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Uncommon ⚔️ Adventurer  作者: イニシ原
一章 丘を越えて
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004 嘲笑う追跡者

「もう食べられない」と、お腹をさすりながら百羽の鳥亭を出てきたル礼ルが、小さくゲップをした。その顔には、故郷で食べていた食事を思い出したのか、満ち足りた笑顔で溢れていた。


「碧ラ兄ちゃん、次は何するの?」


 続いて出てきた碧ラと瑠フィーダも、普段では見られない満足そうな顔をしていた。


「都での噂が気になるしな」


 碧ラはゆっくりと歩き出した。食後の余韻を断ち切るように、落ち着いた声だった。


「広間にあるミンニャの憩い亭で、情報を買って行くか。これだけ大きな話なら。わざわざお金を払わなくても、耳を澄ませているだけで十分かもしれないけどな」


「なあ兄貴、あれ!」


 瑠フィーダが人差し指を突き出す。若者たちが慌ただしく駆け抜けていった。


「騎士の従者たちか? 城から何か知らせがあるんじゃないか?」


 碧ラは「行くぞ」とだけ言うと、迷わず従者たちの後を追った。


 中央広間には、すでに大勢の人々が押し寄せていた。

 ざわめく群衆をかき分け、従者たちが一段高い台へと上がる。その瞬間まで荒れ波のようだった声は、まるで潮が引くように消えていき、緊張だけが広間に残った。


 碧ラたちも前へと進もうとするが、人の壁に阻まれ、ル礼ルはすぐに見失いそうになる。そこで瑠フィーダが肩車をしてやり、人波をかき分けながら台のそばへ近づいた。


「静粛に!」


 従者の声が響き渡る。静けさにさらに重みが増した。


「アヴァリア大陸三国家が持つ秘宝中の秘宝――『ユークラフの冠』が、今朝、バードマン二翼によって盗まれた!」


 広間が一気にどよめく。


「ゆえに、バードマンには討伐令が。そしてユークラフの冠には奪還令が出された。今回の令は、特別に、市民諸君にも与えられる!」


 ただの報告ではない。王都の住民すべてを戦いに巻き込む宣告だった。


「バードマン一翼につき二千万エン。ユークラフの冠には一億エンの懸賞金が懸けられる。この金は国王陛下自ら渡される。――早い者勝ちだ!」


 従者はそう言い放つと、手にしたチラシを群衆に投げ散らし、来た道を引き返していった。


 チラシには、先ほどの言葉に加え、「二翼のバードマンは、"北"へ向かって、今朝早くダル村をかすめて飛び去った」と書かれていた。


「っクソ! アグルスたちはどっちへ向かった!」

 碧ラたちのすぐそばで、大男が焦りを隠さず部下に怒鳴った。


「へ、へい……今朝早くには、もう出たようで……」


「ちっ、あの男がヤマ勘で動くはずがねえ。どこかから情報を掴んだに違いねえ。馬は用意してあるんだろうな?」


「そ、それが……人数分しか……」


「なにィ……!」


 男の声が広間に響き渡り、近くの人々が思わず振り返る。


「荷物を半分にしろ! 五分で北門で待て! 行け!」


 瑠フィーダに肩車されたル礼ルと、ちょうど目の高さで睨み合う巨体の男が立ちはだかった。常人の倍はあろうかという肩幅と腕。その圧だけで、空気が重く沈む。


 瑠フィーダは怯むことなく見上げ、じっと睨み返した。ル礼ルは、二人の間に走る火花をただきょとんと見ている。


「なんだ、お嬢ちゃんたち。何か言いたいことでも?」


 男は、口の端を吊り上げ、あざけるように問いかける。


「このバードマンって……西に行ったって言ってなかった?」


 ル礼ルは無邪気に、ただの世間話のように口にした。


 その一言は、瑠フィーダにも碧ラにも、そして目の前の大男にも、はっきりと届いた。


 その瞬間、碧ラと瑠フィーダの頭の中で、昨夜の出来事と目の前の騒ぎが一本の線で繋がった。

 公には知られていない「第三の翼」その事実を知るのは、自分たちだけ――。あまりの衝撃に、二人は言葉を失った。


「はっはー! その年で偽情報を撒くのか?」


 大男は、ル礼ルの言葉を戯れと決めつけ、嘲るように笑った。


「王印入りのチラシが出ちまった以上、そんな情報に意味はねえさ」


「……ああ、悪かった」


 瑠フィーダは目をそらし、短く謝った。その様子を見て、ル礼ルは自分の一言が二人を追い詰めたことに気づき、胸が締め付けられる。


「おじさん……ごめんなさい」


 ル礼ルは今にも泣き出しそうな声でそう告げた。


 大男は何も言わなかった。嘲笑は消え、ただ三人の背中を訝しげに見送る。

 三人は広場の喧噪に背を向け、人波の中へと静かに消えていった。


「……西か」

 ガオスと呼ばれた男が、低くつぶやいた。


「……ゼラ!」


「はい、何でしょう、ガオス様」


「荷物をフル装備にしろ。二週間分だ。一時間後、西門に集合だ」


「はっ……! 北へは誰も向かわなくてよろしいのですか?」


「アグルスには追いつけねえさ。『神速』の異名は伊達じゃねえ」


 ガオスは喉の奥で笑いをこらえ、続ける。


「だが、運は……俺たちの側にあるのかもしれん」


 大男は不敵な笑みを浮かべると、広間をあとにした。

あとがき。


第4話を読んでいただき、ありがとうございます。

王都に到着した三人を待っていたのは、衝撃の知らせでした。世間は北へ飛んだ二翼を追う中、ル礼ルの何気ない一言が物語を大きく動かし、隠された「第三の翼」へと道を開きます。


ここから始まるのは、誰にも知られていない真の旅。

西の地で彼らを待つのは、栄光か、それとも危険か。

そして、ガオスは彼らの動きをどう読み、どう仕掛けてくるのか。


物語はさらに加速していきます。次回もぜひお楽しみに。


キャラクター紹介4

ガオス

性別:M(精神)/ M(肉体)

年齢:30代後半

役割:主人公たちのライバル


規格外の巨体を誇る傭兵団の頭領。豪腕に見えて、実は冷静で狡猾な知恵者。

金のためなら手段を選ばず、情報の収集と分析に長けている。


王都の混乱の中で、ル礼ルの一言を戯言ではなく「真実」と直感。誰も予想しない“西”への追跡を決断する。


彼はただの力自慢ではない。宿敵アグルスの「神速」を認めながらも、自らの“運”を信じる自信家でもある。


主人公たちと彼が西で邂逅する時、物語はより危険で、より予測不能な局面へと突き進む。

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