log10 サービス終了
退院して三日目の午後、三浦はパソコンの前に座っていた。
そこが彼の席で、机の上にはいつものマグカップと読みかけの書類が置いてある。
メールボックスを開くと、最上段に「【重要】サービス終了のお知らせ」があった。
「ボイスリング」――かつて夜を削って守った場所の名前だ。
突然のお知らせとなり申し訳ございません。
ボイスリングは、◯年◯月◯日をもちましてサービスを終了いたします。
長きにわたり支えてくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。
三浦は一度だけ画面をスクロールし、それ以上は読まなかった。
もう説明文を最後まで読む習慣もなくなっていた。
「はなー。ボイスリング、終わるって」
返事はすぐに返ってくる。
「いつまでー?」
「今週末で終わり」
「ふーん。じゃあ週末、ゴミ出し忘れないでね」
それは、仕事の終わりよりも現実的な話題だった。
二人の会話は、いつのまにかそういう順番になっていた。
三浦は椅子を少し回して、背中越しに声をかける。
「お茶、ある?」
「大丈夫この間、買い足しておいた。」
はなはキッチンで湯を沸かし始める。
三浦は音だけを聞きながら、再び画面を見る。
「ボイスリングが終わる」という事実は、
洗剤の詰め替えが切れたとか、牛乳を買い忘れたとか、
そういう話題と同じ棚に並んでしまっていた。
共有の夫婦の湯飲みが、並んで用意される。
「どうぞ。そっちもってく?」
返事をしようとして、三浦は少し息を吸った。
だが声は出なかった。
肩から力が抜け、視線が画面に落ちる。
サービス終了の文面が、まだそこにある。
湯の沸く音が止まる。
カップを置く音が、台所で鳴る。
はなが部屋に戻る頃、
三浦はすでにパソコンの前で動かなくなっていた。
お茶は、冷める。




