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Uncommon ⚔️ Adventurer  作者: イニシ原
一章 丘を越えて
9/20

009 地図にない村と雨の預言

 居留地「商いの鐘」へ向かう道は一本しかなかった。だが、それは整備された街道などではなく、馬車の轍が幾重にも刻まれ、そこだけ草が生えていない細長い道筋にすぎなかった。

 馬車なら四日、徒歩なら一週間――ただし、それは丘陵を大きく迂回した場合の話だ。


 バードマンは夜間でも地形を無視して一直線に飛ぶ。ならばこちらも、と碧ラたちは丘陵地帯を直線で突っ切ることに決めた。


「美カナ、この辺りで一度、疲労回復を頼む」


 強行軍で体力を削られる前に、仲間たちの休息をきちんと管理する。碧ラは状況を冷静に見極め、皆に休憩を促した。


 丘を下った先に、小さな集落がいくつかの小屋を寄せ合うように建っていた。

 碧ラは古地図を広げて確認する。しかし、そこにその集落の記載はなかった。


「瑠フィーダ、あの集落の様子を見てきてくれ」


「了解、兄貴。ぱぱっと行ってくる」


「はーい、アオ君。夢ムも一緒に行くね~」


 美カナに癒やされて元気を取り戻した夢ムが、のんびりとした声で続いた。


「じゃあ、夢ム姉さんも頼む。気を付けてな」


 瑠フィーダはド、ド、ドと坂を駆け下り、夢ムはぽん、ぽんと跳ねるように草を踏みながら集落へ向かっていった。


「姉さんは、何をしに行くんだい?いい占いでも出たの?」


「ん~たぶんね~」


 夢ムは、そうのんびりした声で答えた。


 彼女は主流の魔法だけでなく、占いと呼ばれる古いタイプの魔法も得意としていた。


 占いに使うカードを何枚も手に持ちながら、夢ムは何かを考えているようで、前など見てはいなかった。にもかかわらず、彼女は転ぶどころか、まるで子供のように軽やかに、ぽん、ぽんと足元の草を踏みしめながら跳ねるように進んでいった。


 集落の入口らしき場所には、がっしりとした腕と脚を持つ男が立っていた。

 身に着けているのはボロボロの半ズボンだけ。瑠フィーダより頭一つ低く、夢ムと同じくらいの背丈だったが、全身から威圧感が漂っている。


「こんにちは~。夢ムっていいます。ここで休ませてもらえませんか?」


 夢ムがのんびりと声をかけると、男は険しい顔で即答した。


「ダメだ!」


「お金なら払いますよ。ね、こっちの瑠フィーちゃんが」


 夢ムはにこやかに瑠フィーダを指差したが、男は首を振る。


「ダメだ!」


「……」


 言葉に詰まった夢ムの横で、瑠フィーダが焦りを見せる。


「な、なあ夢ム姉さん、無理だろ。ここで休む必要ないんじゃ……」


「ま~ま~、夢ムにまかせて」


 夢ムは柔らかく微笑むと、手にしていた占い用のカードをケースにしまい、小さなバックパックを開いた。そこから、数珠のように紐で繋がれた白い昆虫を取り出す。


「そ、それは……塩バッタか!?」


 男の声が震えた。


「そうだよ~。これがあれば、お肉でもお魚でも、とっても美味しくなるでしょ?」


「ゴクリ……」


 男はごくりと喉を鳴らす。


「それに~、こっちにあるのは……分かるかな?」


 夢ムが左手に掲げたのは、黄金色の光沢を放つ昆虫だった。


「ま、まさか……ハチミツバッタ!?」


「ふふ、甘~いよね」


 夢ムは身体をゆらめかせ、男の右から左へと軽やかに動きながら囁いた。


「夢ムたちをここで休ませてくれたら、両方プレゼントしちゃいますよ~」


 男は息を詰め、夢ムと瑠フィーダを見比べる。


「向こうにいる連中も……お前たちの仲間なんだな?」


 二人が同時に頷くと、夢ムはバッタの首飾りを男の首に掛けた。


「あなたは名誉を重んじる方です。夢ムたちは、出会えたことを嬉しく思いますよ~」


 やがて男は名を明かした。モウク――この村を守る勇士だという。

 彼に案内され、碧ラたちは村長コラウダのもとへ通された。


 コラウダは自分の家を休憩所として差し出し、「いくらでも休んでいきなさい」と言って自らは別の小屋へ移っていった。

 碧ラたちはロバを外に繋ぎ、荷を下ろしてしばし休息をとることにした。


 碧ラは、その“予言”を聞いた夢ムに問いかけた。


「夢ム、どうしたんだ? 何が起こるんだ」


 滅多に自分を前へ出さない夢ムの静かな預言は、この仲間たちが冒険をするうえで、何よりも優先されるべきものだった。


「アオ……たくさん雨が降るよ。流されてもいいけど、でもみんなバラバラになるから嫌だよね~」


「雨か……雨季には早いが、そんな大雨なのか。だから、これ以上西に行ってはダメなんだな?」


「水は東から西へ流れていくからね~。”みんな”流れていっちゃうよ」


「バードマンもか?」


「たぶんね~。アオも流されて追いかける?」


「……」


 夢ムの言葉に、碧ラは沈黙した。


「今の夢ムの冗談だよ? みんな一緒にいないとダメだからね~」


「そうだな、みんなでその雨を過ごそう。あとは自由にしていいよ」


「はーい。ル礼ルと美カナと話してくるね~」


 夢ムは、二人が座って遊んでいる輪に混ざりに向かった。そのすぐ後、翠コが静かに碧ラのそばへと来た。


「なるほど、この地図の等高線を見てごらん。この谷のおかげで、ここなら大丈夫そうだ。この村の人が知っていたのかは分からないが、夢ムも地図を見たわけじゃないのに……やっぱり占いってすごいのね」


「そうだな。あの子は『妖精の子』と呼ばれるだけのことはある。……今も、雲がすごい速さで空を覆ってきてる」


「それに、瑠フィーダに聞いたんだけど、あの塩バッタなんて一体どこで手に入れたの?」


 碧ラの問いに、翠コは苦笑いを浮かべた。


「それがね、瑠フィーダちゃんにお小遣いが欲しいって言って、財布から掴めるだけ持って路地に走って行ったと思ったら、すぐに戻ってきて……何も言わなかったらしいの。そのままになってたみたいよ」


「そうか……まあ、夢ムの預言で俺たちは何度も助けられてきた。ちゃんと大切にしてやってくれよ」


「アオ君、あの子をそんな風に“道具”みたいに言わないで。あの子は、ちゃんと私たちの仲間なんだから」


 翠コの言葉に、碧ラはハッとした表情を見せた。


「え? そんなこと思ってないさ。みんな仲間だよ」


「はいはい。それじゃあ皆に“大雨が来る”って伝えてくるわ。ここは谷だから安全でも、他の家は板を立てかけただけの小屋みたいだし」


「ああ、俺は先のことを考えておく。他は頼むよ」


 碧ラはいくつもの地図を広げ、翠コは小雨が降り始めた外へと足を向けた。

あとがき。


第9話を読んでいただき、ありがとうございます。


地図にない村での出会いは、まるで偶然のようでありながら、夢ムの“預言”によって必然に変わりました。彼女が告げたのは、大雨という自然の脅威。仲間をバラバラにするかもしれない試練です。


碧ラたちは、この村に留まるのか、それとも別の道を選ぶのか。

そして、この大雨は、秘宝を持って逃げるバードマンの行動にどう影響するのでしょうか。


次回、彼らの選択が大きな意味を持ち始めます。


キャラクター紹介7


夢ム(むむ)

職業: 占い師

性別: F(精神)/ N(肉体)

年齢: およそ20歳

(性別は、男M:女F:中性N:がある。そして肉体と精神に別れているので、6種類あります。)


夢ムは、その名の通り、まるで夢の中にいるかのような不思議な雰囲気をまとう少女です。彼女は普段は控えめで、意見をはっきりと口にすることはあまりありません。しかし、自身の直感が告げた時や、運命的な出来事を感じ取った時だけ、自ら前に出て行動を起こします。その行動原理は、仲間の安全を第一に考えるという、静かなる信念に支えられています。


彼女は、主流の魔法だけでなく、占いと呼ばれる古いタイプの魔法も得意としています。その能力は、彼女の「静かなる自我」と深く結びついており、仲間たちの旅路を導く「運命の導き手」として、重要な役割を果たします。

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