LOG11 それでいい
三浦は静かに他界した。
私は粛々と、内縁の妻らしく葬儀を取り仕切った。
病院からの連絡を受け、葬儀社に電話をかけ、必要な書類を揃えた。指示を受け、指示を出し、決めるべきことを決めていった。名前と印鑑を求められる場面は多かったが、迷うことはなかった。誰かが代わる様子もなく、自然と私の役目になっていた。
三浦の位牌の横には、真央との写真から作り出した、優しい笑顔の遺影が置かれていた。
二人で並んで写っていた写真から、三浦だけを切り取ったものだと説明を受けた。背景はぼかされ、表情は少し整えられている。それでも、その笑顔に違和感はなかった。生前に見せていた顔より、いくらか穏やかにさえ見えた。
受付では香典袋を受け取り、名前を確認し、順番に並べた。
「大変でしたね」と声をかけられるたびに、「ありがとうございます」と答えた。それ以上の言葉は求められていなかったし、私も用意していなかった。
親族の視線が一瞬こちらに集まることはあったが、誰も何も言わなかった。立場を説明する場面はなく、進行表通りに式は進んでいった。焼香の順番が回ってきて、私は一礼し、静かに席に戻った。
真央の名前が呼ばれることはなかった。
遺影の中では笑っているのに、式場のどこにもその姿はなかった。
通夜と告別式が終わり、控室に戻ると、喪服の袖に線香の匂いが残っていることに気づいた。脱いで畳み、忘れ物がないか確認する。必要な手続きの一覧を頭の中でなぞった。
自宅に戻ると、郵便受けには広告と請求書が混じっていた。
電気と水道は止められない。私は期限を書き出し、付箋を貼った。
洗濯機を回し、食器を洗い、冷蔵庫の中を確認する。空いた棚を見て、買い足すものを思い浮かべた。
翌朝は平日だった。
目覚ましが鳴り、私はそれを止める。黒ではない服を選び、髪をまとめ、玄関の鍵を閉めた。
駅までの道は変わらない。
電車はいつも通りに来て、私は流れに乗って乗り込んだ。
世界は何事もなかったように動いていた。
私も、それに合わせて動いていた。
【終わり)




