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Uncommon ⚔️ Adventurer  作者: イニシ原
一章 丘を越えて
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006 闇の中に一等星が輝いた夜

 碧ラの計算では、二日目の夜までには翠コたちと合流できるはずだった。

 丘陵地を進む彼らは、丘の上に立つ目印を探していたが、どこにも見つけることは出来なかった。


 夜の帳が降りる頃、三人は歩みを止めて小さな焚き火を囲んだ。


「……遅れてるとすれば、明日はメダラス丘陵まで足を延ばすか」


 碧ラが呟いた瞬間、焚き火が小さく弾けて火の粉が舞った。


「兄貴、翠コさんがそこまで進路を変えるかな? 迷うような人じゃないだろ?」


 不安げに瑠フィーダが尋ねる。


「だとしても最終的にはメダラスだろう。……とにかく最初の見張りは任せたぞ」


 そう言うと碧ラはマントに包まり横になった。


「了解。兄貴は休んでくれ。ル礼ルも食べ終わったら寝ろよ」


 瑠フィーダは二人を気遣う。


「……碧ラお兄ちゃん、あたしが最初に見張りするよ」


 ル礼ルはもう自分に頼っても大丈夫だよ。と決意を秘めた眼差しで碧ラを見つめた。


「……三時間で瑠フィーダと変わるんだぞ」


 碧ラはそれだけ言うと目を閉じた。その沈黙が、ル礼ルへの信頼を何よりも雄弁に示していた。


「それじゃ、俺も寝るからな」


 瑠フィーダもまた、碧ラの隣で静かに横になった。


 瑠フィーダも横になり、残ったのはル礼ルひとり。焚き火の揺らめく影を見つめながら温かな炎が不安を打ち消してくれるようだった。時折彼女は満天の星を見上げる。きらめく無数の光は一体どんな魔法なのか……そんなことをぼんやりと考えていた。


 自然の移ろいで時間を計るのは、冒険者にとっては当たり前のことだった。星の運行が三時間の経過を告げる。ル礼ルが瑠フィーダを起こそうと立ち上がったその時――。


 空気が鉛のように重く沈んだ。


 ル礼ルはただ碧ラと瑠フィーダのことを思い浮かべ、喉の奥からかすかに声を絞り出す。


「兄ぃ!」


 悲鳴に近いその声だけで、二人は即座に跳ね起きた。


「『プレッシャー』だ! 気を保て、潰されるな!」


 碧ラがロングソードを鞘から抜くと、そこには焚き火と満天の星を映し出す、鏡のように輝く刀身が現れた。一方、瑠フィーダが持ち上げたグレートソードは、そこの光を呑み込む様に闇の塊が鎮座しているようだった。


 二人は動けなくなったル礼ルを守るように立ち塞がり、見えぬ圧力に抗う。


 次の瞬間、ひとつ先の丘から星のように眩い矢が夜空を裂いた。


「あっちだ! 翠コ姉さん!」


 瑠フィーダが叫ぶ。碧ラも矢の意味を瞬時に理解した。


「ル礼ル! 今なら動けるな? 荷物はいい、行くぞ!」


 ル礼ルは力強く頷いた。プレッシャーの重圧が消え彼女の体に力が戻ってくる。三人は丘を駆け降りた。


 暗闇の向こうから、三つの人影が彼らへと駆け寄ってくる。


「翠コ姉さん!」


「アオ君!」


 互いの無事を確かめ合う声が夜に響いた。


 その背後――。


 丘の上に巨大な蛇の影が浮かび上がり、音もなく身をくねらせて追い迫ってきた。それは信じられないほどの速さだった。


「二人は走りなさい!」


 翠コの声に、美カナと夢ムは即座に理解した。今の自分たちは足手まといだ。ためらうことなく翠コを残し、闇を駆け抜ける。


「ふふ……いい子たち」


 翠コは呟き、すでに弓を構えて呪文を紡いでいた。


『蓄えし輝く矢尻よ、日の明かりを今放て』


 放たれた矢は星明かりをも凌ぐ光を放ち、大蛇の漆黒の瞳を射抜かんと一直線に飛ぶ。だが次の瞬間、無数の棘を生やした尾がしなり、矢を容易く叩き落とした。


「翠コ姉さん、俺がやる!」


「気をつけなさい! 巨体のくせに恐ろしいほど敏捷よ!」


 すれ違いざま、翠コが鋭く忠告を投げる。


 大蛇は動きを止め、光る剣を握る碧ラを凝視していた。強者を見極めるかのように。


 しかし次の瞬間、稲妻のように大蛇が突進する。


 碧ラはひらりと躱し、反撃に転じる。剣が鱗にかすめたが、硬質な表皮に弾かれ傷は浅い。


「うぉぉぉーッ!」


 後方へ迫ろうとした大蛇に、瑠フィーダの咆哮が叩きつけられる。

 殺気を感じた大蛇は大きく身を翻し、尾の棘で瑠フィーダの肩を裂いた。


 その直後、漆黒の大剣が地面を抉り、土煙を巻き上げる。もし一瞬遅れていれば、大蛇の頭蓋を砕いていたはずだった。


「シャァァァ――!」


 大蛇は、新たに現れた二人の剣士に威嚇の声を上げた。

 二人の剣士を前に、これまで以上の巨大な鉄板を叩き落としたような『プレッシャー』を解き放った。


 碧ラも瑠フィーダも、剣を杖代わりに片膝をつくのがやっとだ。


 だがそれが、大蛇にとって致命的な隙となった。


 強烈な重圧の中――ただ一人、翠コだけが動いていた。


 再び弓に矢を番え、息を止める。

 その矢は放たれ、漆黒の瞳へと吸い込まれてゆくと、一等星のようにまばゆく輝いていた。


『プレッシャー』が霧散していった。


 重圧が消えた瞬間、碧ラの体に再び力が満ちる。

 素早く踏み込み、光を映す剣を振るう。今度は狙いを尾ではなく胴体へ。

 鋭い刃が鱗の隙間を裂き、赤黒い血が飛び散った。


 続けざまに、瑠フィーダが咆哮と共に漆黒の大剣を振り下ろす。

 その一撃は大地を震わせるほどの威力を秘めていた――が、刃が届く寸前、大蛇は信じられないほどの柔軟性で体をよじり、宙を舞った。


「なんだと……!」


 二十メートルもの距離を一瞬で飛び退き、砂塵を巻き上げて着地する。


 翠コはその動きを見て、確信した。


「……逃げる気ね」


 彼女は息を整えながら矢を番え、詠唱する。


『我神速の矢よ、全てを貫け』


 まるで機械仕掛けの人形のように、同じ動作で三度、矢を放つ。

 矢は流星のように尾を引き、大蛇の体へ突き刺さった。


 巨体がのたうち、低い唸りを上げる。だが、どれも急所は外れていた。

 それでも確かな傷を残し、大蛇はなおも遠くへ身を翻していた。


「翠コ姉さん、大丈夫か!」


 駆け寄る瑠フィーダが肩の血を押さえながら叫ぶ。


「ええ……でもあいつ、ただの獣じゃないわ」

 翠コは荒い息を吐きつつ答える。


「眠らせないために『プレッシャー』を使うなんて……知性がある証拠よ」


 碧ラも険しい表情を見せた。


「しかも都の近くまで来ていたとはな……。けど、これだけ傷を負わせたんだ。もう深追いはしてこないだろう」


 彼は翠コの肩を軽く叩き、落ち着かせるように言った。


「向こうにキャンプがある。休もう」


 夜空にはまだ無数の星々が瞬き、焚き火の光と重なって揺れていた。


 キャンプに戻った一同は、消えかけた焚き火に薪を足し、再びその温かな光を囲んだ。荒野の冷たい風を遮るのは、小さな火と互いの存在だけだった。


「美カナと夢ムはすぐに休んで。魔力を回復しておきなさい」


 翠コが柔らかく声をかける。


「はーい、おやすみー」


 二人は返事をしてから毛皮に身を横たえ、瞑想に入るとそのまま静かに眠りに落ちた。


 翠コは血のにじむ瑠フィーダの肩に目をとめた。


「……大丈夫?かなり出血してる」


「平気だよ。もう血は止まったし、包帯も巻いてある」


 瑠フィーダは苦笑しながら肩を押さえる。


「明日になったら美カナに診てもらいなさい」


 そう言うと、翠コ自身も毛布を抱きしめるようにして横になった。


「安心して眠れるのなんて、久しぶりだわ……」


 その言葉を最後に、彼女は深い眠りへと落ちた。


 ル礼ルは、美カナと夢ムの間に挟まれるようにして座り込み、そのまま眠ってしまった。久々の再会に安堵した笑みを浮かべながら。


「兄貴も寝ていいからな」


 瑠フィーダが小声で囁き、碧ラの肩に触れる。


「肩の痛みはどうだ」


 碧ラの問いに、瑠フィーダは「平気さ」と苦笑いを返した。


 碧ラはそれ以上は何も言わず、ただ剣を抜いたまま片手で掲げる。

 その刀身には、燃え盛る炎と満天の星が映し出されていた。


 ――その頃。


 いくつもの丘を越えた先、ひときわ高い丘の上に、大蛇は身を横たえていた。

 体に深く刺さった矢を、一本、また一本と引き抜く。

 だが、左目に突き刺さった矢だけは抜けなかった。


 巨体を震わせる怒りが、闇に響く。すぐさま復讐を考えた。

 幾度も人間を不意打ちで食らってきたのだ。


 ……だが今は違う――

 今来た道を見下ろしたその先にキラキラと輝く光があった。


 あの光へは軽々しく挑むべき相手ではない。それが今まで生き残ってきた大蛇の本能だった。


 大蛇はそれを見て、住処へと帰ることにした。

 巨体は夜の闇に溶け、やがて静かに姿を消した。

あとがき。


第6話を読んでいただき、ありがとうございます。


ついに、碧ラたちと翠コたちのパーティが合流しました。しかし、彼らが再会した場所は、喜びに満ちたものではなく、死と隣り合わせの戦場でした。


新たな仲間たちの登場は、今後の旅にどのような変化をもたらすのでしょうか?そして、最後に大蛇が恐れた「光」の正体はわかりましたか?


キャラクター紹介5

翠コ(みどりこ)

職業:弓使い

性別:F(精神)/ F(肉体)

年齢:24歳

(性別は、男M:女F:中性N:がある。そして肉体と精神に別れているので、6種類あります。)


優れた弓の腕前を持つ、冷静沈着な女性。戦いの場では、その的確な判断力と、知識に基づいた戦略でパーティを勝利へと導きます。


彼女が放つ矢は、ただの攻撃手段ではなく、時に味方を救う光となり、時に敵の知性を上回る一手となる。その腕前は、パーティの誰もが認めるほどです。


仲間に対しては面倒見がよく、特に碧ラとは古くからの付き合いで、彼を「アオ君」と呼んで信頼を寄せています。

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