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404 File Not Found  作者: なな
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LOG09 家族になる

入院してからの三浦は、以前よりもよく話すようになった。

それも、未来のことではなく、決まって真央との昔話だった。


「三人家族で、いたかったんだ」


ぽつりと、独り言のように言う。

はなは俺の妻。真央は俺の一人娘。

そういう前提で、生きていたのだと、何度も繰り返す。


娘を失った今、彼に残された家族は私しかいない。

その事実を、彼は確かめるように、時折こちらを見る。

私は頷くことしかできなかった。


病状は徐々に良くなっている、と医師は言った。

食事も摂れるし、歩くこともできる。

けれど、三浦はやたらと背中を痛がった。

夜になると咳が止まらず、身体を丸めて眠れない日もあった。


「そのうち治るよ」


そう言う彼の声は、どこか自分に言い聞かせるようだった。


私は、軽い調子で言った。

「この際だから、ちゃんと体も診てもらいなよ」


深い意味はなかった。

むしろ、検査をして「何でもない」と言われることで、安心したかった。


結果は、予想通りではなかった。


三浦の身体は、がんに侵されていた。

しかも、すでに転移が始まっているという。


早期発見だから大丈夫だろう、そう思った。

思いたかった。

だが、医師の口から告げられたのは、余命という言葉だった。


私は、その場で何も言えなかった。

三浦のほうが、先に口を開いた。


「そうか」


それだけだった。


真央を失ったあと、彼はもう十分すぎるほどの現実を受け取っていたのかもしれない。

それ以上、驚く余地が残っていないように見えた。


病室に戻る途中、背中を押す私の手に、彼は少し体重を預けた。

その重さが、妙に現実的だった。


娘を失い、残された時間まで告げられた男。

その隣にいる私が、家族と呼ばれる存在であることが、急に怖くなった。


三人家族でいたかった、という言葉が、胸の奥で繰り返される。

その輪の中に、私は最初から含まれていたのか。

それとも、真央がいなくなったあとに、空いた場所へ置かれただけなのか。


答えは、まだ出ない。


ただひとつ確かなのは、

三浦の時間もまた、静かに終わりへ向かい始めている、ということだった。

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