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404 File Not Found  作者: なな
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LOG08 搬送

それからの三浦は、いつもぼうっとしていた。

まるで体の半分をどこかに置き忘れてきた人間のようだった。


声をかければ返事はする。食事も摂る。眠りもする。

けれど、そのどれもが「生きている人間の動作」をなぞっているだけに見えた。

中身だけが、抜け落ちている。


真央がいなくなった、という事実を、三浦は理解していたはずだ。

理解していなければ、あんな顔はしない。

それでも彼は、その出来事を自分の中に取り込むことができないまま、時間だけをやり過ごしているようだった。


私は、何も言わなかった。

言葉を選ぶ余裕も、正解を探す力も残っていなかった。


朝になれば仕事に行き、夜になれば帰ってくる。

三浦はその隣にいて、いない。

会話は途切れがちで、沈黙だけが部屋に溜まっていった。


真央から届いていた、二人あての「おはよう」は、当然もう来ない。

その不在にも、いつの間にか慣れ始めている自分がいて、私はそのことを誰にも言えなかった。


葬式の日の連絡が来たのは、そんな生活が一週間ほど続いた頃だった。


三浦は電話を切ると、静かに言った。

「行ってくる」


それだけだった。

私に同行を求めることも、断ることもなかった。


黒い服を着る三浦の背中を、私は黙って見ていた。

あの子の名前を口にしないまま、彼は玄関を出ていった。


葬式の間、私は一人で部屋にいた。

掃除をするでもなく、泣くでもなく、ただ時間が過ぎるのを待っていた。

真央の親に会う資格が、自分にあるとは思えなかった。


三浦が帰ってくるのは、夕方になるはずだった。


けれど、夜になっても連絡はなかった。


胸騒ぎ、というほど大げさな感情ではない。

ただ、何かがずれている、という感覚。

世界の歯車が、ひとつ噛み合っていない音がする。


電話が鳴ったのは、日が完全に落ちてからだった。

病院からだった。


「三浦さんが、倒れられて救急搬送されました」


それだけで、十分だった。


私は、親のいない人間だ。

だから、その電話は私にかかってきた。


「内縁の妻の方ですよね」


そう確認されて、初めて自分がその立場に置かれていることを知った。

名乗ったことも、意識したこともない肩書きだった。


病院へ向かう道すがら、頭の中は不思議なほど静かだった。

泣きもしなければ、取り乱しもしない。

ただ、足だけが勝手に前へ進んでいた。


救急外来の白い光は、やけに眩しかった。

消毒液の匂いが鼻につく。


ベッドに横たわる三浦は、葬式に向かったときと同じ黒い服のままだった。

顔色は悪く、唇が少し紫がかっている。


医師の説明は、要点だけだった。

過労と精神的ショック。

極度の緊張状態が続き、身体が限界を迎えたのだろう、と。


私は、頷くことしかできなかった。


「ご家族の方は?」


そう聞かれて、言葉に詰まった。


「……いません」


その一言で、場の空気が一瞬止まった。

医師は、何も言わずにカルテに視線を落とした。


三浦は、眠っているようだった。

でも、その眠りは深く、こちらの声が届く気配はない。


私は、ベッド脇の椅子に座った。

何をするでもなく、ただそこにいた。

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