し、日本の天皇となった八幡麻呂であると竹の葉の上で言った3歳の小児の話に似ている。
言霊を奏上したあと、琵琶湖を眺めていた宝達奈巳が大石凝眞素美の書いた水茎文字音読み対象表を手にしながら呟いた。
「筑紫皇子が今年の2月5日にお生まれになったのね。おめでとうございます。」
そして、奈巳は貯水場の石段を下り始め、300段ある石の階段を降りて来た。
奈巳と同じように湖岸緑地岡山園地の駐車場に車を止めたのであろうか、湖岸道路を渡ってくる山伏姿のひとりの男が奈巳の目に入った。
そして、名勝水茎岡と彫られている石柱の前で山伏姿の男と奈巳はすれ違った。
「あらまあ。激しい気を周囲に発散している方ね。」と思いながら、奈巳は男に向かって軽く会釈をした。
男の方は奈巳を一瞥しただけで、さっさと石段の方に向かって行った。
「六根清浄、六根清浄、・・・」と声を上げながら、山伏男は石段を登り始めた。
その声に、奈巳は振り返って山伏男の方を見た。
「神威示現斎という修験者さんね・・・。」と、山伏男の修験装束の背中に書かれている文字を見ながら、奈巳が呟いた。
2011年9月23日(金) 午前10時ころ 近江八幡市・藤ケ崎龍神のある地蔵浜海岸
宝達奈巳は、藤ケ崎龍神に挨拶をしたあと、地蔵浜海岸から琵琶湖の北側対岸に見える比良山系の美しい姿を眺めていた。
「比良山の麓の湖岸には猿田彦大神を祀る比良明神・白髭神社が在るわね。そして、比叡山の麓の日吉大社では、東本宮に大山咋神、西本宮に大己貴神を祀り、摂社には白山姫神社と宇佐宮本殿、鴨玉依姫神を祀る樹下宮、須佐乃王命の御子である5男3女の八柱神を祀った下八王子社などがありましたわね。」と、奈巳は対岸にある神社に思いを巡らせた。
その時、竹が天空に一直線に伸びていく如く、2柱の赤龍が湖面から青空に向かって上昇して行く姿が奈巳の眼に映った。
すると、青空の中に二本の白い筋雲が北東にある竹生島の方角から奈良の方角に走っている姿が目に入って来た。はっきりした二本線の筋雲の間は淡く白い靄が掛った様になって、青空が透けて見えていた。
「青空の床上に、二本の筋雲を両端にして白い絨毯の通路を敷いたように見えるわね。」と奈巳は思った。
その時、その青空に敷かれた白い絨毯の真ん中を、白い飛行機雲が東北から南西の方角に向かって矢が飛んで行く様に真っすぐ描かれ始めた。かなりの上空であるので飛行機の姿は判別できない。
「あら。ジェット機でも飛んでいるのかしら。」と奈巳は思った。
その結果、三本の白い筋雲が等間隔で描かれた。
「あの修験者の方が何か言霊を奏上したのかしら? でも、ちょっと激しいわね・・・。」と奈巳は思った。
そして、風のない地蔵浜の海岸線には、静かに、音も無く、さざ波が打ち寄せていた。
それは嵐の前の静けさであるのかもしれない。
しばらく後、琵琶湖の上空には一本の太くて長い飛行機雲だけが青空の中に棚引いていた。
筑紫の皇子49;
2011年9月23日(金) 午後7時のTVニュース番組映像
「本日のお昼前に北九州市若松区響町にあるオメガ教団研修所に自衛隊のジェット戦闘機が墜落し、研修所棟の一つが爆発炎上しました。また、研修所の隣にある民間の貸倉庫の地下室も炎上した模様です。」とアナウンサーの声が炎上している建物の映像とともにTV受像機から流れている。
「それでは、東京市ヶ谷にある自衛隊本部から記者会見の模様をお伝えいたします。竹内アナウンサー、よろしくお願いいたします。」
「はい、竹内です。丁度、今から、自衛隊統合幕僚監部からの発表があります。」とアナウンサーが伝えたあと、記者会見会場の映像がTVに流され始めた。
「それでは、本日午前11時ころに発生いたしました北九州市でのジェット戦闘機の墜落事故に関して、緊急記者会見を始めさせていただきます。」と報道官が言った。
「本日、午前9時45分ころ、海上自衛隊の哨戒機が対馬海域の日本領海を潜水航行している国籍不明の2隻の潜水艦を発見いたしました。哨戒機の乗組員から直近の海上自衛隊基地を通じて、情報本部に状況報告が入り、ただちに全国の航空自衛隊基地へスクランブル発進の命令がくだされました。スクランブル発進したジェット戦闘機は全国の日本領海内のそれぞれの海域での有事に備え、情報収集を行います。情報収集が目的ですので戦闘準備はしておりません。北九州市若松区で墜落したジェット戦闘機は石川県の小松基地から発進した3機のうちの一機でした。一機は日本海を沿岸に沿って対馬方面に、他の一機は太平洋岸を紀伊半島南端から、四国、九州方面に向かいました。そして、墜落した一機は琵琶湖上空を通り、奈良県の上空から大坂湾を通過して瀬戸内海地域での状況を観察しながら西に向かいました。その機が山口県の檀の浦上空に来たので、西向きの機を東向きに反転させるため、自動航行から手動航行に切り替える操作を行ったところ、突然、操縦不能に陥りました。この機は、引き続き航路を直進しており、乗組員2名は日本海上空に出た時に、自爆装置のスイッチを入れて、ジェット機からパラシュートで脱出し、海上保安庁の沿岸警備艇に救助されました。乗組員の話によりますと、本来、乗員が機を脱出して10秒後に自爆するはずでしたが、機は爆発することなく航行を続け、北九州市若松区響町にあるオメガ教団研修所に墜落いたしました。操縦不能の原因や航路情報についてはフライトレコーダーを回収し、分析した後にご報告させていただきます。何か質問があればお受けいたします。」と報道官が述べた。
「ジェット戦闘機にはミサイルや投下用の爆弾が搭載されていましたか?」
「ミサイル、投下爆弾は装着されていませんでした。自爆用の爆弾のみでした。」
「その割には、火災現場での爆発炎上は大規模だったと思いますが?」
「その件に関しては、現在のところ、原因不明です。現在、消防署、警察に協力して、現場検証に当たっています。」
「研修所の隣の倉庫ビルも炎上しましたが、これに関するご意見は?」
「それも、現在のところ現場検証中です。」
その後も報道関係者との質疑応答が行なわれ、記者会見は30分くらいで終了した。
筑紫の皇子50;
2011年9月26日(月) 午後1時30分ころ 会津若松署・美里分庁舎の応接室
CIAのジョージ・ハンコックから、半年くらい前に東京にあるサラ・シスターズの日本支社で働いていた女性の日本人従業員が行方不明になっている、との情報とその女性の顔写真を受け取り、大和太郎は会津若松署・美里分庁舎に来ていた。
「宮本紀子と云う34歳の女性ですが、会津へ出張で行ったきり消息不明になっているようなのですが、こちらの警察で何か判りませんでしょうか?聞き込み情報などあればと思い、こちらに来たのですが。」と女性の顔写真を見せながら太郎が言った。
「お電話をいただいたので、少し調べておきましたが、半年前から今日までに会津若松署管内での身元不明死体の中には女性はいないですね。ひき逃げで身元不明の男性が一人死亡していますが、身元不明の女性死体はありませんね。宮本紀子と云う女性に関しては、半年前にサラ・シスターズから会津若松署に捜索願いが出ていますが、この女性の親族の所在は不明です。と云うのは、宮本紀子は福島市内にある養護院で子供から成人するまでは生活していたようです。したがって、親戚筋の関係者で宮本紀子を知っている方はいなかったようです。この女性は大伴善男の死亡事件と関係でもあるのですか?」と仁科刑事が宮本紀子の顔写真を見ながら訊いた。
「いえ。関係があるかどうかは不明です。福島県内でのここ半年以内の身元不明死体で女性はいないのですか?」と太郎が訊いた。
「この顔写真に似た死体があるかどうか、警察ネットのパソコンで調べてみましょう。新しく身元不明遺体が出ているかも知れません。しばらくお待ちください。」と言って仁科刑事が応接室から出て行った。
20分くらいして、足早に仁科刑事が戻ってきた。
「この女性、宮本紀子は生きているかも知れませんね。」と仁科刑事が言った。
「生きている?」と太郎が訊いた。
「この署にいる若い刑事が行きつけのラーメン屋で働いている女性に似ていると言っています。名前は知らないそうです。これから、その店へ行ってみましょうか?ここから30分くらいで行けるでしょう。」
「ええ、ぜひ。場所は?」と太郎が訊いた。
「喜多方市内のラーメン屋です。」
2011年9月26日(月) 午後2時30分ころ 喜多方市内のラーメン屋
若い刑事の通勤用自家用車で太郎と仁科刑事は喜多方市内のラーメン屋・蔵屋に着いた。
そして、店内で宮本紀子を見つけ、事情を聞くためにラーメン屋の駐車場に止めてある刑事の車に案内した。4人は車に乗り込み、話を始めた。
「再確認いたしますが、名前は宮本紀子さんでよろしいでしょうか?」と仁科刑事が訊いた。
「お店では、友人の名前の高橋頼子を名乗っていますが、本名は宮本紀子です。」
「あなたが勤めていた投資会社のサラ・シスターズから警察に捜索願いが出されています。」
「会社には私の居場所を知らせないで下さい。殺されてしまいますから。」
「殺される?」
「半年前に会社の仕事で会津に来た時に殺されかけました。でも、知らない男性の方に助けられました。」
「どこで、殺されかけたのですか?」
「伊佐須美神社の近くです。当時進めていた投資事業の成功祈願を伊佐須美神社で行った後、近くの川へ出る途中の人通りが少ない道で、突然、サングラスをした男の人に襲われ、首を絞められかけました。その時、見知らぬ男性が助けてくれました。私を襲った男は、助けてくれた男性に殴られて気絶したのだと思います。サングラスも外れて、道端に転がっていました。」
「襲ってきた男は頭から血を流していましたか?」
「いえ、血は見えませんでした。だから、気絶しているだけだと思いました。そして、助けてくれた男性の指示に従って、私はその場所をすぐに離れました。その後の事はよく知りません。」
「襲って来た男性は顔見知りでしたか?」
「よく判りませんが、2、3回、会社で見かけた男性に似ていました。たぶん、支社長に会いに来ていた方に似ていましたが、名前とかは判りません。」
「助けてくれた男性はどうしましたか?」
「実は、その男性とは会津に来る時の新幹線の車内でお会いしていました。私の隣りの座席が空いていたので、途中から乗車され、そこに座った男性でした。その時、私が命を狙われているとささやかれました。そして、姿を隠しなさいとアドバイスされました。その時は、私は、命を狙われているなどとは信じなかったのですが、伊佐須美神社で襲われた時に、命を狙われていることが判り、姿を隠すことにしました。」
「何故、殺されかけた事を警察に届けなかったのですか?」
「助けて下さった男性が言うには、命を狙っているのは、サラ・シスターズの支社長だと云う事でした。」
「命を狙われている理由は判っていますか?」
「その男性が仰るには、生贄だそうです。」
「生贄?」
「ええ。サラ・シスターズが計画していることが成功するために、生贄が必要だと云う事でした。それで、私が会社に雇われたと云う事でした。そう言われると、確かに、不思議と思える点がありました。昨年のある日、サラ・シスターズから就職試験を受けないかと電話がかかってきました。私はハローワークの人材銀行に登録していたので、私の求職票を見て電話を掛けてきたと言っていました。お給料は他社の3倍あり条件が良かったのですが、会社の方針で右肩にかわいい紅葉の刺青をするのが条件でした。サラ・シスターズの経営理念がファミリーと云うことで、従業員は皆、紅葉などの刺青をするのだと聴かされました。それに同意して入社しました。助けてくれた男性が言うには、紅葉の刺青が生贄の印なのだそうです。サラ・シスターズの背後には世界的な秘密結社が存在し、警察には私の命を守れないし、警察にもその秘密結社の情報員が潜り込んでおり、発見されれば必ず殺されると言われました。それに、伊佐須美神社にお参りに行ったのは会社の命令でしたので、やはり、私は生贄かと思いました。それで、姿を隠すことにしました。」
「助けてくれた男性の名前は訊きましたか?」
「ええ。神威示現斎とだけ、仰いました。」
「神威示現斎!」と太郎が思わず叫んだ。
「よろしければ、右肩の刺青を見せていただけますか?」と仁科刑事が訊いた。
宮本紀子の左肩には赤い小さな紅葉の刺青があった。それは、宮川の河原で殺されていた大伴善男と認定された男性の左肩にあった刺青とは色と形が異なっていた。見方によっては、赤い星の図柄とも見えるような、かわいい紅葉の刺青であった。
「宮本紀子が女戦士のベラトリクスであった訳か。しかし、神威示現斎、油断のならない男だな。宮本紀子を襲った時点では左肩に刺青のあった男は死んでいなかった訳か。死亡推定時刻は午後10時だったからな。宮本紀子を助けた日時から殺されるまでの間、その男は何処に居たのだろう。大伴善男のマンションか?大伴善男のマンションで見かけられた女とは誰か?殺された男が大伴善男ではないとしたら。大伴善男が神威示現斎こと岳内太郎で、女は多沼圭子か・・・?この会津で殺された男は誰だ?サラ・シスターズから派遣されたヒットマンが神威示現斎こと岳内太郎に殺されたと云うことだろうか・・・?」と太郎は考えを巡らした。
「確か、会津に出張に来られたのは2月24日の木曜日でしたね。」
「はあ、はっきり覚えていません。」
「サラ・シスターズから出されている捜索願の内容では、2月24日となっていますが。」と仁科刑事が言った。
「さあ、水曜日だったような気もしますが・・・。スケジュールを書いていた手帳は捨ててしまいましたので・・・。」と、宮本紀子の記憶ははっきりしなかった。
筑紫の皇子51;大和太郎の推理
2011年9月27日(火) 午後2時30分ころ 国会前庭・時計塔前の噴水池近く
福島県警本部から宮本紀子に関する報告を受けた刑事局長補佐・半田警視長は、大和太郎を国会前庭に呼び出して、話を聞いていた。
「宮本紀子はサラ・シスターズが派遣した生贄の女戦士・ベラトリクスと云う大和探偵の推理ですか?」と半田が訊いた。
「そうです。オリオン座の三ツ星を護る四つの結界星。アポロンに騙された恋人である月の女神・アルテミスの放った矢で射殺された優能な狩人・オリオンの左肩にあたる位置にある女戦士・ベラトリクス。オリオンの右肩の位置には平家星・ベテルギウス。左足にあるのは源氏星・リゲル。そして、右足にある巨人の剣・サイフ。
太宰府で殺された菅原清隆こと中牟田岩男は巨人の剣であるザ・サイフ(The Saiph)。会津で殺されかけた宮本紀子は鬼無里で平維茂と戦った女戦士・紅葉であり、女戦士・ベラトリクスです。鬼女・紅葉は会津に流された大伴一族の伴善男の子孫で、会津生まれです。それから、北九州小倉の暴力団・聖武祇園連合会の組長である岡上正一は平家星・ベテルギウスと思われます。」と太郎が言った。
「何故に、岡上正一が平家星・ベテルギウスなのですか?」
「山口県下関市にある赤間神宮です。ここの境内敷地には平家一族が京都の伏見稲荷を勧請した紅石稲荷が祀られています。伏見稲荷は本元は深草稲荷山と呼ばれる小高い岡の上にある磐座に祀られていた正一位の神様です。ベテルギウスは赤色巨星です。岡上正一とは岡の上の正一位である赤い巨星、すなわち、平家星・ベテルギウスです。」
「なるほど。それで、源氏星・リゲルは誰ですか?」と半田が訊いた。
「まだ、それが判っていません。たぶん、鎌倉に派遣された人物でしょうが、その人物がまだ見つかっていません。すでに、殺されているのかも知れませんが・・・。」
「それでは、4人の生贄をささげる意味は何ですか?」と半田が訊いた。
「ブラッククロスであるサラ・シスターズが派遣した4人の生贄。この生贄を殺すことによって、世界の縮図である日本に於いて結界構築を完成させ、神の計画を成就させるのがブラッククロスの狙いです。前回のナンバーファイブ計画。それに続く、ナンバーセブン計画。ナンバーセブン計画は四つの結界石に守られた三ツ星から神の御子を生まれさせるのが目的でしょう。」と太郎が答えた。
「オリオンの三つ星から神の子を生まれさせる訳ですか?」
「そうです。ブラッククロスの目的はハルマゲドンの実現と思われます。ハルマゲドンを実現させる神の御子を生む下地を構築するのが目的でしょう。エジプトの首都カイロ近くのギーザにある三大ピラミッド。クフ王、カフラー王、メンカウラー王のピラミッドです。一番小さいメンカウラー王のピラミッドが御子です。クフ王のピラミッドは能登にある日本のピラミッドでは宝達山です。宝達山麓にある手速比売神社の祭神・奴奈宜波比売命。それは出雲・大国主命の妻神です。そして、手速比売神社の住所地はエジプトの太陽神ラーを思わせるが如く、押水町東間ラの二番地です。太陽神ラーは蛇が丸く象られた日輪を頭に乗せたハヤブサの仮面を被った姿で描かれいる男です。カフラー王のピラミッドは石動山で、その祭神は伊須流岐比古神社の正体不明の伊須流岐比古命。たぶん、大国主命の越国での呼び名であるのかも知れません。あるいは、出雲王朝に征服される前の奴奈宜波比売命の夫神であるのかも知れません。また、伊須流岐比古神社の住所地は太陽神ラーを思わせる中能登町ラ部一番地です。また、石動山の麓の登り口の地名はラビア鹿島です。あたかも、ここはアラビアだとでも言いたげな地名、地番です。そして、この二柱の夫婦神から生まれる御子がメンカウラー王のピラミッドに相当する円山の祭神・加夫刀比古命。加夫刀比古命は太陽神の御子なのかも知れません。その加夫刀比古命が生まれるのを護っているのが矢駄町にある加茂神社の本神を祀る京都・下鴨神社です。下鴨神社の玉垣の結界に護られた東本殿、西本殿、印璽社はギーザの三つのピラミッドを表象しています。御生れ神事によって誕生する印璽社の御子神・加夫刀比古命。日本での結界構築を成功させて、エジプトでの御子神・メンカウラー王の子孫が産まれるのを成功させ、ハルマゲドン実現の下地を創るのがブラッククロスのナンバーセブン計画の一部なのでしょう。」
「なるほど。ナンバーセブン計画はハルマゲドン実現のための下地構築活動ですか。オリオンの三ツ星とは太陽神の御子が生まれる暗示と云うことですか。御生れ神事ですか。」と半田警視長が言った。
「太陽神の御子・加夫刀比古命とはどのような神様なのかが判りませんが・・・。戦のために、甲を頭に被っている男の神様でしょうかね?」と太郎が考えるように言った。
「ところで、北九州若松区響町にあるオメガ教団の研修所に自衛隊のジェット機が墜落した事故ですが、大変な事が判りました。」と半田警視長が言った。
「北斗七星を象った建築棟群の一つにジェット機は墜落したのでしたね。」
「福岡県警の北九州市若松署と公安部が事故調査を行ったところ、研修所の地下にはミサイル発射台の組立工場がありました。地下工場は隣りの民間貸倉庫と地下で繋がっており、この貸倉庫はサラ・シスターズから100%投資を受けていました。貸倉庫はサラ・シスターズの持ち物と云うことです。そして、貸倉庫はミサイル発射台の部品が蓄積されていました。工場の様子では、まだ組立を始めたばかりだったと考えられます。」と半田が言った。
「ミサイルで日本のどこかを爆撃する計画だったのですかね。北斗七星を象る七つの場所にミサイルを打ち込むつもりだった訳ですかね。」
「そうかも知れませんが、サラ・シスターズの日本支社長であるオードリー・カートライト女史が貸倉庫の地下通路で死んでいました。焼死ではなく、死因は一酸化炭素中毒です。ですから、ナンバーセブン計画の詳細を聞き出すことはできないでしょう。たぶん、日本支社長・カートライト女史以外のサラ・シスターズの社員はブラッククロスの計画は知らないと思われます。また、右足に剣の形とアポロンの御子と云う文字とを刺青していた日本人と思われる男性がカートライト女史の近くで死んでいたようだ。その男の上着の内ポケットには拳銃ベレッタが入っていたとの事だった。たぶん、サラ・シスターズかブラッククロスの殺し屋でしょう。都府楼で菅原清隆を殺した犯人かも知れません。」と半田警視長が言った。
「ジェット戦闘機の墜落がナンバーセブン計画を阻止した訳ですか・・・。ジェット戦闘機の墜落原因は判ったのですか?」と太郎が呟いた。
「フライトレコーダーを回収して原因分析を行いました。どうも、自動操縦プログラムの指示でジェット機は自動操縦モードに固定されていた可能性があります。ジェット機の着陸目的地がGPSのポジションデータでオメガ教団の研修棟に設定されていました。」
「誰かが、自動操縦プログラムを書き換えたと云う事ですか?」
「たぶん、内部事情に詳しい人物でプログラミング能力のある人物でしょう。現在、自衛隊内部で調査が行われています。その調査結果で事実が判明するでしょう。」
「誰が、プログラムを書き換えたのかですね・・・。」と太郎は考えを巡らせた。
「ところで、大和探偵の推理では岡上正一は影の軍団ではなくて、サラ・シスターズから派遣された生贄と云うことですが、何故に岡上正一は暴力団の名前を聖武祇園連合会にしたのでしょうね?あるいは、ブラッククロスの命令だったのでしょうかね、聖武祇園と云う名前にしたのは?」と半田警視長が疑問を呈した。
「聖武祇園連合と命名した理由ですか?何か意味がありますかね・・・?よく判りません。」と太郎も考え込んだ。
筑紫の皇子52;
2011年9月29日(木) 午後8時ころ 長野市鬼無里にある西京の内裏跡近く
神威示現斎こと岳内太郎と多沼圭子が夜空に輝く満天の星を見上げながら話している。
「何故に菅原清隆は私たちの話を信じなかったのでしょうね?」と多沼圭子が言った。
「そうだな。われわれの話を信じて、他の3人と同じように姿を隠せばサラ・シスターズに殺されることはなかったのにな。『こちふかば おもいをこせよ うめのはな あるじなしとて はるなわすれそ』の刺青が影響していたのかも知れないな。」と岳内太郎が言った。
「刺青が?」
「サラ・シスターズは菅原清隆の背中に呪詛をかけたのだろう。それが背中の刺青の歌だ。『こちふかば おもいをこせよ』とは、東からの命令がすなわち東風だ。東京に居るカートライト支社長が福岡に来た時、あるいは殺し屋が派遣されて来た時にお前の生贄としての役目を思い出せ、と云う暗示を菅原清隆に掛けたのだろう。そして、『うめのはな』とは白い梅の花のような天神の皇子を生むために、生贄となれと云う意味だろう。『あるじなしとて』とは、救いの主は居ないと云うことだろう。そして、サラ・シスターズは、その梅の皇子が生まれた時、ハルマゲドンがやってくることを呪祖したのだろう。『はるな』とは、旧約聖書・エゼキエル39章14節〜16節に出てくる多くの死者を埋めるための地である『ハモン・ゴグの谷』のことだろう。ハモン・ゴグの谷がある町の名はハルナとかハモナと呼ばれている。ハルマゲドンで多くの人が死ぬことを呪祖した歌の刺青。かなり強い呪祖が掛けられていたので、菅原清隆は我々の忠告は信じられなかったのだろう。」と岳内太郎が言った。
「でも、岡上正一さんには危険を承知で鎌倉に住んで頂き、ビデオ撮影にも協力していただけたので助かったわね。」
「そうだな。うまく警察とサラ・シスターズの殺し屋を鎌倉におびき寄せられたからな。殺し屋が岡上を殺しに来たので、警察や大和太郎は情婦の多沼圭子すなわち、お前以外に菅原清隆を殺した人物がいる可能性に気づいたはずだからな。そして、決めてはオメガ教団研修所の事前爆破だな。あれで、CIAが動き出したからな。」と岳内太郎が言った。
「でも、私が知っている本物の中牟田岩男は何処に行ったのでしょうね。」と多沼圭子が言った。
「たぶん、八坂建設が倒産して職探しをしている時にサラ・シスターズによって殺されて、遺体はどこかに処分されているだろう。燃やされたか、海に沈められたか。身元不明で警察で処理されてしまったのかも知れないな。サラ・シスターズからホストクラブ『ぷらむ』へ中牟田岩男の替え玉として派遣され男、生贄として大宰府政庁・都府楼跡地で殺された男が菅原清隆だった訳だ。何故に、その男が菅原清隆を名乗ることに同意したのか。そのあたりに、我々の話を信じなかった理由があるのだろうか・・・。」と岳内太郎が言った。
「そうそう、サラ・シスターズから派遣された殺し屋が菅原清隆を都府楼で殺す時に言った言葉があるわ。」
「何と言ったのだ、そのヒットマンは?」と岳内太郎が訊いた。
「『汝はアポロンの御子に汝の生命を与えよ、過ぎることなく、欠けることなく。』と言ったわ。そして、その男はスタンガンのスイッチを入れたわ。」
「なるほど。『お前はアポロンの御子の生贄になれ』と謂った訳だな。しかし、そのような呪文だけでは結界を構築できないことを知らなかったようだな。スタンガンを握っているようでは印を結べないからな。十種神宝を知らないようだな、サラ・シスターズは。」
「オリオンに暗示された神の意志はそんなに容易に崩れない、と云うことなのね。」
「予言と音楽と弓矢の神・アポロンは妹のアルテミスを騙してオリオンを殺させた。その騙したアポロンの行為を糺さなければならない。そのために、木島坐天照御祖神社の元糺すの森に三つ鳥居が創られている。この三つ鳥居はオリオンの三ツ星であり、その使命は三本足の八咫烏である下鴨神社に引き継がれたのだ。将来、間違いを糺す御子を生むためにな。だから、我々の使命は重大なのだ。自衛隊の小松基地に潜入していた大友須美雄は大した奴だ。ジェット機の操縦プログラムを書き換えたのは奴だ。自衛隊内で墜落事件の内部調査が始まっているが、うまく姿を眩ましただろうかな。奴の無事をオリオンの星に祈ろう。それと、サラ・シスターズから生贄として派遣されて鎌倉に住んでいた皆本頼智もうまく逃げたのかな?身寄りのいない皆本頼智を名乗る男は逞しく生きていくのだろうか?」と心配そうに岳内太郎が言った。
「そうね。林太郎さんの子供も大友さんのように逞しく育って欲しいわ。」
「ああ、そうだな。もう、3歳になったのかな。お前の子供だから、強い子に育つことだろう。」と岳内太郎が言った。
「そうね・・・。でも、子供を自分の傍から手放すのは淋しいわ。」と星空を見上げながら多沼圭子が祈るように言った。
「我が孫よ、逞しくあれ。日本国のために・・・・。オリオン座の三ツ星を護る四ツ星。それは、山口県・赤間神宮の平家、鎌倉・鶴が岡八幡宮の源氏、会津生まれの女戦士・紅葉、そして太宰府天満宮の菅原道真だ。いずれも、神武東征の時から大和王朝を守護してきた軍事武門・大伴一族の血が流れているのだ。」と、満天の星を見上げながら神威示現斎・岳内太郎がしみじみと言った。
筑紫の皇子53;
2011年10月10日(月) 某所にあるブラッククロス本部の会議室
「ナンバーセブン計画は本当に成功するのか?」とナンバーワンと呼ばれる男が訊いた。
「『白衣の天使誕生』を阻止するために、日本で活動していたサラ・シスターズのオードリー・カートライト女史は九州のオメガ教団研修所で死亡しました。しかし、『北斗七星の暗示』計画はまだ失敗した訳ではありません。ナンバーセブン計画の主眼は『北斗七星の暗示』を成功させることです。『アポロンの御子』を誕生させるための『オリオンの暗示』計画は失敗しましたが、ナンバーセブン計画はまだ、これから本格的に始まるのです。」とナンバーセブンと呼ばれる男が言った。
「中東とヨーロッパでの計画の進み具合はどうなのだ?」とナンバーワンが訊いた。
「準備は進んでいます。日本での『北斗七星の暗示』計画が成功すれば、ヨーロッパは火の海になるでしょう。北九州若松区響町でジェット機が爆発炎上しました。これは、我々にとって良い兆候です。日本は世界の縮図です。アフリカ大陸のアルジェリア国のアルジェは若松区です。そこから、それを始める計画でしたから。」とナンバーセブンが言った。
「そうですか。KISSの弾武典から日本の知識をよく聞いて、しっかり頼みますよ、ナンバーセブン。オメガ教団の利用価値は九州での研修所爆発で終わりました。」とナンバーワンが言った。
筑紫の皇子54;
2011年10月10日(月) 午後2時ころ福岡県筑紫野市原田二丁目近く
大和太郎と棚橋刑事は中牟田岩男が生贄に選ばれた理由が何なのかを調べるため、中牟田岩男の遠い親戚である香椎猛を訪問したのであった。香椎猛は先祖から受け継いだ和菓子屋を経営しており、月曜日は定休日であり、自宅でのんびりと過ごしていた。そのため、太郎と棚橋は応接間に通されてゆっくりと話を聞くことが出来た。
しかし、殺される理由に繋がる様な話は聞き出せないまま、香椎猛宅を辞去しようと玄関で太郎と棚橋は靴を履いた。
「それでは、これで失礼いたします。」
「何もお役に立つようなお話が出来ずに申し訳ありませんでした。折角、こちらまで来られたのですから、この近くの筑紫神社に参拝されたらいかがですか。大和探偵も棚橋刑事さんも神社がお好きなようですから。」
「あっはっはっは。判りますか?」と太郎が言った。
「宇佐八幡宮のお話やら、箭弓稲荷神社のお話を面白く拝聴させていただきました。ありがとうございました。」と香椎猛が言った。
「筑紫神社へ行く道はどちらですか?」と棚橋が訊いた。
「我家の玄関を出て、右へまっすぐ100mくらい行ったところに神社の参道があります。すぐ判りますよ。乗ってこられた車は店の駐車場に停めたままで良いですよ。」と香椎猛が言った。
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えまして、ここからは歩いて筑紫神社に参ります。」と棚橋が言った。
「あっ、少しお待ちください。」と言って、香椎猛は奥に戻って行った。
しばらくして戻ってきた香椎猛がA4サイズの紙を三つ折りにした二葉の栞を棚橋と太郎に渡した。
「筑紫神社の由緒書です。参拝の参考にして下さい。」
「頂いてよろしいのでしょうか?」
「ええ、どうぞ。私は筑紫神社の大祭の役員をしていますので、また手に入りますから、遠慮なくどうぞ。」と香椎猛が言った。
その時、玄関の横引き戸がガラガラと開いて、「ただいま。」と言いながら老婆が入ってきた。
「あら、お客様?」と散歩から戻ってきた老婆が言った。
「私の母です。おかあさん、こちらは警察の刑事さんです。」と香椎猛が言った。
「こんにちは。もう、お暇いたします。お邪魔いたしました。」と太郎が言った。
「あら。御用はお済みでしたか。刑事さんですか。何かお聞きに来られたのですね。」と老婆が言った。
「遠い親戚の中牟田岩男さんのことを聞きに来られたのですが、あいにく、お役に立てなかったところです。」
「あら、中牟田さん。大分県の日出町に嫁いだ娘さんだね。ほら、死んだ父さんの兄弟で、上原田に住んでいるお前の伯父さんの香椎豊造さんの娘さんだよ。確か、ああ、名前は忘れてしまったよ。でも、子供を生む時に、上原田の実家に帰って来ていたよ。こどもは上原田の近くの病院の産婦人科で産んだはずだよ。」と老婆が言った。
「中牟田岩男さんは上原田と云う処で生まれたのですか。」と太郎は呟いた。
筑紫の皇子55;
2011年10月10日(月) 午後2時30分ころ 福岡県筑紫野市原田の筑紫神社
香椎猛からもらった栞の表紙には『国号筑紫の起源』と書かれ、4つの真四角の菱形枡が四隅にまとめて描かれている『隅立四目結』神紋と筑紫神社社務所の名が印刷されている。裏には神社の由緒が書かれている。
※筑紫神社の由緒;
主祭神は白日別神と五十猛尊である。創建年代は不詳。古代には、近くの城山頂上に祀られていたらしい。城山から真南へ800mくらい行った所の上原田には飛地神幸所境内地として若宮神社があり、この若宮神社の場所は太宰府天満宮の真南でもある。若宮神社の祭神は表筒男命、中筒男命、底筒男命、表津少童命、中津少童命、底津少童命である。
また、五十猛尊は須佐乃王尊の御子神である。白日別神は古事記の中で「この島、身一つにして、面四つあり。面ごとに名あり。かれ筑紫の国を白日別と云い、・・・・」と書かれているらしい。中国大陸の北部、ウラル・アルタイ地方の天神に対し、火明かり、光の意味を込めた白と云う接頭語を韓国ではよく用いる。白日別神とは火に関係する神様であるようだ。
古代、筑前と筑後の国境の山に住んでいた荒ぶる神・麁猛の神がそこを通る旅人を取り殺していたと云う。そのため、人の命を尽しの神と呼ばれていたと云う。ある時、筑紫君の祖先である甕依姫がこの麁猛神を祀り鎮めたので、旅人は無事に峠を通過出来るようになったと云う。そこで、この麁猛神を筑紫の神と呼ぶようになった、と筑後国風土記に書かれているらしい。また、殺された多くの旅人を葬るための棺を作るのに山の木を多く使い尽したので、木を尽しの国、筑紫の国と呼ばれるようになったと云う。
筑紫神社の由緒の話は、何か、西洋の旅人を食い殺したスフィンクスの神話に似ている。一般にスフィンクスはライオンの体、鷲の羽根、女人の顔、(牛の尻)を合体した神獣と謂われている。古事記の謂う、この四つ面を持つ火の神様・白日別神が何を意味しているのか不明である。また、聖書には火を使う白衣の人物によって懲らしめられる4匹の獣の話がある。鷲の羽根を持つライオン、肉を喰らう熊、4つの羽根と4つの頭を持つ豹、10本の角と鉄の牙を持つ獣の4匹の獣のうち、第4番目の獣だけが火の中で死滅する。
現在の筑紫神社は、筑紫の神(白日別神)、五十猛命、玉依姫命、坂上田村麻呂を祭神としている。また、近隣にあった五つの神社(菅原神社、天満神社、原田須賀神社、倉良須賀神社、栗木須賀神社)を合祀した境内社・五所神社(祭神;菅原道真公、須佐乃王命、櫛稲田姫)がある。
筑紫神社参拝を終えて参道を歩いている時、棚橋刑事の携帯電話が鳴った。
「はい、棚橋です。」
「福岡県警本部の高円です。」
「あっ、どうも。」
「先ほど、警察庁の朝海刑事局長から電話通達がありました。通達により、都府楼殺人事件の捜査本部は解散することに決まりました。理由は、犯人の特定に至るには多くの困難が予想され、捜査のため経費の有効性の観点から捜査規模を縮小するとの事でした。今後は、筑紫野署の捜査員2名を残し、他の刑事は別の事件の捜査に復帰するように、との通達でした。明日から、棚橋刑事は大分県警に戻ってください。ありがとうございました。」と高円が言って電話を切った。
捜査状況から犯人はオメガ教団研修所で死亡している可能性があることを知っている二人は、「止むを得ないな。会津若松署の大伴善男殺人事件と一緒の結末だな。」と棚橋と太郎は思った。
棚橋光弘は幼馴染の大賀広子と夕食を一緒にする約束があったので、自家用車で大和太郎をJR原田駅まで送った後、筑紫野インターから九州自動車道に入って大分県の別府に向かった。
大和太郎は博多で平山重夫と食事をしながら事件についての報告をする約束であったので、JR鹿児島本線に乗って博多駅に向かった。
筑紫の皇子56;
2011年10月10日(月) 午後3時30分ころ 鹿児島本線の列車内
大和太郎は原田駅の売店で買った週刊誌を見ていた。
沖永優が俳優業に復帰する特集記事のページを開いた太郎が呟いた。
「ああ、東京の香椎忠雄さんの娘さんだな。僕と半田警視長が帰った後に、赤ちゃんを連れて、実家に戻って来たんだな。赤ちゃんは香椎キャサリンさんが面倒を見る手伝いをする訳か。沖永優のお母さんは外人なのか。ふーん。沖永優のプロフィールか。なるほど、東京目黒区にある日の出学園高等学校卒業か。火の出学園?あっはっはっは、白日別神じゃあるまいし。日出学園と読むのかもしれないな・・・?」と、太郎は想像を逞しくしていた。
筑紫の皇子57;エピローグ
2011年10月10日(月) 午後6時ころ キャナルシティ内のレストラン
大和太郎と平山重夫が、キャナルシティの噴水群が眺められるレストランで食事をしながら話している。
「竹中直義さんが見た『ちくしのみこ』は筑紫神社の祭神である白日別神かもしれないな。あるいは、筑紫神社の摂社・若宮神社の表津少童命、中津少童命、底津少童命の合体神かもしれないな。」と太郎が言った。
「白日別神?少童命?あっはっはっは。また、始まったな。お前の得意な霊的な神様話が。あれはな、『イドの怪物』だよ。」と精神科医の平山が言った。
「イドの怪物?」
「心理学者のフロイトが考えた、人間の潜在意識下にある快楽欲求のエネルギー源を心理学ではイド(id)と呼ぶ。竹中直義は『ちくしのみこ』という自分にとって楽しい幻覚を見ているだけさ。子供のころに母親から聞かされた太宰府天満宮の飛梅伝説と夢で見た白い衣を着た男とを結びつけて、自分の頭の中で楽しい物語を造っているだけさ。自分の好きな梅の香りを漂わせて現われるイドの怪物・筑紫の皇子を心の中で作り出し、あたかも、自分の目が見ているような幻覚に陥っているのだよ。」
「幻覚ね。しかし、霊能者が見ている幽霊も幻覚か?」と太郎が言った。
「人間の意識は、生きている時にだけしか存在しない。死んでしまえば、意識は消え失せる。魂が肉体に宿ると云うのは非科学的な考え方だ。肉体としての脳細胞が意識を生み出しているだけだ。『我、考える。故に、われ在り』だよ。肉体が死んで、考えられなくなったら、我の意識はなくなる。人間の意識が幻覚を頭脳内で作りだしているだけだよ。」と平山が言った。
「あっはっはっは。学生時代と同じだな。あの時から、平山は科学的思考を優先していたな。お前の下宿で好く議論したが、霊の話になるといつも意見が分かれた。」と太郎が言った。
「職業だよ。精神科の医者が非科学的になったら、医者じゃなくなる。」と平山が言った。
「そういうものかな・・。」
「竹中直義は無実と云うことにはなったが、菅原清隆を殺した犯人は判ったのか?」
「たぶん、北九州市若松区響町のオメガ教団研修所に墜落炎上した自衛隊のジェット機事故で犯人は死んだ可能性がある。」と太郎が言った。
「どういうことだ?」と平山が訊いた。
「右足に剣の刺青がある男が・・・・・・云々」と太郎が事の顛末を長々と平山に説明した。
「なるほど、サラ・シスターズ投資社か。しかし、オリオンの星座に関係する神話がね・・。それも、一種の幻覚だな。しかし、幻覚で人が殺されてはたまらんな。ブラッククロスね・・・。そして、弾武典というKISSの男が日本古代の神事をブラッククロスに教えている可能性があるのか・・・。なかなか、複雑だな。」と平山が言った。
「しかし、奴等は真剣だぜ。」
「朝日の昇る午前6時ころに現れる筑紫の皇子か・・・?そして、梅の香り・・・か。」と平山が呟いた。
「梅で開いて、松で治める。竹は外国からの守護である。梅は教え、松は政治、竹は武であったな。」と、大本教の神諭を太郎は思い出していた。
そして、午後6時の時報と供に噴水群が水しぶきをあげた。
それと同時に、モンキーズが歌う『デイドリーム・ビリバー』の歌曲がキャナルシティ内に流れ始めた。
曲に合わせて、噴水群が踊っている。
「7、A・・・。」 (7とAの目が出てくれ・・・。)
「What number is the chips ?」 (それでは、入ります。さて、数取札の数字は何番が出るか?)
「7−A!!」 (7−Aだろ!!)
「O.K. Know me. Don’t excite, men. (判ったよ。(開けるから)そう言うなよ。そう興奮するなよ、みんな)
Because I’m sure I know.」 (だって、僕には判っているんだから、その数字が。)
♪ Oh, I could hide beneath the wings ♪ (僕は鳥の羽根の下に隠れられるだろうか)
♪ of the blue-bird as she sings. ♪ (あの、さえずっている(幸福の)青い鳥の羽根の下に)
♪ The 6 o’clock alarm would never ring. ♪ (目ざまし時計は6時に鳴ってほしくないがな。)
♪ But it rings and I rise ♪ (しかし、目ざましは鳴り、僕は起きる。)
♪ ・・・・・・・・・・・・・♪
♪ You once thought of me ♪ (私の事をどう思っていたのかな、君は)
♪ as a white-knight on his steed. ♪ (馬に跨った白い騎士と思っていたかい。)
♪ ・・・・・・・・・・・・・♪
♪ Cheer up, Sleepy -Jean. ♪ (乾杯しよう、あの夢預言者のジーン・ディクソンに)
♪ Oh, what can it mean ♪ (おお、それが、何の意味を持っているのだろうか?)
♪ to a daydream believer ♪ (白日の下で幸せな夢を見る人にとって、)
♪ and a home-coming queen? ♪ (そして、家に戻って来た女王様にとって。)
※2012年1月7日(土) 人日の節句 一粒万倍日 丁卯 四緑木星 先勝 満 女※
太宰府天満宮で、午後7時から、『うそ替え』神事が行われた。
筑紫の皇子〜菅原道真・天神伝説殺人事件〜
《完》
目賀見 勝利
2012年2月3日 23時50分 脱稿
2012年2月4日 12時50分 推敲完了
:参考文献:
増補改訂 秀真伝 吾郷清彦 昭和57年 新国民社刊
完訳秀真伝 上巻 鳥居礼 昭和63年 八幡書店刊
増補 三鏡 出口王仁三郎聖言集 2010年 八幡書店刊
謎の神代文字 佐治芳彦 1979年 徳間書店刊
エジプト古代文明の旅 仁田三夫ほか 1996年 講談社刊
鬼・雷神・陰陽師 福井栄一 2004年 PHP研究所刊
日本の神々(全13巻) 谷川健一編 1985年 白水社刊
陰陽五行 稲田義行 2003年 日本実業出版社刊
陰陽五行思想から見た日本の祭 吉野裕子 2000年 人文書院刊
神々の指紋 グラハム・ハンコック著 大地舜訳 1999年 小学館刊