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404 File Not Found  作者: なな
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LOG06 緑青

つながった電話の向こうでは、真央の小さな、とぎれとぎれの声が聞こえていた。電波のせいなのか、それとも彼女自身が言葉を切っているのか、判別がつかないほど弱々しい。


「真央ちゃん、大丈夫?」

自分の声が、やけに遠く感じられる。

「三浦さんなら、きっと……フラット、帰ってくるから。もう少し待ってみましょうよ。」


私はこんな曖昧な答えしか出せなかった。

当の本人は、今、目の前にいるというのに。


「はな……」

一瞬、沈黙が入る。

「……あたし、だめだよ。切っちゃった。パパと約束したのに・・・・・・。」


「え?」

心臓が一拍、遅れて鳴った。

「どうしたの。何を――」


「んー?」

真央は、なぜか軽い調子で声を出す。

「大丈夫。たぶん」


その「大丈夫」は、誰に向けたものでもなかった。ただ、沈黙を埋めるために置かれただけの言葉だと、すぐに分かった。


電話口の向こうで、呼吸が乱れている。言葉の間に、変な間が空く。会話が成立していない。それでも通話は切れない。切らない、というより、切れない。


――切っちゃった。


その言葉が、頭の中で遅れて意味を持ち始める。

切るもの。切れるもの。

私は無意識に、三浦のほうを見た。


彼は、私のすぐそばにいた。ソファの背に体重を預け、目を伏せている。真央の声は、当然、聞こえているはずなのに、彼は何の反応も示さなかった。聞こえていないふりなのか、聞こえすぎて遮断しているのか、そのどちらかだ。


真央の様子は、明らかにおかしい。

さっきから、同じ調子で「大丈夫」を繰り返す。質問には答えない。こちらの言葉も、きちんと受け取っていない。


そういえば――と思い出す。

真央と出会った頃、三浦から聞いていた話。


自傷行為がひどい子だということ。

衝動的で、感情の行き場がなくなると、自分に向かうこと。

それでも彼は言ったのだ。どうにか、まっとうな道に戻したい、と。


私はそのとき、はっきり言った。

私は医者でもないし、専門家でもない。無理だ、と。


それでも三浦は引かなかった。

真央に入れ込んだ。そして、真央も三浦に入れ込んだ。

お互いを必要としているようで、実際には、互いの穴を埋め合っているだけだったのかもしれない。


「真央ちゃん、今どこ?」

できるだけ落ち着いた声を作る。

「誰か、近くにいる?」


「んー……パパから連絡来ないから切るね。」

返事は曖昧で、すぐに別の話題に流れそうになる。通話は切られた。


私はスマートフォンを握りしめた。


でも、このまま話し続けていても、何かが好転する気もしなかった。


三浦は、相変わらず動かない。

まるで、この状況から一歩引いた場所に立っているみたいだった。


その瞬間、私ははっきりと理解した。

この電話の向こうで起きていることと、

この部屋の中で起きていることは、

同じ時間に存在しているのに、決して交わらない。


けれど、本当に必要な人間は、ここにはいない。


真央の声が、また少し遠くなる。

緑青のように、静かに、確実に、何かが侵食していく音がした。

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