LOG05 沈黙の夜
その夜、部屋の明かりを落としたまま、私の携帯電話が震えた。画面に表示された名前を見ただけで、胸の奥がひくりと鳴る。真央だ。嫌な予感は、だいたいいつも当たる。
「はな、パパから連絡ないの。真央のところに連絡ないの。もう何時間も待ってるのに、全然来ないの。」
通話口から飛び出してくる声は、息継ぎもままならないほど早口で、次第に金切り声に近づいていく。
問いかけの形をしているのに、答えなど最初から求めていない。
ただ不安を誰かに叩きつけたいだけだと、私は知っていた。
私は相槌も打たず、ただ耳に当てたまま黙っていた。真央には、言いたいだけ言わせたほうがいい。
下手に言葉を挟めば、火に油を注ぐだけだ。沈黙の向こうで、真央の呼吸が荒くなり、声が震え始める。
さて、どうする。頭の中で同じ言葉がぐるぐる回る。
三浦から連絡が来ているか、と言えば、それは少し違う。
彼は「連絡の向こう側」にいるのではなく、今まさに、私の目の前にいるから。
三浦は、私の様子を見てすべてを察したように、何も言わず近づいてきた。
そして子どもみたいに、静かに、でも逃げ場を塞ぐように、私に抱きつく。
腕の中で感じる体温と重さが、現実を否応なく突きつけてくる。
通話口からは、真央の声が割れたまま流れ続けている。パパはどこにいるの、どうして出ないの、何かあったんじゃないの。三浦はその声を聞きながら、私の肩に額を預け、動かない。
まるで、聞こえていないふりをすることで、この状況そのものを拒否しているかのようだった。
私は携帯電話を握りしめたまま、息を整える。沈黙は、もう少しだけ続けるつもりだった。真央にも、私にも、そして三浦にも、この夜をどう越えるのか考える時間が必要だったから。




